リクオと鴆が話し合っている頃、チビテラスは和服に着替えてアマテラスのいる部屋に行き、昨日の事について報告していた。
「そう、旧校舎に大蟇怪がいたのね」
「はい」
「この分だと他の大物妖怪達もこの世界にいると考えるべきね。今後はさらに周りに気を配るようにしなさいテラ」
「分かりましたお母様。それでは私は皆さんの夕食を作りに行って来ます」
そう言ってチビテラスが部屋を出ていこうと襖を開けると目の前にリクオがいた。
手には高級品の酒『妖銘酒』を持っていた。
「リクオ様?お酒なんか持ってどうかしたのですか?」
「実はこれから鴆君にこのお酒を渡しに屋敷に行くんだけど、テラも一緒に来てくれない?」
「えっ!?けど、私・・・」
いつもならリクオの頼みを断らないチビテラスだが、夕食の支度をしなくてはいけないので少し迷っている感じだ。
それをいつの間にか後ろにいたアマテラスが笑顔で言った。
「行きなさいテラ。夕食の事は私がやっておくから大丈夫よ」
「お母様・・・分かりました。リクオ様、お供します!」
「うん!ありがとうテラ!!」
二人が手をつなぎながら玄関を出るとカラス天狗が朧車の側で飛びながら待っていた。
「ではリクオ様、テラ様。早くお乗りください」
三人が乗ると朧車は空に浮かんで鴆の屋敷へと向かって行った。
夜になった頃に竹林に囲まれた鴆の屋敷が見えてきた。
ふいにチビテラスは嫌な臭いを感じて外に顔を出して前方を見た。
「あれは・・・火事!?」
「え?」
チビテラスの声を聞いてリクオと鴉天狗は外を見て目を見開いた。屋敷から凄まじく炎が上がり、焦げ臭い風が鴆の羽とともに舞っている。
「わーーー!どうしましょう若!?」
「リクオ様!!」
「うん。そのまま!!」
「え!?」
「何で!?」
「そのまま、突っ込んで!!」
朧車はリクオの命令で勢い上げて屋敷の一角に突っ込んだ。三人とも車の中で掴めそうなところをしっかり掴んで衝撃に備えた。
脆くなった壁を突き破って中に入ると、刀を床に刺して何とか体を支えている弱った鴆とそれを囲む妖怪達がいた。咳き込む鴆にリクオが駆け寄り、チビテラスは狼の姿に戻って威嚇する。
「鴆君!しっかりして!!」
「ごふっ、リクオ・・・どうしてお前が、ここに・・・・・?」
「んだぁ!?てめぇ!!」
「こいつ・・・あの奴良組のバカ息子!?」
妖怪達の言葉にチビテラスは眉をつり上げてさらに低く唸り声を上げる。
「お供はどーしたんだ。俺じゃ・・・お前を守れねえのに」
「カラス天狗、こいつらは・・・?」
「鴆一派の幹部・蛇太夫です。おそらくこの火事はあいつらの仕業かと・・・」
カラス天狗の話を聞いて怒ったようにリクオが蛇太夫を睨みつけた。
蛇太夫はリクオが小さいカラス天狗とチビテラスしか連れて来なかったのを見てニヤリっと笑った。鴆を片付けて自分が頭領に成り代わる計画だったが、ここでぬらりひょんの孫を片付けておくのも悪くない。
「くく、丁度いい。こいつを殺して俺にハクが付くというものだ!!」
蛇の妖怪らしく首を伸ばし、牙を剥き出して襲いかかって来た。
チビテラスが迎え撃とうとしたとき、突然背筋がざわりと感じた。振り向くとそこには妖怪へと覚醒した夜リクオがいた。
「下がってろ」
手に握られた護身刀が鞘から刃を見せて、すばやく抜き身の刃を蛇太夫の口に喰らわせて、そのまま蛇の身を真っ二つに斬り裂く。
蛇太夫があっさり殺られたことで、蛇太夫の仲間達は逃げだそうとするが・・・
「ガウッ!!」
「がっ・・・」
「ぎゃあ!」
「ぐっば!」
神器と筆技でチビテラスは全ての妖怪を殺した。それを見てリクオは苦笑した。
「全滅かよ・・・容赦ねぇな」
「構わないでしょ。この者たちはリクオ様の後ろで群れる価値がない」
普段妖怪を消している時はこんな目なのかとリクオは少し悲しい目でチビテラスを見つめた。
「あんた、誰だよ・・・?」
「リクオ様・・・また覚醒成されたのですか・・・・・・」
「リクオ?リクオだって!?」
鴆が驚愕の視線を向けるとリクオは口元に弧を描きながら見つめた。
「よう鴆。この姿では初めてだな」
焦げ残った柱にもたれ掛かって座り込み、鴆は咳き込みながらリクオを見る。
「おめえなら、三代目継げるぜ。俺が死ぬ前に、もっと晴れ姿見せちゃあくれねぇか」
「・・・・・飲むかい」
渡そうとして持って来た酒を掲げてリクオが言う。
「いいねぇ、俺に酒をついでくれんのかい。ついでに、あんたの盃もくれよ。俺は・・・正式にあんたの下僕になりてぇ!どうせ死ぬならあんたと、本当の義兄弟にさせてくれ。親の代じゃねえ・・・直接あんたから」
「いいぜ。鴆は弱ぇ妖怪だかんな。俺が守ってやるよ。テラ頼む」
リクオの頼みにチビテラスは素直に応えて二人に酌をした。
盃をかわすのを見てカラス天狗は嬉し涙を流す。リクオが夜の時の記憶を覚えるようになり、覚醒できるようになったからだ。この姿を見せれば、反対派の何人かを納得させることが出来るだろうと。