OVER END   作:直斗

9 / 9
止まらぬ脅威

 止まらぬ脅威

 

 突き刺さったソードと、パルチザンを二人は引き抜く。二つの青い刃が抜かれるにつれ、赤黒い煙のようなものが勢い良く吹き出してくる。感電し動けなくなっていたファルス・アームが立ち上がり、甲板から離れようとする。

 だが飛び上がるよりも早く二人は腹部に滑り込む。手の形をしたダーカーの、手の平にある巨大なコアがいまだ輝きを失っていない。ミライはソードを顔のすぐ横で構え、集中力を高める。

 キャストが目にも止まらぬ速度で、連続した突きを繰り出す。コアの傷が少しずつ広がり、全体にヒビが入り始める。ミライはそのひびが入ったコアに向かって、飛び上がりながら何度も刃を叩きつけた。

 既にヒビが入っていたコアは粉々に砕け散り、中から尋常ではない量のダーカー因子が溢れ出してくる。巨大とは言え、コアを中心に形作られていたことに変わりは無く、その体を形作っていた物は霧散していく。

 他のファルス・アームは既に撃破されていたようで、各所に同様の黒い煙が発生している。やがてその霧はどんどん広がり、消えて行く。

 ミライは武器を放り出し、どっかりと座りこむ。戦況は相変わらずなようで、一進一退の攻防を繰り広げていた。

『間もなく交代です。帰還準備をお願いします』

 新たなキャンプシップが三機飛来してくる。甲板のほぼ中央にはテレパイプが展開し、帰還を促す。

「よくやったな」

 座り込んでいたミライに、キャストが手を差し出す。彼の手は無機質ながらも温かく、いつかの父親にも似た感覚があった。彼女は立ち上がり、ソードをしまいかけたその時だった。赤黒い因子を纏った氷塊がこちらへと近づいてきている。

 近くの艦砲からフォトンの粒子が発射された。極めて強力な攻撃が、真正面から氷塊に直撃する。しかし直撃したにもかかわらず、氷塊の勢いは大して変わらなかった。

『緊急連絡、本艦はこれより回避運動を行います。甲板のアークスは留意してください』

 細かい振動と共に、艦の後方から大量のフォトンが噴射される。振動は徐々に大きくなり、合わせて下方向へと急速に移動していく。

 ミライは思わず肩膝と片手を付く。氷塊は遥か上方を飛び、体を下に押し付けられる感覚に襲われる。完全に揺れが収まるのを待って、再び立ち上がろうとした時、ミライは艦橋のすぐ前に奇妙な黒い物がある事に気が付いた。

『回避運動は終了しました。今のうちに帰還して――異常な重力を感知。座標は、本艦艦橋!』

 黒きそれは周囲の光を吸い込み、歪みを作り出している。合わせて、回避しきったと思われていた氷塊は、艦橋へと進行ルートを変えていた。近くのキャンプシップが離脱していく。再び艦は動きだし、再度の回避を試みるが、黒い物は艦橋に張り付いたまま場所を変える様子は無い。

『Emergency Call! 迫りくる氷塊を何としてでも止めてください!』

 正方形程度だったフォトンの生命維持環境の範囲が広がり、艦橋を越えて拡大されていく。氷塊は既に艦の真上にまで達し、時間的余裕もほとんどない。ミライを含めたアークス全員が武器を取り、最も射程のあるフォースたちが次々とテクニックを撃ちこみ始めた。

 大量の雷撃が氷塊に放たれる。しかしかなりの質量を持ったそれを止めるには、彼らのテクニックでは極めて弱かった。グレネード弾が直撃するも、逆に勢いが増しているように見えた。

 ミライは勢いをつけ、艦橋の上に立つ。氷塊は既に近く、ミライの位置にまで冷気が及んできている。先ほどのキャストと、ワイヤードランスを持った男性のヒューマンが同じく艦橋の上に飛び乗った。

「おい、キャストのあんた。一つ頼まれてくれないか?」

「なんだ?」

 ワイヤードランスを手にしながら、キャストに近づく。

「俺をあれに向かって投げてくれ。近接の俺たちにできるのは、あれを直接たたくしかないだろう」

 生命維持環境内に入っていた氷塊は空気との摩擦で、明るく発火しだしている。元々帯びていた因子の輝きも合わさり、遮りたくなるほどの輝きとなっていた。

「……良いだろう。だがお前のその武器では、破壊するまでに至らないはずだ。それでも行くのか?」

 ヒューマンの彼は、ジッと手元の武器を見る。

「だからと言って、キャストのあんたじゃあそこまで飛べない。かと言って、女の子である君にそんな事をさせるわけには――」

「私にやらせてください。私ならあれを破壊しうる火力が出せます!」

 二人は驚いてミライを見る。だが氷塊による空気の震えが、ほとんど時間が残されていない事を物語っていた。

「もういい、時間が無い。行くぞ!」

 ミライは片手でソードをもち、空いた手でキャストの手を掴む。彼は長めの助走をつけると、体全体を使ってミライを氷塊に投げつけた。

 飛びながらソードにありったけのフォトンを集中させる。送り込んだフォトンは刃から大きく溢れ出し、巨大な光刃を形成する。

 ミライは空中で体を捻り、盛大に刃を叩きつける。しかし氷塊は砕けることなく、嫌な音と共にヒビが入るまでにとどまっていた。

 ミライは背中から甲板へと落ちていく。氷塊の破壊に失敗したため、アークスシップは甚大な害を被るだろう。それで済むなら被害は小さい方だ。諦めて目を閉じかけた時だった。いつか聞いた声が、ミライの耳に届く。

「諦めてはいけませんわ! ミライ!」

 甲板にカレンが立っている。彼女は弾倉を交換すると、まっすぐ氷塊へと銃口を向けた。

 通常のアサルトライフルとは違う、一発限りの銃声。その弾丸が氷塊にあたると、みるみるとヒビが広がって行った。

 氷塊にワイヤードランスの一端が突き刺さる。飛び上がってきていたヒューマンの男性が、もう一端をミライの側にまで伸ばした。

「掴まれ! もう一度だ!」

 彼はミライがしっかり掴んだのを確認すると、一気に引き上げる。手持ちのソードに一層多くのフォトンを流し込み、真っ向から切りかかった。巨大化した刃は氷塊の中心を捉える。入れられていたヒビは全体に広がり、やがて細かい飛礫となって降り注ぐ。

 光刃と氷塊が消え、ミライの意識も途切れる。そんな落ちていく彼女を空中でワイヤードランスが捕まえた。そのまま彼はミライを引き寄せ、担いだまま甲板に着地する。

 すぐさまフォースの一人が駆けより、ミライにレスタを施す。飛礫にあたったのか、所々ある傷が塞がることは無かったが、痛みは引いただろう。ほとんどフォトンが無くなっていた彼女の体に、レスタと共にフォトンが浸透していく。彼女が目を覚ますのもすぐだろう。

「ミライ!」

 カレンがミライに走ってくる。あらかた飛礫は片づけられ、致命傷になりかねないほどの大きさのものが降ってくることは無いだろう。

「大丈夫だ、すぐにでも目を覚ますだろう。俺たちは帰還するが、後は任せたぞ」

「はい! お任せください!」

 任されたことがよほどうれしいのか、そういうとカレンは戻って行く。

『氷塊の破壊を確認しました。次の攻撃が来るまでに帰還してください』

 いつの間にか近くに来ていたキャストが、ミライを担ぐ。

「お前も、こいつも、たいしたものだな。名前を聞かせてくれるか?」

「俺はイアンだ。あんたは?」

 キャストはテレパイプへと移動する。

「私の名はワイナール、だ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。