ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

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第2話「トリガー、オン」

三雲が砲撃兼捕獲用トリオン兵「バンダー」の砲撃直後の隙を突き、ブレード型トリガー「レイガスト」で弱点である目の部分を斬った。

 

そしてその光景を、

「んー、テキスト通り……。普通の戦い方だね」

「そうだね」

監視任務に就いていた彩笑と月守が遠目から見ていた。

 

「でも悪くはないじゃん?」

月守が三雲の戦いを見てそうコメントしたが、

「でも普通だよ。あれでモールモッド2体を本当に撃破したのか、ちょっと疑問……」

彩笑は辛口なコメントを返した。

 

12月14日。世間一般では休日の土曜日だが、2人は学校の制服を着て三雲を監視していた。

地木隊と三輪隊はメンバーを混ぜながら監視任務を行っていた。さっきまでは他にも三輪と米屋がいたのだが、警戒区域にゲートが開きトリオン兵が攻めてくると同時に、

「最近まともに動いてないから、ちょっくら運動がてらバトってくるわ」

三輪隊のアタッカー、米屋陽介がそう言い防衛任務へと向かい、三輪秀次がそれに同行していった。

 

そのため、今いるのは彩笑と月守だけだ。ちなみに天音と真香は平日の防衛任務で出られなかった学校の模試を受けているためここにはいない。

 

2人が遠目で監視を続けていると、

「あれ、一般人?」

月守が思わずといった様子で呟いた。三雲に近寄る小柄な人影が2つ見えたのだ。

 

彩笑もそれに気付き、目を凝らしてよく見た。

「……みたいだね。2人とも小柄だし、小学生かな。遊んでて間違って警戒区域入っちゃったのかな?」

「あー、たまにいるよね、そういう子供」

月守が相槌を打ったところで、彩笑がある事に気付いた。

「男の子の方は髪白い!ハーフかな?」

「んー、どうだろ。アルビノって可能性もあるよ?」

「もしくは染めてるか脱色?」

 

2人はそんな雑談しながらも三雲たちから視線を逸らさず監視を続けた。彼らも会話をしているようだが、声までは聞こえず内容は分からない。

「……ねえ咲耶」

「ん?」

彩笑が思ったことを口にした。

 

「咲耶はさ、本当にあの三雲くんの背後にネイバーがいると思ってる?」

と。

 

月守は三雲たちから目をそらし、彩笑を見据えて答えた。

「……ここ数日見ただけじゃ、さすがに分かんないよ」

「だよねー」

そしてその答えを聞いた彩笑はケラケラと笑った。

 

「じゃあ予想!予想しようよ!そんで賭けよう!ボクはネイバーが居るの方に1票!」

「えー……、じゃあ俺は居ない方に賭けるしかないじゃん」

「負けた方は勝った方に飲み物奢るでどう?」

「あ、そんくらいならいいや。じゃあ俺カフェオレ」

「ボクはココアでいいよ」

 

2人の間で賭けが成立したところで、三雲たちに動きがあった。

「あ、彩笑。三雲くんたち動き出したよ」

「ありゃ、本当だ。……あの方向って、旧弓手町駅の方だよね?」

彼らの移動に合わせて2人も動き出し、彩笑は月守にそう尋ねた。

 

「おー、正解。方向音痴な彩笑にしては珍しく正解」

「咲耶、それ余計。そういう余計な事言うから三輪先輩とかに嫌われるんだって」

「はいはい、了解」

呆れたように言う彩笑に対して、月守は苦笑しながらそう答えた。

 

*** *** ***

 

ゲートから現れたトリオン兵を三輪と米屋は危なげなく駆逐した。

「おーおー、秀次いつになくイライラしてんなー」

三輪の戦いぶりを間近で見ていた米屋は戦闘を終えた三輪にそう言った。普段なら感じられないが、今日の三輪の剣には苛立ちが乗っていると米屋は感じていたのだ。

 

「すまん」

三輪は申し訳なさそうに謝り、

「別にいいって」

米屋も軽くそれを許した。

 

倒したトリオン兵の残骸を回収する回収班が到着するまでの間、米屋は三輪に質問した。

「にしても分かんねーな。なんで秀次はそんなに月守を……、いや、地木隊を嫌うんだ?」

三輪は数秒ほど考えた後、

「……別に嫌ってはいない。ただ、あいつらと行動すれば毎回毎回オレたちが振り回されるから嫌なんだ」

そう答えた。

 

(いや、それは偶然じゃね?)

米屋は内心そう思いながらも、再び尋ねた。

「ホントにそれだけか?」

と。

 

再度三輪は、数秒の間隔を開けたあと、口を開いた。

「……気に食わないんだよ。あいつらの、あの、どんな任務でもヘラヘラ笑って『楽しくやらなきゃ損だ』とでも言いたげな態度が、気に食わないだけだ…!」

 

確かに三輪の言う通り、地木隊は防衛任務にしろ今回のような監視任務にしろ、常に楽しそうに任務を遂行する部隊だった。よく言えばリラックスしているが、悪く言えば気が抜けている部隊である。そして三輪はその態度が気に食わないのだと言った。

 

ここで三輪はあえて言わなかったが、地木隊を嫌う理由がもう1つあった。しかし米屋もそれを知っているため、あえて口にすることはなかった。

 

「まあ、確かにそうかもな。でも、あの雰囲気あっての地木隊じゃん?それにあいつらはやる時きっちりやる奴らなんだから、そこは少し大目に見てやれよ」

米屋は三輪に言い聞かせるように、なだめるように言った。

それを聞いた三輪は、

(……確かに今それを言っても、仕方ない、か)

自身を納得させるように心の中でそう呟いた。

 

「……ああ。そうだな」

そして三輪がそう言ったところで、

 

『あ、あー。三輪先輩聞こえてますかー?』

三輪隊の通信回線に月守の声が届いた。

途端に三輪の顔は一気に不機嫌なものになった。

(こいつ、どうやって回線に割り込んだんだ……?)

三輪と米屋はそう思いつつ、通信に応じた。

 

「聞こえてる。用件はなんだ?」

それを聞いた月守は、その声だけで三輪か不機嫌だと感じ取り、手早く情報を伝えることにした。

 

『監視してた三雲くんなんですけど…、人型ネイバーと通じてるかまでは不明ですけど、彼の知人らしき人がボーダーの管理下にないトリガーを使ってるのを確認しました。とりあえずそれの捕獲を目的として戦闘を始めますねー』

と。

用件を伝えた月守はさっさと通信を切断した。

 

「……は?」

「うん?」

まるでその日の夕飯のメニューを伝えるかのようにあっさりと言われ、三輪と米屋はしばし停止した。

 

そして、

「……って、オイ秀次!こうしてる場合じゃねぇ!」

「分かってる!行くぞ陽介!」

その情報の意味を理解するなり同時に駆け出した。

 

トリオン体の身体能力を全開にした移動をしながら、三輪は苛立ちを口にした。

「だからあいつらと合同任務は嫌なんだ!」

 

*** *** ***

 

「これで千佳が狙われる理由は分かった。問題は、それをどう解決するかだ!」

廃墟となった旧弓手町駅のホームで三雲修はそう言った。

 

ここにいるのは三雲と、彼の友人でありネイバーの世界から来た白髪の少年「空閑遊真」と三雲の知り合いである「雨取千佳」、そして黒く小型の炊飯器のようなフォルムをした自立型トリオン兵であり空閑のお目付け役である「レプリカ」。

 

レプリカにより雨取のトリオン能力が非常に優れていることが分かった。トリオン能力が高いと、ボーダーやネイバーの技術である「トリガー」を扱う上で有利であるが、その反面ネイバーに狙われやすいのだ。

その高いトリオン能力によりネイバーから狙われる雨取をどうやって守るか。三雲はそれを考えようとしていた。

 

そこへ、

「やあ、こんにちは。ボーダーです」

三雲を監視していた彩笑と月守が現れた。

 

「「トリガー、オン」」

すかさず2人はトリガーを起動し、戦闘体へと換装した。一応話し合うつもりではあるのだが、三輪隊と事前に話し合ってこうすることになっていたのだ。

 

2人の戦闘体は、嵐山隊の赤い隊服を黒くカラーリングしたようなデザインのものだった。

 

「っ!?」

三雲と雨取は驚いたようで、そんな反応を見た彩笑は、

「あー、ごめんごめん。驚かせちゃったね」

そう言って笑った。

 

「……あんたら、ここしばらくオサムを監視してた奴らだよな?」

ここで、今まで沈黙してきた遊真が口を開いた。

 

彩笑は勿体振ることなく即答した。

「うん、そうだよ」

「……監視するなら、もう少し上手くやれば?オサムは気付いてなかったけど、あからさまだったよ?」

遊真の忠告を聞いた彩笑と月守は苦笑した。

 

なんか緩いな。と、遊真は2人を見てそう感じた。

 

苦笑が収まったところで彩笑は1つ咳払いをして問いかけた。

「まあ、それは置いといて……。君たち、さっきボーダーの管理下にないトリガーを使ってたよね?使ったのは誰かな?」

 

「……」

反応を返さない三雲たちを見て月守が、

「遠目だったけど、その小さい女の子がやたら大きいトリオンキューブを出してたように見えたよ」

そう答えた。続けて、

「やっぱり?ボクもそう見えた。……じゃあ、君がネイバーってことでいいのかな?」

雨取を見据えて、彩笑はニコニコとした笑みのままそう言った。月守も同様に雨取を見据えている。

 

ビクッ、と、雨取は思わず身体を強張らせて怯えた様子を見せた。三雲は雨取を庇うようにその間に立ち、

「ま、待ってください!こいつは……」

そう言いかけたが、

 

「ちがう、ちがう。ネイバーはおれだよ」

 

傍らにいた遊真がそう言葉を挟んだ。

 

彩笑と月守はその言葉に一瞬キョトンとしたが、すぐに問いかけた。

「……君がネイバー?間違いない?」

彩笑は念を押すように問いかけ、

「うん。間違いないよ」

遊真はそれを肯定した。

 

次の瞬間、

ダンっ!!

大きな踏み込みの音と共に、彩笑が一瞬にして遊真の眼前まで肉迫した。右手には、軽量級の攻撃手(アタッカー)が好んで使う軽量ブレードの「スコーピオン」がダガーナイフ状に展開され握られていた。

 

あまりにも突然の出来事に、

「な、何してるんですか!?」

三雲は叫んだ。しかし彩笑はそれには答えずに、遊真に問いかけた。

「君、今の見えてたよね?なんで避けなかったの?」

「あんたが当てる気ないの分かってたから」

冷たい瞳で彩笑を見つめて、遊真は淡々と答える。

 

その答えを聞いた彩笑は、唇を薄く舐めた。まるで、獲物を見つけたと言わんばかりに。

「へえ、なかなかいいね」

さっきまでのどこか緩い雰囲気など微塵もない、真剣そのものの声だった。

 

トトッ、と、軽くステップを踏み、彩笑は月守のそばに戻った。空いている左手にもう1本ダガーナイフを模したスコーピオンを展開し、それ構えて月守へと指示を出す。

「とりあえずボクが前衛やるから、バックアップよろしく」

「了解」

月守は武装を展開せずに左手だけを構えて答えた。

 

戦闘は避けられないと判断した遊真は、

「オサム、チカ、下がってろ。こいつらとは、おれ1人でやる」

2人に向かってそう言い、

「トリガー、オン」

指輪を模した形状で納めてあるトリガーを起動し、戦闘体に換装した。

 

黒を基調とした戦闘体へと換装した遊真を見て彩笑はクスッと小さく笑った。

「いいね。戦闘体もなかなか強そう……っていうか、なんか雰囲気あるなぁ。手強そうだし、全力で行こうかな」

 

その言葉を聞いた遊真は、彩笑への意趣返しを含めてクスッと小さく笑い、言った。

「おまえ、おもしろいウソつくね」

と。

 

彩笑は楽しそうに声を張り上げる。

「さあ!どうだろうね!」

 

そしてそれが戦いの始まりを告げる鐘であったかのように、彩笑は強く強く地面を踏み込んだ。

 

 




遊真VS彩笑&月守コンビです。
書いてて思いましたが、多分地木隊は監視とか潜入とかは向きませんね。

次話、戦闘開始です!


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