ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

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第38話「王手」

三輪はハンドガンを構え、遊真は左手を構えた。

「レッドバレット」

「アンカー・プラス・ボルト」

示し合わせたわけではないが、ハイレインに向けて三輪と遊真は同じ攻撃を仕掛けた。

レッドバレットとアンカーは弾丸の性質上、ハイレインの使うアレクトールの生物弾丸に防ぐ事は出来ない。その防御網をすり抜ける攻撃を、ハイレインはなんとか回避する。

 

当たらない攻撃を見た三輪は舌打ちをした。

「マネをするな、ネイバー」

「いや、おれの方が威力高いし」

三輪の言葉に遊真はしれっと言葉を返した。三輪はそれを受けてさらに舌打ちをして言葉を続けた。

 

「そういうことじゃない。レッドバレットは奴の弾丸では防げない以上、有効策なんだ。ならオレの隣で撃つな。角度をつけて避けられないようにしろということだ」

 

それを聞いた遊真は一瞬、ポカンとした表情を見せた。

「……なんだ、その顔は?」

三輪がそれに突っ込み、遊真が答えた。

「いや、協力できるなんて意外でさ。おれのこと、嫌ってると思ってたから」

 

「ああ、嫌いだな。ネイバーと手を組むなんて怒りで気が狂いそうだが……。今はこいつを倒すのが先だ。おまえはそれまで後回しだ、玉狛のネイバー」

 

形はどうあれ協力できることが判明した遊真は薄く笑った。

「玉狛のネイバーじゃなくて、空閑遊真だよ、重くなる弾の人」

 

「……三輪秀次だ。手を貸せ、奴を殺すぞ」

 

「あいよ、ミワ先輩」

一時的に同盟を組んだ2人は左右に分かれハイレインを追い詰めにかかった。

 

そんな2人を見ながらハイレインはミラと連絡を繋いだ。

 

『ミラ、金の雛鳥はどうなった?』

 

『はい。ミデンのブラックトリガーの妨害により追撃は断念しましたが、補足はできています』

 

『そうか。運び手の足はオレのアレクトールによって死んでいる。この邪魔者2人を先にやるぞ』

 

『承知いたしました』

打ち合わせの末、ハイレインとミラの狙いは修から外れ、三輪と遊真に向かった。

 

そして修はそれを感じ取ったのか、はたまた偶然なのか、そのタイミングで動いた。

意識が切り替わった瞬間に動かれたため、ミラの反応が一瞬遅れた。

『運び手が出ました!』

 

『そのまま待て』

ハイレインはミラに指示を出すと同時に、アレクトールの弾丸を修に向けて放った。しかしそれは、修についていたレプリカが対処した。

『シールド』

レプリカは的確にシールドを張り、弾丸を防いだ。

 

だが、その隙を突くようにハイレインは次の手を撃つ。

『ミラ、捕まえろ』

その指示と同時に、修にミラのトリガーによる攻撃が突き刺さり、修の動きは確実に止められた。

「ぐっ……!」

さらに追撃としてハイレインのアレクトールが修に襲いかかる。

 

だが、修はここまでは想定済みだった。迫り来るアレクトールを見て、修は腹をくくった。

「勝負はここからだ!トリガー、オフ!」

意志を持って修はその言葉を口にしてトリオン体の換装を解いてミラの攻撃から抜け出し、本部へと全力で駆けた。途中でアレクトールが当たるが、それは当たったそばから霧散していくだけで修をキューブにする事は出来なかった。

 

これはハイレインの使うブラックトリガー「アレクトール」の欠点の1つだ。キューブに出来るのはトリオンで構成された物だけであり、生身の修には何の効果も無かった。

 

そんな修を見てハイレインは苛ついた表情を見せつつも次の手を打とうとした。

「ミラ、奴を……」

「おまえらの相手は俺だ!」

そしてその言葉を遮るように、弧月を構えた三輪が2人へと肉迫する。

 

「煩いぞ」

ハイレインとミラは三輪と遊真を仕留めるための技を放った。アレクトールの弾丸をミラのスピラスキアを通してワープさせ、三輪たちの背後に転送した。

2人はこの技で、烏丸を仕留めていた。

 

だが、三輪は事前にその技の情報を聞いており、そこに勝機を見出した。

「来たな馬鹿が!それはもう知っている!」

「おれもだよ」

遊真に至っては烏丸がやられる光景を見ていた。2人はすぐに対策を取る。

 

「バイパー!」

三輪は背後のワープゲート目掛けて拳銃を構えてバイパーを放つ。そしてその弾は当然、繋がっているハイレイン達の元へ届き、敵のトリオン体を穿った。

 

「ボルト!」

遊真も同様にワープゲートに向けて弾丸を放った。三輪のように反撃まではいかないが、出てくる全てのアレクトールを無効化することはできた。

 

バイパーによって態勢を崩したハイレイン達を見て、2人は勝負を決めにかかった。

 

「くたばれ!」

「終わりだ」

 

だが次の瞬間、2人の目の前は真っ暗になり、気付けばそれぞれが本部の遠くに飛ばされていた。

 

『ワープにより基地の遠くへと飛ばされた』

2人についていたちびレプリカが簡潔に状況を説明する。

 

このタイミングで距離が大きく開いたのは致命的だ。だが、

「くそ!これで勝った気になるなよ、ネイバー!!」

 

「レプリカ!多重印やるぞ!!」

 

2人は諦めず、最後まで相手を見据えていた。

 

*** *** ***

 

爆煙の中、ヒュースは身構えた。

(奴はこの状況でも決めにくるつもりだ)

互いに視界は遮られているが、月守はこの状況でも攻撃を当ててくる。ヒュースはどこから来るか分からない月守の攻撃を警戒した。

(どこだ。頭上や背後の死角か……?)

ここまでの戦闘で月守の性格(の悪さ)を認識したヒュースは死角からの攻撃に神経を割いた。

 

そしてその読み通り、爆煙の中、月守の放ったバイパーがヒュースの背後を突くように襲いかかった。

視界が悪い中、かろうじてそれが見えたヒュースはそれを目線で追いかけてランビリスを展開した。

 

だが最後の最後まで、月守はヒュースの裏をかいた。

「チェックメイト」

ヒュースは月守が勝利を確信した声を、()()()()()()()から聞いた。

 

「くそっ、そっちか……!」

ヒュースは思わずその声の方向を見ると、そこにはアタッカーの間合いにまで肉迫した月守がいた。バイパーで意識を散らしたその一瞬でグラスホッパーを使って月守は一気に間合いを詰めた。

 

至近距離まで迫った月守は右手でヒュースの顔面を掴み、

「アステロイド」

高い威力でかつ零距離のアステロイドを放った。

 

「ランビ…」

 

当然防げるはずも無く、月守のアステロイドはヒュースの頭部をトリオン伝達脳ごと破壊し、トリオン体を爆散させた。

 

生身になったヒュースには目もくれず、月守はグラスホッパーを展開して全力で駆けた。天音が手遅れになる前に助けるために、全力で駆けた。

 

同時に、月守の視界によく見知った人物が現れた。

「よくやった、咲耶。あいつはオレが拘束しとくよ」

「頼んだぞ迅!」

年上であり先輩でもある迅を呼び捨てにして、月守は加速した。

 

真っ直ぐ全力で駆けたが、傍らにいるちびレプリカが月守に向かって言った。

『サクヤ、アマネの戦闘が大詰めだ。このままでは間に合わない』

 

「くっそっ!!だったら…!!」

間に合わないと告げられた月守は一瞬で判断し、近くにあった建物の屋上目掛けて跳躍した。

『何をする気だ?』

 

「間に合わないなら、ここから撃つ!!」

屋上降り立った月守は両手を構え、キューブを生成した。

 

*** *** ***

 

そして奇しくも、この3人の狙いは同じであった。

 

 

遊真はバウンドにより空高く跳んだ。

 

三輪は切り札を使うために一旦トリガーを解除した。

 

月守はその構えた両手のトリオンキューブの合成を始めた。

 

 

その3人が同時に叫ぶ。

 

「レプリカ!!」

「豆粒!!」

「レプリカさん!!」

 

 

「「「敵の位置を教えろ!!!」」」

 

 

敵の位置情報を得た3人は、それぞれが相手を倒すためのカードを切った。

 

「ブースト・プラス・ボルト・クインティ!!!」

 

「風刃・起動!!!」

 

「トマホーク!!!」

 

彼らが望む未来のために、その攻撃は放たれた。

 

*** *** ***

 

最後の一太刀を振るうため、天音とヴィザは一歩目を踏み出した。

 

互いに最速の踏み込みで剣を振るうために、助走をつけるように少しずつ加速していく。

 

だがそんな状態の中、天音はもうほぼ限界だった。

(足が痛いし、弧月も重く感じる……)

天音の極限状態は、距離が詰まってきたヴィザも感じとった。しかしヴィザはそれに情けなどかけるつもりは毛頭無かった。

(ここまでの貴女の戦いに応えるため、私は全力で剣を振るいましょう)

と。

 

この最後の一太刀は、ヴィザが勝つであろうことは、当人たちが一番良く分かっていた。

 

天音の視界には、予知によって危険を知らせる色が…、毒々しいまでの紅色が視えていた。しかし天音は迷いなくその紅色目掛けて進み、自身の敗北へと踏み込んだ。

 

ヴィザにはこれまでの経験や今日まで積み上げた実力から、敗けるイメージは微塵も湧かなかった。ゆえに、自らの勝利目掛けて踏み込んだ。

 

 

そしてその瞬間、ヴィザの死角から撃ち手の執念が宿る変化炸裂弾が襲いかかった。

「なんと……っ!」

直撃こそしなかったが思いもよらぬ攻撃に、ヴィザの動きは鈍った。加えて巻き上げられた粉塵により視界が僅かながらに制限された。

 

そしてそれが来ることをあらかじめ知っていたかのように、天音は最高のタイミングで踏み込んだ。

しかし、

(見えてますぞ)

ヴィザは限られた視界の中でも、天音が踏み込んだのを見逃さなかった。カウンターを合わせるべくヴィザは剣を振るおうとしたが、その瞬間、

 

 

天音の姿が、消えた。

 

 

と、同時に、ヴィザは背後から真一文字に斬られ、その視界が大きく崩れた。

 

(一体何がっ!?)

ヴィザには何が起こったかは、分からない。だが、背後から斬ったのは天音である事は間違い無かった。

 

*** *** ***

 

天音が使ったのは、遊真たちの正式入隊日の時、彩笑が月守と行ったランク戦で使った技だ。踏み込んだ直後に背後にテレポーターで移動して斬るという、ほぼ初見殺しと言ってもいい技だ。だが、天音は限界寸前でまともなスピードは無く、まして圧倒的な戦闘経験を持つヴィザならこれですら防げる可能性も高かった。

 

しかしそれでも決まったのは、ヴィザの万全とも言えた構えをほんの少しでも崩したトマホークのおかげだった。

 

天音は誰がトマホークを撃ったのか確認する術は無い。だが誰が撃ったか分かっていた。

 

だから天音は、心の中でお礼を言った。

(ありがとうございます、彩笑先輩、月守先輩……)

と。

 

 

【挿絵表示】

 

 

*** *** ***

 

その天音は弧月を振り切りヴィザの前に現れ、それでも尚構えを崩さずヴィザへと向かい合い残心を示した。

 

何が起こったかは、分からない。

だが、天音の油断の無い綺麗なその構えを見たヴィザは、こう言った。

 

「お見事……」

 

と。

ただ勝者である()()()を讃えたヴィザのトリオン体は限界を迎え、派手な音とともに爆散した。




ここから後書きです。

原作とはちょっと違う決着です。

大規模侵攻の戦闘パートはこれで終わりです。

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