ワールドトリガー 《ASTERs》   作:うたた寝犬

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前書きです。
いよいよB級ランク戦です。
公式データブックことBBFの情報が組み込まれています。


第6章【B級ランク戦・開幕】
第44話「オープニングゲーム」


ボーダー正隊員にとっての1番重要な仕事は、ゲートを開いて攻めてくるネイバーから三門市を守ることである。ほとんどの者はそれを志してボーダーに入隊している。

 

だが入隊後、三門市の防衛に勝るとも劣らない価値を持つものがあることを知る。それが隊員の実力向上を目的とした「ランク戦」だ。

 

ランク戦には2種類ある。

1つ目が自由な時に専用のブースを使い、それぞれが1対1で戦うことでトリガーの持つソロポイントが増減する「ソロランク戦」。

2つ目がシーズン毎に複数の部隊が三つ巴・四つ巴の形で戦闘し、部隊単位でポイントが増減し順位が変動する「チームランク戦」。

 

2つのランク戦に差異はいくつかあるが、その中の1つは階級の昇格についてである。

 

ボーダーには大きく分けて正隊員のA級とB級、そして訓練生のC級の3つにランク分けされる。S級というのもあるが、それは少し毛色が違い除外されているため、実質3つのランク分けと思っていいだろう。

 

そしてボーダー正隊員…、つまりA級とB級というランク分けは個人ではなく、チームで評価されている。正隊員に上がった者がさらに上を目指すならば、チームを組み、仲間と共にそのチームランク戦を勝ち上がらねばならない。

 

そして、まだ1月に起こった大規模侵攻の傷跡が残る2月1日。新たなるチームランク戦のシーズンがやってきた。

 

*** *** ***

 

『はいはーい、みなさんこんにちは〜。太刀川隊オペレーターの国近柚宇でーす』

試合の開幕を今か今かと待ちわびるギャラリーのざわつきがあるランク戦の観覧席で、国近がアナウンスで声を響かせた。

『いよいよB級ランク戦が始まったよ〜。記念すべきこの開幕試合の解説役を紹介するね〜』

 

国近はチラリと横に目線を移して隣に座る人物に向けて言葉を続けた。

『解説役1人目はA級アタッカーにして、

「……と、思うじゃん?」

のセリフでおなじみの米屋くんだよ〜』

 

『どーもー』

紹介された米屋は片手を上げてギャラリーに向けて挨拶をした。

 

『そしてもう1人の解説は、この試合で2シーズンぶりにランク戦に復帰する地木隊メンバーの天音ちゃんでーす。今日はちょっと事情があって試合に不参加ということで、解説席に呼んじゃいました〜』

 

『……ど、どうも、です』

マイクを使わなければ聞こえないほどの小声で天音はそう言い、ペコっと控えめに頭を下げた。

緊張気味の様子を漂わせる天音に米屋が声をかけた。

 

『天音ちゃん、解説席の座りごごちはどーよ?』

 

『あ、えっと……。ちょっと、硬くて…、普通の席、と、あんまり変わらない、です…』

 

『えーっと……、本当の座りごごちじゃなくて、こういう場合は気持ち的な事を言う場面だからな?』

 

『そうなん、ですか?』

天音はキョトンと首をかしげてそう言った。

 

そんな天音を見てギャラリーから穏やかな笑い声がチラホラと聞こえてきたところで、国近がその話題を広げた。

『そういう米屋くんは解説席の座り心地はどーお?』

 

『悪くないっすね。普段は秀次とか奈良坂、古寺に解説役が行くんで、ちょっと新鮮っすわ』

米屋の言葉を聞き、ギャラリーからは天音の時とはまた少し違う種類の笑い声が起こった。中には、

「勉強しろ槍バカー」

という声も混ざっており、

「うっせーぞ弾バカー」

米屋は笑いながらそう言い返していた。

 

開幕戦ということもあり、国近がB級ランク戦についての説明を始めた。

『ほいほーい。じゃあこれから始まるB級ランク戦について軽くおさらいしよっか〜。米屋くんよろしく〜』

 

『ういっす。つってもまあ、難しいことはそんなに無い感じだなー』

米屋は机の上に手を置きつつ説明を続けた。

『今いるB級部隊は今期から参加する玉狛第二と、ランク戦復帰した地木隊を加えた22部隊。その中でうまい具合に上位、中位、下位って3つのグループに分けて、3つ巴、4つ巴のバトルをして得点を獲っていく。よその部隊を倒せば1点、最後まで生き残った部隊には生存点2点。これが週に2回のペースで3ヶ月続いて部隊に順位が付くわけだ。んで、B級の1位と2位にはA級への挑戦権が与えられる。……まあ、こんなもんじゃないっすかね』

 

『おおー、米屋くんちゃんと説明できたねー。その手元にあるカンペが無かったら完璧だったよ〜』

国近がそう指摘すると米屋は若干慌てたそぶりを見せ、

『ちょっ、柚宇さんそれはスルーしてほしかったな』

苦笑いしつつそう答えた。

 

ギャラリーもそれにつられて笑ったところで国近が補足するように、

『付け加えると〜、前のシーズンの順位に応じてポイントに初期ボーナスついてたりとか〜、ソロポイントも増減するとか色々とあるけど……。まあ、その辺は各自で確認しておいてね〜』

と、言った。

 

試合開始が近づいて来たのに合わせて、国近は今回の対戦カードの説明に移った。

『さてさて〜、B級ランク戦初日昼の部・下位グループの対戦カードは18位海老名隊、19位茶野隊、20位常盤隊、22位地木隊の4つ巴だよ〜。じゃあ天音ちゃん、それぞれがどんなチームか軽く説明できるかな?』

 

『あ、はい。えっと、海老名隊は、隊長の海老名さんが、オールラウンダーで、隊員2人がスナイパーと、アタッカーの、割とバランス型の、編成です。茶野隊は、ガンナー2人で、中距離戦闘が得意な、チーム、です。常盤隊は、戦闘員4人全員が、サイレンサーを、セットしてる、ちょっとしたコンセプトチーム……。地木隊は……、国近先輩、地木隊も、私が説明、するんです、か?』

 

『あー、ううん。地木隊だけは私が紹介しちゃうね。今回の地木隊はアタッカーの彩笑ちゃんと、シューターの月守くんの戦闘員2人に加えて、ここにいる天音ちゃんと、元スナイパーの和水ちゃんがオペレーターを担当してるチームだよ〜。復帰戦ってことで最下位スタートになってるけど……、この前の大規模侵攻で唯一部隊単位で特級戦功をもらってるチームだよ〜』

国近の言葉に、ギャラリーがざわついた。

 

「部隊単位で特級?マジかよ」

「あのチーム、前A級にいなかったか?」

「なんで最下位スタートなんだ?」

 

そんな言葉が飛び交う中、国近は米屋にも話題を振った。

『それじゃあ米屋くん、今回の試合はどんな風になるか予想してみて〜』

 

『そっすねー。まあ、普通にやれば地木隊の勝ちだと思うな。試合の順位が1番下のチームが決めることができるステージも、奴らが選んだのはシンプルで地形戦の要素が少ない市街地Aだし、地力のゴリ押しでも十分いけるって判断だと思うなー。ただ……』

 

『ただ?』

 

『地木隊がこの中では頭一つ二つ飛び抜けて強いってのは他のチームもわかってるだろうし、無理して勝ちにいかなくても時間切れまで逃げ切ることも、なんなら他のチームで一時的に徒党を組んで地木隊に挑むって手もある。まあ、本気で勝ち手を考えるなら、地木隊はスナイパーがいねーから遠距離戦は苦手なんだし、スナイパーがいるチームはそこを付けば勝ち目はゼロじゃねーしなー』

 

『んー、つまり……。ぶっちゃけ試合が始まらないとわからない〜ってこと?』

 

『まあ、ぶっちゃけるとそうっす』

 

米屋の答えを受けて、国近は今回は天音にも同じ話題を振った。

 

『天音ちゃんはどう思う?』

すると天音は国近と米屋をまっすぐ見据えて口を開いた。

 

『どんな展開に、なるかは、わからない、です。でも、その……、先輩たちが、負けることは、無いと、思います』

無表情のままで天音は言い、再度会場がどよめいた。

 

天音はそのまま淡々とした口調で言葉を繋いだ。

『あと、米屋先輩、1つだけ、訂正、いいです、か?』

 

『ん、ああ、いいぜ』

 

『米屋先輩は、市街地Aを見て、地力のゴリ押しって、言ってました、けど……』

天音はそこで意図して一呼吸を取ってから、

『……月守先輩と、真香は、ちゃんと、意味があって、市街地Aを、選んでました、よ?』

そう、言った。

 

*** *** ***

 

観覧席でそんな会話が交わされる中、地木隊作戦室では最後の作戦確認が行われていた。

 

作戦会議用の資料をテーブルの上に広げつつ、3人の確認は滞り無く進んでいた。

「まあ、色々言ったけど、多分肝心になるのは戦闘開始直後だよ。そうなると真香ちゃんがちょっと忙しいけど……」

月守が何かを問いかけるようにして真香を見たが、

「はい、大丈夫ですよ、月守先輩。私が提案した事なので、ちゃんと責任を持ってやり遂げますから」

真香はあっさりとそう言い、それを見た月守は頷いてから視線を彩笑に向けた。

「彩笑は、まあ、なんだかんだいっていつも通りかな」

 

「だね。序盤を決めた後は、サポートよろしく」

 

「りょーかい」

最終確認を終えたところで、彩笑が少し落ち着きの無い様子でテーブルの上にあったボールペンを持ち、クルクルとペン回しを始めた。それを見て真香は尋ねた。

「……地木隊長、緊張してますか?」

 

「え?ううん、全く。ただ、久々にチームランク戦だーって思うと、張り切っちゃって落ち着かないんだー」

 

「あはは、気合十分なんですね」

 

「うん」

彩笑は楽しそうな笑みを浮かべ、月守へと声をかけた。

「咲耶はどう?緊張してる?」

 

「んー、どうだろうね。全く想定してなかった展開になったらと思うと少し不安かな」

 

「変なとこを心配するね。ま、大丈夫大丈夫。咲耶がヘマしてもボクがちゃんとリカバリしてあげるよ!」

 

「いや、どっちかというと普段リカバリしてるのは俺の方だから」

彩笑と月守はお互いに軽く笑みを浮かべて、言い合いを始めた。

 

「というか、初めてのランク戦の時、開始直前まで泣きそうな顔してた彩笑が緊張してないとか、言うようになったねー」

 

「ちょっと咲耶!」

月守がサラリと言ったエピソードが初耳だった真香は軽く驚き、思わず尋ねた。

「え?そうなんですか?」

 

「うん、そうだよ。それにいざ試合が始まったらテンパって変な動きしてたし……」

 

「あ、あの頃のボクは……」

彩笑が慌てて何か言いかけたが、月守はそれに被せるように、ついでにと言わんばかりに口を開く。

「挙げ句の果てには相手から狙われたら足を止めちゃうし……」

 

「うわぁ……」

今の彩笑からは想像もできないエピソードを次々と知った真香は素直に驚いた。そして、

「あーもう!咲耶!あの頃の事は言いっこ無しって決めてたじゃん!」

半ば黒歴史をカミングアウトされた彩笑がとうとう憤慨してテーブルを叩きつつ叫んだ。

 

「いやー、ついうっかり」

月守が困ったように笑いながらそう言ったが、

「はいダウト!咲耶は今のを狙ってやってた!わざとバラした!」

その嘘を見破った彩笑は人差し指を月守に向けて言った。

 

「バレたか」

 

「当たり前だよ!許さないからソロ戦用のブースに行くよ!300ポイントくらいは強奪してやる!」

 

「行くよって……。もう試合始まるけど?」

 

「なら試合終わってから!真香ちゃん、ブース確保しといてね!」

彩笑は憤慨しつつ……、とは言っても、小柄な体格と怒り方のせいなのか、その姿はどことなく拗ねた子供のようであった。妹がいる真香にしてみれば、今の彩笑の姿はその妹と重なるものがあり、微笑ましく感じた。

 

「了解です。ブースの予約、しておきますね」

真香はニコリと答えつつも、内心は今の2人を見て、呆れるような気持ちがあった。

 

(2人とも、これから試合が始まるのに、もう試合が終わった後のことを考えてる。緊張感無いなぁ……)

 

だが同時に、感心するような気持ちもそれと同じくらいにあった。

 

(でも、試合に対して油断は微塵もしてない。地木隊長は個人特訓の合間を縫って入念に相手の試合記録動画をチェックしてた。月守先輩は試合の流れを十何パターンも想定して私との打ち合わせしてたし、トリガー構成まで調整してた……)

 

真香の思考が進む中、試合開始まで残り1分を切り、作戦室のモニターと真香のオペレート用パソコンの画面でカウントダウンが始まった。

それを見て、騒いでいた2人の空気が変わった。

 

「……そろそろか」

「ん、そだね」

 

2人は言葉短くそう言い、転送のための所定の位置へと移動した。2人の移動が終わると試合開始まで残り30秒を切り、そのタイミングで真香が2人へと言った。

「地木隊長、月守先輩」

 

「うん?」

「何かな?」

 

それぞれがまっすぐに真香を見据えてそう言い、真香もそれに応えるようにまっすぐ見据えて言った。

 

「その……、絶対勝ってくださいね」

 

と。

 

すると2人は一瞬だけキョトンとしたが、すぐに彩笑は笑みを浮かべ、

「ははっ!当たり前だよ真香ちゃん!」

自信に満ちた声と表情でそう言ってのけた。月守もそれに続くようにやんわりと微笑んで口を開く。

「それにさ、真香ちゃんもチームの一員なんだし、『勝ってくださいね』じゃなくて、『勝ちましょう』じゃないかな?」

 

違うかな?とでも言いたげな雰囲気の月守を見て、真香も一瞬の間を空けてから2人と同じように笑った。

 

「……ふふ、そうでした。序盤は私に任せてください。しっかりと決めてみせるので、一緒に勝ちましょう」

 

真香の頼もしい一言を聞き、2人は再度笑顔を見せた。

 

そしていよいよカウントダウンが終わり、戦闘員2人のトリオン体を光が包み込むようにして転送が開始された。

 

 

*** *** ***

 

 

今期のB級ランク戦は、通常の目標であるA級へと昇格もそうだが、その先にある近界(ネイバーフット)への遠征部隊入りも視野に含まれるものになっている。

 

上を目指す者。

A級を目指す者。

遠征を目指す者。

順位に興味の無い者。

目的を見失いかけた者。

現状を維持する者。

戦いを楽しむ者。

 

それぞれがそれぞれの思惑と思いを胸に秘め、交錯する中、波乱のB級ランク戦が開幕した。




ここから後書きです。

常盤隊が全員装備してるサイレンサーってどんなオプショントリガーなんでしょうね。最初は銃トリガーにつけて発砲音を抑えるのかと思いましたが、銃トリガーなしの人でも持ってるあたりを見ると違う様子…。

本作において、原作とはB級ランク戦の上中下のグループ分け方が異なります。地木隊参戦によって綺麗に22チームを三等分できないため、書き手である私のさじ加減でどこのグループが多くなるのかがちょくちょく変わります(本編においては、8チームになるグループを固定すると一部のチームで負担が増えて公平性を欠く可能性があるため、その都度調整が入っている、ということにします)。



どうでもいい話になりますが、私には悪い癖があります。
それは人の誕生日を忘れるというものです。プレゼントを送るような仲の人ならばそんなことはないのですが、メールや電話で一言言う程度なら、くらいの仲の人ならば、よく忘れます。
タチの悪いことに誕生日の数日前までは覚えているくせに当日になると何故か忘れ、後日不意に思い出すというもので、非常にタチの悪い癖です。
何が言いたいのかというと、この話を投稿した5月15日は地木彩笑の誕生日だということです。

本作を読んでくださる皆様に感謝の気持ちを忘れることなく、これからも更新頑張ります。
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