「私たち、〈雪のルーン〉を探しているんです。この島にありませんか?」
少女は大きな耳をピンと立てて答えを待っている。
「雪のルーン?」
白猫が首をかしげながら聞き返す。その白猫をそっと抱きかかえて銀の髪の少女は小さく首を横に振る。
「ごめんなさい、この島にはないと思うわ」
答えを待っていた少女の耳から力が抜けぺたりと頭にはりつく。
「そう、なんですか……」
「キャン…」
少女が抱える子犬も寂しそうに鼻を鳴らしている。
銀髪の少女に抱えられた白猫が少女を心配そうな面持ちで見つめながら聞く。
「あんたたち、二人っきりでルーンを探しているの?」
「はい。でもコヨミは狼だからへいちゃらです!」
見るからに幼い少女は青銀色をした美しい毛並みのしっぽを力強く振りながらそう答えた。
「これがあんたたちの探してる〈雪のルーン〉?」
白猫が白銀に輝く石をつついている。
「そうだよ、キャトラねーね!」
嬉しそうに尻尾をパタパタと振る。
飛行島にコヨミがやってきて数日、すっかりこの島に馴染んだようだ。
「ところで、あんたたちどうしてこのルーンを?」
先ほどまで楽し気に音を立てていたしっぽが弱々しく垂れる。
「コヨミのパパとママ、大けがをして人間の姿になれなくなっちゃったの。この〈雪のルーン〉は狼の半獣に力をくれるんだ。だから、もっと〈雪のルーン〉があればパパとママはまた人間の姿に戻れると思うの!」
銀髪の少女はそっとコヨミを抱き寄せる。
「だからコヨミちゃんは雪のルーンを……」
「私たちも手伝ってあげるから、無理しちゃだめよ?」
赤髪の少年が微笑みながら優しく頭をなでるとコヨミの尻尾が再びパタパタと音をならす。
「ありがとう!キャトラねーね、アイリスねーね、にーに!でも大丈夫だよ。だってコヨミは狼だもん!ね、タロー!」
キャンキャン!とタローが可愛らしくほえる。
言葉とは裏腹にコヨミの尻尾は徐々に緩慢な動きになっていく。
(パパ、ママ、今どうしてるかなぁ……)
ゆっくりと空を旅する飛行島。雲の上に浮かぶその島に降り注ぐ陽の光は近くてとても眩い。
その眩しさに思わず目を細める。
バサッ
不意に、瞼を抑えていた光がなくなる。
見上げると、何も無かった青く眩しい空から大きな影が音を立てて降りてくる。
(…?)
逆光でそれが何なのかがわからない。
「おっきい鳥さん…?」
「違うわよ、コヨミ、あれはー」
バサッバサッ
空を裂くような音にキャトラの声がかき消されてしまう。
「おかえりなさい」
アイリスが優しく迎える。
「…ああ」
飛行島の地に降りた影は、短く一言言った。
コヨミは、その声をしっかりと、ハッキリと覚えていた。
そして思い出す。
忘れることの出来ない、あの眩しく晴れた、決意の日のことを。