骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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九尾様、ひふみん様
誤字報告ありがとう御座います。


第096話 「アインズ陣営VSぼっち陣営」

 「だから必要だったと言っているでしょう!!」

 

 勢い良く叩かれた長机が叩かれた反動で揺れ動くどころか数秒だが宙に浮いた。同時にここに集まっていた守護者たちが驚いて飛び上がった。

 執務室ではなく会議室に集まったのは至高の御方であるぼっちとアインズが意見の違いから怒鳴り合っている。しかも片方は腰の刀に手を乗せており、片方はギルド武器である杖に手をかけていた。いつ衝突が起きるかもしれない状況で狭い部屋ではどちらかの攻撃がその身に届く為に広く、止めるための守護者たちが納まる部屋と言う事で会議室を選んだのだ。

 

 「本当ニ必要ト思イマスカ?ソレハ魔王ノ類ノ蛮行ダ」

 

 話はこの前のワーカーを使ったナザリック防衛能力のテストからこれからの話へとなっていた。

 アインズの考えとしては王国を圧倒的な武力を持って王国を支配下に置こうとしている。

 ぼっちは王国を支配する事を望まず、彼らは彼らが生きるように自由に生きて、自分達は多少関わるものの隣人とした方がいいと意見が対立している。

 

 「この世界でありえないほどの力を見せつけ、この世界にナザリック地下大墳墓の…アインズ・ウール・ゴウンの名を轟かせればこの世界に居るかも知れない皆にも届く。だから…」

 「ダカラ王国ニ宣戦布告シテ大虐殺ヲスルト?確カニ国々ニ、全種族ニ、世界ニ、惑星全土ニ轟クダロウ。ダケド『タッチ』サンヤ『ヤマイコ』サンガ大虐殺ナンカ仕出カシタ貴方ニ心ノ底カラ喜ンデ帰ッテ来ルト思イマスカ!!」

 「アインズ・ウール・ゴウンの名が届かなければ皆とも会える可能性すら無いでしょうが!!この分からず屋!!」

 

 杖を振りかざしたアインズを止めようとデミウルゴスとコキュートスが止めようと腕にしがみ付く。しかし止めようとする動きより杖を振り上げられた事で斬りかかろうとしたぼっちの方が早かった。

 セバスと一緒に居たツアレは勿論の事、セバスやプレアデス、アウラにマーレは反応しきれずに後から動くがついて行けなかった。逆に警戒していたアルベドとぼっち様の動きを注視していたシャルティアが前に出て止めようとしたが左右に揺れるような動きに気を取られてあっさりと通り抜かれて突き出された刀は血に濡れた。

 

 「まぁ、まぁ、落ち着きなよ」

 

 刃はアインズに届く事無くシャルティアの影に隠れつつ突き出された刃先に自らの右手を突き出したモミによって止められた。皆の視線が手の平から肩まで突き抜けている刀へと移った。

 唖然とする中、にへらにへら笑うモミはゆっくりと手から刀を抜く。

 

 「まったくぼっちさんもアインズ様も元気良すぎでしょう。何か良い事でもあったのかな?」

 「そんな場合じゃないでしょ!?腕は大丈夫でありんすか?」

 「んあ?大丈夫に見えるなら大丈夫なんだろうね。シャルティアの中ではね」

 

 骨まで砕かれた腕をだらんと下げたモミは痛がる素振りすらせずに元居た席に腰掛て左手で頬をつく。

 刀を鞘に納めたぼっちがアイテムを使用して回復しようとするとアインズが杖をかざして回復の呪文を唱えようとする。

 

 「私の怪我は後で良いんだけど…。とりあえずアルベドしっかりしてよね。防御担当がそんな易々と抜かれちゃ世話ないでしょ。シャルティアもだけど案山子じゃないんだから突っ立ってどうするの?案山子になったって止められないよ。良い勉強になったね」

 

 悔しそうにモミの言葉を噛み締めるシャルティアとアルベド、騒動の元となりモミに怪我を負わせたアインズとぼっちの4人は暗い表情で俯く。

 

 「フヒヒ。落ち着いたところで話し合いで解決しようよ。ギルドメンバーのように多数決なんてどう?」

 「ふむ、そうだな…それが良い。良いですねぼっちさん」

 「・・・(コクン)」

 

 ぼっちとアインズが納得して場が落ち着いたことに守護者もプレアデス達も心の底からホッとしたが次には頭を捻るほど悩む事になる。至高の御方と崇めるお二人のうちどちらかを選ばなければならない。忠誠心のパラメータは完全に振り切っているNPCには辛い選択…

 

 「アインズ様に賛成です。何が何でも、絶対賛成です」

 

 ……一名だけ即答した。

 ちなみにこの時デミウルゴスはメッセージを使って補足をしていた。ぼっちは隣人としてと言ったがそれは表上の話で実際は違うという話。

 ぼっちはデミウルゴスのゲヘナを詳細すらも聞く事無く、最大限利用して国民からの絶対的な支持に英雄的な武勇、王家に多大な恩を売るまでの動作を咄嗟に行いすでに国王を凌ぐ力を得ている。しかもヘルシングの傭兵団や暗部などの武装集団と領地で雇った騎士達を含めるとかなりの軍事力を保有している。だからと言って傍若無人に振舞う事無く紳士的に振舞って信頼の出来る部下を増やしている。中でも自ら働くラナー王女を押しており、その動きから彼女を王国のトップにすえる気なのだろう。彼女は知能はデミウルゴスやアルベド並みに有り、人間にしては優秀すぎる逸材だ。なにを言わなくても王国をぼっちの思うがままにするだろう。武力で制圧しナザリックが大々的に支配するアインズ様の案と正反対で人心を完全に掌握し誰にも気付かれないまま裏で支配するぼっち様の案は平和的でこちらも大々的に動かなくて済む。デメリットとしては逆に大々的に動けない点とナザリックの名がアインズ様の案と比べて大きく知られない事ぐらいである。

 

 「私はアインズ様の案に賛成いたします。至高の御方がこの世界におられるならこれ以上の名を広げれる機会はないかと」

 「あたしはぼっち様に賛成かな。アインズ様の案が駄目って訳じゃないんですけどぼっち様がわざわざ仕込まれた手が無になっちゃうのは…」

 「ぼ、僕もぼっち様の案に賛成します」

 「私ハアインズ様ノ案ニ賛成デス。モシ攻メル際ニハ先方ハオ任セヲ」

 「戦うのは肯定するでありんすが…私はぼっち様の案に賛成いたします」

 「フヒヒ、3対3に分かれちゃったね」

 「あら?モミ、貴方はどうするのかしら」

 「…私は中立って事でパス」

 

 中立を宣言したモミをアインズは注意深く見つめる。モミがナザリックの理を考えて動く事は間違いない。そのモミがどちらかの意見を肯定する訳でも否定する訳でもない。何故どちらでもない事を宣言しただけに留めたのかを思考するがにへらとただ笑うモミの思考が読めずに諦め、セバス達に視線を向ける。

 

 「同数では仕方あるまい。お前達も多数決に参加してくれ」

 「ハッ!僭越ながら私はぼっち様の案に賛成させて頂こうかと」

 「ぼ、…コホン、私もセバス様同様でぼっち様に賛成させて頂きます」

 

 投票を求められて最初に答えたのはナザリック内で珍しいカルマ値:善のセバスとユリだった。これは想定内だ。

 

 「私はアインズ様の案に賛成っす!!」<スパーン!!

 

 元気良くアインズの案に賛成を表明したルプスレギナは勢い良くナーベラルに頭を叩かれた。ユリもセバスも視線でルプスレギナを咎め、その視線を察して縮こまる。

 

 「まったく貴方は…私はアインズ様の案に賛成致します」

 「わたくしも賛成致します」

 「私もアインズ様の案に賛成です~。人間がいっぱい死んだらいっぱい食べたいです(じゅるり)」

 「…ぼっち様の案に賛成」

 「っ!!では7対6でアインズ様の案で皆様良いですわね?」

 「お待ちをアルベド様」

 「…何かしらセバス。アインズ様とぼっち様が多数決に納得されたというのに異議を唱えようというの?」

 「いえ、そのような事はありません。ただツアレがまだでしたので…」

 

 良く見るとセバスに隠れるようにナザリックの一員となった人間のツアレがそこには居た。おずおずと前に出たツアレはプレアデスのメイド服に似たメイド服の裾をぎゅっと掴んでぼそぼそとぼっちに賛成することを口にした。

 7対7で同数になった為に多数決では決着がつかなくなった。

 

 「どうするでありんすか。このままだったら…」

 「戦闘は避けたいところですね」

 「コレハ思案ノ為所ダナ…」

 

 頭を悩ます皆の前でモミがしゃかしゃかと音を発生させる。

 

 「じゃあさ。トランプで決着つけない?運命をかけたババ抜きで」

 

 まさかこの提案に至高の御方が納得するとは思わなかったNPC達は皆が呆然としていた。

 参加するのはここに居た守護者とぼっちのみでルールは現状どおりだが特別ルールチーム戦で最後に残った者が所属するチームの負けである。

 アインズチームはアルベド、デミウルゴス、コキュートス。

 ぼっちチームはシャルティア、アウラ、マーレ。

 モミがトランプをシャッフルして配って行く。それぞれがカードを見て同じ数字のカードを捨てて行く。

 

 「…キング!!…ジャック!!」

 「あんたは黙ってやれない訳?」

 「いや、だってキングにジャックだよ!?反応するでしょ」

 「ごめん…あたし、分かんない」

 「…あ、スリーカード」

 

 拗ねた反応したが次の瞬間にはダブったカードを捨てていた。が、おかしな事に気付く。

 

 「あ、あの…カードは二枚ずつ捨てるんですよね?」

 「・・・(コクン)」

 「モミさんが三枚で捨ててるんですけど…」

 「へあ!?間違えちった」

 

 何を考えてクイーンを三枚捨てたのか知らないが慌てて回収する。そんなやり取りがあり皆が捨て終わる。人数が多い分だいたい一人に3,4枚でありシャルティアだけ6枚あった。

 

 「私が一番手札が多いようでありんすね」

 

 何か勝ち誇った顔をするシャルティアに疑問符を浮かべていると唐突に理解する。

 

 「カードが少ない方が有利なんですよ」

 「そうなのでありんすか!?」

 

 考え違いをしていたシャルティアの勝ち誇った顔が一気に申し訳ないオーラ全開でぼっちに頭を下げていた。

 順番はアインズ→アルベド→アウラ→ぼっち→コキュートス→デミウルゴス→マーレ→シャルティア→モミである。

 早速カードを取ろうとアルベドに手を伸ばそうとしたアインズの手が止まった。

 

 「スキルは無しですよぼっちさん」

 「・・・(ギクリ)」

 

 先に釘を刺され目を逸らすぼっちを余所に揃ったカードを捨てる。アルベドがアウラからカードを取るとアウラは嬉しそうにぼっちの元へと手を伸ばす。カードは揃わなかったが本人は満足そうだ。コキュートスの手札を見つめながらぼっちは悩む。

 

 「・・・七は無いかな」

 「七ノカードナラコチラニ」

 「・・・ありがとう」

 「ってなにをしているのコキュートス!?」

 「?ボッチ様ガ求メラレタカードヲオ渡シシタダケダガ」

 「ルールを聞いていましたか?」

 「…ハッ!?ソウダッタ…チーム戦カ」

 「それよりカードを教えたことを言っているのだけど」

 「ぼっちさん…卑怯ですよ」

 「・・・一人事を呟いただけ」

 「くっ、そういう手を使いますか…」

 

 アインズの視線をさらっと交わしてゲームを続けて行く。ぼっちを皮切りに次々と手札を零にして抜けて行く。残ったのは手札の多かったシャルティアは勿論の事としてデミウルゴスとモミの三人のみになった。

 手持ちが2のクラブ一枚のデミウルゴスは二枚ずつのモミとシャルティアに比べてまだ余裕を見せていた。内心は焦りまくっているがこういうゲームでポーカーフェイスは必須だろう。それにジョーカーさえなければ良いのだ。

 ゆっくりとシャルティアの手札へと伸ばした手が止まった。

 右のカードを取ろうとした時に物凄い顔を嫌そうな顔をしたのだ。隠す気の無いシャルティアに対して内心ため息をつく。何故こうまで解りやすく…

 左のカードがジョーカーと判断してそのまま右のカードを取ろうとした手が再び止まった。

 本当にこっちは大丈夫なのか?これは演技ではないのか?シャルティアがそんな手を使うか?思い込みは禁物だ…

 ゴクリと唾を飲み込み手を左に寄せる。嫌そうな表情から一変して明るい笑顔に…

 これはフェイクなのか?それともこっちがジョーカーなのか?

 空気が重くなり皆の視線がデミウルゴスの手に降り注ぐ。

 どっちだ?右か…いや、左…いや、やっぱり右…と、思わせて左か…いや、私が右を取ると思わせて左が取るとシャルティアは思っているのでは…いやいや、複雑に考えるな。二者択一だ。1か0か、YESかNOか、ぼっち様かアインズ様か…

 

 「夜が明けちゃうわよ」

 

 アルベドの一言で止めた手が伸びて右のカードをゆっくりと引いた。目を見開き息をするのも止めてカードを注視する。世界がスローに見える時間の中でカードが表へと返る。

 引いたカードは『2のダイヤ』。

 膠着していた時間が動き出し、感極まったデミウルゴスが立ち上がり握り締めた両手を高らかに挙げた。アインズ達も「おお!」と歓声を上げる中でシャルティアがモミからカードを引いた。

 

 「やった!!ジョーカーが揃ったでありんす!!」

 

 動き出した時間が再び膠着した。意味を理解していないシャルティアは不安げに辺りを見渡す。

 

 「ど、どうしたでありんすか?」

 「あんたルール聞いてなかったんでしょ!?ババ抜きではジョーカーが揃う事無いんだって」

 「では、このジョーカーは…」

 「フヒヒヒヒ、すり替えておいたのさ!」

 

 堂々と胸を張って告げるモミに守護者それぞれが一撃を入れてアインズとぼっちを見つめる。二人とも不快感を露に…なんてことは無く笑っていた。

 

 「いやはや、こんな遊びも楽しい物ですな」

 「・・・(コクン)」

 「先は熱くなり過ぎました。すみませんぼっちさん」

 「いや・・・こっちこそ」

 「どうです、このままポーカーなど」

 「・・・(コクン)」

 

 いつの間にかただ単純にゲームを楽しみ、怒りを忘れて意気投合した至高の御方を見た皆は心底ほっとした。煙のようにその場から消えたモミを除いて…

 

 

 

 気配を悟られぬように通路に出たモミは肺にたまった空気を一気に吐き出し、貫かれ傷跡も無く修繕された右腕を忌々しそうに見つめる。

 認識が甘かった。スレインさんの映像からぼっちの戦闘データを確認していたのに実際に相対すると全然違った。手を突き出した瞬間…いや、シャルティアの影より姿を現そうとした時から減速して何とか刃をずらそうとしていた。無理に押し込まなかったら刀を止めることすら出来なかった。

 自分の予想の甘さに反吐が出そうな心境を押し留めてにへらとした表情で歩き出す。

 とりあえずこれでぼっち側とアインズ側の勢力図が分かった。面倒な事に半々とは…。

 あまり好くない状況にため息が出る。まぁ、それでも知略の得意な二人が居なくて助かった。あの三人なら勝てるとモミは断言できる。

 とりあえず

 次に息を吐き出したときには考えを切り替え、ぼっちとアインズの考えを両方叶える方法を模索し始めていた。


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