迫る漆黒の腕
紅く輝く星雲に、惑星をも凌駕する暗黒が存在する。
40年ほど前にアークスと死闘を繰り広げ、惑星ナベリウスへと封印された者。ダークファルス巨躯『エルダー』と呼称されるその存在は、当時のアークスの力では滅ぼすことはかなわず、力の大半をナベリウスにて封印するまでが限界だった。
甚大なる被害をもたらしたその存在を滅ぼすことが可能なものとし、上層部は未来に希望を与えるべく、ダークファルスを滅ぼした、と発表した。その後ナベリウスは最重要監視下に置かれ、文明とダーカーが存在しない惑星として、常に数多くのアークスが調査に降り立つようになった。
ナベリウスのエリアは現在、主に森林と凍土の二つに分かれる。星の大半はこの森林エリアによっておおわれているが、不自然にも唐突に、森林地帯は途切れ白銀の世界が広がっている場所がある。一般には凍土エリアと称されるがこの地帯こそ、かつて巨躯によってもたらされた破滅の世界であった。
そんなおぞましい力を持った脅威が、今、40年の時を得て再びアークスと対峙している。紅色の暗黒の星雲と、太陽の如く輝くマザーシップ。その二つの間にあるアークス船団。船団の中でも最も危険な前線に、一から十の番号を関するアークシップが陣形を組んで迎え撃つ。その内の一隻であるアークスシップ八番艦『ウィン』より、希望を乗せたキャンプシップが発艦していた。
飛び交う巨躯の飛沫は意思を持ち、黒き腕の形の怪物となり侵攻する。アークスシップから放たれたフォトンの一撃が、近くを飛ぶ腕の怪物に直撃した。その衝撃はミライの乗るキャンプシップにまでおよび、微かな振動として伝わる。彼女は壁にもたれかかるように胡座をかき、閉じていた目をそっと開けた。
同じキャンプシップには彼女の他に、一人のキャストと二人のヒューマンがいる。彼らは皆、来たるべき戦闘に向け各々準備を行っているのだが、緊張が滲み出てきていた。
『最前線への転送が間もなく行われます。本作戦はファルス・アームを駆逐し、本体を消耗させることが目標です。これまでの戦闘とは別次元の、過酷な戦いになることが予想されます』
ミライは立ち上がり、飲み干したフォトンドリンクの空ケースを捨てる。そして立て掛けてあったソードを背負うと、三人が待つ、まだ開いていないフォトンプールの前へと移動した。
巨大な槍を携えた白い男性キャストが少しだけ脇に退き、彼女を迎える。先ほどまで断続的に続いていた振動は無くなり、嵐の前の静けさとでも言うべきか。とても静かで、穏やかな物だった。
『……どうか、ごぶじで』
言い終わると同時にフェンスが開く。四人は素早く、テレプールへと飛び込んでいった。
銀色の甲板がみるみる近づき、金属のそれに着地する。ミライたちの乗ってきていたキャンプシップとは別に、二台のキャンプシップから次々とアークス達が降下してくる。皆が皆、決まって大きな音を立て甲板を踏みしめる。
総勢12名のアークスが、正方形の青白いフィールドに降り立った。正面に佇む存在は、圧倒的な存在感を持ってして、彼女らを出迎える。それは近いようではるか遠く、飛沫は本当の意味での飛沫でしかなかった。
近くの砲門が向きを変え、敵本体へと向けられる。砲口から輝きが溢れ出し、一筋の直線が宇宙に描かれた。途中、飛んでいたファルス・アームを撃破しなお、敵本体へと延びていく。しかし、明らかに直撃するはずだったその一撃は、何らかの力によって捻じ曲げられ、拡散し、消失してしまった。
敵本体が持つ、八つもの手の平が赤く輝き始める。その腕はアークスシップへと向けられ、うちの一つは八番艦にも向けられていた。
赤黒い輝きが、ミライたちのいるアークスシップに放たれる。みるみる近づくその輝きを前に、甲板にいたアークス達は思わず身を屈める。艦は大きく揺れ、周囲を眩い輝きで包み込む。爆発四散し、宇宙へと放り込まれたかに思えたが、アークスシップ前面に展開された球状のシールドによって、敵の攻撃は大きくそらされていた。
飛び交うフォトンの弾幕を潜り抜け、四体ものファルス・アームが甲板へと着地する。待ち受けていた12人のアークスは、それぞれの武器を構える。先客の存在に気づいたファルス・アーム達は咆哮をすると、アークス達に襲いかかった。
ミライはソードを振り回し、最も近くにいたファルス・アームの頭に切りかかる。だが敵の装甲は厚く、ほんの小さな傷を入れただけに過ぎない。後ろから追いついてきた、パルチザンを持ったキャストがミライを掴み、敵の懐に潜り込む。素早く二度の斬撃を掌のコアに決めると、そのまま奥へと駆け抜けた。
突然、背後から風圧が押し寄せる。他のファルス・アームが、先ほどまでミライがいた場所に拳を振り下ろしていた。これほどまでに巨大なそれに押しつぶされたとなれば、どれほど頑丈なキャストであろうとひとたまりもないだろう。座り込んだミライが礼を言おうとした瞬間、彼は槍を振り回し、背後から飛んできていた巨大な氷塊を受け止めた。
ダメージこそ少ない物の、驚異的な冷気が彼の関節を凍結させてしまう。彼は受け止めたその姿かたちのままで、動けなくなってしまった。ミライはすぐさま立ち上がり、彼に駆け寄ろうとする。だが彼女の周囲は急に巨大な影に包まれ、巨大な図体で甲板を叩く。間一髪のところで、何とかその攻撃をミライは避け切った。
甲板を叩いた直後の隙を逃さず、彼女は敵の背後に回り込む。切断でもされたのかのような、禍々しい赤色の巨大な断面を飛び上がりながら切り上げる。そのままソードを縦に振り回し、一思いに切り下ろした。
他の部位とは違い、とてもやわらかい。敵は立ち上がると、ミライに向かって高々と咆哮した。
どこからか飛んで来たタリスの一部が、凍ったままのキャストに投げつけられる。浄化効果のあるフォトンがそこから発生し、彼の動きを封じていた氷が溶かされた。
咆哮したファルス・アームが甲板を叩きながら、逃げるミライへと迫ってくる。生命維持環境フィールドの隅まで追いやられてしまった彼女は、意を決して未だに止まらない敵に向かって走り出す。
各方位からタリスの一部が、雷属性のテクニックが大量に飛んでくる。感電し、頭から倒れ込んだ敵を踏みつけ、ミライは駆け上っていく。遠くから飛んで来たパルチザンが、敵に当たり跳ね上がる。高々とジャンプしたキャストが空中でそれを掴む。
キャストがパルチザンを突き立てるのと同時に、ミライはソードを振り下ろした。