異国軍奇譚   作:緋槻

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梛蔵と皐架

―――ラピスラズリの月 19の日 天候は晴れ

 

皐架は昼飯を誘おうと、梛蔵を探していた。30分ほど前から探しているが、一向に見つからない。腹は減るわ、梛蔵は居ないわ若干――いやかなり――イライラしていた。

 

そのせいだろう、梛蔵を見つけた時(というかその時の状況)に少しだけ仕草が乱雑になってしまったのは。

 

おかげで梛蔵に心配されてしまった。情けない。一緒に飯を食べている今も、若干心配そうな目で見てくる。

 

 

「おい、別になにも無理矢理引っ張ってくることないだろう。カルラも変な目で見ていたぞ。」

「悪かったとは思ってるさ。でも30分も探していた自分の恋人が、真っ先に見たお前の自室で、お前の後輩と!仲良くお喋りしてたら自制なんか利かないよ。」

 

 

―――――梛蔵と皐架は恋人同士である。

 

 

この国では同性愛に偏見などない。結婚することも可能だ。周りを見渡せば、数は少しすくないが男同士、女同士のカップルが見える。

この二人が特殊なわけではない。だが、この二人の所属する組織はまぁ、その環境ゆえか……少々同性愛カップルが多かった。

 

実はこの二人、シャドルネ国の軍に所属しているのだ。

軍に女性が居ないことはない、むしろ最近は増えてきていると聞く。が、やはり男女比は圧倒的に男が多いのだ。その結果、軍には同性愛者が多くなる。

女性は女性で、気の合う方へとなるらしく、――何せ男所帯である――此方もやはり女同士でくっつくという次第だ。

 

「君は少し隙が多いよ、梛蔵。」

「何がだ。連続技がうまく行かないというから、少し話を聞いてやっただけだろう。」

「あのね、君はもうちょっと危機感を持ったほうがいい。」

 

そうなのだ、梛蔵は意外にも結構モテる。バリタチ勢に。皐架もまた良くモテるのだが、こちらは男女問わずである。だからまぁ皐架も人の事など言えるわけではないが、カレシとしては心配なのである。

 

(梛蔵、勘は鋭い癖に鈍感だしなー)

「………皐架」

「ん~?別に失礼なことは考えてないよ(笑)」

 

何となく微妙な顔をしていたから先に釘を刺しておく。やはり何かあるのかと勘繰っていたらしく、これまた微妙な顔をして、

 

「……そうか。」

 

などと呟くものだから、可愛くて仕方がない。思わず吹き出しそうになってしまった。

 

「皐架、俺はお前以外になびく気はない。だからそう……あまり心配するな。」

 

参った、今の不意打ちは効いた。梛蔵には俺の内心など完全に見抜かれていたらしい。

 

「やっぱり気付いてたんだ?」

「当たり前だ。何年お前と一緒にいると思ってる。お前の考えてる事なんかすぐに分かるさ。」

「もう13年くらいは一緒にいるよね、なんだかんだ。」

 

 

皐架も梛蔵も子供の頃から軍で訓練を積んだ、いわばエリートである。その頃から気が合うらしく、大抵は一緒に過ごしていた。この二人が組むと敵う相手などいない。そのくらい息ぴったりだった。

 

 

 

 

 

「ところで皐架、今日は何の用だったんだ。お前、何時もはわざわざ昼飯なんか誘いに来ないだろう。」

「ん~、デートのお誘いとか?」

 

皐架が茶化すと梛蔵からブリザードのような視線が飛んできた。

 

「そうか、ここはお前の奢りか。ならば遠慮はいらんな、存分に食ってやる。」

「ごめん、ほんとごめんなさい、茶化しました。許して」

 

梛蔵が本気で食べるとちょっと笑えないくらいの値段になる。皐架は一瞬にして真顔になり、ひたすら謝った。

 

 

「………まぁいいだろう。で、ほんとにどうしたんだ。」

 

なんとかお許しが出たらしい。破産は回避されたようで、皐架はわりと本気で安心する。

 

「いやぁちょっと食堂じゃあ人目が多いし、カルラにはまだ聞かせらんない案件でね。」

 

皐架は少し声を低くする。

 

「……梛蔵、君たち『黒の檻』に依頼が来てる。近々正式な依頼書がいくと思うけど、先に言っとくよ。」

 

皐架はそこで一旦言葉をきる。

 

「……たぶん、君自身に出てもらうことになる。」

 

梛蔵は少し驚いた。ちなみに顔に変化はない。皐架に言わせれば、分かりやすいらしいがそれは皐架だからじゃないかと皆密かに思っている。

 

「ほう、珍しいな。俺一人か?」

「いや、おそらくあと一人か二人というところだと思う。……それでも少ないことに変わりはないけどね。」

 

 

シャドルネ国は比較的平和な国である。国土も広いし、土壌は豊かだ。だが、北には《evil line》と呼ばれる境界線がある。この境界線を越えると、妖魔という所謂魔物が存在する《schwarz ort》が広がっているのだ。《schwarz ort》は滅多に光が差し込まず、植物の育たない枯れた土地である。

ここの妖魔たちは時おりシャドルネ国へ入り込んでくるのだ。

そのため時々兵をこの《evil line》へと送り出し、妖魔の侵入を事前に食い止めるのである。

 

 

「そういや最近はあまり遠征に行く奴等を見掛けなかったな。何かあるのか。」

「俺もまだ詳しいことは分かんないけどね。な~んか、妖魔の動きが今までとはちょっと違うらしくて。」

 

皐架とて昨日突然言われた話なのだ、知っていることは少ない。それでもかなり危険だろう事は聞かされた。だからこそ先に梛蔵に言っておきたかったのだ。

 

 

「それは本当に俺指名なのか。」

「おそらくはね。今回は討伐というより、様子見が目的らしいから。」

「……ふむ、ならまぁ俺達『黒の檻』に話が回ってくるのも当然といえば当然か。」

 

梛蔵は納得した様子で頷いた。

 

「先に言っておいてくれて助かった、礼を言う。ありがとう」

「どういたしまして。………梛蔵は強いから滅多なことじゃ怪我とかしないとは思うけど、気を付けなよ。」

「当然だ、俺の彼氏はどうやら心配性のようだからな。無事に帰ってくるよ。」

 

梛蔵はさらりとそう言った。皐架は梛蔵がその様な事を言うのがあまりにも珍しくて呆然としている。

 

「な、梛蔵?いったいどうしたの今日!?」

 

あの梛蔵がノロケるなんて!!と、皐架の頭のなかはパニック状態だ。

その様子を見て梛蔵は「失礼なヤツだな。」と少し不機嫌そうであった。

 

「さて、そろそろ戻るぞ皐架。」

 

早ければもう依頼書が届いているはずだ、と梛蔵は席を立った。そうだねと皐架も頷き会計を済ませようと伝票を持ったがしかし。

 

「皐架、教えてくれた礼だ。今日は俺が払う。」

「え、滅多にない外食なんだから俺に払わせてよ。」

「とかいってこないだもお前が全額払っただろう、今日は俺の番だ。」

 

どちらも自分が払うといって聞かない。結局割り勘にしようということで落ち着いた。

 

 

「滅多に外にご飯とかいけないんだし、俺に払わしてくれたってよかったのに…」

「いつまでブツブツ言っている。もう着くぞ。」

 

 

皐架は帰り道の間ずっと俺が払いたかったーと文句を言っていた。梛蔵も最初は相手をしていたが、途中から面倒になったので放置していた。

 

 

「じゃあな。俺は作戦室に行って偵察のメンバーを決める。」

「うん、りょーかい。俺も上層部に呼ばれてるからそっち行くね。」

「わかった。また夜にな。」

 

 

そう言って梛蔵と皐架は別れる。二人とも午後の業務に戻らなければならない。

 

(今日はもう夜まで会えないかな…)

(今日はもう夜まで皐架と会えない…か)

 

二人は似たようなことを考えながら別々の道を歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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