地木隊の圧倒的というべき結果がボーダー内に広がるのにそうそう時間はかからなかった。
今回の試合で得点のほとんどを叩き出したのは隊長でありチームのポイントゲッターである彩笑だ。
他の追随を許さぬ機動力により、さながら狩人のごとき活躍だった。
しかし試合が終われば、その姿は一変する。
「ふにゃー……」
地木隊作戦室にて、彩笑(生身)はマッサージチェアに座りながら、意味を持たない言葉を吐いた。なお、そのマッサージチェアは特級戦功にて得た褒賞金で購入したものだ。
リラックスを通り越して完全に脱力しきった姿からは先ほどまでの試合の活躍振りなど想像できず、日向ぼっこをする猫を思わせるものがあった。
そんな彩笑を見て、トレーニングルームから出てきたばかりの月守(トリオン体)が声をかけた。
「くつろぎすぎだろ」
「ボク達の作戦室なんだしいいじゃん」
月守の言葉に対して彩笑はそう答えた。
あと1時間もすれば、B級ランク戦夜の部が始まる。今後の試合相手になるチームが出るのだから2人はそれを観戦することにしていた。
なお、天音は念入りな検査のため不知火の研究室に足を運んでおり、真香は諸事情によりここにはいなかった。
彩笑はマッサージチェアからゆったりと立ち上がりつつ、口を開いた。
「ねえ、咲耶。どっちの試合観に行くの?」
「次の相手になり得る中位グループは当然観たい。上位グループは真香ちゃんに任せてあるから、そこはいいんだけど……」
作戦室のソファに座った月守はそこで言葉を止めた。冷蔵庫から缶のお茶を取り出した彩笑が月守めがけて軽い放物線を描くようにして投げながら問いかける。
「遊真がいる玉狛第二の試合が気になるの?」
「まー、ぶっちゃけ」
お茶を受け取った月守は素直に答えた。
彩笑はついでにココアを取り出し、再びマッサージチェアに座って月守との会話を再開させた。
「結局両方とも会場で観たいよねー」
「だな」
月守は苦笑いを浮かべてそう答えた。
基本的に、各試合はデータが残されてログとして後から見ることはできる。だが観覧席からの実況・解説に関する音声は記録されない。試合の解説役を担当する人物によっては大変有意義な内容を聴くことができるため、それを聴くには直接会場に足を運ばなければならないのだ。
中には各試合の実況・解説までもログとして残して夜な夜な作戦室で聴くという人物もいるが、それは例外であり月守も彩笑も除外して考えている。
そして試合内容もそうだが、解説も聴きたい2人はどっちの試合を観に行くか迷っていた。
ちなみに上位グループは、オペレーターである真香が実況役として呼ばれているため2人は真香に(実況解説付きの)ログを頼んでおいた。
「彩笑、どうする?」
月守は缶を片手に問いかけた。
「むむむー……」
彩笑は迷った様子を見せつつもすぐに、
「うん。咲耶は中位グループ観に行ってよ。ボクは下位グループの試合を観に行くから、後で内容を報告し合えばいいや」
と、結論を出した。
「オッケー」
それを聞いた月守はすぐさまそれを了承しつつも、
「一応訊くけど、その分け方に理由とかある?」
と、尋ねた。すると、
「え?無いよ?強いて言うならなんとなく」
彩笑はケラケラと笑ってそう答えた。
呆れたような気持ちは月守にあったが、彩笑がこういう性格なのは今に始まったことではない。ゆえに月守はこう答える。
「彩笑らしいな」
そして彩笑はそれに対して、
「ボクはボクだからね〜」
と、やはり笑いながら答えた。
*** *** ***
2人は作戦室で試合開始時刻まで時間を潰してから移動を開始した。各会場への別れ道に差し掛かったところで、2人(トリオン体)はピタリと示し合わせていたように足を止める。
「じゃあ、咲耶は中位グループをお願いね」
「了解。彩笑は下位グループの試合だけど……。大丈夫?会場まで迷子にならない?」
「失礼なっ!さすがのボクでも3年もいるところで迷わないから!」
軽く憤慨した彩笑に対して月守はやんわりとした笑みを見せ、
「じゃあ、試合終わったら作戦室で合流な」
そう言って試合会場へと向かって行き、
「はーい」
彩笑は笑顔で返事をして、下位グループの試合が観戦できる部屋へと向かって歩きだした。
そしてその5分後、
「次はこっちのはず……?」
月守が危惧したように、彩笑は迷子になっていた。
本部の廊下に彩笑は佇み、周囲をキョロキョロを見渡す。
(んーっと……、ここはどこかな?多分もうちょっとで試合会場にたどり着けるような気がしないでもないんだけど……)
本人の心の中ではまだ認めていないが、完全なる迷子である。
おそらくこっち、多分ここを曲がる、といった勘を頼りに彩笑は廊下をウロウロと彷徨う。すると、
「怪我はもういいのかね?」
「はい。来週からはランク戦にも復帰します」
聞き覚えがある声による会話が、彩笑の耳に届いた。
(この声……)
彩笑は声のする方向に進むと、そこにはボーダー最高司令官である城戸と、先日の記者会見で大いに注目を集めた三雲がいた。
ただならぬ…、というほどではないが、第三者が介入するような会話ではないと彩笑は雰囲気で判断し、2人に気づかれないように廊下の曲がり角に隠れつつ聞き耳を立てた。
拾えるのは断片的だが、
「先日の記者会見」
「あの件」
といった単語から、大規模侵攻についての記者会見についての話をしているのだろうと彩笑は判断した。
しかし会話の内容を理解しきる前に2人の会話は終わってしまったらしく、1人分の足音が遠ざかるのが聞こえた。
廊下の角からチラッと見ると、この場を去っていったのは城戸司令のようで、三雲がその背中を見ていた。
城戸司令の姿が完全に見えなくなったところで彩笑は廊下の角から歩きだして三雲のそばに近寄った。そしてその背後から、彩笑は三雲に声をかける。
「やー、城戸司令は相変わらず怖いねー」
「うわっ!?って、地木先輩!?」
足音を消して近寄っていた彩笑に三雲は気づかず、大げさと言ってもいいリアクションを取って驚いてみせた。
「あっはは!驚かせてごめんねー」
彩笑は楽しそうに笑いながらそう言った。その声には申し訳なさの欠片も無く、イタズラ心100パーセントだったのが伺えた。
「全然気づかなかったです」
三雲はそんな彩笑に気づいていないのか気づいた上でスルーしているのか定かではないが、そのまま会話を続けた。
「でしょ?ボク、かなり本気で気配と足音消してみたし」
「な、なんでそんなことを?」
「ビックリする三雲くんが見たかったから!」
ケロっとした表情で彩笑は言い放ち、三雲は自由すぎる様子を見せる彩笑に対してどう対応すればいいのか決めかねていた。
そんな三雲の心中をなんとなく察した彩笑は、笑顔のまま会話を進めることにした。
「まあ、それはともかくとして。三雲くんが隊長の玉狛第二は、今日がデビュー戦だよね?出なくていいのかな?」
「あ、その、ぼくの参加はケガの影響で来週からなんです。今日の試合は空閑と千佳の2人で戦います」
「なるほど。参加できないのはウチの神音ちゃんと似たような理由ね。でも三雲くん、試合は観るんでしょ?」
「はい。観覧席で解説役として観る予定になっています」
その言葉を聞いた彩笑は内心でラッキーと思いつつ、笑顔を崩さずに言った。
「じゃあ、一緒に行こっか。ボクも下位グループの試合を…、ううん、君たちの試合を観に行く予定だったからさ」
「わかりました」
わざわざ言い直した意味を三雲は計り兼ねたが、彩笑からの申し出を断る理由など無く、そう答えた。
会話をしながら2人の隊長は試合会場に向けて足を進めていく。
「へぇ。地木先輩って末っ子なんですね」
「そそ。長女なんだけど上にお兄ちゃん2人いるから、3人兄妹の末っ子だよ」
「もしかして、自分のことを『ボク』って言うのもその辺りが関係してたりするんですか?」
「んー、どうだろ?気付いたらボクはボクのことをボクって言ってたし…。あー!そうそう!昔は咲耶も自分のことを『ボク』って言ってたんだよ!」
「月守先輩がですか?」
「うん!あーでも、イメージ的にはカタカナっていうよりも漢字っぽい発音だったかなぁ…?『ボク』っていうよりは『僕』って感じで……」
内容は取り留めのないもので、基本的に三雲がほぼ聞き役で相槌返しつつたまに質問をして、彩笑が楽しそうにいろいろと答えるような形であった。
今まであまり接点の無かった2人だが、彩笑の平均以上のコミュニケーション能力によって、三雲は年上と話す時の緊張感をほぼ感じること無く会話ができていた。
そんな中、不意に三雲が思い出したように彩笑に問いかけた。
「そういえば昨日、B級ランク戦の試合日程を見ていたら『地木隊』が22位として登録されていたんですけど……。ランク外から復帰したんですか?」
「うん、そうだよ。あれ?知らなかった?」
彩笑は小首を傾げて答え、三雲はそこに言葉を重ねていく。
「はい。そもそもぼくは、地木隊がどんな理由でランク外にいたのかすら、きちんと知らなかったので…」
「そうなの?……うーん、べつに隠してるわけじゃ無かったけど、言いふらすようなことでも無かったし、わりかし最近入った三雲くんとかなら知らなくても無理ないのかなー」
彩笑はそう言ってからクスクスと控えめに笑いつつ言葉を途切れさせた。
そして三雲はほんの少し躊躇い、
「あの、よかったらなんですけど、その……理由とか、教えてもらっても構いませんか?」
と、尋ねた。そのどこか申し訳なさそうな態度の三雲を見て彩笑はキョトンとしたが、すぐに、
「うん、いいよ」
さっきまでと同じような笑顔を浮かべて、呟くようにして理由を話し始めた。
「んー、全部話すってなるとごちゃごちゃするから、ざっくりとした説明になるんだけど……。
ボクたちがランク外になっちゃったのは、去年の5月の末。……5月の末に、ちょっと問題起こしちゃってね。そのペナルティとして、あの時の順位……A級7位のランクと、チームランク戦に参加する資格を没収されちゃったんだよ」
笑顔のまま彩笑は説明を続け、三雲は軽く驚きはするものの、黙ってその説明に耳を傾けていた。
「強制解散までは言われなかったし、部隊エンブレムも残してくれたあたり、かなりの恩情だと思うんだけどさー。んーっと、それで……。ああ、ランク戦復帰できた理由も言わなきゃだね。まあ、こっちもそんなに大したものじゃないんだ。ランク戦参加資格は剥奪されたんだけど、それについては最初から、『いつか返す』って上層部から言われてたの。どうも予定だと今回か、この次の時期のランク戦開幕に合わせて返すつもりだったみたいなんだけど、この前の大規模侵攻でのことが考慮されて、今回からの復帰になったんだよ〜」
彩笑は三雲の問いかけに対して、そう解答した。
答えを聞いてなお、沈黙し続ける三雲に向けて彩笑は再度小首を傾げて、口を開いた。
「んっと、すっごくざっくり言えばこんな感じなんだけど……。どう?」
「あ、はい。納得はできました。でも、その……」
「その?」
三雲は言い淀む素振りをしたが、疑問半分好奇心半分のそれを、思い切って尋ねることにした。
「その……。答えてもらえなくてもいいんですが……」
「うんうん。なにかな?」
言いながら尋ねてもいいのかという葛藤を続けている三雲の心情を彩笑はなんとなく察しつつ、その上でそれを促した。
そして踏ん切りをつけたように、三雲がそれを口にした。
「一体、どんな問題を起こしてランク外になったんですか?」
と。
その問いかけに対して、彩笑は一瞬だけ答えに迷った。
しかしそれは本当に一瞬であり、彩笑は迷ったことを三雲に全く悟らせずに答えた。
「暴力行為だよ」
と。
「ぼ、暴力行為……?」
「うん。暴力行為。パンチパンチ!」
冷や汗を流す三雲にニコニコとした笑みを向けつつ彩笑は言葉を続ける。
「そのうち、どこかでこのことを聞く機会とかあると思うし、詳しくはその時に聞けばいいと思うよ」
勿体振り、はぐらかす彩笑に対して三雲は何かを言いかけたが、それより早く彩笑が歩く速度を上げて三雲の前に出た。
何事かと三雲は思ったが、すぐに理解した。
会話をしながら歩いていた甲斐があり、2人は目的地である観覧席にたどり着いていたのだ。
「そんなことより試合会場に着いたよ。時間にあんまり余裕無いし、三雲くんは解説席に急いだ方がいいよ〜」
にこやかに彩笑は言い、三雲の返答を待たずに扉を開けて観覧席へと入って行った。扉の向こうに消えた彩笑の後ろ姿を見て、三雲は呟いた。
「……地木先輩、もしかして質問を切り上げるタイミングを見計らって歩いていたのかな…?」
そんな考えがついつい口から漏れたが、すぐに頭を振って否定した。
(さすがに考えすぎかな)
そして彩笑に言われたように、時間ギリギリとなったことによりわずかに焦りを覚えつつ三雲は観覧席に足を踏み入れたのであった。
*** *** ***
三雲より少し早く観覧席に入って、空いている席に座った彩笑は試合を映し出す大きなモニターを見ながらぼーっとしながら考えた。
(意外とボクらの事件って知られてないんだなぁ)
彩笑自身が言ったように、地木隊メンバーは特にランク外になった理由を隠すような事はしていないし、言いふらすような事もしていない。質問されたらできるだけ答えるようにはしているが、質問されるような事がそもそも稀なことであるため、地木隊のランク外についての扱いの詳細はここ半年で入隊した者ならば知らないことの方が、ある意味当然だったのだ。
(それにしても……。あの時は本当にびっくりしちゃったよ)
当時のことを彩笑はぼんやりと思い出していた。
すると、
「相変わらず派手な試合だったな」
「あ、三輪先輩こんちわ!」
不意に聞こえた隣からの声に対し、彩笑はにこやかに対応した。いつの間にか、というよりは彩笑がぼーっとしていて気づかなかっただけなのだが、隣に座っていたのはA級7位部隊の隊長を務める三輪だった。
「あれ?でも三輪先輩から声かけてくるなんて、ちょっと珍しいですね」
彩笑は素直に、思ったことをそのまま口にして、三輪はそれに答える。
「普段はわざわざ話すようなことがないからだろ」
「そうかもですね。あ!そういえばボクたちの復帰戦解説米やん先輩でしたよ!」
「ああ。さっきまで作戦室にいたが、あいつずっとお前たちの試合の話をしてたぞ」
「そうなんですか?」
「ログを流しながら、ここでの地木の体捌きが上手いだとか、月守がこのタイミングでアステロイドを使うのはどうだの、ずっとそんなことを語ってたな」
「あはは、米やん先輩らしいです」
なんだかんだで戦闘好きな米屋は戦術面での解説よりも、戦闘術に関する解説の方がはるかに上手い。地木隊復帰戦前半部分の解説は不完全燃焼気味だった米屋だが、後半の乱戦部分では生き生きとして解説していたらしく、そのテンションは三輪隊作戦室に戻った後も続いていたようだった。
この試合の実況役である海老名隊の武富桜子と、解説役を務める嵐山隊の佐鳥賢とさっき彩笑と話していた三雲のトークをBGMとして三輪と彩笑の会話は続いていく。
「そういえばなんですけど……。三輪先輩って三輪隊なんですか?」
「は?」
彩笑の問いかけの意味がわからず三輪は困惑したが、彩笑がすぐに言い直した。
「あー、えっと……。三輪先輩が大規模侵攻の時に『風刃』を使って人型ネイバーを撃退したって聞いたのでS級に昇格したのかなーって思ってたのに、作戦室に行ってるって話を今聞いたので、ちょっと確認……、みたいな感じです」
「そういうことか」
その説明を受けて三輪は彩笑の質問の意味を理解した。
ボーダー正隊員のランクにおいて、A級の上にS級というものが存在する。しかしそれは個々やチームでいくら研鑽を積んだとしても辿り着けるものではない。
AとSの違いは、使用するトリガー……ノーマルトリガーかブラックトリガーかの違いである。ブラックトリガーの性能はノーマルトリガーのそれとは一線を画す。強すぎゆえにランク戦に参加することすら許されないほどである。
三輪は彩笑の言うように、大規模侵攻の最終局面にてブラックトリガーである風刃を使用している。だからこそ彩笑は三輪が風刃の正式な持ち主としてS級に昇格したと思っていたのだが、実際には事情があり、それは誤りであった。
三輪はことの詳細を語り始める。
「地木の言うように、俺は確かに大規模侵攻の時に風刃を使った。だが、正式な持ち主というわけじゃない」
「ん?どうゆうことです?」
「実際に使ってみてわかったことだが、風刃の性能は攻撃に寄りすぎている。視界が届く限り……というよりは意識が届く範囲に斬撃を伝搬させる能力に加えて、ブレード単体の性能も、弧月を上回る斬れ味に耐久力、そして重さがほぼゼロと言ってもいいスコーピオンよりも軽かった」
「スコーピオンよりも軽いんですかっ!?」
彩笑は思わず声を荒げた。普段から愛用し、重さのストレスを感じずに振るっているスコーピオンよりも軽いということが信じられなかったのだ。
軽く惚ける彩笑に向けて、三輪の言葉は続く。
「風刃は武器として強力だが、その性能を発揮させることができる局面は限られる。だから俺は城戸さんに風刃を返却し、
『適合者が多いという利点から基本的に本部預かりのトリガーとし、戦局に応じて風刃を投入するべきです』
と、進言した」
「えっと。つまり、風刃はレンタルできるトリガーってことですか?」
独特な理解を示した彩笑だが、あながち間違っていないと三輪は判断し、
「そういうことだ」
彩笑の言葉を肯定した。そのまま彩笑は思ったことを続けて口にした。
「レンタルできるブラックトリガー……延滞料とか高そうですねぇ」
映画やドラマを借りて観るような感覚での認識らしいが、三輪はそれをわざわざ正すことはしなかった(とういうより面倒だった)。
2人が会話をしている間に試合が始まっていたらしく、モニターでは転送された隊員が行動を開始していた。モニターに目を向けつつ、三輪は彩笑に向けて言った。
「……まだ正式な決定では無いようだが、そのうち適合者に向けた風刃の扱い方について、迅が指導する機会があるらしい」
「迅さんが?……なんというか、自分で手放しておいてアフターサービスが充実してますねー」
ケラケラと笑う彩笑を横目で見て三輪は付け加えるように、
「他人事じゃないだろう」
と、言った。
そして彩笑はそれには答えなかった。あえて答えなかったというのもあるのかもしれないが、どちらかと言うと彩笑の関心が三輪との会話から、モニターの向こうで吉里隊をほぼ瞬殺で蹴散らす遊真に向かったという側面の方が大きかった。
「あっは!遊真容赦ないなー!」
楽しそうに言う彩笑の隣で、
(どの口がそれを言ってるんだ……?)
先ほどの試合が頭をよぎった三輪はそう思ったが、その疑問は建物に隠れて遊真を迎え撃とうとしていた間宮隊の作戦をあっさりと撃ち砕いた千佳の大砲とも言えるアイビスのインパクトによって掻き消されてしまった。
何が起こったか訳がわからない様子の間宮隊を、遊真の高速の刃が切り裂いた。地木隊の時とは違いこの試合は三つ巴戦であるため、試合は玉狛第二の完勝という形であっという間に終わってしまった。
予想外すぎる試合の結果にギャラリーがどよめく中、三輪はすぐに立ち上がり出口に向かって歩き出した。その背中めがけて彩笑が声をかける。
「すぐに帰るんですか?」
「長居する理由がないからな」
「三輪先輩つれなーい」
茶化すように彩笑は言うが、それに対して振り返った三輪の表情は至極真面目なものだった。
「……地木」
「はいはい?」
「この先の試合で手を抜くなよ」
まさかの言葉に彩笑はキョトンとしたが、すぐに笑顔に戻って三輪との会話を再開させる。
「三輪先輩にしては珍しくエールですか?」
「違う。……お前たちはA級に見合うだけの実力は持っているんだ。…二宮さんのチームや影浦さんのチームがBにいるのと同じで、階級に見合うだけの評価を受けていないのは、正直あまり気持ちのいいものじゃない」
そこで三輪は一呼吸おいて、言葉を繋げた。
「だからさっさとA級に戻って来い」
と。
三輪のエール(少なくともそう解釈した言葉)を受けた彩笑は、ニコッと笑い、Vサインを三輪に向けつつ口を開いた。
「当ったり前ですよ三輪先輩!さっさとA級に戻るどころか、その先に行く気満々ですから!」
「……取り越し苦労だったな」
三輪がため息混じりに言うと同時に、モニターに第2戦の組み合わせが全て表示された。上中下の組み分けに加えて、昼と夜の部の日程なので、計6試合分の表示だ。そこには当然、今試合を終えた玉狛第二の名前も、ランク戦復帰を遂げた地木隊の名前もあった。
組み合わせを見て、三輪がそのうちの1つを呟いた。
「諏訪隊、荒船隊、玉狛第二……、三つ巴か」
「ですねー。さーてと、ボクらの相手はどこかなー?」
三輪の呟きに答えた彩笑は自分たちの次の対戦相手がどこなのかを確認した。だが、
「……げっ」
それを確認するや否や、彩笑は思いっきり眉間にシワを寄せて苦々しい表情となった。
「……?」
三輪はなぜそうなったのか分からず、見つけた地木隊の対戦カードを読み上げた。
「鈴鳴第一、地木隊、漆間隊、那須隊の四つ巴か」
そして読み上げたところで、彩笑が本気の苦笑いを浮かべて呟くように言った。
「次の試合、キッツイなぁ……」
ここから後書きです。
試合と試合の合間にどんなエピソードをどの程度挟むべきか悩み中です。うまい塩梅で出来ればいいのですが。
本編とはあまり関係の無い話なのですが、1クラス40人で考えると、生徒同士の誕生日が1組くらいは被っている確率というのが高いらしいです。話を聞いたときはどうにも信じられなかったのですが、確率の計算をしていくと確かにそういう計算結果になりました。
何が言いたいのかというと、この話を投稿した6月4日はB級2位部隊の隊長を務める影浦さんの誕生日であり、天音神音の誕生日でもあるということです。
今後も更新、頑張ります。