ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

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今回は少し短めです。


第12話「そして日常へ」

戦いから一夜明けた次の日の昼のこと。

 

「なあ咲耶、学食行こーぜ」

このセリフからもある程度分かるように、月守は今学校にいる。ボーダー正隊員と言えども、月守たちは学生だ。

まだ冬休みには少し日数があり、当然のように月守は学校に来ていた。

 

わざわざ席の近くまで来て声をかけてくれた2人に向かって、月守はほんの少しだけ呆れたような声を発した。

「出水先輩に米屋先輩……。なんでサラッと下級生の教室に入ってこれるんですか?」

月守に声をかけたのはクラスメイトでは無く、先輩である出水と米屋だった。2人とも何食わぬ顔で下級生の教室に入り、何食わぬ顔で月守に声をかけたのだ。

心なしかクラスメイトたちがざわついてるのは気のせいだと月守は思いたかった。

 

「まあ細かいことは気にすんなって」

米屋はサラリとそう言い、

「行こーぜ学食。あ、それともお前、弁当派?」

出水も同じように月守に話しかける。

 

机の上にあった4時間目の授業のテキストなどを片付けつつ、月守は答える。

「普段は弁当作ってくるんですけど、今日は無いです」

「お!だったら尚更だな!」

出水は嬉々としてそう言い、月守を学食に誘う。

 

月守としても今日は弁当が無く、学食か購買のどちらかにしようか迷っていたため、ある意味ありがたかった。

「わかりました」

そう言って、先輩2人と学食に行くことにした。

 

*** *** ***

 

「「「いただきます」」」

学食でなんとか席を確保し、注文したメニューが揃ったところで3人は昼食を摂り始めた。

 

「そういや、咲耶と彩笑ちゃんって同じクラスだったよな?さっき教室に居なかったけど、休みなのか?」

米屋がチャーハンを食べながら月守に質問した。

 

「いえ、来てますよ。ただあいつ、4時間目に爆睡して古文の先生に職員室に連れてかれて説教受けてます」

「地木ちゃんは授業中寝ちゃう子なのか?」

出水が続けて質問した。

 

月守は普段弁当だからという理由で選んだラーメンのスープを一口飲んでから答えた。

「普段は寝ないっすよ。ただ、夜間の防衛任務明けの時は寝ます」

その答えに先輩2人は「あー」という反応を返した。

 

「それ分かるわ」

「だよな。マジ眠い。あと遠征明けの学校も勘弁してほしい。せめて1日くらい休みあってもいいのに……」

出水はそう言うが、この中で遠征に行ったことがあるのは出水だけであるため、他2人の共感は得られなかった。

 

しばらくそうした会話をしつつ昼食を食べ進めた。

そして不意に、

「……それで?わざわざ俺を昼飯に誘った理由はなんですか?」

そう尋ねた。

 

「……」

2人は無言でお互いを見合わせ、アイコンタクトを経て出水が質問した。

「ぶっちゃけ、地木隊ってなんかペナルティあったのか?」

と。

 

「一応ありましたよ。詳細はまだですけど、大まかな内容はソロポイント減点、減給、部隊評価、あとは部隊ランキング復帰に関して少々ってところです」

「「復帰に関して?」」

月守の答えに対し、その項目だけピンと来なかったため、出水と米屋は声を揃えて詳細を尋ねた。

 

「えっとですね…。俺たち、あくまで予定なんですけど、来季あたりからチームランク戦に復帰するんです。で、その際実力試験的なやつを実施して、それで適切な順位で復帰する予定でしたけど、それが無くなりました。問答無用でB級最下位スタートです」

かいつまんで月守はそう答えた。

 

一通り説明を聞いたところで、米屋が言った。

「なんか、思ってたより軽いな」

「……まあ、色々あったってことにしといて下さいよ」

月守は苦笑しながら、そう言った。

 

*** *** ***

 

前日の夜。

風刃と引き換えに遊真の入隊を認めさせる取引が成立し、迅が会議室から退室するのと入れ違いに、

「失礼します」

「みなさんこんばんは」

彩笑と月守は会議室に足を踏み入れた。

 

「地木隊……!」

会議室に入るなり、上層部メンバーが2人を睨みつけた。

 

「あはは、皆さん表情険しいですね。せっかくA級上位部隊に匹敵する風刃が手に入ったんですから、もう少し嬉しそうにしたほうがいいですよ?」

あっさりと月守はそう口にした。

 

「な!月守君何故そのことを!?」

忍田本部長が慌てたようにそう言うが、

「あ、ごめんなさい忍田さん。そこに風刃が置いてあったのでなんとなくそうかなって思って適当に言ってみました」

月守は控えめに笑顔を浮かべてそう言い、

「なんかごめんなさい……」

珍しく彩笑が申し訳なさそうにそう言った。

 

「……何をしに来たのかね?」

「1つ言いたいことがあったので来ました」

城戸司令の言葉に、月守はそう即答した。しっかりと、月守は揺るぎのない瞳で城戸を見据えて、いや、睨みつけていた。

 

「言いたいことだと!?」

「命令違反をしでかした君たちの言葉など聞くはずがないだろう!」

鬼怒田開発室長と根付メディア対策室長がそう言い、それを庇おうと忍田本部長が立ち上がったが、

 

 

「ASTER」

 

 

月守は遮るように、ある名称を口にした。

 

 

「!」

その言葉を聞き、この部屋にいる全ての人間が息を飲んだ。会議室が静かになったところで月守は再び、ゆっくりと言葉を発した。

 

「……誰が、とまでは彩笑から聞いてませんけど、今回の任務に俺たちを加える際に言ったそうですね。

『いざとなれば切り札を使えばいい』

って。…それって、ASTERのことですよね?」

 

今の月守はいつものような人当たりの良い笑顔も、やんわりとした穏やかな声の欠片も無かった。心から大切なものを侮辱されたような怒りを内包した表情をしていた。

 

「……別に、そのことをどうこう言うつもりはありません。ただ、ASTERを……、そんな風に言うのはやめて頂きたい。言いたいことは、それだけです」

月守がそれを言い終えると、彩笑がそれに続けて、

「命令違反の処罰は甘んじて受けます。では、失礼しました」

丁寧に一礼をしながらそう言い、月守も同じように一礼して、2人は部屋を出て行った。

 

*** *** ***

 

昼食を食べ終えた月守は先輩2人と別れ、教室に戻ってきた。すると、

「さーくーやー……」

「説教お疲れ様」

月守の前の席の主である彩笑がグッタリとした様子で月守の名前を呼んだ。

 

「なんで起こしてくれなかったのー」

席に着くと同時に、彩笑が月守に向かってそう言った。

「いや、1時間目から3時間目までは起こしたじゃん」

「4時間目も起こしてよぉ。ってか、古文の先生の説教が長いのを知ってて、わざと起こさなかったんじゃないよね?」

「さー?どうだろうねー?」

彩笑がぶーぶーと文句を言い、月守はそれを難なく捌いた。

 

まだ文句は言いたかったが、ふと彩笑はある事を思い出して話題を変えた。

「そういえば、さっき本部から連絡あったよ。処罰の詳細決まったんだけど、今聞く?」

「聞く」

彩笑はスマートフォンを取り出し慣れた手つきで素早く操作して、内容を読み上げた。

 

「ボクはスコーピオン4000ポイント減点、

咲耶は射撃用トリガーがそれぞれ1500ポイント減点、

神音ちゃんは弧月2000ポイント減点。

給料は仲良くみんなで3ヶ月間1割減。

部隊評価は、『任務の遂行性に問題アリ』っていう評価が付け加えられましたー」

そして言い終えると同時に机に突っ伏した。

 

「落ち込んでる?」

彩笑の後ろ姿に向かって、月守は問いかけた。小柄だな、と、月守は改めて思った。

「んー、落ち込んでるっちゃ落ち込んでる。……スコーピオンのポイントが8000下回ったからマスターランクじゃ無くなったし……」

はぁ、と、ため息を1つついてから言葉を続けた。

「……何より、神音ちゃんにも真香ちゃんにも迷惑かけたし……」

「俺は?」

「咲耶はどうでもいい」

「オイコラ」

「ウソだよ」

彩笑はそう言い、月守の方に振り返った。

 

「みんなに迷惑かけたと思ってる……、ごめん」

そして申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「一言謝ってくれたから、それでいいよ」

そして月守はそんな彩笑に向かって、

「とりゃ」

ピコン!と、デコピンをした。

 

「痛ったー!?」

デコピンされた額を両手で押さえながら、

「何すんだよー!」

彩笑は月守に抗議した。

 

「ん?デコピンだけど?」

「それは分かるから!ボクは何でデコピンしたかって聞いてるの!」

「しおらしい彩笑が何か気持ち悪かったから」

「ヒドイよそれ!」

「自己紹介の時に、

『彩りある笑いと書いて彩笑』

って言うような奴なのに、笑ってないとか名前詐欺じゃん」

「親に言われた名前の由来なんだから仕方ないし!」

憤慨する彩笑だが、さっきまでの沈んだ様子は微塵も無く、むしろいつも通りと言ってもいい雰囲気になっていた。

 

「咲耶ありがと」

小声で彩笑はお礼を言ったが、

「ん?なんか言った?」

月守は上手く聞き取れず、聞き直した。

「ううん、なんでもない」

あえて彩笑はそれに答えず、ただにこやかな笑顔を見せた。

 

そうしていつも通りの2人の会話が続く中、不意に彩笑が、

「あ!咲耶咲耶!」

「何?」

「冬休み、暇な日ある?」

月守に問いかけた。

 

「むしろ暇な日しかないけど?」

「うわっ!寂しいそれ!」

即答した月守を見て、彩笑は思わず本音が出た。

 

「うるさいなー。いつ防衛任務入るか分かんないのに予定とか入るわけないじゃん」

「いかにもそれらしい理由だね」

まあいいや、と、一言挟んでから、

「冬休みにさ、みんなで色々やろうよ。遊びに行ったり、勉強会したりさ」

ニッコリと笑いながら提案した。

 

月守にはそれを断る理由が無く、

「ああ、いいねそれ。賛成」

当たり前のように、そう答えた。

 

 

 

地木隊はボーダー正隊員である前に、学生である。

地木隊はその事実を噛み締めるように、どこにでもある平凡な今を過ごしていた。

 




後書きです。

防衛任務のシフトは未だに謎ですけど、多分夜中の防衛に当たったら翌日の学校は大変だろうなぁと、思います。

次からしばらく、原作にないオリジナルの流れを混ぜたいなと思ってます。

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