のほほ~んとダンジョンに行くのは間違っているだろうか 作:takubon
オラリオを囲むような市壁、その東側からゆっくりと昇った太陽が都市に朝日を降り注ぐ。北東にある一つの工房の格子の隙間から差し込む光が、中で眠っている本音の顔を照らした
「ぅ、ぅん・・・」
明るさに身じろぎ、薄く瞼を上げて目に入って来たのは見慣れた天井。しばらくぼぅっと天井を見続けて焦点が合うと視線を首ごと横に動かした
「すぅ・・・すぅ・・・」
そこにいたのは、体を縮こめて眠っている本音の幼馴染の簪だった。ピッタリと隙間なく本音の傍にいる彼女の温もりと柔らかな感触が伝わって来る
「ん・・・ふふっ・・・」
今度は反対側を向けば何やら嬉し楽しそうな表情の寝顔の椿が。きっと自らの作る新たな武器の夢でも見ているだろう。こちらは寝相が少々悪いようで、布団が肌蹴てしまっていた
「うにゅ・・・もうちょっとぉ・・・」
そんな二人に挟まれるような形の本音は、格子の隙間から差し込む明かりの具合からまだ時間はある事を察すると、一部肌蹴てしまっている布団を掛け直し心地よい温もりに包まれながら、再び夢の世界へその意識を沈めた
再び寝息だけが響く工房内。仲良く眠る三人の近くの金台に置かれたデルフリンガーが、差し込んだ朝日を浴び て真新しい輝きを放っていた
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
市壁から完全に太陽が昇った後、本音達はいつもより遅めの起床をした本音達三人は、本拠の一室で主神であるヘファイストスと共に朝食を取っていた。本日は白米、焼き魚、味噌汁、出汁巻き卵、漬物という極東で馴染みの献立である。
ちなみにこれを作ったのは簪と本音だ。椿は以前挑戦して台所ごと叩っ切って以来、刃物を使う料理は禁止されていたりする
「そう言えば、今日三人はどうするの?」
慣れた様子で器用に箸を使って魚をほぐしているヘファイストスは、三人に本日の予定を尋ねた
「ふむ、手前は
「私も、大体一緒・・・味噌汁ちょうだい」
「はいは~い。あっ、私は色々回った後に夕方からミアお母さんのとこでお手伝いだよぉ~」
「了解。私、今日はバベルの方にいるから何かあったらそっちに来てちょうだいね。あっ、そうだ本音。今度の『
「ん、いいよぉ~!」
「ありがと。じゃぁ皆、今日も頑張りましょう」
「「「はい・うむ・うぃ!」」」
パンッと手を叩いたヘファイストスに、三人は元気よく返事をした
「あっ、ファイたん様お代わりいる~?」
「・・・えぇ、頂こうかしら」
「「(・・・ドンマイ)」」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『んで、最初にやって来たのはここって訳か』
「そうだよぉ、昨日は聞きそびれちゃったからねぇ~」
本音が最初にやって来たのは、昨日も訪れていたギルド。しかし、昨日とは違って今は大勢の冒険者達で溢れ返っていた。
ギルドの制服を着た職員や、受付嬢達も慌ただしく対応に追われており、本音の担当のエイナの所にも冒険者の列が出来ていることから、まだまだかかりそうな様子だ。
一瞬目が合ったが、彼女はすぐに次の冒険者の相手をしていた。気のせいか、先ほどよりも作業スピードが上がっているような気がしないでもないが・・・
「うー、やっぱり多いね~」
『まぁいつものこったな。待ってる間に
「んー、そうだね。じゃぁちょっと見てみよ~」
デルフリンガーに促されるままに、本音は冒険者依頼やギルドからの情報が張り出されている掲示板の元へ向かう。掲示板の前にも多くの冒険者達がいたので、本音はちょっとした裏技を使う事にした
「でるるんどぉ?何かあったぁ?」
『まだだ。あと相棒、もうちょい上だ。そうそうその辺でいいぞ』
人だかりの後ろでデルフリンガーを掲げるように持った本音。身長+デルフリンガーのお蔭で前にいる冒険者達の頭越しに報告を得ようとする本音達ならではの手段だ
ちなみに、過去に後ろの方で掲示板を見ようとぴょんぴょんジャンプしている本音の姿を見た女性冒険者やギルド職員達を軒並み悶えさせ、えらい騒ぎになった事は神々の間で数あるのほほん伝説の一つになっていたりする
『んー、ちょっと待てよ・・・・・おっ、
「おぉ~、そう言えばそろそろだったねぇ。お祭り・・・出店・・・スイーツ!・・・はっ!・・・お菓子、禁止中だったぁ」
『今日から一週間だと・・・無理だな』
「あぅふ・・・」
ガックリと項垂れた本音はトボトボと掲示板の傍から離れて行った
「おや?本音君かい?」
「・・・おー、でぃむなんとあーちゃん達やっほぉー・・・」
「言葉と態度が全く噛み合っていないぞ」
本音の前に現れたのはフィンやリヴェリアを始めとしたロキ・ファミリアの面々だった。後ろにいる団員達の手荷物から、遠征で獲得した魔石等の換金に来たようだ
『まぁ、相棒が元気が無いのは菓子って言えば分かるな?』
「「「「「あー、なるほど」」」」」
デルフリンガーの簡単な説明に、ロキ・ファミリア全員が納得した様子を見せた。
それからフィン達首脳陣は魔石を、他の団員達はドロップアイテムの換金の為にそれぞれ移動する事になり、流れで本音はアイズ・ティオナ・ティオネ・レフィーヤ達と一緒に行動する事となり、ギルドから外へと出た
「良かったのかいリヴェリア?本音君と一緒でな「それ以上言ったら分かっているな?」・・・さて、採算はどれくらいになるだろうね、ガレス?」
「
「よしっ、捌ききった!のほほん君は・・・いない!?そんなぁ!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
若干沈んでいる本音を慰めながらアイズ達がやって来たのは、北西のメインストリートにある白一色の石材で造られた大きな建物だった。光玉と薬草のエンブレムは【ディアンケヒト・ファミリア】のもので、このファミリアは治療と製薬、回復薬の開発や専門的な治療技術、アイテムで利益を上げている
建物の中に入ったアイズ達を出迎えたのは、身長が150Cにも届かないまるで精緻な人形の様な容姿の少女、【アミッド・テアサナーレ】だった
「いらっしゃいませ【ロキ・ファミリア】の皆様と本音様、デルフリンガー様」
「アミッド久しぶりー!」
「・・・ぶりー・・・」
気さくに手を上げて挨拶を返すティオナに、未だいつもの調子が出ない本音。そんな本音の様子に、アミッドは思い当るような素振りを見せる
「あぁ、やはり本音様は・・・」
「あれ?アミッドも知ってるの?」
「はい、本音様がダンジョンではしゃいでお菓子禁止令が出されたんですよね?」
『(もう知れ渡ってんのか。ん?そういやぁギルドに張り紙があった気が・・・)』
「何で知ってるのか詳しく聞きたいところだけど、先に要件を済ませてもいいかしら?」
「それもそうですね。本日の要件は、引き受けていただいた冒険者依頼の件で間違いないでしょうか?」
「ええ」
「では、どうぞこちらに」
商談室が空いていなかった為、一同が案内されたのはカウンターだった。そこにティオネが液体の入った瓶を置いた
「早速だけど、これが冒険者依頼で注文された泉水。要求量も満たしている筈よ、確認してちょうだい」
手に取って一通り確認するアミッド、その間にアイズやティオナが励ましたお蔭で本音は「そうだった、一週間我慢すればお菓子食べ放題・・・!」――何とか立ち直ったようだ
「確かに・・・依頼の遂行、ありがとうございました。ファミリアを代表してお礼申し上げます。つきましては、こちらが報酬になります。お受け取りください」
そう言ってアミッドがカウンターに置いたのは厳重密封された二〇の瓶に入った七色の液体、
「アミッド、実は深層で珍しいドロップアイテムが取れたの。ついでに鑑定してもらっていいかしら?いい値を出してくれるなら、ここで換金するわ」
「わかりました、善処しましょう」
筒状の容器に巻いて収納していたものをアミッドに差し出すと、彼女は僅かに目を見開いた
「これは・・・」
「『ガドモスの皮膜』よ。冒険者依頼のついでに運良く手に入ったわ」
市場でも滅多に出回らない品にして、防具や回復アイテムの材料にもなるこのドロップアイテムは、ティオネ達が51層で偶々拾ったものだ。その為、アミッドは手袋をはめて丁寧に目を通した
「・・・本物のようです。品質も申し分ありません」
「そう、それで値段は?」
「七〇〇万ヴァリスでお引き取りしましょう」
「一五〇〇」
『!?』
間を置かずにふっかけられたその額に、後ろで見守っていた四人+デルフリンガーはギョッと目を剥く。不敵な笑みを浮かべているティオネに対し、言われたアミッドも表情は崩さないもののピクリと肩を揺らした
「───お戯れを、八〇〇までは出しましょう」
「アミッド?あなたの言った通り、この皮膜の品質は申し分ないと私も思うわ。今まで出回ったものより遥かに上等だと自負できるほど・・・一四〇〇」
怖い程静かに切って落とされた商談。その二人に他の四人は一瞬威圧されてしまった
「ちょ、ちょっとティオネっ?」
「私は団長に『金を奪って来い』と言われているのよ?生半可な額じゃ取引するつもりはないわ」
「おぉ~、でぃむなんがそんな事を・・・」
「流石にそこまで言われていません!?」
この時四人は見た、ティオネの背中は使命感――もといフィンに褒めてもらう為にメラメラと燃えているのを
「アチチ~!ネ、ネーやんが熱いぜぃっ」
『熱が発生してやがる・・・魔法か?』
「きっと・・・ネーやんの恋の魔法だよぉ」
「そんな魔法はありませんッ!?」
「ティオネ・・・いつの間に二つ目の魔法を」
「アイズさんッ!!?」
「じ、自分の姉ながら、ホント呆れるくらい凄い。褒めてないけど」
そんな五人?のやり取りなど構う事なく、ティオネとアミッドはお互いに全く視線を逸らす事なく商談を続けていた
「八五〇。これ以上は出せません」
「今回殺り合った強竜は活きがよくてね~、危うく死にかけたわ。私達の削った寿命も加味してくれるとありがたいんだけど?・・・一三五〇」
「あれ?ネーやんそれって確か拾っ「本音?ちょーっと黙ってようか、ね?」・・・ア、アーやんっ」プルプル
「あー、ホントゴメンねのほほん君。よーしよーし」
「・・・よしよし」
「その、すみませんのほほんさん」
ティオネにニッコリと笑み(目は全く笑っていない)を向けられ、涙目になった本音は三人から慰められた
『はぁ、恋愛が絡んだ女って奴は怖ぇなぁ「あぁ?」ナンデモアリマセン。俺の事も慰めてください』
余計な事を言ったデルフリンガーは思いっきり睨まれ、ガチガチと金属音を響かせる
「・・・私の一存では決めかねます。少々お待ちを。ディアンケヒト様とご相談して参ります」
「あら?じゃあここでの換金は止めときましょうか。時間もないし、もったいないけど、他のファミリアに引き取ってもらうことにするわ」
奥へ入って行こうとするアミッドの背に投げられたティオネの言葉に、彼女はピタリと動きを止めた。そんな彼女の様子にニコニコと笑顔を崩さないティオネ。本音達が見守る中、小さな少女アミッドは諦めた様に大きく息を吐いた
「一二〇〇・・・それで買い取らせていただきます」
「ありがとうアミッド、持つべきものは友人ね」
勝敗は決した。調子の良い事を言うティオネに再びアミッドは嘆息した。他の団員に指示し、持って来させたのはギッシリと詰まった大きな麻袋。袋口からは溢れんばかりに金貨が覗いていた。一二〇〇万ヴァリスという額に、持って来た団員も顔を引き攣らせている
「ごめん、アミッド・・・」
「いえ、足元を見て冒険者依頼を発注したのは、こちらが先ですので」
商談で謝るのも場違いだが、アイズはそう口にする。
それも今現在代金を受け取ってほくほく顔から何を想像しているのかが容易に分かる、うっとりとした表情のティオネを見てしまったからなのかもしれない。妹からのジト目にも全く気づく様子が見られない
苦笑するアミッドはお互いに痛み分けで手打ちにしようと告げた
「あっ、アミアミー、私も鑑定してほしいんだけど、いいかな~?」
「勿論ですよ、どのようなものでしょう?」
「えっとねぇ、これと・・・これとこれだねぇ~」
ごそごそとポケットからカウンターに取り出したのは、回復薬や毒消薬の素材になる様々なアイテムの数々。その中で多くを占めている白い葉っぱ様な物を手に取るアミッド
「これは・・・
「でしょでしょ~?アミアミが遠征前に言ってたの思い出して捕って来たのだ~。褒めて褒めて~」
「ふふっ、ありがとうございます、本音様」
「えへへ~・・・」
頭を差し出す本音を優しく撫でるアミッド。傍から見ると小さな少女に頭を撫でられているゆるキャラという、なんともほっこりとした空間が出来上がってしまった
その空気に当てられた者達の優しい視線が二人に集中し、それにアミッドが気づいて羞恥で顔を赤くするのはもうしばらく経ってからだった
お気に入りと評価が増えていておっかなビックリな状態です。特に評価については本当に驚きまくってます(゚Д゚;)ありがとうございます!
そしていつか来るんだろうなぁ、と思っていたらとうとう来てしまいました・・・のほほんさんをのほほん君にしてしまったのかという事を
言ってしまえば勢いでした!小説と同じく!
のほほん党の方達には申し訳ありませんでした!!(ゴンッ!