ニューマン『レン』
モダンテーマで揃えられた小さな部屋のベッドに転がり、ミライは自分の手の平を眺めていた。前々から言われていた、自身のフォトン貯蓄量上限の低さ。それがあの戦いで露呈したことだった。いくら強敵を撃破したところで、その後動けないのでは敗北も同然だろう。味方がいるとは言え、あの一撃の度に動けなくなるのでは、足手まといになってしまう。
ルーサーというあの男について、ミライは退院と同時にビジフォン端末で検索をかけていた。結果、該当なし。全てのアークスが検索可能なそれで、ルーサーは結果に出てこなかったのだ。だがあの男はきっちりと連絡する手段を残していた。ミライの持つ端末にルーサーの連絡先が保存されていた。
生まれつきフォトンを蓄える能力がほとんどなかった。そんなミライにとってフォトン量上限の低さは、普段からフォトンドリンクを手放せなくなるくらい深刻な問題だ。ルーサーへの通信に手を伸ばしかけた時、あの管理官から通信が飛び込んできた。
「ミライさん、お渡ししたいものがあります。今からこちらに来られますか?」
ミライは一瞬迷ったものの、すぐさま
「分かりました。今から伺います」
そう言って通信を切ると、ベッドから起き上がり自室を後にした。
テレポーターを介して、アークスゲートエリアにテレポートする。ゲートエリアは静かな物で、他のアークスの姿もまばらだった。
「ミライさん、こちらです」
例の、銀髪の管理官が呼んでいる。
「先日の修了任務ではご迷惑をおかけしました。本当に、ダークファルス相手に良く生き残ってくださいました。そこで、お渡ししたいものですがこちらです」
そう言って彼女は二枚のカードのようなものを差し出した。
「まずこれがアークス認可証です。そしてこちらがハード受注許可証です。先の戦いに置いて、ミライさんの実力が認められた証拠です」
アークスに寄せられる依頼は現在、五段階に分けられている。一番数が多く最も難易度が簡単なノーマル。ノーマルでの功績が認められた者が選ばれるハード。アークス全体で一割にも満たない程の数しかいないベリーハード。誰もが認めるエリートと称されるのがスーパーハード。アークスを束ねる六芒均衡と片手で数えられるほどしかいない、最高戦力者にのみ与えられるエクストラハード。
本来なら下から順に、実力が認められると上がっていくようになっている。中には特別に初めから六芒均衡に選ばれた者もいるが、それは本当の意味で異例中の異例でしかない。ミライは二枚のカードを受け取った。
「ハードおめでとうございます。ところでミライさん、難易度ノーマルですが早速依頼があります。これにはミライさん、そしてもう一人と一緒にパーティを組んで行って頂きます。もう間もなく来るころですが……」
言い終わらない内に近くのテレポーターの扉が開く。ふと目を向けると、そこには全身覆うような厚めの服装をした少女がいた。
「す、すいません……遅れちゃいました……」
厚着の少女はおずおずと管理官に向かって謝る。小柄な体に合わない大きな帽子が、お辞儀と同時に落ちそうになった。
「大丈夫ですよ、レンさん。この方があなたとパーティを組むミライさんです」
よろしく、と手を差し出す。その片手を両手でつかみ、レンは頭を下げた。
「では依頼内容ですが、惑星ナベリウス森林エリアにおいて原生種の凶暴性が増していると報告がありました。原生種としてよく見かけるウーダン。特にその亜種であるザウーダンの凶暴化が顕著になっています。これの原因に先日のダーカー騒動との関連が推測されます。生態系維持の為、浸食されたザウーダンを討伐してください。準備ができましたら中央ゲートエリアより、キャンプシップに搭乗してください」
「了解しました。レン、さん? わたしショップエリアに行ってくるけど、あなたはどうする?」
ミライよりも一歩下がった位置で、彼女の背に隠れるようにしていたレンに向かって問いかける。顔を覗きこまれた彼女は恥ずかしいのか、大きな帽子を両手で下に引っ張り顔を隠そうとしていた。
「い、いきます……」
極めて小さな声だったが、ミライにはたしかに聞こえていた。体に見合わぬ大きなロッドを背負った彼女の肩を掴み向きを変えると、エレベーターへと乗り込んだ。
「レンちゃん? あなたはフォースなのね?」
ウィティアと同じ特徴的な尖った耳が、髪の毛の間から見えている。ニューマン特有のそれごと隠すように、レンはエレベーターの隅の方で常に帽子を引っ張っていた。
「はい……」
フォース、ハンターとレンジャーに並ぶクラスの一つ。フォトンに干渉し炎や氷、雷や風などを発生させる事ができる。それだけフォトンを扱う才能が高いともいえるが、第三世代となるミライにも、その適正は有ると言えるだろう。
エレベーターが止まり、扉が開く。目前にはいくつもの立方体が回転しているオブジェがあり、そこから水が流れ噴水になっていた。その噴水を囲むように、いくつもの店が構えられている。
「うーんと、モノメイトモノメイト……」
ミライは呟きながらモノメイトのロゴを掲げている店に向かう。そこにはいくつものモノメイトや、ディメイト。アトマイザーなどが並べられている。
「いらっしゃいませ」
「えっと、モノメイト十個ください。レンちゃんは?」
「だ、大丈夫です……」
経口摂取型の一時的な痛み止めとして、今やモノメイトはアークスの必需品になっている。緑色のそれを十個全てしまいこんだ。
「レンちゃんはもうモノメイト持ってる、ってことかな?」
「い、いえ……。モノメイトは必要なくて、そのレスタで……」
「あぁ、そっかぁ。フォースだもんね。でも一個は持っておきなさい、あげるから」
そう言って十個のうちの一つを強引に押し付ける。レンはいやそうではあった物の、それを受け取った。
「さて、行きましょうか」
二人は再びエレベーターに乗り込み、ゲートエリアへと戻ってきた。そして例の管理官に一言、行ってきますと言うと中央ゲートへと吸い込まれていった。