Infinite Stratos~Full Throttle of MACH~ 作:朝陽祭
次回はもう少し早めに投稿できるようにします。
「――なるほど。事実上、上級生とのコネを作れない1年はスタートダッシュが遅れるという訳か。なかなかスパルタだなこの学園は。」
「そういうこった。箒は剣道部やコミュニティの先輩に頼めばどうにかなるかもしれないけど、俺はそこを解決しないと来週月曜までに準備すらろくに出来ない訳だ。」
「なんだ一夏、昨日はさほど乗り気じゃなかったみたいだが、やる気なのか?」
「そりゃ、全力でやらなきゃオルコットにもお前にも失礼だろ。クラス代表云々はどうでもいいけどさ……ところで箒、それはなんだよ?『シフトブレス』そっくりだけど。」
様々な出来事があった入学初日から一夜明け、学園に設置されたレストランで朝食をとっていた一夏と箒はお互いに情報交換を行っていた。
とは言っても、箒は剣道部への入部と整備科の上級生が集まっているコミュニティに顔を出していたらしく現状の一夏にとってはあまり有益ではない情報しかなかった為、一夏は頭を抱えつつふと箒の左手首に装着されている、銀色のデバイスへと話題を変えた。
まるで、車のシフトレバーから操作レバーを外したかのようなそのブレスに箒が視線を向けると、苦々しい顔をしながら口を開いた。
「…………姉さんからの入学祝いだ。お前が来る前に、ご丁寧にリボン付きの箱にビデオメッセージと一緒に入っていた。まったく、あの人は……」
「お、おう……苦労してんのなお前も。」
「――さてさてぇ?何やらお困りのようねお二方!」
重々しい空気でため息を吐く箒に対し一夏が労いの声をかけていると、突如として声が聞こえてくる。その声に一夏と箒が振り向くと、そこには水色の髪が特徴的な、口元を『降臨!』と書かれた扇子で覆っているにも関わらずドヤ顔をしているのがわかる上級生が立っていた。
「……一夏、少し早いが教室に向かうとするか。予習するなら付き合うぞ。」
「そうだな、予習復習は大事だしな。千冬ねぇのチョークを防ぐためにも。」
「ちょっと!ちょっと待ちなさい!?お願いだから待って!こういう出オチみたいな空気スベってるみたいで私すっごく嫌なんだけどっ!?もっと先輩を敬って優しさをちょうだい!?」
その雰囲気から「あ、関わると色んな意味で面倒なことになりそうだ」と悟りアイコンタクトを交わした一夏と箒は席を立つとそそくさとレストランを後にしようとするが、慌てた上級生が制服の裾を掴み引きとめようとする。
「あ、会長だ。」
「誰か布仏先輩呼んできてー。バ会長がまたよからぬことを企んでるって言えばきっとすっ飛んでくるから。」
「これは荒れるわね……止めて見な!」
「ちょっとそこぉっ!?聞こえてるわよぉっ!?あとごめん虚を呼ぶのは待ってっ!?はい、そこの二人も席に座って!お姉さんの話はまだまだ終わってないんですからね!?」
その様子を眺め思い思いの感想を述べていたオーディエンスを一括すると、上級生は一夏と箒の背中を押しながら席へと戻らせようとする。顔を見合わせてため息をついた二人は渋々席に座ると、反対側に座り込んだ上級生をジト目で見つめた。
「……それで、何の御用でしょうか『更識 楯無』生徒会長?入学したばかりの1年生を捕まえて話すことなどそうそうないと思うのですが。」
「あら、私の名が知られているのは光栄ね。」
「いや、名前を知ってるも何も入学式で生徒代表挨拶してたでしょ。しかも途中から妹自慢になって生徒会の人にハリセンで叩かれて強制終了されてましたし。あれで忘れろってのが無理ですって。というかなんなんですかその扇子。」
「……まぁ、きちんと自己紹介はしておきましょうか。私は2年の更識楯無、生徒会長でもありISロシア代表も務めているわ。」
「あ、流しやがった。」
口火を切ったのは箒だった。目の前に座る上級生の名前を告げて用件を尋ねると、上級生――楯無は「驚愕!」と表面に書かれた扇子を広げ口元を扇いだ。そこに一夏の指摘が入るが、楯無は扇子を閉じると自己紹介を始め、一夏の問いかけを無視したのだった。
「それで、用件だったかしら……聞いたわよ?あなた達、クラス代表を模擬戦で決めるんですってね。しかも、相手はイギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットさん。操縦時間が長ければ長いほどより装着者がISの性能を引き出せるという特性上、あなた達と彼女には大きなアドバンテージの差があることは理解しているわね?」
「それは承知の上です。正直な所、私は今回の勝ち負けにはこだわってないので胸を借りるつもりで挑むつもりですが。」
「どの道退路は千冬ね……織斑先生に潰されちゃったんで、やるしかないってだけですよ。問題は操縦練習しようにも訓練機が借りられないからどうしようかってとこなんですけどね。」
楯無が告げた言葉に一夏と箒が自らの考えを告げると、楯無はにんまりと笑みを浮かべて再び扇子を広げ口元を隠した。
「あら、ちょうど私もその話題を持ちかけようとしていた所なのよ。二人が認識しているように、少なくとも来週いっぱいまでは1年生が訓練機を借りて練習するのは至難の技。そ・こ・で?お姉さんからの提案なんだけど――二人共、専属コーチはいらないかしら?今なら、生徒会権限で訓練機もおまけでついてくるわよ?」
――その楯無の言葉に真っ先に反応したのは、箒でも一夏でもなかった。
「や、やりやがったこの生徒会長!?」
「横暴だ!職権乱用だぁっ!?まさか学生のトップが暗黙のルールを破ってくるとは思わなかったっ!?」
「誰だこんな奴生徒会長にしたのは!……私達だったっ!」
「はいそこ外野は黙っててちょうだいっ!――そうそう、交換条件として私から何かを頼むということはないわ。あ・く・ま・で、お姉さんの親切♪こんな破格のチャンス、そうそうないわよぉ?」
猛烈な勢いでブーイングを行う上級生の野次馬達を一喝すると、楯無は反応を見定めるかのように扇子で口元を隠しつつじぃっと一夏と箒を見つめてくる。
「……わかりました。コーチの件、お願いします。」
「一夏?」
「どっちにしろ俺は今のままじゃまともに練習できるかもわからないからな。チャンスが目の前に転がってるってんなら飛び込むしかないだろ。」
「あら、お姉さん素直な子は大好きよ?そのまま私の胸にも飛び込んで見る?」
「あ、それは遠慮しときます。セクハラで訴えられたくないんで。」
「ちょっとぉっ!?そんなことしないわよぉっ!?」
「…………大丈夫か、本当に?」
そんな漫才めいたやりとりを始めた一夏と楯無を見つつ、箒は左手首につけたブレスをさすりながらため息をついた。
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「――という訳で、一夏には助っ人として生徒会長が手助けすることになった。」
「生徒会長がいきなり現れて織斑君を連れだしたので何事かと思ったのですが、そういうことでしたか。個人の力量はどうであれ、織斑君がISに慣れていない点を補強するというのならば個人的には歓迎なのですが……篠ノ之さんはよかったのですか?幼馴染としては強力なライバルが出現したかのようにも思うのですが。」
「あの程度で一夏が誰かになびくようなら、とっくの昔に私が恋人になっている。あと、箒でいいぞ。私もセシリアと呼んで構わないか?」
時間は流れて昼休みに入った頃、箒は朝の騒動の顛末を報告しながらセシリアと一緒に昼食をとっていた。箒にしてみればクラス代表決定戦に向けての情報量をフェアにしようという心積もりだったのだが、セシリアは意にも介してなかったようで箒のその妙な律儀さに笑みを浮かべていた。
ちなみに一夏はというと、セシリアが述べた様に突然襲来した楯無に引っ張られ練習用アリーナでしごかれている。ご丁寧に昼食として弁当までいつの間にか用意していた為、昼食を食べ逃がすことはないだろうと判断した箒はドナドナと連れて行かれる一夏を手を振りつつ見送ったのだった。
「えぇ、もちろんですわ箒さん。しかし……織斑君はその、他人からの好意には鈍感な方、ということですか。乙女としては難攻不落の要塞ですわね。」
「それでいて他人に対する好意には敏感だから始末に終えん。千冬さんに恋人が出来た時は友人達と共謀して外堀と埋めまくったと聞いて開いた口が塞がらなかったぞ。」
「それはそれは……………………今、聞き捨てならないワードが耳に入ったような気がするのですが。織斑先生に恋人がいらっしゃるんですか?」
「む、そういえばまだ秘密だったな…………よし、周囲に聞かれてないようだし問題無いだろう。」
「そんなことが公になったら間違いなく学園だけでなく全世界が荒れますわよ……九死に一生を得た感覚ですわね。」
「バレたら恐らく千冬さんに折檻を食らうからな、その認識は正しいぞセシリア。はっはっは。」
「思いっきり巻き込む気まんまんですわねっ!?……コホン。ところで、箒さんに聞きたいことがあるのですが?」
「ん、なんだ?」
セシリアの問いかけに冷や汗を流した箒はきょろきょろと周囲を見渡して汗を拭う。幸いなことに、お昼のガヤガヤとした喧騒にまぎれて箒がうっかり口走ってしまった言葉は聞こえていなかったようだ。
ペースを乱されたセシリアは咳払いをして呼吸を整えると、箒が腰に巻いているベルトと左腰に下げられている銀色のホルダーらしきものを指さしつつ尋ねた。
「――ベルトに装着されているそれは、いったいなんなのでしょうか?織斑君や織斑先生も同じようなものを着けていましたが。他の子にも聞きましたが、特に流行りものという訳ではありませんよね?」
「ん……あぁ、これか。まぁ、お守りみたいなものだよ。一夏や千冬さんも同じようなものを着けているのは、同じ人から渡されたものだからとしか言いようが無いな。まぁ、ISには関係のないものだから気にするな。」
「なるほど……まぁ、そういうことにしておきましょうか。しかし……織斑君が訓練をしているというのなら、敵情視察も兼ねて後で様子を見てくるのもいいかもしれませんね。織斑君に関してはデータがないも同然ですし。」
「ん、そうなのか?私の実技試験時の結果を知っていたから、てっきり一夏の結果も知っていると思っていたのだが。」
会話を続けていく中、セシリアの言葉に首を傾げた箒はそのまま疑問を口にしていく。すると、セシリアはため息を付きながらその問に答えた。
「基本的に、入学実技試験の映像を見れるのは勝利判定を貰った生徒だけですわ。おかげで私は日本の代表候補生である4組の更識さんと、箒さんに着目することができました。ところが、織斑君はそうではありません。」
「敗北濃厚、最高でも引き分け判定という訳か……」
「あら、随分と訝しげな顔ですわね?織斑君が生身でどこまで鍛えているかは知りませんが、ISに慣れてない以上妥当だと思いますが。」
「……それもそうか。ISに慣れてなければ、本来の動きを再現できるはずもないか。」
「そういうことですわ。さて、ではさっさと食事を済ませて、冷やかしも兼ねつつ織斑君の様子を見に行きましょうか♪」
「セシリア、お前なかなかいい性格してるな。」
「私、淑女ですから。」
そういいつつ、意気揚々と食事を手早く済ませるセシリアに箒がそう呟くと、セシリアはウィンクをしつつそう返すのだった。