ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

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第15話「それぞれの思惑」

ゲートが開き、そこから現れるトリオン兵を月守は片っ端から把握していった。

(モールモッドが3体、バンダーが1体、バムスターが2体か……)

後衛でしっかりと構えて全体を把握する月守とは対照的に、天音は相手のことなどお構いなしと言った様子で、右腰に差した弧月に左手を添えて一気に間合いを詰めた。

 

間合いに侵入してくる天音に対応すべく、モールモッドが行動を始めた。

 

モールモッドは自動車ほどのサイズに4本の足と2本のブレードを装備した戦闘用トリオン兵であり、ブレードの高い硬度を活かした攻撃が持ち味だ。

 

天音を迎撃するために行動を始めたモールモッドとほぼ同時に月守も攻撃の用意に入った。

(バイパー)

構えた左手からトリオンキューブが生成され、それが64分割された。

 

(今動いてるのはまだモールモッドだけ。多分もう少ししたらバンダーが砲撃の用意に入って、バムスターは左右に散って動き出すかな……)

バイパーの弾道を設定しながら月守は全体の流れを予想するが不意に、

(ん?そういえば三雲くんはどこで何してる?)

把握し損ねていた修の存在を思い出した。

 

修がどこにいるのか、その意識が月守に沸いたとたん、辛うじて視界の端っこにフレームインしていた修に気付いた。

月守の右側にいたが、行動は特に開始していなかった。強いて行動を挙げるとしたら、レイガストをシールドモードにして展開していることくらいだった。

(様子見か?まあ、初見で連携組むって方が無理か……)

ひとまず修の行動を視野に捉えた月守は、天音をフォローすべくバイパーを放った。

 

天音は3体並んでいる内の真ん中のモールモッド目掛けて攻撃を仕掛けるが、それに反応した3体のカウンターの一振りが放たれる。しかし、

 

ドドドドドっ!

 

その一振りの初動を封じるように月守のバイパーがモールモッドに突き刺さった。決して高威力では無いが、タイミングを合わせたそのバイパーはモールモッドの動きを確実に止めた。

 

「ん」

ほんの一瞬、無防備に限りなく近い状態で動きを止めたモールモッド目掛けて天音は弧月を居合切りのように抜刀し斬りつけた。

 

ズガンっ!

と、天音の鋭く速い一太刀は目の前のモールモッドを両断した。

 

1体撃破の余韻に浸ることなく、天音は次の攻撃へと移った。

「施空弧月」

弧月を振り抜いたと同時に、弧月専用オプショントリガーの『施空』を起動し、右側にいるモールモッド目掛けて返す刀の要領で振るい、1体目と同様に両断した。

 

(これで残りは計4体)

月守は冷静に戦況を把握し、指示を出した。

 

「神音はそのままモールモッドと戦って。三雲くんはバンダーの砲撃を最警戒しつつ、バムスターの動きもそれとなく把握して」

「りょうかい、です」

「はい!」

 

指示を出し終えた月守は右のメイントリガーも起動し、ハンドガンを構え、同時に左のサブトリガーにも再びバイパーのトリオンキューブを生成しスタンバイさせた。

 

天音の追撃の動き出しよりも、ほんの一瞬だけ早く月守はモールモッド目掛けてハンドガンの引き金を引き、アステロイドを放つ。

 

放ったのは4発。月守の狙いはモールモッドの脚であり、放った4発の内の1発が脚の付け根を穿った。脚を損傷しモールモッドはグラッとバランスを崩し、

「ここ」

そのタイミングで天音はモールモッドの懐に潜り込み、弧月を下段から上へと振り抜いた。

 

鮮やかと言ってもいいほどの斬り口からはモールモッドの内蔵トリオンが勢いよく溢れ出し、活動は停止した。

 

(次!)

月守は次のターゲットに意識を向けた。

 

バムスター2体は左右に散るような動きでまだ攻撃してくる様子ではないが、バンダーは砲撃の態勢に入っていた。バンダーの砲撃に警戒するように言われた修は、レイガストのシールドモードを完全に盾として構え、その影でアステロイドをトリオンキューブ状にしてカウンターの用意をしていた。

 

(前見た時と同じか。ソロだったらそれが1番確実なんだけど……。まあ、いいや)

バンダーの狙いは修らしいことが分かったところで、月守はフリーに動いているバムスター目掛けてバイパーの弾道を引いて放った。

 

バイパーは正確にバムスターにヒットし、その2体の注意が月守へと向く。

2体の視線が月守へと向けられ、2体に共通の死角が生まれる。

 

「さすが、です」

天音はその死角にある民家の屋根の上にテレポーターで移動した。

 

バムスターの視界と意識の外にいる天音は慌てることなく、弧月を構えてオプションである『施空』を用意し、

「ん」

鋭い一振りを繰り出した。

 

施空によってリーチが延長され速度に乗ったその一太刀は、難なく、とまではいかないがバムスターを2体まとめて首を斬り落とした。

 

ゴトリ、と、バムスターの首が地面に落ちると同時に、残った1体であるバンダーの方も勝負がほぼ決まった。

 

ボッ!

と、放たれたバンダーを砲撃を修は盾としたレイガストでしっかりと防ぎ、控えていたアステロイドを放った。

 

(おお、前より正確な射撃……)

月守が以前見たときよりも射撃の精度が上がっており、一層正確にバンダーの目を撃ち抜いた。

弾痕からトリオンが吹き出し、バンダーの態勢が崩れる。まだ辛うじてだが活動は止まっておらず、追撃の必要があった。

 

「三雲くん!止めは任せた!」

止めは誰でもよかったのだが、距離的に修が1番近くにいたため、月守は修にそう指示を出した。

 

「分かりました!……『スラスター』、オン!」

指示を受けた修は盾として扱っていたレイガストをブレードモードに戻し、オプショントリガーである『スラスター』を起動させた。

『スラスター』はレイガスト専用のオプショントリガーであり、ブレードからトリオンを噴出することにより斬撃を加速させるトリガーだ。

 

スラスターにより加速されたレイガストを修は勢いよく振るう。

「うぉおおお!」

修のその一撃はバンダーの目を正確に捉え、見事に両断した。

 

(……斬撃、前に見たときはまだぎこちなかったけど、これもだいぶ良くなってるな)

月守は修への評価を固めつつ、全体をぐるりと見回した。

 

視界に入るのは活動を停止したトリオン兵が計6体であり、念のためレーダーをチェックするがトリオン兵の反応は無かった。

「殲滅完了っと……」

それを確認した月守は宇佐美に連絡を入れた。

 

『宇佐美先輩、とりあえず戦闘終わりました。回収班、呼んでもらってもいいですか?』

 

『了解〜。……と言っても、もう向かわせてるからちょっとだけ待っててね』

 

宇佐美の仕事の手際の良さに感心しつつ、

『了解です』

月守は短くそう返事をした。

 

「……えっと、2人ともお疲れ。回収班が今こっちに向かってるから、それまで現場待機ね」

「はい」

「分かりました」

ひとまず月守は天音と修にそう指示を出した。

 

「………」

「………」

「………」

再び3人の間に沈黙が訪れようとしたが、

 

「あ、神音、ちょっといい?」

「はい」

回収班が来るまでの間の時間を使って、月守はさっきの戦闘で気になった事を尋ねた。

 

「……さっきはアタッカーとして動いてって指示出したけど、どうだった?次からはシューターの選択肢が入っても行けそう?」

「あ、はい。…ちょっとまだ、ぎこちない、かも、しれないです、けど、やってみたい、です」

月守の問いかけに、天音は感情が読み取れない無表情ながらも、自信なさそうにそう答えた。

 

天音神音は未だに戦闘スタイルが定まっていない。あらゆるスタイルを試行錯誤しつつ、今はメインに弧月、サブ側にシュータータイプのメテオラというオールラウンダー型のスタイルを扱っていた。アタッカーとしての経験はそれなりの天音だが、シューターとしては1ヶ月も経っていない。今がちょうどシューターとしての技術をある程度覚え始めた時期であり、それを積極的に行使したいがために戦闘に柔軟性を損なう時期であった。

 

実際、先日の三輪たちとの戦いでも途中からシュータースタイルを絡めてからは戦闘がぎこちなくなり、月守の指示にいつも以上に頼る結果に繋がっていた。

 

そのためここ数日の任務では、あえて『アタッカー』か『シューター』とスタイルを明確に分けて戦っていたのだが、ここで天音は1度2つを合わせたオールラウンダーとしての戦闘スタイルに戻すことにした。

 

月守は天音の考えに反対することなく、肯定した。

「ん、オッケー。でも、任務中の戦闘は安全優先でいいから無理しないで。出来るだけフォローはするからさ」

「はい、分かりました。頑張ります、ね」

平坦な声で答える天音だが、それは普段からの平常運転なため月守は特に気にすることはなかった。

「あはは、頑張ってね」

ただそう言って、自然な動作で天音の頭をポンポンと撫でた。

 

心なしか表情が柔らかくなった(ような気がした)天音を見た月守は、続けて修とも少し話をしようとしていた。

 

だが、

「あ、あの……、月守先輩」

意外な事に、修から月守へと声をかけてきた。

 

背後から声をかけられた月守は一瞬だけ驚いたが、修の方へと振り返る頃にはやんわりとした笑みを作っていた。

「ん、何かな?」

月守の問いかけに、修は意を決したように答えた。

 

「……少し、話したいことがあるんですが、よろしいですか?」

と。

 

依然として警戒したままだなと、月守は感じつつもその笑みを崩さず、

「いいよ。俺も少し、君に言いたいことがあったからさ」

そう、答えた。

 

*** *** ***

 

トントントン、と、会議の進行役である沢村は資料の束を机で整えてから口を開いた。

「これより15分の休憩を挟みます。休憩後は割り振られたシフトの細かい調整や変更を行う予定となっております。……それでは、休憩にかかってください」

 

沢村の指示を受け、A級8部隊とB級20部隊、そしてランク外1部隊の隊長がそれぞれ休憩に入った。

 

「地木、ちょっといいか?」

休憩に入ると同時に、玉狛第一の隊長を務める木崎レイジが彩笑に近付き、声をかけた。

 

「はい、なんでしょう?」

ちょこんと小首を傾げながら彩笑はそう言い、木崎はそれに応じた。

 

「今回は防衛任務を手伝ってくれて助かった。まだその礼を言ってなかったから、今言っとこうと思ってな」

「あはは、別にいいんですよー、そんなこと。レイジさんはやっぱり真面目ですねぇ」

ケラケラと笑いながら彩笑は答えたが、声のトーンと声量を下げて言葉を続けた。

 

「……それに、ボクたちはそちらの空閑くんを狙ってたっていう負い目もありますからね」

と。

 

レイジもそれに合わせて声のトーンと声量を下げて会話を続けた。

「それは途中までなんだろ?迅から聞いたが、命令に逆らって三輪たちと戦ったんだってな」

「ええ、まあ。……ほとんどボクの独断ですけどね」

「それでも助かった。さすがの迅でも、遠征組に三輪隊、それに地木隊相手は無理だったろう。…特に、迅と天音は相性が悪いからな」

「……そうですね。でも、全盛期の神音ちゃんならともかく、今はスタイルがまだ噛み合ってなくて制限もありますから、多分勝てないですよ」

彩笑はそう言いながら、この話題はここまでだと言わんばかりにわざとらしく咳払いを1つ入れた。

 

「ま!とにかくレイジさんはあんまり気にしなくていいんですよー」

ケラケラと笑いながら彩笑はそう言い、完璧にさっきまでの話題を断ち切った。

 

レイジが小さくため息を吐いたのを見て、彩笑はさらに言葉を続けた。

「順調ですかね、防衛任務」

「……戦力的には問題ないだろう?」

「戦力的には確かに問題無いですよー」

そう言って彩笑は意味ありげな笑みを浮かべた。

それを意味深に感じたレイジはその意味を問いかけた。

 

「どういうことだ?」

「あはは、深い意味は無いですよ?ただ……」

彩笑は一度そこで言葉を区切り、その笑みのまま言葉を続けた。

 

「……仲良くできてればいいなぁ……って、思っただけですよ」

 

と。

 

レイジはその笑みの奥に、ほんの少しだけ心配するような色が浮かんでいたことに気付いたが、あえてそれを言わないでこの会話を終わらせた。

 

 

 

 

 




ここから後書きです。

最近、キャラクター同士の会話を考えると、いかにそのキャラクターについて理解が浅いかを痛感します。
「この子はこんなこと言うかな?」
とか、
「この子はどんなこと考えてるんだろう?」
とか、悩みます。

でもそこがまた楽しかったりします。

今回は更新に少し間が空いて申し訳ありませんでした。
おそらく今年はそう頻繁に更新できないかもしれませんが、頑張っていきます!

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