鈴「言え! 俺の…俺の相棒はどこだ!?」
そんなお話?
そこはまるで幻想のような風景。
上を見上げれば何処までも広がってゆく青い空。所々に散らばる小さな雲がその美しさを際立たせる。
前を向けば何処までも続いてゆく草原。背の低い草は地平線の彼方まで広がっていた。
その美しくも何処か寂しげな幻想風景の中央。
そこには少々大きめの1つのテーブルが鎮座している。それを囲むのは4組の椅子。そしてそれに座る4人の男女の姿。
初めの女性。
腰まであるロングの髪を先のほうで束ねた女性。流れる美しい髪に合わせたかのように顔の造形も整った美人と称するに相応しく、簡素なローブ姿と共に柔らかな雰囲気漂わせる女性だ。
女性はもう1人。
ショートヘアに日焼けしたかのように褐色の肌。さっきの女性とは反対に鋭い印象を受けるが、これも美人と称するに相応しい。
その身に纏っている簡素な鎧。明らかに戦士の空気を漂わせるが、卓上にあるクッキーをハムスターのように懸命に貪る姿がギャップを生み出し、逆に微笑ましい。
続いては男性。
髪を短く切り揃え、十分に整った顔立ち。ハイネックセーターに黒のパンツ。どこにでも居そうな男に見えるが、コーヒーを口にする仕草にさえ端々に見える気品溢れる優雅さが只者ではないと証明していた。
そして最後の男性。
長い白髪をオールバックにして後ろで纏め、蓄えた白い顎髭、深い顔立ちに刻まれた皺が逆に高貴さを感じさせる。
その身をビシッとした執事服で固め、堅物のような姿とは裏腹に柔らかく微笑みながら紅茶を味わう姿のおかげで親しみを感じる老人。
4人の間に流れる空気は穏やか。
それぞれが談笑しながらテーブルを囲む光景は、まさに絵に描いたようなお茶会と呼ぶに相応しい光景である。
そんな中、セーターの男が唐突に全員に向けて問いかけを投げた。
「そういえば結局彼と1番仲がいいのは誰なんだい?」
その問いかけに全員がキョトンとする。
そして一転、各々が様々な表情を浮かべる。自慢げな顔――まさにドヤ顔を浮かべたのはロングヘアの女性。無表情に見えるが口の端を僅かに吊り上げたのはショートヘアの女性。
「「当然、私のマスターです(だ)」」
瞬間、空気が固まった。
問いを投げかけた男は『しまった』と苦々しい表情を浮かべる。傍らの老人は『やれやれ』といったような苦笑いを浮かべる。
「ふふふ、あなたでも冗談を言うのね、ロウリー」
「貴様、レイハ…」
この状況を招いた張本人で天を仰ぎながら溜め息を吐く男――バルディ。
その横で静かに変わらずに苦笑いの老人――ロス。
ロングヘアの女性――レイハ。正式な名をレイジングハート。
ショートヘアの女性――ロウリー。正式な名をグローリー。
執事服の老人――ロス。正式な名をクロス。
セーターの男――バルディ。正式な名をバルディッシュ。
これは普段決して語られない、彼の者たちのお話である。
◆ ◆ ◆
そもそも此処に見える風景は現実の物ではない。
現在の彼・彼女らは現実世界においては大掛かりなメンテナンスの最中なのだ。まとめて蓮の研究室に備えてある設備の機械に繋いであるためこのような事が可能となっているのだ。所謂、ネットワーク共有の一種である。
この風景が広がる空間は電脳空間。
皆の姿は人工知能の擬似人格から形成した仮初めの姿なのである。
※デバイス達の姿は作者の貧弱で勝手な妄想であるため、読者の方は好きな容姿でイメージしてね。そのための電脳空間なのですから。
「また始まったか、あの2人」
「フォッフォッ、仲の良い証拠だ」
バルディの視線が向ける先ではレイハが杖を振るって砲撃をぶっ放し、ロウリーが自身の得物を振るってその砲撃を叩き斬る所業を展開している。(ちなみに電脳空間なのでこの戦いも実際はプログラムでの戦いとなっている)
「ペットは飼い主に似る。デバイスは主に似る…か」
「あれは『似る』と言うより『染まる』だろ」
レイハのマスター、高町なのは。
ロウリーのマスター、アリサ・バニングス。
魔法を知る以前は頻繁に喧嘩をしていたが、実際は仲の良い2人。なるほど、2人の言ってる事はもっともであろう。
「レイハはインテリジェント。対してロウリーはアームド。なのにプログラム処理でロウリーはレイハとも渡り合える…」
「マイスター蓮の作ったデバイスだ。優秀なのは当たり前だ。それにしても…お主も”染まって”きているな」
「何がだ?」
「この会合に混ざるようになった当初は口数の少ない奴だったのにのぉ。今ではロウリーの方が口数が少ないときた」
バルディのマスター、フェイトはジュエルシード事件の時は口数の少ない子だった。今では母と和解した事もあり、そこそこ喋るようになっている。その影響はデバイスであるバルディにも表れていた。
「ロウリーは自分のマスターと違い、あまり喋らないな」
「優秀とはいえあやつは飽くまでアームドだからな。インテリジェントほど感情豊かではない。代わりにアリサ殿の気概に”染まって”きているがな」
「……だが、悪くないな」
「ああ、そうじゃの」
2人は遠く離れた喧騒を放って、再び優雅にカップを傾ける。
◆ ◆ ◆
「いいですか! 私のマスターは鈴殿との付き合いが1番長いのです! ならば1番仲が良いのは確定的に明らか!」
「…笑止。アリサ様との気心知れた仲こそ至高」
彼女らのマスターに触れる事が多かったせいか、何だか俗っぽく染まっているデバイスである。
「そもそもレイハ。貴様はマスターを差し置いてリンの信頼を得ている。そして貴様は己のマスターの気持ちを知っていながら満更ではなさそうだな。デバイスとして愚の骨頂!」
「うっ!?」
そうなのである。
レイハは一時期、鈴の嫁にしたい人(?)ランキングNo1に輝いていた。まぁ、その頃の鈴は心身ともに疲れきっていた故に、レイハの気遣いにときめいてしまったわけだ。
ちなみにそれを知ったなのははレイジングハートを万力にかけようとし、周りに止められるというちょっとした事件を起こしている。げに恐ろしきは嫉妬の感情。
「それにジュエルシード事件の際、貴様は己の主を止められなかった。正にデバイス失格」
「うぅっ…」
それについてはレイハも弁明の余地はある。
ジュエルシードの影響を受けたなのはの魔力に耐え切れず、過負荷によりレイジングハートは言語機能はおろか、システムの一部に障害をきたていた。だからなのはを止めることが出来なかったのだ。
「そ、それとはまた話が別です! とにかく、鈴殿にはマスターが1番お似合いなのです!」
「アリサ様だ!」
戦いは続く(笑)
「……で、実際どうなのだ? 彼は誰を好いているのだ?」
バルディの問いの答えはまだ明かされていない。
このお題で醜い争いにまで発展したのだ。もはや答えを得ない事には治まらないといったところだ。
ちなみに醜い争いを繰り広げた張本人は頭にデカイこぶを拵えて再びテーブルを囲んでいる。殴ったのはロス爺。
「さてのぅ。私の知る限り、アレはよく言えば博愛。悪く言えばヘタレじゃからな。全てが受身で特定が難しいわい」
「そもそも彼は『男』として機能しているのか?」
「その辺りは大丈夫です。確かに私も一時期は不感症や不能、もしくは男色の気も疑いましたがそれらは全て否定しています」
「それにこの前の酒乱事件。鈴殿の溜まってた鬱憤を聞くに、何だかんだでマスター達を意識しておる」
「……時間の問題だ」
鈴本人の与り知らぬところでこの言われよう。鈴が聞いたら泣くね。
「私達のマスターはともかく、あなたのマスターはどうなのですか? バルディ」
「……マスターが彼に向ける感情は親愛・友愛のソレだ。決して恋愛では無い」
だが鈴の師である蓮とフェイトの母親であるプレシアとの付き合いの関係で2人が接する機会は何気に多く、なんだかんだでフェイトはなのは達に内緒で鈴からおいしい思いをさせてもらっている。
ちなみにおいしい思いっていうのは食事的な意味であり、露骨でいやらしい意味合いは無い。
ともかく、バルディはその事実を決して口にはしない。
レイハ達を経由して彼女らの耳に入ればマスターであるフェイトの身に危険が及ぶかもしれないからだ。主に彼女ら――いや、なのはからの嫉妬による報復的な意味での。
「そういえば最近、鈴殿を少なからず想ってる者が1人増えたの」
「……八神はやて?」
「いや、赤毛の…ヴィータという者じゃ」
「また増えるのか…」
「ですがかなりの強敵です。マスターもうかうかしていられません」
何やら拳を握り、気合を入れ直すレイハ。あんたが気合をいれてどうする。
「ともかく、私らは主の想いを全力で応援、そして成就させるのみ」
「……たとえ彼が誰を選んでも恨みっこなし」
「ええ、わかってます。もっとも、私のマスターに限って負けはありえませんけど」
「やれやれだな…」
話にひと段落がついたと同時、この電脳空間に電子音が響き渡る。
「お? 終わったようじゃな」
「だな。では、そろそろ解散としよう」
「そうですね。また次を楽しみにしてますよ」
「…楽しかった」
徐々に周囲が暗くなっていき、構成されていた幻想風景が崩れていく。辺り一面が闇に包まれた頃、皆の姿も光の粒子となって闇に溶ける。
◆ ◆ ◆
「ほら、メンテ終わったぞ」
「「「「ありがとうございます、蓮さん」」」」
「ん。それじゃあ、また今度な」
《マスター》
「ん? 何、レイジングハート?」
《アリサ様》
「何よ、グローリー?」
《主》
「どうしたの? クロス?」
《《《頑張ってください》》》
「「「?」」」
これは、彼女らの
相棒…
映画、見に行こうかな…