しばらく閉じていた瞼を上げ、ふと、窓の外に目を向ける。
黄金色に輝く世界。
砂漠地帯にでも来たのだったかと思いそうになるところを窓から流れる冷気に否定される。
(夕日か…)
遠くに子供が走っているのをぼんやりと眺める。
(俺は、ここで何をしている…?)
考えようとして、やめる。
その必要が無いことは理解していた。
思考を止め、再び目を閉じ、壁に寄りかかる。
手にしたモノから聞き慣れた燻り焼ける音がしているのを聞きながら。
「ただいまー!」
大きく音を立て開かれた扉から子供が冷気とともに騒がしく入ってくる。
「こら!お客様がいらっしゃるのだから静かにしなさい。あと、早くドアを閉めなさい!」
初老の男が声を抑え気味に子供を叱りつける。
(ここにいる者共に気を使わなければいけない客など居ないだろうにな)
「今日はずいぶん遅くまで出かけていたな…ん?お前その…は……した?」
恐らく親子であろう2人の会話を背に、気配を殺し、音を立てることもなく部屋を後にする。
一瞬視線を感じた気がしたが親子以外はソファに座り間抜け面でうたた寝をしている男以外誰も居ない。
気に留めることもなく扉を閉めた。
「ジャマじゃ!」
部屋の扉を閉めたところで突然怒鳴られた。
「…」
黙って扉の前から身を退く。
「ウロチョロするんじゃナイ!野良犬めが!」
老人が荒々しくドアを開いて中へと入っていった。
「…」
あの男は今回の雇い主だ。
俺は奴の言うことを聞いて敵を撃つ。ただそれだけだ。
冷たい空気の中、再び壁に身を預ける。
「…?」
部屋の中がなにやら騒がしい。大方老人が癇癪でも起こしているんだろう。
「こんな客ばかりでは主人も大変だろうな。」
一人、呟く。
そして目を瞑り、意識を闇の中へと運ぶ。
… … …
バン!
突然開かれた扉。
老人がイヤらしい笑みを浮かべている。
「居るな?黒いの。今夜狩りに出掛けるぞォ~化物退治じャ…ククク…ッヒャッヒャッヒャッヒャーッヒャッヒャッヒャッ!」
何が愉快なのか奇声を上げて笑う。
老人の背後では子供が小さな両掌に溢れんばかりの金貨を載せ、しかし涙目になりながらこちらを睨めつける。
その隣では主人が俯いている。
「ワシの準備が終わったらすぐ出発するカラなァ?」
上機嫌に、言う。
「…あぁ」
突き刺さる視線を受けながら再び部屋をあとにする。
(俺は、与えられた敵を狩るだけだ…)
何を狩るんだ?(知る必要は無い)
なぜ奴はあんなに機嫌がいい?(知る必要は無い)
あの大金は?(知る必要は無い)
外は既に暗く、静まり返っている。
(何も考える意味などない…)
手元から黒い炎が轟音を立て宙へと昇る。
… … …
「おォ、居るなァ?」
老人がニヤけた顔をしながら出てくる。
「…そいつは?」
後ろには黒いローブに全身を覆い隠し付き従う者がいる。
「コイツはワシの護衛だ。キサマだけでは不安だからなァ…ククク」
「…そうか」
パーティが1人だろうが2人だろうがやることは変わらない。
荷を馬に載せ、一人鞍に腰を下ろした。
「遅れるんじゃないぞォ?」
馬の前を黒ローブが歩き始め、それらの後に続く。
冷気が身体を突き刺す。
その感覚に先程を想い出す。
(何故俺は子供から敵意を受けなければならない…)
思考を停めて弓を構え、放つ。
闇夜に現れたゴーストを一矢で霧散する。
「…知る必要は無い」
再び矢を放つ。
歩み進む毎に現れる魔物をただ、仕留める。
山の中へと歩みを続けながら。