ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

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第16話「鈍い人」

月守は修に言われるまま付いて行き、気付けば天音とはだいぶ離れた場所まで来ていた。

「なんかあれだね。体育館裏に呼び出される気分だよ」

「……呼び出されたことがあるんですか?」

なんの気なしに言った言葉に、修は律儀に反応した。

 

「男子と女子にそれぞれ1回ずつあるよ。男子の時は理不尽な言いがかりで、女の子の時は告白だったなー」

「……なんか、両極端ですね」

「いやー、あれはビックリしたよ。どっちも笑って躱したけどさ」

月守はその時の事を思い出しながらケラケラと笑った。

 

そうしたどうでもいいような会話の交わしつつ、2人は修が倒したバンダーの辺りまでやってきた。

 

「それで?話って何かな、三雲くん?」

月守は再び修に目線を合わせて、尋ねた。

 

その問いかけに対し、修は躊躇った素振りを見せた後、

「……す、すみませんでした!」

何故かいきなり、勢いよく頭を下げて謝罪した。

 

「……へ?」

まさかの展開に月守は驚き、思わず間抜けた声を発してから詳細を尋ねることにした。

 

「えーっと、み、三雲くん?話が見えないから順番に説明してくれるかな?」

慌てながら月守は自身を落ち着かせるのも兼ねて修にそう言った。言われた修はゆっくりと頭を上げてから、その理由を口にした。

 

*** *** ***

 

「……」

一方、月守と三雲に置いていかれた形になった天音はその場で待機していた。

 

「…………」

手持ち無沙汰になり、鞘に収めていた弧月を左手で抜き、腰に差していた鞘も右手で取り外し、それを曲芸のようにクルクルと回し始めた。

この手の曲芸は彩笑がたまにやるのを見よう見まねで天音は覚え、度々練習していた。もっとも、彩笑がやる時は弧月ではなくナイフ状のスコーピオンであるため、全く同じというわけにはいかない。似ても似つかない、天音オリジナルの曲芸だった。

 

そこへ、

『やっほー、しーちゃん元気ー?』

不意打ちに等しいタイミングで本日地木隊で唯一オフであったはずの真香から連絡が入った。

 

そしてそれに驚いた天音は思わず、曲芸を誤り鞘を掴み損ねて足元に落とした。

「あ……」

『ん?どうしたの?』

『「……ううん、なんでも、ないよ」』

天音は淡々とそう言い足元の鞘を拾い上げ右腰に戻し、弧月をそこへ納めた。

 

『そう?ならいいんだけど……』

『「……ところで、真香、どうしたの?緊急の、連絡?」』

『ううん?みんなそれぞれ仕事あるのに私だけお留守番させられて暇だから、暇つぶしに連絡しただけだよ?』

あっけらかんと真香はそう言った。

 

仮にも今天音たちは任務中ではあるので一種の妨害扱いに当たるのだが、

『「……今は、敵、いないから、いいけど。ゲート、開いたら、切って、ね?」』

『分かってるって』

曲がりなりにも天音は1人で放置され寂しかったためそれで手を打った。

 

天音が手近な壁にもたれかかったところで、真香が尋ねた。

『どう?玉狛の三雲くんとの防衛任務は?』

『「順調、だよ。さっき、6体同時に、攻めてきた、けど、問題、なかったから」』

先ほどの戦闘を思い出しながら天音は真香に報告した。

 

『6体同時?フォーメーションはどんな感じ?』

『「えっと、私がアタッカー、やって、月守先輩が、フォローしてくれて、それで倒し損ねた、やつを、三雲くんが倒す、感じだった、よ」』

『んー、まあ初めてで連携組むって方が難しいし、妥当だねぇ』

何故か通信越しの真香の声は楽しそうに聞こえるな、と、天音はぼんやりと思った。

 

『あ、ところでさ。こっちからレーダーの反応見る限りだとしーちゃんと月守先輩たちって離れてるけど、何かあったの?』

唐突に真香は話題を変えて天音に問いかけた。

 

『「なんか、2人でお話し、するって、行っちゃった」』

『話?なんの?』

『「分かんない」』

天音は首を振りながら答え、言葉を続けた。

『「でも、なんでか、三雲くんは、月守先輩を、警戒してた、から、もしかして、それが関わってる、かも……」』

 

警戒、という単語を聞いた真香はすぐに天音に問いかけた。

『ねえ、任務前とか任務中に、何か話した?』

『「うん。簡単な自己紹介と、フォーメーションだけ、話した、よ」』

『それだけ?』

『「うん」』

 

そしてその天音の言葉を受けた真香は、

『いや、だったら三雲くんが月守先輩を警戒するのは当然でしょ?』

と、当たり前の事を確認するようにそう言った。

 

あまりにもサラリと真香が言ってのけたので、天音は反応が遅れた。

『「え、え?な、なんで?なんで、真香、分かる、の?」』

『えー……、むしろ私からすれば分からない方がなんでって感じなんだけど…』

『「う、うそ……?月守先輩も、理由、分かって、なかったみたい、なのに……?」』

『はい!?ウソでしょ!?』

無表情かつ平坦な声だが、それなりの付き合いである真香には通信越しでも天音が狼狽えているのが分かったが、真香の驚きはそこではなかった。

 

『月守先輩もなんで分かんないかなー……?変なところで鈍いなぁ、あの人も……』

地木隊作戦室にいる真香は思わず突発的な頭痛により頭を押さえて、うな垂れた。

 

そんな真香に向かって天音は詳細を教えるように要求した。

『「ね、ねぇ真香。1人だけ、納得してないで、私にも、教えて」』

『まあ、教えるけど、これ本当はちょっと考えれば分かることだからね?』

そう前置きをしてから、真香はどうすれば分かりやすいか一瞬だけ思考し、天音に説明した。

 

『……まず、月守先輩と三雲くんの接点ってなんだと思う?』

『「えっと…、前に、任務で、監視してた、のと、されてた、こと?」』

 

確かに以前、地木隊は三輪隊と共に任務で修を監視していた時があった。接点はむしろ、それくらいしかない。

だが、

『半分正解だけど半分不正解、ううん、()()()。確かにそれもあるけど、もしそれが原因で三雲くんが警戒するなら、しーちゃんもの警戒の対象にならないとおかしいでしょ?』

『「あ、そっか……」』

『うん。でも目の付け所は悪くないよ、しーちゃん』

天音の考察を軽く褒めた真香は、その不正確な部分を正すことにした。

 

『じゃあ次ね。月守先輩にはあって、しーちゃんには無い三雲くんとの接点は何かな?』

『「……その任務中に、直接会ったか、会ってないか、かな?」』

『んー、惜しい。あと一歩進んで』

『「?」』

天音は真香の言われるままに一歩進んだ。

 

『いや、しーちゃん。そういう物理的な一歩進むじゃなくてね、比喩的っていうか思考的に一歩進んでほしくて私は言ったつもりなの』

『「あ、そういう、こと?」』

天音はキョトンとした声でそう言い、

『出たよ、しーちゃんの突然の天然ボケ』

真香はそんな天音が面白くて作戦室で1人笑っていた。

 

『「も、もう……。そこまで、笑わなくても、いいじゃん」』

ほんの少しだけむくれた声を天音は届け、真香は笑いながらも『ごめんごめん』と謝罪した。

 

『えーと……。まあ、しーちゃんの意見でほぼほぼ合ってるんだけど、より厳密に言うと《空閑くんと戦ってるか否か》ってことなんだよね』

『「……え?うん、まあ、そう、だけど…。それで?」』

確かに真香が言う通り、天音はその日は模試を受けていたため遊真とは戦っていない。戦ったのは月守と彩笑だった。

 

天音は再度壁にもたれかかりながら真香に続きを促した。

 

しかし、

『いや、それで?って言われても多分これが答えだよ、しーちゃん』

真香はそれこそが答えだと、言った。

 

『「……???え?な、なんで、それが、答えに、なるの?」』

至極真面目に天音はそう言ったのだが、通信越しの真香は盛大にため息を吐いた。

 

『あのね、しーちゃん。今から私が言うことを想像してね』

『「うん」』

そう言われた天音はより正確な想像のために、一度瞳を閉じた。

 

『……しーちゃんは休日に、月守先輩と地木隊長と一緒にお買い物をしてました』

『「うん」』

 

『途中で休憩したら、……んー、そうだな、いきなり人型ネイバーが現れました』

『「……あ、うん。はい」』

一緒戸惑いながらも天音は真香に言われたことをイメージし続けた。

 

『みんなは何とか説得しようとしたけど相手は聞く耳を傾けないで、いきなり戦闘を仕掛けてきました』

『「うん。相手は、どんな、トリガー、使うの?」』

純粋な疑問を天音はぶつけた。

 

(今そこは重要じゃないんだけどなー……)

真香はそう思いつつも即興で、

『んー……、なんかこう……、トランプ的なカードで戦う感じのやつ』

そう提案した。言いながら、

(これはないな)

と思ったが、

『「ん、分かった」』

天音はそれで納得したようで真香は話を進めることにした。

 

『相手は少なくとも、手は抜かないで戦闘を仕掛けてきて、しーちゃんたちはそれに応戦してる』

『「うん」』

『でも相手は急に戦闘を止めて、またまともに話を聞かないで帰りました』

『「え?……あ、うん。なんか、勝手、だね」』

『……そうだね』

真香としてここまで言えば分かるとは思ったのだが、通信越しの天音はまだピンときていないようだった。

 

(しーちゃんもだけど、月守先輩と地木隊長も妙に人との繋がりに関することは鈍いんだよね……。みんな、理由は違うだろうけど……)

そんなことを考えつつ、真香は天音に根気よく説明を続けた。

『うん、まあ、しーちゃんからすれば、勝手に見えるよね。じゃあ、そんな人がまた目の前に現れて、何食わぬ顔で一緒に任務をやるって言ったら、どう思う?』

『「あ……」』

天音はそこまで言われて、ようやく修が警戒する理由を理解できた。

 

真香の例え話は、修から見た地木隊を天音の視点で見えるようにした話だった。そんな天音(修)から見た人型ネイバー(地木隊)は、確かに良い印象ではなかった。いや、むしろ、最悪である。そんな相手と一緒に任務やるなど、警戒しない方が難しかった。

 

(少なくとも、私なら、警戒、する)

天音はそう思うと同時に、真香に通信を入れた。

『「月守先輩、三雲くんと、2人で、大丈夫、かな」』

 

『んー、どうだろうね……。

まあ、基本的に月守先輩は敵に回さない限りは警戒するのがバカらしくなるくらいに人畜無害な人だし、もしかしたら三雲くんも考えを改めてるかもしれないよー?』

 

真香はケラケラと笑いながらそう言い、あまり心配はしていないようだった。

 

*** *** ***

 

「……と、いうことです。今まですみませんでした!」

天音と真香が会話していた頃、修は一通り月守に話し終えていた。

 

「んー……」

月守は自身の理解が正しいかの確認も兼ねて、修の言ったことを要約することにした。

「つまり……。旧弓手町駅での戦い以降、三雲くんは俺のことを『いきなり戦闘を仕掛けてくる上に話を聞かない危ない人』として警戒していた。でも、今日一緒に任務をしてみたら案外そうでもないかも?って思い直してきて、そしたら今まで警戒していたのが申し訳なく思えたから謝りたくなった……、って、ことで、良いのかな?」

と。

 

真香の予想は見事に当たっていたのだ。

 

月守の要約を聞いた修は再び頭を下げながら、

「そうです。すみませんでした」

再度謝った。

 

だがそれを見た月守は、

「……いや、別に三雲くんが謝る必要、どこにも無くない?」

首を傾げながらそう言った。

 

「……え?」

「うん、無いだろう?だって三雲くんは今回の件に関しちゃ、被害者とかに当たるんじゃないかな?だから本当は俺と彩笑に文句の1つや2つくらい言ってもいいし、謝るならどっちかと言えば俺たちさ」

 

そこで真面目な顔を見せた月守は、

「……あの時は任務だったとは言え、君の友達を襲撃して申し訳なかったよ、三雲くん。後日、うちの隊長も連れて正式に謝罪に向かう」

そう言って深々と修に向かって頭を下げた。

 

「え、いや、あのその…」

月守の行動に今度は修が驚いた様子を見せた。

 

「えっと……、つ、月守先輩。とりあえず頭を上げてください」

言われてた通りに月守は頭を上げて、修をしっかりと見据えて口を開いた。

「言い訳っぽいんだけどさ……。俺はどうもその辺の感覚が疎くて、人に嫌われるのに慣れてしまってるというか……。とにかく、気づくのに遅れた上に、配慮に欠けていた。申し訳なかった」

どこか不器用な言葉ではあるが、その言葉に修は月守の意思を感じ取ったのか、

「……いえ、元はと言えば、ぼくの一方的な思い込みから始まったことなので…。ぼくの方こそ、申し訳ありませんでした…」

修もそう言い、月守同様に再び謝罪した。

 

しばらく2人とも相手を見据えていたが、

「……ぷ」

「は、はは」

「「あはははは!」」

どちらからというわけでも無く、何故かどこかおかしく思えて笑い始めた。

 

「なんだろうな、これ。お互いに変に気張ってたとか、そんな感じかな」

「そうかも、しれないですね」

お互いに力が抜けたのか、さっきまでの緊張感を緩めて2人は会話できていた。

 

「いやでも、本当に俺たちが悪かったからさ。いつかちゃんと謝りに行くよ」

「はい、分かりました」

「ありがとう、三雲くん。……とりあえず戻るか。うちの神音が心配してるかもしれないからさ」

月守はそう言いながら、ここまで来たルートを後戻りしていき、修もそれに付いて行った。

 

その途中で不意に、

「……あ、そういえば月守先輩も、何か言いたいことがあるって言ってませんでしたか?」

修はここに来るまでの会話を思い出して尋ねた。

 

「んー、そういえばあったなー、言いたいこと」

「それって、結局なんだったんですか?」

「うん、さっきの戦闘で気になったことだよ。まあ、三雲くんは集団戦で戦うのはあんまり経験無いだろうから仕方ないけど、あの状況でバンダーの正しい対処法は……」

月守が言葉を紡ごうとしたその瞬間、

 

警戒区域内に警報が鳴り響いた。

 

「お……」

「警報!?ということは……」

「敵さんのお出ましだ」

ちょっと頻度が高いなと思いつつ、月守は慌てずオペレーターの宇佐美へと通信回線をつないだ。

 

『宇佐美先輩、ゲートはどこに開きますか?』

『つっきーの近くに2つ、天音ちゃんの近くに1つなんだけど、ちょっとマズイかも……』

『……?どうしてですか?ゲート1つ分くらいのトリオン兵なら、神音は余裕で対処できますよ?』

その疑問に宇佐美は即答した。

 

『問題はそこじゃないの。もう回収班が来てるから、戦闘に巻き込んじゃうの』

『なっ……』

そういえばまだ回収班が来ていなかったと月守は思い出し、そこからすぐに頭を回して天音に指示を出した。

 

『神音聞こえる?』

『はい、聞こえて、ます』

『ん。宇佐美先輩が言ったけど、もう回収班来てるんだよね?』

『はい。もう、作業、取り掛かってて、すぐには、逃げられそうにも、ないです』

『うん。だからお願い。すぐに逃げられない回収班を守ってあげて。一応、彼らも護身用トリガーは持ってるはずだけど、油断しないでね』

『了解、です』

天音が了解したことを聞き届けた月守は続いて宇沙美へと指示を出した。

 

『宇沙美先輩。神音と回収班へのオペレートをお願いします。俺と三雲くんは気にせず、回収班優先で指示をお願いします』

これは月守が宇佐美に対して出した指示であり、当然ながら月守は返ってくる声は宇佐美のものであると思っていた。だが、

 

『了解です。宇佐美先輩にはあちらのオペレートをやって貰うので、月守先輩たちのオペレートは私がやりますね』

何故か返ってきた声は宇佐美では無く、いつも聞き慣れた地木隊オペレーターの和水真香の声だった。

 

『あれ?なんで真香ちゃん?』

『いやー、1人作戦室でお留守番が暇だったので、その暇つぶしにしーちゃんに連絡して遊んでたらこんな事態になりましたし?オペレーター1人では厳しい事態なのでお手伝いしようかなと』

驚く月守とは対照的に、通信越しの真香はイタズラが成功した子供のような笑い声だった。

 

しかし月守はすぐに思考を立て直しながら言った。

『……まあ、細かいことは後回しでいいや。じゃあ真香ちゃん、俺と三雲くんのオペレートよろしくね』

『了解です。三雲くん、よろしくね』

急に呼ばれた三雲はワンテンポ遅れたが、

『あ、はい!分かりました!』

そう返事をした。

 

警戒区域内に、黒い稲妻のようなものが走り徐々にネイバーが現れるゲートが形成されていく。

「ほぼ即興のタッグだから、作戦はシンプルに行くよ。俺が相手の態勢を崩すからそこを突いてくれ」

「はい!」

 

2人の態勢が整うと同時に、2つのゲートが完成しトリオン兵が姿を現わした。

先ほど相手にしたのと同じ『バンダー』が2体、そこにいた。

 

『相手はこれだけかな?』

すかさず月守は真香に問いかけ、即答した。

『これだけです。ちなみにしーちゃんの方はバムスター1体だけです』

『ん、ありがと』

そして月守はバンダーに意識を向ける。

 

「ちょうどいいや。三雲くん!アステロイドを用意して!」

バンダーを見据えたまま、月守は修に指示を出す。

 

「わ、分かりました!」

言われるまま修はアステロイドをキューブ状に展開した。その展開が終わると同時に、月守は続けて口を開いた。

 

「三雲くん、さっきの続きだけど」

バンダーの眼の部分が光り出し砲撃の用意が始まるのを見ながら、月守は構えた左手にトリオンキューブを出現させた。

 

「バンダーの砲撃をしっかりと防いでから反撃っていうのは対処法としては間違ってないんだけど、あれはどっちかといえばソロ戦での対処法だ」

バンダーは砲撃の用意を整えているが、しかし月守は慌てること無く言葉を紡ぐ。

 

「まあ、元を辿れば俺の『警戒して』って指示が悪かった。全員が全員、バンダーの砲撃を警戒してるわけじゃないから、ただの砲撃でも不意打ちになりかねない。だから……」

そこまで言ったところで、バンダーの砲撃用意がほぼ完了した。その長い首が、発射のために少し仰け反る。

 

そして月守はそのタイミングを突くように、

「砲撃前に潰すこと」

そう言いながら用意していたバイパーを放った。まるで矢のように速く、それでいて宙空を自在に駆け巡るバイパーは正確にバンダーの眼に当たり、砲撃をキャンセルさせた。

 

(……!さっきの戦闘でも思ったけど、月守先輩のバイパーの精度はすごく高い……!)

シューターはその性質上、弾の命中率は心許ないものであるはずだが、月守はそれに反して正確な射撃をしていた。

 

その事実に修は驚き動きを止めたが、

「よし、三雲くん、止めどうぞ」

月守はやんわりとした声でそう言い、止めのアステロイドを放つことを促した。

 

「あ……、はい!『アステロイド』!」

修は砲撃がキャンセルされ動きが鈍くなったバンダー2体目掛けてアステロイドを放つ。

 

ドドドドドッ!

 

その射撃は月守ほどではないが正確に眼を穿ち、致命傷を与えた。

グラリ、と、倒れていくバンダーを見ながら月守は、

「ナイス。いい腕してるね」

勝利を確信したように、そう言った。

 

 

*** *** ***

 

 

バンダーを倒した2人はすぐに天音と合流したが、そちらも何事もなく戦闘を終えていた。

「神音、大丈夫?」

「はい。問題無し、です」

天音は弧月を鞘に収めながら平坦な声で答えた。

 

倒されたバムスターに斬撃だけでなくメテオラの炸裂痕が残っているのを見た月守は、天音の頭を優しく撫でながら、

「うん、良し。よく出来ました」

幼子を褒めるようにそう言った。

 

表情こそ平坦だが、どこか嬉しそうに天音は、

「……はい。ありがとう、ございます」

月守の言葉を受け取った。

 

そして天音は少しだけ背伸びをしつつ更に声量を落として、

「…三雲くんと、仲直り、できました、か?」

月守の優しげな黒の瞳を見ながらそう問いかけた。

 

その言葉を聞いた月守は、一瞬だけ驚いたような表情をしたあと、クスっと笑い、

「うん、できたよ。ありがと」

と、小声でそう返した。

 

結局その日はもうトリオン兵が攻めてくることなく、バムスター、バンダー、モールモッドを各3体ずつの計9体討伐という戦果で防衛任務を終えた。

 

任務終了の別れ際、

「……じゃあ、そのうちそっちの方に顔を出すよ、三雲くん」

「分かりました。お待ちしてますね、月守先輩」

2人はそう言いながら軽く握手をして別れた。




後書きです。

私は戦術であったり戦闘に関する知識はまるで無いので、作中で月守が言った対処法が正しいかは謎です。
剣と銃と盾を切り替えて、喰べたり戦うハンティングゲームで乱戦時にああいう遠距離攻撃は嫌だなと思ったことがある程度です。

月守たちと修たちが仲良く出来たらいいなぁと思っています。

読んでいただき、ありがとうございます。

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