『鈴』
ウチから歩いて数分のところにある道場付きの広い家、高町家までまずは足を運ぶ。その家族の末っ子で同級生の高町なのはを迎えにいくのが俺の平日の日課だ。
相変わらずのなが~い塀に沿いながら歩くと門に到着。潜りぬけて玄関の呼び鈴を鳴らす。数秒もしないうちに中から「はーい!」と返事がしてドタドタと走るような足音が聞こえ、勢いよくガラス戸が開く。
「おはよう鈴君!」
「ん。おはよう、なのは。おはようございます、桃子さん」
「おはよう、鈴君」
戸を開けたのはちょこんと伸びたツインテールが特徴的な少女――高町なのは。そして後ろに居るのは、そのなのはの母親――桃子さんだ。
毎度のことだがなのはの元気さが俺には少々眩しすぎる。いや、いいことなんだけどね…。
「それじゃお母さん、行ってきまーす」
「じゃあ桃子さん、行ってきます」
「はい、いってらっしゃい♪」
高町家を出発し、学校のスクールバス停留所までお互いお喋りしながら並んで歩く。話の内容はとりとめのないこと。宿題を済ませたかとか、夕べのドラマはおもしろかったとか、この年の子にありがちな話。
停留所に着いてバスを待つ間もお喋りは続き、やがてバスがやってきて乗り込むと後部座席のほうから声をかけられる。
「こっちです、2人とも」
そこにいたのは俺となのはの友人、金髪で活発な少女――アリサ・バニングス、黒髪の大人しげな少女――月村すずか。
「あ、おはようなのはちゃん、鈴君」
「おはよう鈴。後、なのは」
「おはよう。すずか、アリサ」
「おはようすずかちゃん。後、アリサちゃん」
挨拶を終えた俺はため息をつきながら後ろの席の二人の元へ。なのはも俺の隣に座る。
窓際からすずか、アリサ、俺、なのはと四人並んで座る形になり、横目ですずかを見てみると苦笑していた。俺もつられて苦笑してしまう。
勿論、なのはとアリサの態度にだ。
実はこの二人……仲は悪くはないのだが、如何せん普段が微妙な関係なのだ。俺やすずかを交えると全くそういった態度はとらないが、2人きりになると途端に口数が少なくなり、下手をすれば喧嘩までしてしまう始末。
といっても取っ組み合うような本気のケンカではなく口喧嘩の応酬といった類のものなんだけどね。俺とすずかはこの二人を『喧嘩するほどなんとやら……』といった関係で納めているので、ある程度は放置している。
こういった関係になったのは一年生の頃。
アリサがすずかにちょっかいをかけていたのを俺となのはが目撃。さすがに見かねた俺が――
『こらこら。そこの
――と言って間に入る。そんな俺にアリサも最初は驚いたものの、すぐにギャーギャー噛み付いてくるが中身は大人である俺は正論でコトを治めようとする。
でも俺は失念していた。相手は一年生……正論がすんなりと通じるほど甘くはなかった。
太腿に腰の入った素晴らしいローキックをもらいました。
あまりの痛みに蹲る。それを見て怒ったなのはがアリサに詰め寄りアリサも応戦。エスカレートしてと取っ組み合いの喧嘩を始める。
もう後に残るのはカオスな光景。痛みを耐えながら、もういっそ【催眠】でも使って無理矢理大人しくさせようかと黒い考えがよぎった時に、沈黙を保っていたすずかが声を張り上げた。
『もうやめてっ!!』
その大声に二人はピタッ!と動きを止め、それを好機と見て俺も2人を宥める。ちなみにこの時の俺の足は生まれたての小鹿みたいだったという
だんだん冷静になってきたのか、アリサも大人しくなり俺とすずかに小さな声で謝った。それを聞いた俺とすずかはアリサを許し一件落着………とはいかなかった。
なのはとアリサが意地を張ってお互い謝らなかったのだ。
アリサの主張。
『そっちが先に手を出したんだからそっちから謝りなさいよ!』
なのはの主張。
『そもそも鈴君に先に手をだしたのはそっちなの!』
……いや、なのは。被害者の俺は許してるんだからもういいんだって。
その事をやんわりと諭すとなのははしぶしぶとアリサに謝る……筈だった。
そんな諭されるなのはを見てフフンッ♪といった笑みを浮かべるアリサ。それを見たなのはがまたプンスカと怒り、アリサが逆ギレ。
ギャアギャアとやかましく言い争う二人を見ながら俺とすずかは揃って溜め息を吐いたのだった。
そういった経緯もあって、2人は未だに喧嘩しやすい仲なのだ。
そんな経緯を経て俺たちはいつの間にか四人でいることが多くなったのだ。ホント…人の縁とは不思議なものだねぇ。
当時を思い出していたら、バスは学校に到着していた。
◆
授業風景は特に面白みもなかったので省いてっと……。
放課後の帰り道、いつもはみんなと一緒に帰るのだが今日は買い物があるため一人で帰る。そして商店街にある喫茶店翠屋へ。
相変わらず繁盛している店内を歩き、カウンターで作業している男性――高町士郎さんに声をかける。苗字の通り、なのはのお父さんだ。
「いらっしゃいって、鈴君じゃないか」
「こんにちは士郎さん。いつもの豆をお願いします」
「うん、わかった。ちょっと待っててくれ」
そう言って店の奥に引っ込む士郎さん。先生がこの店のコーヒーを大層気に入り、高町家と普通に付き合いのあるウチは特別に良心的なお値段で売ってもらっているのだ。
それにしてもあの人といい、桃子さんといい、本当に二十代にしか見えないな。ウチの先生も大概だし。
すごいね、人体♪
「お待たせ」
「あ、ありがとうございます。これ、代金です」
「うん、毎度ありがとう♪ それにしても相変わらず蓮さんはコーヒー好きだね」
「えぇ、もはや
「ははは、褒めてくれてありがとう。これからもウチをよろしくね」
「ええ、もちろん」
それからも少しの間、士郎さんと会話を楽しむ。途中で――
「最近なのはとはどうなんだい? ん?」
――てな内容になった時に店の厨房側から密かに殺気を向けられた。
……居たんですか、恭也さん。
士郎さんも気づいてる筈なのに普通に会話を続ける辺り、中々にいい性格をしている。息子をなんとかしろと言いたいが我慢。とりあえず当たり障りのない返答で凌いで、会話を打ち切り店を出る。
さっきからビンビンに突き刺さる殺気はもう無視。
小学生にそんなもの向けるなシスコン大学生。
そんなわけで更新はポチポチとした歩みです。遅いです。