途中、なんにも書けなかった期間があって文章に違和感を覚えられるかもしれません。すみません。
本編、どうぞ。
『戦闘体活動限界、月守ダウン』
抑揚のない無機質な音声により、月守は自身の敗北を否が応でも認識して舌打ちをした。
「言われなくても分かってるっての……っ!」
敗北後にランダムな地点へと無造作に転送された月守は態勢を立て直してバッグワームを起動しつつ、左手の甲に目を向けてポイントを確認した。
(7131……っ!くそ、ポイントの減りが早過ぎるっ!)
みるみると減っていくポイントを目の当たりにして、月守の胸の内には焦燥が渦巻き続ける。3体のラービットを相手に戦闘を繰り広げる月守だったが、今のところ突破口になり得るものは何1つ掴めておらず、それがまた月守の焦燥を加速させ、
(どのタイプもノーマルな奴に比べて若干装甲は薄いみたいだけど、それでも十分硬い。しかも3体とも戦い方が別物だから、まとまってくると対処が追いつかない。第一、ステルスラービットがマジで反則なんだよ)
内心、そう毒づいた。
3体とも厄介だが、月守はその中でもステルスタイプのラービットを特別警戒していた。使ってくるのが姿を消すだけのカメレオンならばトリオン反応を追尾するハウンドを主軸にして応戦できるが、バッグワームの機能が付加されたステルス(不知火製ラービット曰くパーフェクトステルス)の前ではハウンドも無効化され、打つ手がなかったからだ。
ハウンドが無効という結論に辿り着きラービット達の攻略に行き詰まるものの、それとは別に月守の中にはある考えが……否、違和感が芽生え始めでいた。それは例えるなら、迷路の途中で分岐点を間違えゴールに届かない道を延々歩いているような、感覚。長い英文を解読する途中で重要な単語の翻訳を間違えて意味が通じなくなった文を読み進めているような、感覚。
突き詰めるなら、
しかし月守が分かるのはそこまでだった。
自分は何かを間違えている、だがそれが何なのか分からない。月守はその先に思考を進めようとしたが、それは叶わなかった。
視界に常に表示し続けているレーダーが2体のラービットを捉えたことにより、月守は思考を無理やり止めて意識を切り替えた。
(レーダーには映ってないはずなのに、やけにピンポイントで集まってくるな……)
そんな疑問を抱きつつ、月守はゆっくりと一歩踏み出し、勝ち目のない戦いへと足を再び踏み入れた。
そんな月守の戦いを、不知火は開発区画にある会議室にて、自前のタブレットで観察していた。本来ならば研究室にてじっくりと観察していたかったのたが、今から始まる開発室班長会議を筆頭にスケジュールが目白押しという都合上それが叶わなかった。
3体のラービットを相手に必死の戦闘を繰り広げる月守の姿を見て、不知火は口元を緩め、
(勝ち目がないって思いながらも足掻いてるって感じだね、咲耶。けど、それでいい。死ぬ気で足掻きなさい)
声にこそ出さないものの、エールを送った。
「楽しそうだな」
そんな不知火を見て、同じく会議室に移動していた鬼怒田が声をかけた。
「あはは、だろうねぇ。実際、楽しいし」
「……あんな戦闘を観てそう言えるお前は、相変わらず性根が歪んどるな」
不知火がタブレットで観ているものの中身を知っている鬼怒田は、どことなく不機嫌そうな表情をしていた。鬼怒田にとって、月守は基本生意気で小憎い隊員といった認識であり、特別擁護するような隊員ではない。しかしそうだとしても、3体のラービットを相手にして一方的に敗北を重ねていく姿を見れば多少同情していまうのが人情というものである。
月守への同情心から鬼怒田は「性根が歪んでいる」と言ったのだが、それを聞いた不知火は肩をすくめた。
「ポン吉、まさかとは思うけどさ。ワタシがサディスティク的な性格をしてるからってだけで、意味もなくあの子をラービット達と戦わせてると思ってるんじゃないよね?」
「……もちろん、そうは思っとらん。だが何か理由があるとは言え、それを抜きにしてもやりすぎとるとは思っとる」
「うーん……むしろ今回はやり過ぎないと足りないくらいなんだけどね」
「どういうことだ?」
疑問を投げかける鬼怒田を見て、不知火はやんわりとした笑みを浮かべ「他のメンツが来るまで説明してあげる」と前置きをしてから、今回の戦闘の意図を話し始めた。
「いきなりだけどさポン吉。月守って不安定だと思わない?」
「それは、戦闘員としてか?」
「そうそう、戦闘員として。強い時と弱い時と言うか……戦闘力の幅が、あの子はちょいと大きすぎる。最近だと、大規模侵攻で人型ネイバーと戦った時が桁外れに高かったけど、その反面今日のランク戦とかはお粗末というか……ひどい出来だっただろう?」
そう言われて、鬼怒田は大規模侵攻の時のことを思い出した。
大規模侵攻時に現れたアフトクラトルの人型ネイバーは、6人。ブラックトリガーやアフトクラトル独自の強化トリガーを用いていた彼らに対してボーダーは大きな打撃を受け、いいように掻き回されていた。いずれも複数隊、もしくは精鋭たるメンバーを数名当てて対処していたが、そんな中、月守咲耶だけは単騎で人型ネイバーを撃破するというある種驚異的な戦果を残していた。
そしてその時の月守を基準にして考えれば、今日のランク戦の出来は確かにお粗末なものだと、鬼怒田は納得した。
理解した様子の鬼怒田を見て、不知火は1つの疑問を提示した。
「さてそうすると、月守はなんであんなにも戦闘力が不安定なのかっていう疑問がでるよね。そこにはちゃんと、理由がある」
ニコリと笑って不知火はその理由を語り出した。
「その理由はずばり、トリガー構成。未だに構成を固定しないで何度も変えてるから、安定しないのは当然と言えば当然だね」
「優柔不断なやつだな」
「それは否定しない。けど、固定できない理由はそれだけじゃない」
「……大方、8枠では足りんのだろう」
「その通り」
鬼怒田の予想を、不知火は指パッチンと共に肯定した。
「月守は本職のオールラウンダー達とはまた違った意味合いで万能型だからね。きんに……レイジ君みたいに14枠ぐらいで構成を組みたいって言うのが、あの子の本音だろう。多分月守の感覚的に、8枠だと両手の中指から小指を縛られて日常生活するようなものじゃないかな?生活できなくはないけどちょっと不便、みたいな感じ」
「……言い分はわかったが、奴をそれで特別扱いはできんぞ」
「あはは、だろうねぇ。そもそも月守に関しては、ボーダーに居られるってだけでもう十分特別扱いみたいなものだしね」
クスクスと笑う不知火を見て鬼怒田は1つため息を吐いた。
「トリガー構成が決まらんことと戦闘力が安定せんことが繋がっとるのはわかった。しかし、それが今回のラービットとの戦闘と、どう繋がる?」
「どう、どころかがっつり繋がってるよ」
言いながら不知火はタブレットの画面を鬼怒田に向け、相変わらず負け続ける月守の姿を見せた。
「現状、ポン吉はこの月守の状況をどう見る?」
「勝ち目がない戦いに放り込まれて、とんでもない早さでポイントが失われていく事に焦りながら、必死に足掻いているようにしか見えんわい」
「ふふ、実際はあの仮想空間限定で見かけ上ポイントが増減するだけで、本当は1ポイントたりとも変わらないんだけどね。でも、ポン吉の見方は良いよ。月守はただ足掻いているように見えるだろうけど、当の本人にしてみればその足掻きは文字通り死に物狂いだ」
タブレットの縁をなぞりながら不知火は語り続ける。その姿はまるで、獲物に狙いを定めたヘビを思わせ、鬼怒田はほんの一瞬だけ小さく身震いした。
「死に物狂いで足掻き続けるなら、余計なものは持っていられない。本当に必要なものだけを残して、それ以外は削ぎ落とす。そして削ぎ落とされて手元に残ったものを使い続けることで、それはより一層洗練される」
そこまで言った不知火はやんわりと微笑み、
「……追い込んだその先で、あの子はギフトを最大限に活かせる8枠のトリガーを見つけ出すよ。それらの最適な使い方もね」
そう断言した。
それを語る不知火の穏やかな声からは一片の曇りもなく、月守がそうなることを確信している事を思わせた。
そして不知火の説明が終わるとほぼ同時に、
「あれ、2人とも早いですね」
これから始まる会議の出席者の1人である、寺島雷蔵が現れた。雷蔵を見て、不知火は挨拶のつもりで声をかけた。
「やあサンダー寺島。また丸くなったんじゃないの?」
「大きなお世話っす。というか、エンジニア勢の中でもぶっち切りでめちゃくちゃな生活してるの副長が1番健康体ってのがおかしいんす」
「健康の秘訣は体内アルコール消毒」
「いや、それってつまりは酒ですよね?」
「イエス」
ケラケラと笑いながら話す不知火につられる形で、雷蔵は呆れたようなものではあるが笑みを見せた。すると雷蔵はふと思い出したような表情をして、
「あ、そういえば鬼怒田室長。会議の前にちょっと確認したいことが……」
鬼怒田と軽い打ち合わせを始めた。
そんな2人の姿を見ながら、不知火はぼんやりと思考を巡らせる。
(ポン吉にはそれっぽく言ったけど、実際咲耶の戦闘力にムラっ気があるのはトリガー構成の他にも、殆どの戦闘が手抜きっていう別の理由の方が大きいんだけどね。ポン吉に言ったら面倒になりそうだから言わないけど……)
タブレットの画面を消し、他の班長が集まるのを待つことに手持ち無沙汰感を覚えつつ、その理由についての考察を続ける。
(完全に無自覚だろうけど、あの子は殆どの戦闘で手を抜いてる。まあ、A級4位の夕陽隊だった時とか、去年の5月にあんな事件を経験しちゃった咲耶からすれば、B級ランク戦や防衛任務はちょいと物足りない戦闘だろうから、本気を出せないって表現の方が正確かな)
思考の大半を考察に割きながらも不知火の手は半ば勝手に動き、空いている隣の席に携帯式の小型ブーブークッション(自作)を仕掛ける。
(そしておそらく、あの子の中にはそうした経験を基にした『本気で戦う時はこうであるべき』みたいな基準が……言うなればスイッチが出来上がってる。しかもタチの悪いことにそれに関して無自覚だし、その基準ってのは大規模侵攻の時みたいに戦況依存してるのが大きいみたいだから、あの子は自分で本気になるスイッチを押せない)
ブーブークッションを仕掛け終えた不知火は誰が座るのかワクワクしている事を全く表情に出さず、ただ仕掛けが決まるのを待ちながら、
(本来ならその事をきちんと説明した上で、その辺のコントロールが上手くなるように指導するのがいいんだろう。けど、そんな悠長な事をしてるヒマはワタシにもあの子にも無い。だから荒療治だけど手抜きなんてできない戦闘に身を置き続けて、
月守に対する考察を、そう締めくくった。
しばらくすると他の出席メンバーである班長たちが徐々に集まり、会議が始まった。尚、イタズラでセットしたブーブークッションに座ったのは雷蔵であり、引っかかった本人を筆頭にどよめく中、不知火だけは盛大に笑った。本日2度目となる鬼怒田の落雷(お説教)を食らうことになったが、不知火は案の定と言うべきかその落雷を、笑いながら華麗に捌き続けていた。
ここから後書きです。
不知火さんが月守に何故理不尽なメニューを課したのか?ということの説明回です。本当はこの後に別場面のエピソードが続くのですが、収まりが悪いので2話に分割させていただきました。
ダッシュで手直しを済ませます!
そして最後に。
時間が長く空いたにも関わらず読んでいただき、本当にありがとうございます。またその間に、感想を送ってくださった方々には感謝してもしたりないくらいに感謝しています。へこたれそうな時に感想を読んで、何度も助けられました。
ありがとう。