身体の至る所から触手を生やしてマーレを洗っていたぼっちはとある事に気付いて悩んでいた。
もう少しで洗い終わると言う所で頭を洗ってない事に気付いたのだ。
頭を洗う→髪や頭皮の汚れが泡に混ざる→お湯で流す→下へと流れて身体に付着する→身体を洗う
へそや足の裏を洗うだけであんなにこそばゆがっていたのにまた同じ思いをさせるのは可哀想だなと変化させていた触手を元に戻し、その分の容量で防水シートを作り上げてマーレの首から下を隠す。
「・・・次、頭」
「こ、これってぼっち様の一部で作られたシートですよね」
「・・・(コクン)」
「ぼ、ぼっち様に包まれているみたいです///」
ぼそっと呟かれた言葉に顔を赤くするが仮面を付けているおかげでばれずに済む…仮面外すの忘れてた!!
仮面の事は置いといて今度は普通に手で洗って行く。頭皮に爪を立てないように気をつけながら優しく揉んでいく様に洗って行く。
「ほわぁぁぁ~♪」
気の抜けた声が漏れる。それほど気持ち善がられると気分が良い。わしゃわしゃと泡立てながら指を動かす。
~女性陣側~
項垂れながら力無く座りこけるアウラとシャルティアの心情を理解したモミが二人の肩を優しく叩いた。そっと顔を上げた二人の視界には笑いを堪えるモミが…
「そんなに落ち込まない、落ち込まない…ぶふぉ!!」
「笑ってんじゃないわよ!!」
「笑うな!!」
「グラップラー!!……グフ」
二人の鉄拳が腹部に決まりワンバウンドして横たわるモミをため息交じりでステラが見つめる。
「しかしマスターが男色だったとは…」
「うぅ…マーレにぼっち様を盗られたぁ!!」
「泣くに泣けないでありんす…」
「マーレは良い声で鳴いてたけどね…ザク…フリッパー!!」
いらん事を言ったモミは無言で蹴り飛ばされ入り口付近の柱に激突して蹲っていた。
ふらりと立ち上がったシャルティアは不敵な笑みを浮かべていた。
「これは夢…そうよ…夢に違いないのよ…」
「しっかりしなさいよ!これは現実…夢であって欲しいけど…」
「しかし他の守護者の方がおられるのに行為を行なうとは思えないのですが」
「見せ付ける事に興奮を覚えることがあるとペロロンチーノ様が呟いていたのを思い出すでありんす」
「…見せ付けられた方は困るでしょうね。兎も角、マスターに確認してみましょうか?」
「なんて聞くのよ…男が好きなんですかとでも…」
「ぼっちさーん!!」
現実逃避を始めたシャルティアの肩を掴んでゆっさゆっさと揺らしまくりながらステラに言葉を返していく。いつの間にか復活していたモミが大声で叫ぶことまで対応し切れなかった…
~男性陣側~
後は洗い流すだけかと思ったぼっちにモミの大声が届いた。ぼっちだけではなく全員にだったが。
大声で返そうかと口を開くが止めてメッセージを開く。
「・・・どした?」
『なんかね、マーレの喘ぎ声が聞こえんだけど何してんの?いや、ナニしてたんだよね。ね?…ちょっと落ち着いてね御二人s…サイコ!ザク!!』
モビルスーツの名を叫ぶと同時にこちらまで響くほど大きな音が聞こえてくる。ため息を付きながらお湯でマーレの髪を梳きながら泡を流す。
『…げふ…あの二人容赦ねぇ…』
「あー・・・とりあえず・・・マーレを洗ってただけ」
『本当にそりだけ?』
「そりだけ・・・」
『つまんない!!』
あれ~?何で俺が悪いみたいな事言われてんの?俺が悪かったのかよ。
眉にしわ寄せたまま、泡を全部流した事を確認してから頭を撫でて終了にする。シートにお湯をかけて体内へと戻すと弱々しく腕を引っ張られる。
「ぼ、ぼっち様…すごく気持ちよかったです♪」
「・・・それは良かった」
「早く行きましょ」
急かされるまま付いて行く途中、横に居たモモンガさんを見るが骨の身体は洗いにくくアクターが悪戦苦闘していた。楽しそうであるが。
「・・・お先に」
湯船にゆっくりと浸かり、人間の限界で身体を伸ばしていく。マーレが息を吐きながらちょこんと隣に腰を降ろす。
「良いお湯ですね」
「・・・ああ」
酒があれば最高なんだけどねぇ…あ、そうだ。
何もない空間に手を突っ込んで木桶と徳利、お猪口を二つ取り出す。徳利から日本酒を注いで一気に喉に流し込む。透き通った喉越しに穏かな香りを楽しむ。
一息つくとマーレと目が合った。さすがにお酒は不味いので空間からビンラムネを取り出しもうひとつのお猪口に注いでマーレに渡す。嬉しそうな笑みを浮かべて何度も視線がお猪口とぼっちを往復する。
「良いんですか?」
「・・・(コクン)」
許可を取ったマーレは少しずつ少しずつ口に含んで飲み込む。その光景を微笑みながらぼっちは見続ける。
~女性陣側~
メッセージで話を聞いたモミはつまらなそうに舌打ちして希望に追いすがるような表情で見つめてきた二人と視線を合わせた。
「・・・マーレを洗ってただけだって」
「洗っていた…だけでありんすか」
「ほんとにほんと?」
「ほんとだって。足裏やおへその辺りが洗われてくすぐったかったんじゃないの」
「ああ…本当によかった」
「まことにそうでありんす…」
「まぁ、今はお湯に浸かりながらぼっち様にお酌されたジュースを飲んでるけどね」
「なんですってぁ!!」と叫ぶ二人を角を未だに洗い続けながら鼻で笑うアルベド。その反応にムスッとした表情で反応した。
「何が可笑しいのよ!?」
「だってそうでしょ?自分のお慕いしている方を信用しきれてないからそんな勘繰ったな妄想をしてしまうのでしょ」
「そんな事ないでありんす!!」
「それに至高の御方がそちらの趣味に目覚めていたとしても私達は咎めれる立場にないのよ。至高の御方がお望みになっているのだから」
誇らしげに守護者の姿勢のひとつを語るアルベドの顔はとても穏かそうで誇らしげだった。ステラが力強く頷き納得していたようだった。
と、そのとき男風呂の方から大声が…
「何をしている!?」
「いえ、ぼっち様の真似をして指だけでも変化させようかと」
「その触手で何をするつもりだ!!」
「身体の隅々まで洗おうかと。とても気持ち良さそうでしたし」
「うむ…確かに気持ち良さそうだったな…」
「な!おのれぇ…パンドラズ・アクター!!私のアインズ様にそのような事したらただでは済ませないわよ!!」
「さっきの言葉は何処行ったし…」
殺気を露に怒鳴り声を響かせるアルベドは「フン」と鼻を鳴らて一気に泡を流し、お風呂へと飛び込んだ。
奥でライオンの姿をしたゴーレムの目が光った…
~男性陣側~
アルベドの怒鳴り声が響き、アクターは普通に洗う事にして再びブラシを手に取る。
「マナー知らずに風呂に入る資格は無い!これは誅殺である!!」
誰だ今のは!?
聞き覚えあるような男の声が女風呂より響いてきた。皆が顔を顰めながら聞き入る。どうやらアルベドとシャルティアが迎撃しているようだが中々に硬いゴーレムのようだ。装備無しとは言え100レベルの守護者相手に戦うとは高レベルのゴーレムだな…
「あ、あの向こうから男の人の声がしたような…」
「女性専用ノ風呂ニ男性ノ領域守護者デショウカ?」
「いえ、あそこには領域守護者は居なかったはずだが…」
「この声は…るし★ふぁーさんだ」
ここには居ない仲間の声を聞いて懐かしむ。以前はいろんな事をする度に実験台にされたっけ。誤作動で襲ってくるゴーレムの群れと格闘したり、味方潰しとしか思えないような罠のテストとか。そのおかげで思い当たる節があったわけだが。
「るしさんが・・・お風呂場にゴーレム置いてた・・・懐かしいな」
「ご存知だったんですか?」
「・・・昔いろいろと」
思い出に浸るのも良いが一応突入準備した方が良いかな?
考えは同じだったらしくアインズが大きなため息を付きながら立ち上がる。
「アルベド殿!シャルティア殿!下がって!!ここは私の宝剣で」
あいつは風呂場まで剣を持ってくるのか。そんな感想を抱いた瞬間にモミの声がうっすらと聞こえてきた。
「輝ける、かの剣こそは、過去、現在、未来を通じ戦場に散っていく全てのつわもの達のいまわの際にいだく悲しくも尊き夢。その意志を誇りと掲げ、その信義を貫けとただし…」
とてつもなく嫌な予感がする。
ステラに与えた刀槍のなかにぼっちも気に入っている剣がある。ゴッズアイテムで自分のMPを消費して増幅し、相手にぶつける光り輝く剣…
「今、常勝の王は高らかに手に取る奇跡の真名を謳う、其は…」
「エクスカリバー!!」
「ヤメロー!!」
初めて大声を出した気がするがそんな事はどうでも良い。この後の片づけが大変そうだ…
痛くなってきた頭を押さえつつ被害に対する賠償をどうやって払うか頭を悩ます。