開戦と同時に軽量ブレード『スコーピオン』を展開した風間隊の3人が一気に間合いを詰めた。
「バイパー」
それを見た月守は素早く左手にトリオンキューブを出現させ、5×5×5の125分割して放つ。
複雑な軌道の月守のバイパーを確実に防ぐため、風間は足を止めてシールドを全方位に展開した。残る菊地原と歌川は果敢にも月守のバイパーの雨をかいくぐり迅に迫る。
だがそれを迎撃するように彩笑が菊地原、天音が歌川の前に立ちはだかった。
「っ!」
菊地原はとんでもないスピードで懐に入ってきた彩笑の下段からの斬撃を、スコーピオンの刃の側面を滑らせるようにしていなした。
「ありゃ、キクリン腕上げたね」
「生意気」
ニコニコとした彩笑とは対照的に、菊地原は不機嫌そうな声でそう言った。
「ふっ!」
一方歌川は、短く息を吐き天音へと斬撃を繰り出した。
ガギギギン!
しかし歌川の斬撃を天音は全て見切り、日本刀を模したブレード型トリガー『弧月』で受け切る。
「地木隊長の、方が、ずっと、速い、です」
受けながら天音はそう言い、歌川の斬撃後の隙を突き、左の片手持ちによる上段の一撃を放った。
受け切りからのその反撃は、流れるように淀みない動きであり、歌川はシールドでも回避でもなく受け太刀でそれを防いだ。
ドギンっ!
強度では弧月が勝るため、歌川のスコーピオンはあっさりと砕けた。すぐさま再展開するが、
(この子、やっぱり侮れないな……)
歌川は天音に対する警戒度を1つ上げつつ構え直した。
そして太刀川は、風間隊が地木隊の動きを止めたその一瞬で迅へと肉迫し弧月を振り下ろし、迅は風刃でそれを受ける。
すかさず太刀川は次の手を打つ。ほんの少し迅から距離を開け、弧月専用オプショントリガー「旋空」を起動した。
「「「「!」」」」
旋空は弧月のリーチを瞬間的に拡張するオプショントリガー。その拡張された太刀川の斬撃を迅と地木隊は瞬時に察知し、上へと跳んだ。
地上からの追撃を防ぐため月守は素早くメテオラを起動し、地面に向けて放った。
爆風で相手の視界を遮ったところで、
「よし、一旦距離をとろう」
「りょーっかい!」
1度民家の上に降り立った迅の提案に彩笑はそう返事をして、先導する迅に地木隊はついて行った。
遠ざかる4人を見て、太刀川は瞬時に次の手を考える。
「まとまってると殺しきれないな……。かといってやつらを放置する気はサラサラない。……三輪。米屋と古寺はまだか?」
「もうすぐ合流します」
全体の戦力を鑑みて太刀川は判断を下した。
「出水」
「はいはい」
「俺と風間隊、それからスナイパー3人は総攻撃で迅をやる。お前は三輪と米屋と組んで地木隊と戦ってくれ」
「了解」
指示通りに分かれ、敵の分断作戦を開始した。
*** *** ***
「多分次は、こっちを分断しに来そうだな」
トップチーム連合がいる方を眺めながら迅は呟いた。
「えっと、じゃあ、そうなったら、どうします、か?」
天音は迅の顔色を伺うように言い、
「別に問題はないよ。何人か地木隊で相手してくれれば大分楽になる」
迅はすぐさま答えた。
彩笑も迅同様の方向を見据えながら月守に向かって問いかけた。
「んー……、向こうは戦力をどう分けてくると思う?」
「太刀川さんは絶対に迅さんに行くとして、メンバーが揃ってて1部隊として機能してる風間隊も迅さん行き。でもそれだと近距離に寄り過ぎてるから、スナイパー3人がその援護かな」
あっさりと月守はそう答えた。
「スナイパーじゃ、なくて、出水先輩が、太刀川さんたちと、迅さんを攻撃、の、可能性は、どうでしょう、か?」
天音が控えめな声で疑問に思ったことを尋ねた。
「あー、それもゼロじゃないけど……。あの人弾数多過ぎて風間隊のステルス戦闘と相性悪いし、多分来るならこっちかな?」
「あ、なるほど……」
天音の疑問が解消し、彩笑が確認するように情報を整理した。
「つまり、迅さんには太刀川さんと風間隊、スナイパー3人。ボクたちは三輪先輩、米やん先輩、出水先輩の3人を相手にするってことだよね」
「まあ、予想だけどね。当真さん辺りは彩笑ほどじゃないけど自由な人だし、もしかしたらこっち来るかも」
月守の意見に彩笑も同調し、
「むー、確かにそうだね。奈良坂先輩とも馬が合わない時があるし、スナイパーの分断もありえるかな」
2人の意見を頭に入れた天音が、
「はい、了解、です」
言葉短く、そう答えた。
意見が固まったところで迅は小さく笑った。
「さっ、丁度来たぞ。うまいことやれよ、3人とも」
「はーい」
彩笑が笑顔で答え、迅と地木隊はそれぞれ動いた。
「あ、予想通りのメンバーだね」
彩笑は月守の予想した三輪、米屋、出水の3人に向かってニコニコと声をかけた。
それを見た三輪は苛立ちがピークに達し、舌打ちをしたあとに怒気を含んだ声を向けた。
「地木……!どうしてお前らはいつもそう自由に動くんだ!他の隊の……、ボーダーの迷惑になると思わないのかっ!」
「……?いやだって、間違ってるとかおかしいって思いながら動いてもいい結果にならないと思いませんか?」
問いかけるような彩笑の言葉に、三輪が荒げた声で言い返す。
「間違ってるだと!?今回の任務のどこが間違ってるんだ!ネイバーの排除はボーダーの責務だぞ!!」
彩笑はやはり笑顔のまま再度言い返す。
「まあ、そりゃそうですけど……。でも、今のボクはそれを間違ってるって思ってますし、何より、その間違ってるって事に従っちゃうと絶対に後悔しますもん」
あははー、と、彩笑はそこで笑い、
「後悔したくない。これがボクの行動原理の1つですから」
明るい声ではっきりと言った。
三輪は悟った。
「お前との話し合いほど無意味なものはないな…」
と。
怨念のようなドロドロとした声でそう言った三輪に向かっ月守は声をかけた。
「あ、三輪先輩今頃気付きました?」
しかしそれにより、
「月守!お前もだっ!!」
三輪の怒りの矛先は月守に向いた。
「何故そんなのに従ってられるんだ!?そいつは当たり前のような顔でお前を振り回して、それがさも当然のように思ってるぞ!!」
そう言葉を投げかけられた月守はキョトンとしつつも答える。
「……そうですね。まあ正直、こいつマジでふざけんなって言ってやりたい時もありますよ?」
「だったら!」
「でも」
月守はしっかりと三輪の目を見据えて、答える。
「それでも、やんなきゃいけないことがあるんです。それを果たすまで、俺は彩笑に神音、そして真香ちゃんと地木隊としてチーム組みますよ」
それを聞いた三輪は、彩笑の時と同様に話し合うのは無駄である事を、悟った。
それを待っていたかのように、出水が動いた。
「戦うならさっさとやろーぜ。早くこっちを片付けて、太刀川さんに加勢しなきゃなんないからな」
シューターである出水は両手にトリオンキューブを出現させ、両攻撃(フルアタック)と呼ばれる状態にスタンバイした。
戦闘態勢に入った出水に習い、月守も左手を掲げてトリオンキューブを出現させた。
「いいこと言いますね、出水先輩。やっぱりシューター同士ですし、先輩とは気が合いますねー」
月守がそう言ったのと同時に鋭い銃声が鳴り響き、相対していた出水を銃弾が襲った。
「!?」
予期せぬ攻撃に三輪と米屋は驚いた。しかしその一方、攻撃を受けた当の本人出水は、
「……シューター同士?笑わせんなよ咲耶。今のお前は純粋なシューターじゃねえだろ?」
その銃弾を両攻撃と見せかけた両防御(フルガード)で防ぎ、攻撃を放った月守をニヤリと笑いながら見つめていた。
三輪と米屋が出水の視線を追うと、右手にハンドガンを持つ月守がいた。
月守は出水と同様にトリオンキューブで攻撃すると見せかけて、素早く右手にハンドガン型トリガーを展開し、出水目掛けて発砲したのだ。
その銃をクルクルと回しながら月守は言った。
「これ防ぐんですか?ずっとシューターの左手だけでバトってて完璧に決まったと思ったんですけど」
「その辺のツメがまだ甘ーよ。引っ掛けようとしてシューターってアピールが多過ぎだ。お前のダブルスタイルを知ってるオレにしてみれば、なんか狙ってんのがバレバレだぜ?」
出水は楽しそうにそう答えた。
*** *** ***
ボーダーの射撃用トリガーを扱うとなれば、大きく2つのスタイルに大別される。
1つ目が、ハンドガン型やアサルトライフル型等の銃型トリガーを用いて弾丸を放つ「銃手(ガンナー)」。
2つ目が、それらを用いず直接弾丸を放つ「射手(シューター)」。
どちらも一長一短があり優劣がつくものではないが、一般的に前者は安定・堅実であり、後者は自由な発想を反映しやすいと言われている。
異なるどころか、思想のベクトルが真逆に等しく通常は、自分の性格や思考に合っているどちらか1つのスタイルを選ぶ。
だが月守咲耶は右手がガンナー、左手がシューターであるダブル(ハーフ)スタイルを使う戦闘員であった。
*** *** ***
出水のアドバイスを受けた月守は言葉を投げかける。
「なるほど……。にしても出水先輩、フルアタックすると思わせといてフルガードとか、性格イヤらしいですね」
「はっはー。頭脳プレーと言え、頭脳プレーと」
楽しげに会話する2人に向かって、
「うん。とりあえずシューターやるような男の子は性格歪んでるっていうのがよく分かった!」
無邪気な声で彩笑がそう言い、
「「オイコラ」」
月守、出水の2人は声を合わせて彩笑を睨みつけた。
ぎゃーぎゃーとその3人が騒ぎ出し、それを見てオロオロする天音を見つつ三輪は静かに行動に出た。
『陽介、聞こえるか?』
『あいよ』
各隊ごとに使える通信回線を開き、三輪は米屋に指示を出し始めた。
『お前は地木を軽く挑発して、1対1の状況に持って行け』
『ん?連携しなくていいのか?』
『構わん。月守があのスタイルで戦うつもりなら、絶対に地木とは引き離さないといけないからな』
『ま、そりゃそうか』
『1対1に持って行ったら、存分に戦え。ただしベイルアウトしない事を最優先だ』
『了解!』
指示を受けた米屋はすぐに行動に移った。
「彩笑ちゃん分かってんじゃん。こいつら弾バカ族は基本的に性格悪りーよ」
「ですよね米やん先輩!」
投げかけられた米屋の言葉に彩笑は笑顔で答える。
「ま、つーことでオレたちはアタッカー同士仲良くバトろうぜ!付いて来い!」
米屋は大きく移動するために地面を強く踏み込み跳躍した。米屋を視線で追いつつ彩笑はグッと態勢を沈め、
「咲耶!神音ちゃん!ここは任せたよ!」
2人にそう指示を出して跳躍し、米屋を追いかけた。
「……、っ!彩笑ストップ!」
月守は何か違和感を覚えて彩笑に警告したが、もう遅かった。
彩笑が跳躍しきった所で三輪と米屋は同時に思った。
(あ、こいつ、こういう時はチョロいな)
そして彩笑の姿が見えなくなったところで月守は呆れた声で言った。
「あいつ、マジでふざけんなよ…」
*** *** ***
地木隊が戦闘を始めた頃、迅も太刀川、風間隊、スナイパー3人組との戦闘を始めていた。
「おい迅」
激しい斬撃と斬撃の応酬の最中、太刀川が迅に問いかけた。
「なんだい太刀川さん」
キン!と激しく互いの剣を弾き距離を取るが、会話は続いた。
「お前、本当に地木隊が出水達に勝てると思ってるのか?」
「さあ、どうだろうね?」
太刀川は両手に弧月を構えつつ、数ヶ月前の出来事を思い出しながら迅に向かって言った。
「あいつらは確かにA級に上り詰めたが……。あれはあの時だけの奇跡みたいなモノでもあっただろ。今の実力は、あの『切り札』を使わない限り、いいとこB級上位ってとこだ」
「……」
「だがあいつらは……、いや、地木と咲耶のやつは絶対にあれを使わない。そんなあいつらじゃあ、出水達には勝てないだろ」
迅は明確に答えることはせず、黙って風刃を構えた。
「それに……」
そして、まるでダメ押しをするかのように太刀川は1つ付け加えた。
「地木と咲耶の2人はそれぞれ……、致命的な『弱点』を抱えてることを、忘れたわけじゃないだろ?」
と。
後書きです。
月守のガンナーとシューターを併用する独特な戦闘スタイルがついに解禁されました。
この作品に向けたたくさんの感想やお気に入り登録をいただきました。とても嬉しかったです。これからも頑張ろうって、思いました。