骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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ぼっち=オリ主
アルカード=ぼっち
マイン=ぼっちの弟子
レイル=鍛冶屋
モミ=第11階層守護者
ステラ=モミの妹・騎士
ハイネ=ステラの兄・モミの弟・軍師
ザーバ=神父
ポルックス=無口な生産者・カストルの妹
カストル=ポルックスの兄


第091話 「ぼっちと領地での揉め事:其のニ」

 儂はコル・ヴァイロン。この辺りの村長会議の代表をしておる。今日は王都より新しい領主が来るらしいがどうでも良い。どうせ「ここは危険で自分の身に何かあっては困る」とかほざきよった前の領主と同じで儂らの話など聞かずに王都から指示するだけなのであろう。

 ただ気に入らないから出席しないでは後々何をされるか分からんし、孫の病が悪化した為と名目は立てたが通用するかどうか…兎も角、儂は会合なんぞには絶対に参加しない。

 

 「ごめんください」

 「誰じゃ?」

 

 禿かかった頭をひと撫でするとよっこいしょと掛け声を出して立ち上がる。玄関まで歩いていき戸を開くとそこには今までの人生で見たことの無いような美女が立っていた。その美女は何か儂に話しかけているようじゃったが耳に音が入ってこない。

 後ろで束ねられた艶やかで潤いを持った黒髪。白く手入れの行き届いた肌。優しげもあり、理性的な印象を受ける表情。服の上からでも主張する豊満な胸部。

 年甲斐も無く見惚れてしまったのじゃ。仕方あるまい。これほどの美女にあったら棺桶に頭まで入った奴でも飛び起きるじゃろうて。

 

 「村長会議議長のコル様でよろしいですか?」

 「ぬ?おお、そうじゃ!儂がコルじゃ」

 「私はアルカード様のメイドをしております。ユーリと申す者でございます」

 

 今更ながら彼女がメイドなのだと理解したコルは後ろに立っていた仮面を着けたスーツ姿の男を睨み付けた。間違いなく王都から来た貴族であることは見た瞬間に理解した。

 背筋が震えた。

 貴族の隣に立っている少年と女騎士より息が止まるような殺気を当てられたのだ。心臓の音が徐々に早くなる中、貴族が一歩前に出ると殺気がピタリと止んだ。

 

 「お孫さんが病気で出られないとの事でしたのでこちらまで来ました」

 「そ、そりゃぁ悪い事したのぅ…」

 

 言ったの儂じゃけどもそれを信じて来るか普通。しかも貴族が。

 多少唖然としながら家の中に案内すると後から他の村長たちも入ってくるのだが貴族に憎しみを持っている彼ららしくなく、笑顔をあの貴族に向けていた。

 一応座布団でも用意しようかと思ったのだがやんわりと断られ客間の床に腰を下ろされた。ここまで来るとほんとに貴族かを疑いたくなる。

 

 「皆様から聞きましたが貴方も貴族を嫌っていますよね?」

 「勿論じゃ」

 「どうしたら信じてもらえますか?」

 「今までが今までじゃから難しいのぅ」

 

 散々儂らを苦しみ続けた貴族を信じるなぞ無理にきまっとろうにそんな事も解らんのか?いや、こやつはもしかしたら新米貴族なんじゃないか?少し試してみるかの。

 

 「そうじゃの…儂らが抱えとる問題を解決してくれたら信じてやってもええ」

 「聞きましょうか」

 「まずは税の事じゃの。あれは高すぎる。何とかできんかのぅ?」

 「税ですか?ではこちらを…ユリ」

 「はい。こちらをどうぞ」

 

 ユリと言うメイドから資料を受け取り目を通す。村人のほとんどは文字の読み書きが出来ない者がほとんどじゃが儂は若い頃は冒険者として稼いでおったので読み書きも出来るが…

 資料を読んでいた目が途中から慌しく動き始め、二回も三回も読み直した頃には肩が震えていた。

 

 「こ、これは嘘や冗談じゃないじゃろうな!?」

 「ええ、書いてある通りですが」

 「税を8割から5.5割に…関所で取る税を無くす等本気か!?」

 「本気ですよ。これで税は解決ですね」

 「ま、まだじゃ!!ここらの村々は男手を取られても農業で生活していかなければならん。しかし年老いた儂のような者や幼い子供達はそこまでの事は出来ぬ。だからと言って何もせぬ者達までにメシを食わせるほどの余裕は無い。そんな者たちが働ける場所が必要じゃ!!」

 

 畳み掛けるように話たら大きく頷いた貴族はにっこりと笑い「では、行きましょうか?」と馬車にて移動を開始した。馬車三台に乗せられた村長会議メンバーは見覚えのある草林に辿り着いたはずだった。

 皆が呆気にとられている。コルがここを誰かが買うとの事で最後に様子を見に来たのが四日前。木や草が生い茂っていた荒地が綺麗に整地されており柵が設置され大きな葡萄畑へと変わり果てていた。

 

 「どうです?ここの葡萄畑の従業員を募集している所なのですが」

 「この葡萄畑の…」

 「あ!これだけではありませんよ。関所の税金を無くした事で多くの商人や冒険者がここを通るでしょう。それをメインターゲットにした店を展開する予定です。武器屋にアイテム屋、食事処も用意しようと思います。幸いこの世界で広がっているのは洋食。ゆえにここでは和食を展開して物珍しさと今までにない味で…って聞いておられますか?」

 「う、うむ…」

 「他にもここらには鉱山がいくつか確認していますので安全を確めてから掘り出し、近くには鉄工所地区を作ろうかと。仕事を求めて居住してくる人も出てくるでしょうから人数をグラフで見つつ農業地区を拡大などを計画しております」

 

 開いた口が閉じなかった。

 税の話だけでも信じられなかったのに今度はどれだけ大きな話をしているんだろうか?それに和食とは何なんだ?頭が中が落ち着いてない常態だがとてつもない事を言われているのかは理解出来た。

 これは夢じゃないのか?

 絶望の中で希望を見つけても飛び付かない。それが本当に希望かどうかなんて解らない。何度そんな状況で裏切られてきた事か…。他の者は最初の資料で信じきったのじゃろうが儂だけは疑い深く行かねばならぬ。

 

 「雇用については良いじゃろう。しかしまだある!この近くに巣食ってる盗賊共に戦争問題。ここの男共の大半は戦争に連れて行かれて居ない。これ以上男共を連れて行かせる訳には…」

 「そちらも問題ないと思いますよ」

 「…はぁ?」

 

 儂は解った。

 この人は儂が見たこと無い人種だ。物語に出てくる『英雄』と称される人種なのだろう。でも無ければ何なのだ?たった三人で二百を超える盗賊を叩きのめす事なんて誰が出来る?

 相手の剣や身体の流れを読みきって最短の動きで相手を切り伏せていく女騎士。

 二刀の獲物を振り回し、飛び跳ね、転がり、泥臭く斬りかかる少年。

 そして歩きながら相手を切り伏せているだろう貴族。避けることもせずに近寄った相手から倒れているんじゃないかと思うほどの速度を持った剣。

 地位を持ち、金を持ち、武功もあって、儂ら農民の話をちゃんと聞いてくれる。このような絵に書いたような貴族が居るのかこの世界には…

 

 

 

 あの爺さん少しは信じてくれたかな?他の村長たちは税の資料を見せた辺りで何となくだが信用してくれたようだった。にしても…

 

 「うおおおおりゃあああ!!」

 「死に曝せや!!」

 

 剣を上段で構えた男二人が襲い掛かってくるのだが動きがおかしい。剣術は習っていたようなのだが足元がふらついている奴も居る。顔も赤いし、こいつら真昼間から酒飲んでやがったな?

 

 「・・・間合いが甘い」

 

 軽く横に振った剣が彼らに直撃して短い悲鳴を上げて男達は地に伏した。

 『やったか!?』 

 やってねーよ。この剣じゃ赤子も殺せないよ。

 ぼっち達が使っている剣は『ライト・サーベル』と言う特殊武器である。攻撃力ゼロで属性効果が高い武器だ。見た目は筒状の持ち手に光り輝く刀身が発生した感じ。ガンダムを知っている人ならビームサーベル。ソードアート・オンラインを知っている人なら光剣と言ったら分かってくれるだろうか。

 昔よくお世話になったんだ。洞窟や夜道で…

 二人もライト・サーベルを使いこなしているのを横目で見つつ向かって来る奴らを切り捨てる。ちなみに属性は麻痺《中》である。どれだけ相手を斬っても殺傷性は無いのだが…

 

 「龍巻閃・旋・凩・嵐!!」

 

 おお!ベイブレードも真っ青な高速回転しながら一気に切り抜けてやがる。そろそろ人間止めてないか?とても人間の動きじゃない。そして何故に技が決まる度にキラキラした目で俺を見る?期待してんのか?ああ…じゃあ軽く。

 片足で軽く飛び跳ねると姿が消えた。近くに居た男たちが驚き辺りを見渡していると次々と倒れていく。姿は見えぬのに凄まじい足音は響き渡る。倒れ終わると同時にぼっちは姿を現した。

 

 「・・・縮地」

 「すごいですアルカード様!!」

 

 興奮した様子で駆け寄るマインを見やると凄く汚れていた。そりゃああんなに転げ回ったり、駆けたら汚れるよね。もう立っている者は三人のみとなっていた。

 

 「・・・お風呂・・・入らないとな」

 「一緒にどうですか?」

 

 率直なマインの言葉に悩む。前にシャルティアと入った事があったがあれは罰と言う名目。マーレとは男同士だから良いとして普通に女の子と入って良いのか?まだマインは子供。父親も居なくなり寂しく思うこともあるだろう。もしかしたら自分に親に向けるような感情を持っているのだろうか。だったら…

 少し悩んでいると頬を真っ赤に染めたマインが袖を引っ張った。

 

 「じょ、冗談ですから本気にされると///」

 「ああ、済まない・・・」

 「マスター!!集め終わりました」

 

 ステラの声で作業が終了した事を知り、足をそちらに向ける。ここに居た盗賊共は全員で244名。どんだけ屯っているんだよ!!

 忌々しげにこちらを睨んでいる者、覚悟を決めて動じない者、絶望を感じて泣き叫ぶ者、ただ負けたことに打ちひしがれる者と盗賊共の多々の感情が見える中、村人の感情は憎悪で満たされていた。

 こわっ!!俺達がここを離れたら絶対皆ミンチにする勢いだ。やべぇ…。確か書類には村々に大きな被害出すことはなかったらしいが嫌がらせに近い事をしていた者も居たと言うけどここで全員殺させるわけには行かない。

 殺気立つ村人の前に立ち盗賊達に向き合う。懐に手を伸ばしずっしりと詰まった手の平に収まる袋を投げる。金属が擦れる音を発しながら落ちた袋に皆の視線が向けられる。

 

 「ここを去ると言うのなら去るが良い。その金はくれてやろう」

 

 驚きを隠せず口を大きく開けた者がほとんどだった。中には冷静な者も居て袋を開いていた。中には金貨がずっしりと詰まっていた。

 

 「お前達は何処かの国に仕えていたのだろう。騎士になりたかった者もいるだろう。片目や片腕を失って野盗に成り下がった者もいるだろう。

  私は諸君らを求めよう。

  私は諸君らに戦い方を教えよう。

  私は諸君らに給与を与えよう。 

  私は諸君らに戦士としての誇りを抱かせよう。

  私は諸君らに保障を約束しよう。

  私は諸君らに人として生きる場を提供しよう。

  私は諸君らを欲する。我が命に生き、我が命により死ぬると言う者はここに残ってほしい。

  私が諸君らを誇り高き騎士にしてやる」

 

 静寂が訪れた。

 …まずった?ここはギレン閣下のように演説した方が良かったのか?それともシャルル皇帝みたいな?

 『これは差別では無い。区別だ!!』

 違う!!それカラレス総督!!

 考え事をしているといつの間にか平伏し涙を流していた。

 

 「こんな俺みてぇな奴でも騎士として雇ってくれんのか!?」

 

 顔を上げた男は右腕が存在せず、左目は大きな傷があって潰れていた。

 笑顔で頷き、彼の肩をポンっと叩く。

 

 「勿論だ」

 「ありがとう…ありがとう…」

 

 泣きながら礼を口にする彼らに背を向け、村人に向き直ったら何故か村人まで平伏していた。

 その中で村長会議議長のコルが頭を擦り付けて平伏していた。

 

 「先程までのご無礼な態度お許しくだされい!!アルカード様!!此度の領主着任心より感謝致します。どうか、どうか儂らを導いてくだされ!!」

 

 あー…うん。どうしてこうなったし。

 




ユリ=ユーリ 適当な偽名です。
さて、次で領地でのごたごたを終了させます。最後に残った問題の為に山に登ります。

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