のほほ~んとダンジョンに行くのは間違っているだろうか 作:takubon
迷宮都市オラリオ
それは『ダンジョン』と通称される壮大な地下迷宮を世界で唯一保有する巨大都市。正しくはその上に築き上げられた都市であり、世界の中心とも言われている。
ダンジョンとは正しく迷宮で、太古から存在する世界で唯一の凶悪なモンスターを生み出す場所。未だ謎多き穴の全容を明らかにした者は誰もいない。
そんな何かを求め、ダンジョンに挑む者達を冒険者と呼んだ。
ある者は富を求め
ある者は名声を求め
ある者は未知を求め
ある者は出会いを求め
己の望みを叶える為、人類と娯楽に飢え下界に降りてきた多くの神々が集う、そんな場所。
そして今日も様々な思いを秘めた多くの冒険者達が、ダンジョンへと挑戦する。
ダンジョン50層
ダンジョンは数多の階層に分かれる迷宮から成っており、そのいくつかの階層にはモンスターが生まれない
ここ50層もそうであり、長期間の遠征などで冒険者達の大規模な休息地帯とするのに都合が良い場所だ。
現在、この階層にはとある【ファミリア】が野営をする為に高さが10M(ミドル)もある広大な一枚岩の上で天幕を張っていた。
その一枚岩の上にはもう既に幾つか天幕が設けられ、その一つにとある人物達が疲れた体を休めています。
「ん、歪みもなし。刃毀れもないようだな」
胡坐をかいて手に太刀を持ち、天幕内の明かりに照らしてじっくりと眺め、刃に異常が無い事に頷くは【鍛冶師(スミス)】の【ファミリア】である【ヘファイストス・ファミリア】団長、【椿・コルブランド】。
極東出身のヒューマンと大陸のドワーフの間に生まれたハーフドワーフであり、オラリオに数人しかいない最高の鍛冶師(マスター・スミス)の一人。
また、本来ずんぐりとした体格になるドワーフの血を持っていながらすらりとした長身に、抜群のスタイルはドワーフからだけでなく、多くの女性達から大層羨ましがられているとか。
椿は太刀を鞘に収め、眼帯をしていない右目を隣の人物に向けた。
「簪よ、疲れてはおらんか?」
「うん、私は大丈夫」
答えるは、セミロングの少し内巻き気味の水色の髪に、眼鏡の奥には椿と同じ赤い瞳を持った人物。
【ヘファイストス・ファミリア】副団長【サラシキ・簪】椿と同じく数少ないマスター・スミスの一人です。
一見大人しそうでか弱い印象ですが、工房から身の丈を超える大鎚を平然と担いで出て来る様はギャップがあり過ぎて、初めて見る人はまず自身の正気を疑う程だそうです。
「そうか。そう言えばあやつはどこに居るのだ? 先程から姿が見えんようだが」
「多分、魔導士達の所に行ってると思う。私は大丈夫って言ったから……」
「おぉ、なるほど」
「たっだいまぁ~かんちゃーん、こるるーん」
噂をすればなんとやら。幕を潜ってひょっこりと顔を覗かせ、いつもの間延びした声でやって来たのは二人と同じく【ヘファイストス・ファミリア】の【のほとけ・本音】。
いつも袖の余る少しサイズの大きめな服をその身に纏い、少し垂れ気味な穏やかな目と同じ明るいブラウンの髪を狐に似たキャラクターの髪留めでツーサイドアップにし、一見すると少女に見える中性的な容姿。
本人から発する特有な緩い雰囲気や喋りなどで、本人の事を知る者達からは「のほほん」というあだ名で呼ばれる事が多く、また本音自身も先程の様に人の事を自身が付けたあだ名で呼ぶ。
そんな本音におかえりと返す二人。すると椿は胡坐をかいている自分の膝をポンポンと叩いた。その意味を理解した本音はトコトコと座っている椿の下へ向かい、「おっじゃましまぁ~す」と言って胡坐をかいている足の空間の部分にちょこんと腰かけると、椿は本音の背後から手を回して本音のお腹の辺りを抱きしめた!
「んー、やはり本音は抱き心地がよいなぁー」
「そ~ぉ~? 私もこるるんにぎゅっ、されるの好きだよぉー。以心伝心だねぇ~」
「「それは少し違うと思う(ぞ)」」
ニコニコ笑顔の本音に二人が同時に突っ込んだ。しかし、簪はどこか面白くなさそうに頬を少し膨らませている。その瞳は本音と椿を捉えて外しません。
椿に後ろから抱きしめられている本音は、完全に力を抜いて後ろに寄りかかっている状態となっている。その為、そんな本音の後頭部辺りに丁度椿の戦艦並の胸部装甲があり、柔らかに形を変え枕代わりとなっていました。
「(やっぱり、大きい……)」
椿は下は袴を穿いているがいるが、上は胸を晒(サラシ)を巻いているだけで、その大きさがよく分かる。簪は視線を下げ、また椿の胸部装甲へと目を移し、と何度か繰り返して深い溜息を漏らす。
確かに簪の胸部装甲は椿の物と比べると(相手が武蔵なのだから仕方がない為)見劣りしますが、それでも駆逐艦ゲフンゲフン・・・簪と同い年の中では平均的か、それより少し上位なのです。もっと自信を持って欲しい(小並感
「はぁ・・・」
「かんちゃん、かんちゃん!」
「ん?」
名を呼ばれ簪が顔を上げると、椿に抱きしめられている本音が笑顔で両手を広げていた。
「?・・・あっ」
数秒首を傾げていた簪だったが、思い当った様に声を上げた。そして少し頬を薄く朱に染めた簪は立ち上がり、おずおずという感じで両手を広げている本音の前へ歩み寄りる。
「お、お邪魔します・・・」
「いらっしゃぁ~い」
ぎゅっ♪
本音の膝の間に腰を下ろした簪を、自分と同じようにお腹の辺りに腕を回して抱きしめ、簪の肩に自分の顎を乗せた。包まれる様に抱かれ、気恥ずかしさはあるものの先程までの不満顔が嘘のように破顔する簪。
「えへへ~、なんだか合体みたいだね~」
「おぉ、確かに合体だな」
「・・・合体はロマン」
キリリと妙にキメ顔で呟く簪の瞳に何か力強い光が灯っていました。
それから三人は食事の呼び出しがかかるまでそのまま過ごしたのだが・・・一応最前線なのに、こののどかな雰囲気とはこれいかに。
「そう言えば本音よ、デル吉はどうしたのだ?」
「えっとねぇ、でるるんは先生しに行ってるよぉ~」
「先生?」
「うぃ!」
『ほらそこの坊主!もっと脇を締めろ! 』
「は、はい!」
『ラウル! お前は踏み込みが甘い! もっと鋭く踏み込め!そんなんじゃ生き残れねぇぞ! 』
「はいっす!!」
『そこの嬢ちゃん!もっと服を着崩せ! 』
「はい!・・・ってそれはおかしいでしょ!! 」
『ぐほぉ!? 』
本音の相棒、デルフリンガーはしっかり(?)先生をやっていたとさ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夕食時、天幕の間の少し開けた場所に、焚き火を囲む様にして数十名が集まっていた。その中の一人が立ち上がり全員を見渡し、口を開いた。
「先程の戦いではご苦労だった。皆の尽力があって今回も無事に50層まで無事に辿り着けた。この場を借りて感謝したい。ありがとう」
柔い黄金色の髪に、碧眼のまるで少年の様な外見でありながら泰然としており、悠然とした物腰でいるのは今回この遠征に繰り出しているオラリオ最強の【ファミリア】の一角である【ロキ・ファミリア】の団長、【フィン・ディムナ】。
見た目は幼いが、それは彼が小人族(パルゥム)であるからであり、その実既にアラフォーである。所謂合法ショタであり、その手の趣味嗜好のお姉様方をは大層人気であるとか。
「いっつも49層超えるのに一苦労だよねー。今日はファーモルの数も多かったし」
「階層主がいなかっただけマシでしょ」
天真爛漫という言葉がピッタリ来る印象のアマゾネス特有の褐色肌の少女【ティオナ・ヒリュテ】が先程の戦いの感想を漏らし、ティオナの双子の姉【ティオネ・ヒリュテ】が率直な意見を述べていく。
「ははっ、とにもかくにも乾杯しよう。お酒は無いけどね。それじゃぁ───」
『乾杯!』
フィンの音頭に、皆の唱和が続く。安全階層とはいえ、ダンジョン内という事で誰もが心中で警戒を忘れない中、皆で大きな鍋を囲むように数十人の団員達は腰を掛けて食事を開始した。
鍋の中身はこれまでの階層の途中で採った木の実やハーブ、さらに肉果実と呼ばれる肉の食感と味がする果実をじっくりと煮込んだスープだ。これらはモンスターの食用ではあるが、ヒューマンや亜人が口にしても問題はありません。
「んぐんぐ、うまうまぁ~♪」
「うむ、まさにご馳走だな」
「・・・美味しい」
それぞれがダンジョンでは中々味わう事が出来ない温かい料理に舌鼓を打っています。ダンジョンでは諸事情により、食事は携行食といった粗末な物になりがちで、今回の様な食事は中々味わうことが出来ません。
「(カリカリカリ)」
皆がスープに舌鼓を打っている中、1人だけブロック状の携行食をかじっている人物がいた。
金糸の様な輝く腰の辺りまである髪に、同じ色の瞳を持ち、繊細な女神にも劣らない顔立ちの少女【剣姫】という二つ名で呼ばれる【アイズ・ヴァレンシュタイン】
オラリオでも随一の剣士の一角であり、【ロキ・ファミリア】の中核を担う一人です。
彼女の隣に座るエルフの少女が尋ね、アマゾネスの少女ティオナが満面の笑みを浮かべながらスープの器を差し出して誘惑するが、アイズは頑なに携行食以外口にしようとしません。
「ねぇ、本音。どうしてヴァレンシュタインさんはスープを食べようとしないの?」
「んぐんぐ、ごっくん。それはね~かんちゃん、あいあいは必要以上の栄養の摂取は戦闘状態(コンディション)に支障をきたすって信じてるからなんだよぉ~」
「だが、あれでは逆に少ないのではないのか?『腹が減っては戦は出来ん』と言うぞ」
「あいあいは素直さんだからね~」
「「・・・あぁ、納得」」
「? 何で二人とも私の顔を見て言うのー?」
『ZZZ・・・』
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「それじゃぁ、今後の事を確認しよう」
食事の後片付けをし、見張りの者以外の集まった者達がフィンに視線を集めた。
「『遠征』の目的は未到達階層の開拓、これは変わらないが、今回は59層を目指す前に冒険者依頼(クエスト)をこなしておく」
フィンの言う冒険者依頼(クエスト)とは、その名の通り冒険者に発注される依頼の総称である。受注した冒険者は依頼を達成し、その見返りとして依頼人側から報酬を受け取る。注文を発注する依頼人は【ファミリア】や商人、または迷宮都市を運営管理する管理機関(ギルド)など様々です。
皆に聞こえるようにフィンは説明していく。今回の冒険者依頼は【ロキ・ファミリア】と付き合いのある【ディアンケヒト・ファミリア】というファミリアからのもので、内容はこの先51階層にある『ガドモスの泉』から要求量の泉水を採取する事。
「51層には少数精鋭のパーティーを二組送り出す。無駄な武器・アイテムの消費は避け、速やかに泉水を確保後、ここ(拠点)に帰還。何か質問は?」
「はいはーい!何でパーティーを二つに分けるの?」
「注文されている泉水の量がまた厄介でね、『ガドモスの泉』はただでさえ回収できる量が限られている、要求量を満たすためには最低でも二か所の泉を回らないといけないんだ」
「食料を含めた物資には限りがあるからのぅ、クエストの後59層に行く為にもあまり時間はかけられん。その為に二つに分かれて効率化という訳じゃ」
ティオナが元気よく質問しそれにフィンが答え、さらにフィンと同格の屈強なドワーフの【ガレス・ランドロック】が補足した。
「それに『ガドモスの泉』は大人数で移動出来ない所にあるからね、戦力の分散は痛いけど、小回りは効いた方が良い・・・他に質問は?ないなら、パーティー・メンバーを選抜する」
「はいは~い、でぃむなんしつも~ん!」
「な、何だい?」
本音の相変わらずの呼び名に若干頬を引き攣らせながらも聞き返すフィン。どこかで「引き攣った顔の団長も素敵です!」というティオネの声は聞こえないものとした。
「えっとぉ、それは私達も参加していーいー?」
「いや、これは【ロキ・ファミリア】への依頼だからね。今回はこちらだけでやるよ。君達には防衛も兼ねてここに残っていてくれるかい?」
「んー、分かった~」
「承知したぞ」
「・・・うん」
「リヴェリア、君もここに残ってくれ。クエストの後の為にも消費した精神力(マインド)を回復させてくれ。彼の傍にいれば回復も早いからね」
「・・・止むを得ないか」
フィンの指示に瞑目するは翡翠色の長髪に白を基調とした魔術装束を身に纏い、特有の細く尖った耳に絶世の美貌を持つエルフの王族であるハイエルフ、【リヴェリア・リヨス・アールヴ】
「ならばレフィーヤ、私の代わりにパーティーに入れ」
「は、はいっ・・・って、えぇっ!?」
リヴェリアに指名され、遅れて驚きの声を上げるは先程の食事の時アイズの隣に座っていた山吹色の髪を後ろで纏めたエルフの少女【レフィーヤ・ウィリディス】
彼女はいずれリヴェリアの後釜と押されている期待の少女だ。
「じゃぁレフィーヤ一緒に行こうよ!アイズとティオネも!」
「うん」
「ちょっ、わ、私は団長と・・・!?」
そして話し合いの結果四人編成のパーティーが二つ決まった・・・のだが
一班:アイズ・ティオナ・ティオネ・レフィーヤ
二班:フィン・ベート・ガレス・ラウル
「・・・なぁ、こいつら大丈夫か?」
「んー・・・」
二班の頬にタトゥーのある狼人の青年、【ベート・ローガ】が危惧を隠さずに団長であるフィンに尋ねた。
無類の狂戦士であるアマゾネスのティオナ・ヒリュテ。二つ名は【
その戦い振りから非公式ではあるが「戦姫」という二つ名もつけられるほどの戦闘狂であるアイズ・ヴァレンシュタイン。
普段は冷静沈着を装っているが、その本質は前の二人以上の狂戦士的である【
そしてこの中で唯一の格下のレフィーヤ・ウィリディス。
ベート自身もかなり好戦的な性格ではあるが、一班の編成に彼でも一抹の不安を覚える程であった。唯一まともなレフィーヤでは彼女達を制御しきれない。
「おー、ローローは優しいねぇ~」
「うるせえっ、間延び野郎!そんなんじゃねぇよ!」
「そんな事言っちゃってー、ほんとは照れてる癖に~」
「誰がだ!出鱈目言ってんじゃねぇ!」
「・・・」
暫し沈黙を連ねた後、フィンは決断した。
「ティオネ、君だけが頼りだ。僕の信頼を裏切らないでくれ」
「ーっ!お任せくださいッッ!!」
フィンに絶賛ゾッコンのアマゾネスの少女は、愛しの人のセリフに大歓喜しながら答える・・・気のせいか、彼女の周りにまるで戦意高揚状態のキラキラが見える気がするのは、仕事のし過ぎが原因かな?
そんな状態の双子の姉に「ちょろー」と妹が半眼で呟き、「おぉ~、ねーやんが眩しいぜぃ~」と小動物が目を腕で覆う。
結局そのまま最終決定した二組のパーティーは、数時間の仮眠の後、他の団員と本音達に拠点を任せ、51層へと出発して行った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『ZZZ・・・んぁ?』
「あっ、でるるん起きたぁ~?」
アイズ達が出発した後、拠点にある一番大きな天幕に本音、デルフリンガー、簪、椿、そしてリヴェリアが待機していた。他のロキ・ファミリアの団員達はそれぞれ見張りや、道具のチェック等を行っている。
『おぅ。で、今何やってんだ?」
「えっとねぇ、今アイアイ達がクエストに行っちゃってて、私達はここで待ってるんだよぉ。あ、お湯が沸いたみたい~、皆なにがいい~?」
「お、なら手前は緑茶で」
「私は、抹茶」
「私は紅茶をもらおうか」
「りょうかぁーい」
それから四人は本音が淹れたお茶を飲んで一息ついた。
「あっ、あーちゃん(リヴェリア)とかんちゃん、精神力(マインド)は回復出来た~?」
「私は・・・三分の二と言った所だな。あと、あーちゃんはどうにかならんのか?」
「私は、さっきので殆ど全快したよ」
「本当にお主の【スキル】は色々と便利なものが多いのぅ」
『まぁ、相棒らしい【スキル】ではあるけどな』
「てひひ~、それほどでも~」
椿達が言う【スキル】とは、自分の所属する【ファミリア】の主神から【神の恩恵(ファルナ)】という恩恵を授けられた者が発現する固有の能力の事です。
【スキル】には能力の補正・強化など様々であるが、発現する事は希少であるとされている。が、その中でも他にない特殊なスキルはレアスキルと呼ばれ、本音の場合それが
その中の一つに魔法で消費した精神力(マインド)の回復を早めるという、魔法を主としている魔導士達にとってこれ以上はないと思われるもの。
【神の恩恵】には基本アビリティーという「力」「耐久」「器用」「敏捷」「魔力」の五項目からなる基礎能力がありますが、それ以外に『発展アビリティー』と呼ばれるものがあり、その中の一つにリヴェリアが持つ【精癒】というものが存在します。その効果は本音が持っているレアスキルとほぼ同じ効果で、精神力(魔力)の自動回復。『魔法』を行使した側から少量ではあるが精神力(マインド)を回復していく、という物です。
しかし、本音のスキルの効果はそれ以上と言ってもいい代物。フィンが「彼の傍にいれば回復も早いからね」と言うのはこのスキルの為だからです。
何故かこのスキル、本音の近く、さらに言えば本音と密着した状態だとその効果が高まるという不思議スキルであるのです。
スキルや魔法といったものは本人の本質や望みに影響して発現するもの。本音が何を願い、思い続けたかはまたいずれ機会があればという事で。
それから四人+剣は他愛もない会話を続けていた時、見張りの者の声が野営地全体に響き渡った。
「未確認のモンスターの大群出現!繰り返す!未確認のモンスターの大群出現!こちらに向かってきています!!」
突如として野営地全体に緊張が走る。
スキルの名前が決まっていないorz・・・