OVER END   作:直斗

3 / 9
OVER END

 OVER END

 

 テレプールを抜けると、突如として下からの暴風がミライを包み込む。結構な高さから二人は自由落下し、草の生い茂る場に片膝をついて着地する。二人を無事に送り届け、無人となったキャンプシップは、ゆっくりと旋回、上昇し、引き上げて行った。

 遠くの方に斜めに傾いた、巨大な塔がうっすらと見える。どこまでも続く森林は、ナベリウスの広大な自然を象徴している。

「では、お先に!」

 アサルトライフルを両手に持ち、一足早く走り出す。倒木を飛び越え向こう側へ滑り込む彼女を見失わないように、ミライもソードを片手に追いかける。昼間にしては薄暗い森の中を、二人は走り続ける。白く、人ほどの大きさがある巨大な鳥アギニスや、黄色い猿のようなウーダン、そしてウーダンよりも一回り大きなザウーダンが、木々の陰から彼女らをそっと見守っている。

 ナベリウスが修了任務地に選ばれたのも、こうした現生種が温厚である事も理由に挙げられる。最も、一番の理由はここでのダーカー発生件数が全くない事である。が――

『管制よりアークス各員へ緊急連絡! 惑星ナベリウスにてコードD発令! フォトン係数が危険域に達しています!』

 けたたましい警報音と共に、やや興奮気味のオペレーターが早口に捲し立てる。カレンもこの通信を聞いているはずだが、足を止めるどころか、より一層加速していた。

『繰り返します。惑星ナベリウスにてコードDが発令! 空間侵蝕を観測、出現します!』

 二人の先に黒色の煙が発生し、渦巻き始める。その中から三匹のダガンが出現していた。

「カレン! レンジャーなんだから後方支援を! 私が前に出る!」

 前を行くカレンにミライは叫ぶ。だが彼女はミライの提案を受け入れることなく、走り続けた。

「ちょうどいいですわ。ダーカー全て殺しつくして、私の方が各上だということを教えて差し上げます」

 カレンは弾倉を切り替え、正面のダガンに狙いを定める。そしてこちらに気づいたダガンらに向かって、一発の弾丸を発射した。ライフルの弾丸にしては大きく、速度も遅いそれは、中央のダガンに命中する。すると大きな爆発を引き起こし、両側のダガンを巻き込んだ。

 グレネードシェルと呼ばれるこのフォトンアーツは、森に大きな爆音を轟かせる。バラバラになったダガンの残骸の中を抜け、カレンは奥へと突き進んでいく。追うミライは、再生しかっている一つの赤色のコアをすれ違いざまに切り裂いた。

『二人とも、修了任務を中断します。キャンプシップを送るので、一時撤退してください』

 コフィーからの連絡の直後、二人の頭上を影が覆う。低空を飛ぶキャンプシップは二人を後ろから追い抜くと、少し先の開けた場所にホバリングしていた。

「ふむ、撤退ですか。残念ですわ」

 再び二人の前に黒い渦が発生する。中から出てきたダガンのコアを、外殻ごと三点バーストで撃ち抜きキャンプシップへと向かう。間もなくその開けた場所へと出ようとした時、辺りは炎に包まれていた。

「な、なんですか……」

 落とされたキャンプシップの残骸が、黒煙を上げている。あまりに突然の事に腰を抜かしてしまったカレンを、ようやく追いついたミライが助け起こす。やっとの思いでカレンを立ち上がらせたとき、立ち上る黒煙の中から紫色に輝く物を見た。

 それは三日月状の剣だった。

 黒色の甲冑のようなものが、煙を纏いながら姿を現す。片手には紫色に輝く黒色の剣を持ち、六枚の羽のようなものが背中についている。胸元には小さく、ダーカー特有のコアが埋め込まれ、それはほんのりと赤色の輝きを放っていた。

 小柄な二人の二倍程度の大きさを持つそれは、キャンプシップの残骸を踏み砕く。二人を捉えたそれは、赤く、両目を輝かせる。

「ほら逃げるよ!」

 ミライはカレンの手を引き、元来た道を全力で引き返す。黒き騎士はその巨体に見合わず俊敏な動きで、木々を薙ぎ払いながら二人を追いかける。黒い剣から斬撃が放たれる。二人はそれを、寸でのところでかわしきる。

『……こえますか? 聞こえますか? すぐに増援と新しいキャンプシップを送ります! どうにかそれまで逃げ切ってください!』

 沢を越え、中のない倒木を抜け、逃げる二人を楽しむかのように、騎士は追い続ける。両側を崖に迫られたその間を抜けた時、ミライは激しい後悔の念に襲われた。

 円形の開けた空間でありながらも、二人が通ってきたところ以外は、全て高い崖に囲まれている。黒き騎士は手にした剣で崖を切り裂き、降り注ぐ大量の岩石によって二人は、完全に退路を断たれてしまった。

「ここにいて」

 ミライはカレンを庇うように立ち、ソードを両手でしっかりと握りしめる。そして、重たいその切っ先を騎士へと向けた。

「まって、私も戦いますわ。もう失敗はいたしません!」

 弾倉を交換し、騎士に狙いを定める。カレンはミライよりも一歩下がった位置で、引き金に指をかけた。

「そう。じゃ、頼んだから」

 一際大きな岩が遅れて落下する。それを合図に、ミライと騎士は同時に走り出した。ミライの後ろからグレネード弾が追い抜く。白い噴煙を残しながらも、爆発と共に剣で叩き落される。

 爆発をものともせず、騎士は視界を塞ぐ黒煙を払う。時間にして一秒にも満たない瞬間的な事だが、ミライは騎士の視界から消えていた。

「はあぁ!」

 頭上に掲げたソードがフォトンによって輝きを放つ。そしてその切っ先は、騎士の脳天めがけて勢いよく振り下ろされた。予想していたよりも早い位置で、ミライの両手に衝撃が伝わる。彼女の振るったフォトンの刃は、騎士の左手の甲で受け止められていた。

 ミライは騎士を強く蹴り、空中で一回転し着地する。ミライが地面につくより早く、青く、細い弾丸が騎士の胸部に向かって跳んでいく。だがそれが届くよりも早く、半透明な赤紫色のシールドがそれを遮った。

 騎士はシールドを解除し、遠くのカレンを見やる。そして弾倉を切り替えている彼女に向かって、素早く剣を投げつけた。カレンはギリギリで横に飛び込みかわしきる。飛びぬけた剣は崖に当たり、バラバラと崩れ落ちていた。

 丸腰になったその時を逃さず、すぐさまミライは走り込む。そのままタックルを一撃決めると、素早く切り上げた。しかし騎士の鎧は極めて固く、一切の欠けすらも起こさなかった。

 胸部のコアが紅い輝きを放つ。

 騎士の両手に大きな赤い光を宿らせる。それを頭上で合せると、地面にたたき込んだ。騎士を中心に、大量の衝撃波が円を描くように走り回る。それはゆっくりと広がって行き、まだ離脱しきれていないミライを何度も襲った。

「ミライ!」

 カレンは叫びながら銃口を騎士へと向ける。その引き金を引こうとした瞬間、騎士は足元のミライをカレンに向かって蹴り飛ばした。カレンは飛んで来たミライを受け止め、そのまま崖に激しくぶつかる。

 騎士は投擲した剣を引き抜き、意識のない二人に切っ先を向ける。二人まとめて一思いに貫こうと、力を入れた瞬間だった。空から降り注ぐミサイルが、騎士に襲いかかる。寸でのところでそれらをすべて叩き落すが、強力なミサイル攻撃は彼の剣を使い物にならなくしていた。剣の破片は飛散し、その粒子はミライの胸元へと寄せられていく。

 騎士の注意は空に向けられ、そこには滞空するアークスの戦闘機が存在していた。機体下部のバルカン砲が騎士に向けられる。回転し始めていたバルカン砲から弾が飛び出すよりも早く、天へと剣を掲げる。どこからともなく多量のダーカー因子がそれに集まり、巨大で強大な剣を形成していた。

 まっすぐ戦闘機に向かって振り下ろされる。戦闘機は予期していたのかのように回避する。しかし騎士は一瞬で持ち替え、素早い薙ぎ払いに転じた。回避直後のバランスが崩れたこの瞬間、赤黒い刃は戦闘機を引き裂いたかに見えた。

 青白い、巨大な刃が赤黒い刃を受け止める。ボロボロになりながらもしっかりとした足取りで、ミライは赤黒い刃を抑え込んでいた。彼女の胸元が赤黒く、そして青白く、二つの光が渦巻き輝いている。

 ミライは地面に剣の跡を残しながら騎士に近づく。ミライに向かって振るわれた騎士の一撃を弾き飛ばし、胸元に輝く小さな赤色のコアに向かって切り込んだ。彼女の強力な一撃に騎士は、剣を落とし、片膝をつく。騎士はすぐに片手で胸部を抑えながら立ち上がると、落とした剣を拾いあげ、赤黒いダーカー因子に包まれていった。

 騎士の撤退と同時にミライの剣の輝きも失せ、地面に倒れ込む。ようやくキャンプシップが現れ、次々と他のアークス達が大地に降り立つ。彼らは、倒れたミライとカレンを見つけると、急いでキャンプシップへと運び込んでいった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。