「こんな星空、いつぶりだ?」
樹々の合間から零れ落ちそうな程の星空が広がっている。
人間、世間、すべてから気づかれないように、吹雪の止むことのないこの地で暮らしてきた。
吹雪どころか雪のひとひらも舞い降りることなく、風の息吹も感じることが出来ない。
「やっぱり良くないものが来てるわね」
二人で周囲を見やりながら異変が無いかを探る。
何も、無い。
人や獣、魔物の姿は確認出来ない。
樹木の軋む音、風の流れ、動物達が身を寄せ合う気配も感じられない。
普段感じるはずのソウルが何一つ無い。
美しい景色とは裏腹にあたりに広がるのは完全な無だ。
「久しぶりに頑張らないといけないみたいね」
少し強ばった声で言う。
「大丈夫、お前達は俺が守る」
己の気を高める。
「っ、来るわよ…!」
目の前の景色に蜘蛛の巣城のヒビが入り、薄硝子のように粉々に砕け散った。
3人居た。
死臭蔓延る黒いローブの者。
闇の気配が溢れ出る老人。
黒鎧に邪炎を纏う翼を持った弓師。
どう見てもまともじゃない。
「おいおい、うちに何か用かい?家を守ってた結界を割って入って来るなんて礼儀知らずなお客様だ、お帰り願えるかな?」
ここまで来て何かの間違えなんてことは無い、相手の出方を伺うように軽く挑発する。
…何の反応もない。ただその場に立っている。
気持ち悪い。
横目に見やると彼女は既に精神統一を済ませ魔力を高めている。
「何か言ったらどう…」
言いかけて、止める。
老人が笑っている。
目を細め、口角を吊り上げ、ニタニタと、イヤらしく。
この極寒の大地に居て尚、寒気が走る。
「お前、白神だな…そっちは蒼天か…クックックッ…」
発せられた言葉には聞き覚えがあった。
ーまだ人と関わりがあった頃。
白髪の男が、白い狼が、邪を裂くと。
青髪の女が、青い狼が、魔を払うと。
人々はその力を恐れ、敬い、『白神』『蒼天』と呼び崇め、奉っていた。
いつしか人々は数を増やし、技術得、魔と交わり、力を増大させていく。
その力、その欲はその器を溢れ、神の力を我がものとせんと神獣や獣人を狩り、実験、材料として扱う者達が現れた。
人々の暮らしを守護し、孤高の力を持つとされた狼の獣人はその力を得んとする者達に裏切られ、騙され、堕とされた。
数少ない生き残りは人から離れ、或いは人の心に生まれた『闇』への復讐を誓い人々の中に、それぞれ姿を消した。ー
「久々に聞いたなぁ、その名前。お前、何者だ?」
再びその名を聞くとは思っていなかった。
「白神らしい噂を聞いてきてみればつがいで居るとは…ククク…これは運がいい…クックック」
もちろん、あの頃のように呼ばれている訳では無い。
「貴重なサンプルだ…ククク」
闇に取り憑かれ、欲に蝕まれている。
「殺すなよ」
ピタリと表情が死に、従えたふたりに声をかける。
やはり話の通じるような相手ではない。
「エンガルフィングフレイム」
弓師の武器から黒炎が束となって放たれた。