Dark Falz Elder
再び、ミライは病室で目を覚ます。閉められていたカーテンは、外からの風を受け、大きく膨らんでいる。夕方なのだろうか、空は茜色に染まり、部屋の一部を細く照らしていた。
「やぁ、おはよう。早かったね」
ルーサーが楽しげに問いかける。
「……あなたは、アークスなんですか?」
ベッドから半身を起こし、壁にもたれかかっている彼に尋ねた。彼は薄ら笑いを浮かべ、両手を広げる。
「アークスともいえるし、そうでないともいえる。君は、どうだとおもう?」
「……ここにいる以上アークス、かと」
「……なるほど」
彼は額に手を当て、高々と笑い出す。ひとしきり笑い終えると、冷めた視線を送り続けているミライに顔を近づけた。
「あぁ、そうだとも。僕はアークス、だよ」
膨らんだカーテンが萎み、パタパタと音を立てる。ルーサーは彼女から顔を離すと、カーテンを大きく開け放った。
「ところでね。どうだい? 僕の元に来る気にはないかい? 僕の元に来るのなら、あの強大なフォトンアーツに耐えられるだけの力をあげよう」
ミライは床に足をつけ、ベッドから立ち上がる。身体に傷はほとんどない。以前と変わらぬフォトンの花が側にあり、それは無機質に揺れていた。
「僕の見立てでは、あのフォトンアーツはまだその性能の、一割も発揮できていないと推測できる。それは君自身のフォトンの才能のせいであり、それに耐えうるだけの武器のせいでもあると言えよう。僕の元に来ればフォトンを扱うだけの力をあげられるし、武器だってあげよう。もちろん、それだけじゃない」
ルーサーは窓枠に軽く腰掛け、片手を差し出す。人工的な太陽は水平の彼方に沈みかけ、彼の顔に暗い影を刻み込んでいた。
「君の、行方不明となった父親の事も教えてあげられる。さぁ、解を選ぶといい。今か、これからか」
彼の水色の髪と西日の赤の融合は、いつか見た光景を思い出させる。彼の顔に落ちた影はとても暗く、彼がどんな表情をしているのか、ミライには分からない。ただ一つだけ確実に言えるのは、彼がこれまで足取りが全くつかめなかった、父親への手掛かりへとつながる唯一の存在であろうということだった。
彼女自身、元々あの紫色のPAフラグメントを調べる為にアークスになったようなものだ。そのPAフラグメントも、父親に関する唯一の手がかりであったためだ。
ミライがその手を掴みかけた時だった。警報と共に、周囲は赤く染められる。それは夕日によるものでは決してなく、艦内各所に設けられたモニターから放たれたものだった。
『緊急警報発令。アークス船団周辺宙域にダークファルスの反応が接近しつつあります』
緊張したオペレーターの声が室内にとどまらず、艦内全域に響いている。
40年前、アークスが数多の犠牲を払い、撃ち滅ぼしたとされる存在ダークファルス。
「あぁ、エルダーが来ちゃったか……」
ミライはそばにあったソードを握り、急いで病室を出ようとする。
「君に一つ、いいことを教えよう」
扉を開けたまま、彼女は振り返る。相も変わらず彼の表情は読めなかったが、なんとなくミライには彼が笑っているように見えていた。
「君が以前、会敵したエルダーとは別人だよ。ゲッテムハルトとかいう狂人が、己の戦闘欲の為に復活させたのだよ。艦一隻、丸ごと犠牲になりかねない存在だというのに、一般市民には何の通達もなしと来た。宇宙を守ると言っておきながら、自ら敵を生み出すだなんてアークスも堕ちたものだ。そうは思わないかい?」
船が大きく揺れる。ミライは彼の言葉を無視し、早足でその部屋を後にした。誰も抑える者が居なくなった扉が、音を立てて閉まる。
「所詮、アークスか……。まぁ良いさ。本命は既に、手中にある」
再び風が吹き込み、カーテンが膨らむ。病室から動きが消えた時、そこにルーサーの姿はどこにも無かった。
『本艦、アークスシップ第八番艦ウィンは一から十番艦と共に、ダークファルスエルダーを迎撃します』
長い廊下を走り、ゲートエリアへつながるテレポーターへ向かう。常に艦内放送は流れつづけ、変わらずモニターは赤く輝いている。定期的に船は揺れ続け、時折、爆発音にも似た音が響く。
『当アークスシップ甲板上に、生命維持環境を展開しました。断続的に強襲するファルスアームを迎撃してください』
テレポーターに飛び込み、ゲートエリアへと移動する。平時とは違い、数多くのアークスが中央ゲートへと吸い込まれていく。煌びやかな星を映していたドームの天井は、全体を赤く輝かせ非常事態を知らせていた。
ミライは丁度誰もいなくなった、銀髪の管理官の元へと向かう。彼女は一瞬だけミライを見やると、忙しそうに端末を操作していた。
「私にも出撃させてください」
次々とキャンプシップが飛び立っていく。近くを飛ぶ他のアークスシップから数多の青白い輝きが放たれ、赤黒い爆発を引き起こしていた。
「……わかりました。当緊急クエストは12人一組で行います。丁度、一人分開いている所がありますので、そちらに加わっていただきます。キャンプシップの用意はこちらで行っておきます。中央ゲートより至急出撃してください」
窓のすぐ側をダーク・ラグネと同等サイズを持つ、腕のような三つ首のダーカーが飛行している。それだけのサイズを誇っておきながら、本体の飛沫にしか過ぎない。艦からの砲撃がそれに直撃し、砕け散る。
ミライは急いでキャンプシップへと向かって行った。