Infinite Stratos~Full Throttle of MACH~   作:朝陽祭

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PROLOGUE GLOBAL-FREEZE
世界が静止した日に戦うのは誰なのか


――その日、「更識 簪」は雨の降る街の中を、傘をさしつつも少しだけウキウキとしながら歩いていた。

 

自らが扱う予定の専用機『打鉄弐式』の調整がなんとかIS学園への入学までには間に合いそうで、ここしばらくはずっと通い詰めていた努力が実ったことが、彼女にとっては嬉しかったからだ。

 

つい先日発表された『世界初の男性IS操縦者』の専用機開発に倉持技研の全研究者が投入される為、一時は『打鉄弐式』の開発は危ぶまれていたのだが……ISの生みの親である『篠ノ之 束』直々の指名により来日した『ハーレー・ヘンドリクソン』博士を中心とした開発チームが発足されたことにより、『打鉄弐式』の開発も並行して行われることになったのだ。

 

それまで『打鉄弐式』を担当してくれていた研究者がそのことを涙ながらに報告してくれた際はそのあまりの泣きっぷりに若干顔をひきつらせてしまったが、それだけ自分のことを心配してくれていた人が居るということが嬉しくなり、簪は気がつけば以前よりも積極的に人と関わるようになっていった。

 

その結果が予定よりも数段と早い『打鉄弐式』完成の兆しであり、簪にとってそれは研究者の人達との絆の証となっていた。

 

優秀すぎる姉と常に比較され続けて、それでも能動的に行動することは甘えなのではないかと思っていた。それゆえか、「自分を助けに来てくれるヒーロー」に憧れ続けていた。

 

だが、一歩踏み出してみればどうだろう?きちんと『簪』本人を見てくれている人は居た。ただ、自分が見ないふりをしていただけだった。

 

そのことに気がつけば、少しだけ――ほんの僅かだが、少しだけ優秀すぎる姉に対する想いが、和らいでいた。

 

そこで、ちょっとした自分へのご褒美に、一番お気に入りの特撮ヒーロー番組の一挙視聴を春休み中に実行しようと思い、レンタルショップへ行った帰り道なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、この時の簪はまだ知らなかったのだ。

 

その手に抱えた特撮ヒーロー番組のBlu-rayに出てくるような、『悪意を持つ人外の存在』が居ることを。

 

既に、時計の針が――『止まり始めようと』していたことを。

 

 

 

「きゃっ!……!?」

 

そのことに気がついたのは、強風のようなものが簪に叩きつけられたことからだった。

 

ただの強風ならば、体勢が崩れて傘からはみ出した部分が雨に濡れる、その程度で済んだだろう。

 

だが、その強風のようなものを受けた簪の体はまるでスローモーション映画を見ているかのように、突如として『体の動きが鈍くなりはじめた』のだ。

 

いや、体だけではない。夜だというのに『雨の雫が水滴の形状をしているのが肉眼ではっきりと確認できる』くらい、周りの景色もゆっくりと動き出す。

 

 

【…………っ!?なに…………これ…………!?】

 

 

意識だけが加速しているかのようになる中、簪の混乱は止まらない。

 

そんな中、ガチャリ、ガチャリと奇妙な足音が聞こえ始め――簪の目の前に、奇妙な存在が姿を現した。

 

それは、全身を鈍色の装甲に包んだかのような存在だった。白い頭部は髑髏のようでもあり、どことなく蜘蛛のような印象も受ける。

 

他に目を引くのは、胸部だろうか。プレートのようなものから全身に管のようなものが伸びており、中央には『010』という数字が刻まれている。

 

一般人ならば珍妙な格好のコスプレだと思うかもしれないが、簪はなぜかその姿を見て、まるで世界征服を狙う悪の怪人みたいだと、少しばかりズレた考えを浮かべていた。

 

 

「ほほぅ?これはこれは……確か、日本の代表候補生に選ばれた子だったかな?こんな所で逸材に出会えるとは……実にアバンギャルドだ!」

 

 

……もっとも、その簪の考えはあながち間違ってはいなかった。

 

その怪人は『スローモーションな世界の中で影響を受けていない』かのように、簪に向けて手を伸ばす。すると、傘を持っていた簪の右手の指先が……虹色に輝く繊維のようにじわじわと、紐解かれてはじめた。

 

 

【……っ!?きゃあああああああっっっっ!?】

 

 

身の危険を感じた簪は叫び声を上げて逃げようとする。だが、思考に対して体が物理的に追いつかず、悲鳴すらスローモーションになってしまう。

 

だというのに、指先から始まった虹色の線維化は手首を超え始めていく。簪の顔には、恐怖に包まれた!

 

 

「ははははははは!実に、実に素晴らしい!たとえISの操縦者だろうと、ISも纏っていない状態ならばただの弱々しい人間にしかすぎない!実にアバンギャルドだ!さぁ……もっと、その顔をよく見せておくれ!」

 

 

そんなことを叫びつつ、怪人は大げさな身振り手振りをしながら簪に近づいてくる。怪人が近づけば近づくほど、虹色の線維化はその速さを増していく。

 

 

【誰か……誰か助けて……っ!…………助けて、お姉ちゃん!】

 

 

涙を流しながら、簪は助けを叫び続ける。本人は無意識だが、苦手意識を持っていても、嫌いになりきれていない姉に縋る程に。

 

 

……もっとも、この場に簪の姉でありロシアの代表候補生である「更識 楯無」が、自身の専用機であるIS「ミステリアス・レイディ」を纏っていたとしても、結果は変わらないであろう。

 

簪が現在知るすべもないが、この「スローモーションになる現象」は全世界規模で発生しており、その中には軍に所属しているIS操縦者が、簪の目の前にいる怪人と同種の存在に嬲られているのだから。

 

 

 

後に、『グローバルフリーズ』と呼ばれる世界規模の大災害。その真っ只中において、『重加速現象』と呼ばれることになる特殊な空間の中を自在に動くことのできる怪人「ロイミュード」に対抗できる存在は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はぁっ!」

 

『TYRE-KOUKAN!MIDNIGHT-SHADOW!』

 

 

 

――今はまだ、たった「2人」しか存在しないのだ。

 

 

 

「ぐああああっっっっ!?」

 

【……っ!?】

 

 

簪の傍を通り抜けるように、手裏剣のような形をした紫に輝くエネルギー体が簪の前に居た怪人――「ロイミュード010」に突き刺さり、火花を散らしながらその体を吹き飛ばす。

 

そして、簪の前に――その「戦士」は、姿を現した。

 

全身を包む、漆黒のようなスーツに、アクセントとして肩や手首等に入る紫のライン。スポーツカーを意識したかのような装甲の肩と頭部で輝くライト。

 

そして何より目を引く、左肩からタスキがけのように装着された手裏剣のような形状の装甲と、銀色に輝くベルト。

 

 

「くっ……貴様は、いったい何者だっ!?なぜこの『重加速』の中で動ける!?」

 

「――名乗る必要はない。これから倒される『モノ』共に」

 

『さぁ行こう!Start Your Engine!』

 

 

そう吐き捨てるとその「戦士」はロイミュード010に向けて駈け出し、機械のように正確なパンチのラッシュを浴びせていく。

 

ダメージを受けながらもロイミュード010は反撃を試みるが、黒い「戦士」は攻撃を時には受け流し、時には的確なカウンターを浴びせ対処していく。

 

ロイミュード010が戦闘に集中しなければならないためか、線維化が解除され元に戻った右手をゆっくりと抑えながら簪はその「戦士」の姿をただ、じっと眺めていた。

 

……正確に言えば、重加速現象でじっとしているように見えるのだが、簪の内心は、先程の恐怖も、現状に対する混乱も吹き飛ばし、興奮に包まれていた。

 

奇しくも、憧れ続けていた「自分を助けに来てくれるヒーロー」が、目の前に現れた。その感動を、「戦士」の勇姿を心に焼き付けようと、簪は「戦士」の挙動を見逃すまいと見つめ続ける。

 

 

そんな簪をよそに、黒い「戦士」はロイミュード010に対し一方的にダメージを与えた後、胸部に装着していた紫色の物体をロイミュード010に向けて射出しつつ、一旦距離を取った。

 

黒い「戦士」が左手首に装着されたブレスに備えられたレバーを取り外し、紫色のミニカーに変形させ右腰のホルダーに格納すると、続けざまに黒いミニカーを取り出し変形させてブレスに装填する。

 

すると、どこからか飛来してきた黒いタイヤ状の物体が胴体へ装着され、やはりタスキのようになる。続けざまに、ブレスのレバーを手早く操作し始めると、ベルトのモニターが輝きを放ち音声が響く。

 

 

『HISSATU!FULL-THROTTLE!SPEED!』

 

「はあああっっ!」

 

 

黒い「戦士」が空中へと飛び上がると同時、鮮やかな色彩のエネルギーフィールドが黒い「戦士」の体を包み込む。そして、素早く体勢を転換させた黒い「戦士」はロイミュード010めがけて鋭いキックを放った。

 

ロイミュード010の胸部へ黒い「戦士」の右足が突き刺さったその瞬間、ロイミュード010の内部に注ぎ込まれ行き場をなくしたエネルギーが爆発を引き起こし、黒い「戦士」とロイミュード010を爆炎が包み込む。

 

やがて、黒煙の中から「010」というナンバーのような物体がフワフワと浮かび上がると、火花を散らしながら爆散する。そして――無傷で姿を現した黒い「戦士」はゆっくりと立ち上がると、簪に近づいて彼女をゆっくりと抱き上げた。

 

 

【あっ……】

 

「怪我はないか?安全な場所まで移動させる。それまで持ちこたえろ」

 

【……うん、ありがとう。『仮面ライダー』】

 

 

お姫様抱っこのような形になってしまった為顔を赤らめた簪だったが、その黒い「戦士」がかけてくれた言葉に安堵すると、緊張が溶けたのかお礼の言葉と、ふとネットを眺めていた時に都市伝説として噂されていた「人知れず闘う正義の味方」の名を告げ、そのまま黒い「戦士」に身を委ねながら意識を失ってしまう。

 

黒い「戦士」は簪が意識を失ったのを確認すると、彼女の体を極力揺らさないように走りだす。そんな光景に対し腰部に巻かれたベルトのモニターに笑顔のような模様が浮かび上がる。

 

 

 

 

『ふむ、大きな外傷もないようでよかった。しかし、『仮面ライダー』か……逃げられてしまったが、003もそのようなことを言っていたな。これからは『仮面ライダードライブ』、そう名乗ることにしよう』

 

「クリム、静かにしろ。彼女が起きてしまう」

 

『おっと、済まない……しかし、一夏は大丈夫だろうか?まさか『マッハ』として初の実戦がこのようなことになってしまうとは……』

 

 

黒い「戦士」に咎められたベルト――「クリム」と呼ばれた存在は謝罪をすると、モニターを困惑したかのような表情に変化させ、今はここには居ない「もう一人の戦士」の身を案じるのだった。

 

 

 

 

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――時は、世界規模の重加速現象が発生した時にまで遡る。

 

その時、「泊 進ノ介」は相棒である「早瀬 明」と共に犯罪組織「ネオシェード」の構成員を工場地帯まで追い詰めていた。

 

その最中、工場内の足場で構成員ともみ合う明を援護しようと拳銃を取り出した進ノ介は、構成員が隙を見せる瞬間を待っていた。

 

夜間で雨が降っているとはいえ、拳銃の腕に自信のあった進ノ介は外すことなど考えていなかった……構成員が隙を見せた為進ノ介が引き金を引いた瞬間に、重加速現象が発生しなければ。

 

未知の現象により狙いが狂ってしまったことを察した進ノ介は明へそのことを知らせようと、叫びながら走りだす。

 

だが、焦る意識に対し、体の方が追いつかない。明の方もまた、通常ならばまだ反応できたはずなのだが重加速現象によって体が思うように動かない。

 

そして……進ノ介の放った銃弾が、明達の居る足場の傍にあった制御盤へと突き刺さり、それにより発生した火花が、爆発を引き起こす。

 

爆発に巻き込まれた明はその衝撃により空中へと吹き飛ばされ、ゆっくりと落下していく。

 

その様子を、進ノ介はただ走りながら……叫びながら、見ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ねぇっ!」

 

【……!?なんだっ!?】

 

 

 

 

 

 

 

――その時だった。進ノ介の傍を、白い影が駆け抜けて飛び上がると、空中に投げ出された明を抱えて地面へと降り立った。

 

赤いラインの入った白い装甲付きのライダースーツに、たなびくマフラー。触覚の生えたようなヘルメット。

 

その白い「戦士」は明を安全な場所で降ろすと、汗を拭うような仕草を見せた。

 

 

 

「やれやれ……とんでもない場面に出くわしちまったなぁ。まぁ、救えたから結果オーライだな!気をつけろよ刑事さん達!じゃーな!」

 

 

そんなことを叫び見得を切るかのようなポーズを取ると、その白い「戦士」は重加速現象による影響など意にも介さないかのような超スピードで走り去っていく。

 

その様子を、進ノ介と明はただ眺めていることしかできず、爆発の影響により留め具が壊れたパイプの山が、誰もいない地面へと倒れこんで音を響かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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「ひいいいいいっっっ!なんだ、いったい何なんだよぉあいつはぁっ!?」

 

――工場地帯の中を、その怪人「ロイミュード060」は必死になって逃げていた。

 

元々、ロイミュード060はロイミュード023、ロイミュード074と共に、重加速現象の中で破壊活動を行うはずだった。

 

だが、そんな彼が今逃げているのは、彼らが「白い戦士」と遭遇したからだ。

 

本来ロイミュードしか動けないはずの重加速現象内で自在に動き、ロイミュード023とロイミュード074を瞬く間に撃破し、ロイミュードの「生命」とも言える「コア」を破壊した存在。

 

そんな「白い戦士」に対し恐怖を抱いたロイミュード060がとった行動は、一目散に逃げることだった。

 

逃げている途中で、仲間である003から『仮面ライダーに気をつけろ』という通信が聞こえてくる。『仮面ライダー』……ロイミュードにとっての『死神』。

 

ロイミュードとしての自尊心も何もかも投げ捨てて、ロイミュード060はただただ必死になって安息の地を求めていた。

 

「じょ、冗談じゃない!進化体にすらなってない俺があいつに勝てるもんかっ!?そうだ!まだ俺は何もしちゃいない!だから、今は隠れて機会を伺うんだ……進化体になりさえすれば、仮面ライダーなんざ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――悪いが、お前が進化体になる機会は永久に来ないぜ?」

 

『SIGNALBIKE!SIGNAL-KO-KAN!TOMA-RE!IMASUGU-TOMA-RE!』

 

 

 

思わず呟いた言葉にそう答える声が聞こえ、ロイミュード060は勢いよく振り返る。次の瞬間、ロイミュード060の視界に飛び込んできたのは、『STOP』マークを象ったかのようなエネルギー壁だった。

 

ロイミュード060の体にぶつかったエネルギー壁はそのまま電撃のようなものを放出し始めると、ロイミュード060の体を麻痺させてその場で動けなくする。

 

そして――その場に絡め取られたロイミュード060は、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる「白い戦士」の姿を見てしまった。

 

 

「か……仮面ライダー!?もう、追いついて……」

 

「はぁ、なんだそりゃ?けどまぁ、今のこの姿を的確に表現してるな……いいねぇ、面白いじゃん。今日から俺は……そう、『仮面ライダーマッハ』!それが、お前らロイミュードを狩る死神の名だ!」

 

『HISSATU!FULL-THROTTLE!MACH!』

 

 

ロイミュード060の言葉に首をかしげるも、妙案だと言わんばかりに「白い戦士」――『仮面ライダーマッハ』は頷きつつ、ベルトを展開しベルト上部のボタンを押しこむ。

 

すると、ベルトがけたたましい音楽と共に7色に発光し、マッハが空中へ飛び上がるとエネルギーを纏いつつ高速で回転を始める。

 

 

「た、頼む!見逃してくれ!もう、人間は襲わない!ひっそりとどこか静かな場所で暮らすから!?だから……」

 

「そいつは無理だな!ロイミュードは全て……殲滅するっ!」

 

「や、やめ……うわああああああああっっっっ!?!?!?!?」

 

 

ロイミュード060は動けない中でもなんとか生命だけは助けてもらおうと懇願するが、マッハは聞く耳を持たずにロイミュード060へ方向転換しつつ、エネルギーを纏ったキックを突き立てる。

 

そのままロイミュード060の体を突き破って着地するのと同時にロイミュード060は激しく爆散し、爆炎の中からゆっくりと浮かんだ『060』の数字を象った物体――ロイミュードの「コア」が火花を散らしながら出現する。

 

マッハは爆炎の光を背に受けながら立ち上がると、右手にバイクのフロント部を象った拳銃のような武器「ゼンリンシューター」を出現させると、ロイミュードの「コア」に向かって引き金を引いた。

 

ゼンリンシューターから放たれたエネルギー弾がロイミュードのコアを撃ち抜いて破壊するのを確認すると、マッハはマスク前面を覆うバイザーを上へ展開する。すると、奥に隠されていた口元のマスクから、余剰エネルギーが蒸気のような形で強制排気された。

 

 

「ふぃー……これで8体目、だったか?クリム達の方がどれだけ倒したかわからないけど……休んでる暇はないな。」

 

 

そう呟くと、マッハはバイザーを閉じて、どこかへと走り去っていく。

 

彼らの夜は――まだ、明けそうにはない。

 

 

 

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――人知れず戦っていた英雄達の活躍により被害は抑えられたものの、ロイミュード達の一斉蜂起によって行われた「グローバルフリーズ」は、多数の死傷者を出した大災害として人々の記憶に刻まれることになる。

 

だが、「大災害」と呼ばれているように……その原因がいったい何なのかといった点については不自然なほどに発表されなかった。

 

闇にまぎれて蠢く悪意の存在を――つかの間の日常へと戻ったばかりの人々はまだ知らないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さてさて、グローバルフリーズは事実上失敗に終わったようだが、私にとっては都合がいい……。我々はどう動くべきだろうね、『マドカ』?』

 

「『お父様』がやりたいようになさればよいかと」

 

『ふふ……いい子だ『マドカ』。さすがは、私の自慢の『娘』だよ。今はお前の頭を撫でる手がないのが悲しいが……私の体を完成させるためにも、しっかりと働いておくれ?』

 

 

――人知れず稼働を続けるラボの中で、モニターに映る顔のような形をしたアバターが、モニターの前に映る少女へと語りかける。

 

 

「お任せを……『お父様』に与えられたこの『魔進』の力で、必ずやお父様の願いを成就させて見せます。」

 

 

陶酔した表情でそう答える、『マドカ』と呼ばれた少女の手には、紫色に輝くグリップガードが強い印象を見せる拳銃のようなガジェットが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あーあ、やっぱり今のISじゃあ重加速現象には対抗できないかぁ。まぁ、今出回ってるISはそこら辺を考慮してなかったものをベースにしてるから仕方ないっちゃ仕方ないけどね。」

 

『そこは、今後の課題としていくことにしよう。だが、君が協力してくれたおかげでドライブやマッハが想定よりも早く完成したのも事実だ。感謝してるよ束。』

 

「ふっふっふー♪愛する愛するクリムの頼みなら束さんはなんでも聞いちゃうのだー!グローバルフリーズの時は遠隔操作でタイヤコウカンシステムを機動させてたけど、『トライドロン』と『ライドブースター』の調整も済んだからこれからはガンガン動けるよ!」

 

『そ、そうかね……あまり無理はしないでくれよ?』

 

「この束さんに不可能はない!それでクリム、そっちの方はどうなの?フランスまで行って下手人を探しているみたいだけど。」

 

『うむ……別件に巻き込まれてしまって、ターゲットからは逃げられてしまったよ。詳細は、日本に戻ってから話すとしよう。』

 

「オッケー!あ、フランスのおみやげよろしくね!」

 

 

――篠ノ之束が管理するラボ「吾輩は猫である(名前はまだ無い)」の中で、「篠ノ之 束」はモニターに映る「クリム・シュタインベルト」のアバターと会話を交えていた。

 

そのモニターにはクリムのアバターの他にも、鋭角的なデザインが目立つスポーツカーと、巨大なブースターが装着されたマシンが合体するシミュレーション映像が映し出されていたり、2つのバイクが映しだされており、束が慌ただしくキーボードを叩いている。

 

そんな束に対し、クリムのアバターは困ったような表情を見せるが、やがて表情を笑顔に切り替えると別の話題を切り出した。

 

 

『そういえば、そろそろ一夏と箒の入学式だったね。何か、プレゼントとかは考えていないのかい?』

 

「あ、それ聞いちゃう?聞いちゃうクリム?ふっふっふー!いっくんにはまぁマッハとか色々送ってるけど、箒ちゃんにはとびっきりのプレゼントを用意してるんだよね!残念ながら入学式には間に合わないけど!」

 

『ほう?いったいどんなものを贈るつもりなんだい?』

 

「IS」

 

『…………は?』

 

「だから、IS!世界に一つだけしかない、箒ちゃんだけのISを贈るつもりなんだ!しかもしかもしかも!世界ではまだ誰も実現できていない第4世代のISだよ!箒ちゃん、驚くだろうな!ちなみに性能はね……」

 

 

何気なく訊ねたプレゼントが想像を絶するものだった為に、クリムは本来ないはずの頭痛を感じながら束が説明する箒専用のIS「紅椿」について耳を傾けていた。

 

後に、調理をしていた為に席を外していた「クロエ・クロニクル」が語るには、モニター越しに説教をするクリムと、怒られながらもどこか嬉しそうな表情をしている束の姿が、そこにあったという。

 

 

 

 

 

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「えー、みなさん初めまして!名前だけは知ってる人も多いかもしれませんが、織斑 一夏っていいます!」

 

 

 

 

 

――今年、IS学園に入学した生徒の中で、彼のことを知らない人間は居ないだろう。

 

女性しか扱うことのできないはずのISを、初めて起動させた少年として連日ニュースになっていたからだ。

 

ISの登場により女性の社会進出・世界的な地位向上が進みすぎた結果、女尊男卑の風潮が強まっている現状において、彼は男性陣の希望ともなっていた。

 

彼がISに関わることで研究が進み、他の男性でもISが使えるようなことになれば……この歪んでしまった世界に、一石を投じることができるかもしれないからだ。

 

 

「趣味は、写真撮影です。あ、変な意味じゃなくて風景とかを撮るのが好きなだけだから、そこんとこ注意!」

 

 

それはそれとして、IS学園1年1組に居る少女達は織斑 一夏の自己紹介に耳を傾けていた。

 

同性の同級生がおらず普通なら緊張してしまうような状況でも、おくせずにハキハキと喋るその姿は、一夏自身の見た目がいわゆる「イケメン」に属する部類でもある為、好印象を見せている。

 

そんな同級生達の雰囲気を感じ取って頭を抱えているポニーテールの少女が居たのだが、彼女についてはまた別の機会に語るとしよう。

 

 

「えー、まぁ色々とプレッシャーがあったりはするけど、ひとまずはこの学園で充実した生活が送れたらいいなと思っています!という訳でみんな、これからよろしくな!」

 

 

笑顔と共に挨拶が締めくくられると、爆音のような歓声が1組の教室中に響く。進行をしていた副担任の「山田 真耶」が他の生徒をなだめようとしているが、余り効果はなしていないようだ。

 

そして、遅れてきた担任であり自身の姉でもある「織斑 千冬」の登場に、再度教室に歓声が響き渡るのを眺めながら……一夏はそっと、ポケットに忍ばせていた「あるもの」を見えないように取り出す。

 

それは、白を基調とし後輪のホイール部に「R」の文字が刻まれた、バイクのミニチュアのような物体だった。ある意味ではお守りのような存在であるそれを握りしめながら、一夏は教科書を開き、授業の内容へ耳を傾けていく。

 

これからどんな生活が待っているのか……それが、一夏にはとても楽しみだった。

 

 

 

 

~To Be Continued~

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