骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第101話 「王国の新たな敵」

 陽の日差しが街いっぱいに注がれる王都の昼頃。

 働いていた労働者はその手を止めて減りに減った胃袋に何かを入れようとそれぞれが思う食事を取る時間帯。いつものようにゆっくりと過ぎて行く時間の中に暗い影が落ちていた。

 つい数日前のとある噂。王族や貴族達は揃ってデマだと発表したが民衆はそれを信じずに面白おかしく噂を語る。

 王都『ヴァランシア宮殿』の一室に王女であるラナー王女に騎士のクライム、アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』のラキュースにイビルアイがテーブルを囲むように座っていた…クライムは護衛の為に座るではなくラナーの横に立っているが…。テーブルの上にはスコーンなどのお茶菓子と紅茶が入っているポッドが置かれている。だが、彼・彼女達はお茶会をするためだけに集まったわけではない。

 誰も口を開くことのなかった部屋の扉を開けて二人の人物が入って来た。『蒼の薔薇』と同じくアダマンタイト級冒険者チームの『漆黒の英雄』モモンと『美姫』ナーベである。

 

 「お待たせしてしまい申し訳ありません」

 「いえ、構いません。予定していた時間よりも早いぐらいです」

 「そう言って頂けると幸いです。急ぎの用件とのことでしたので早速本題に入りましょうか」

 「ええ。どうぞ」

 

 手で進められた席に腰を降ろす。ナーベは座る事無くモモンの斜め後ろで待機する。

 座ったことを確認したラナーは本題に入るべく口を開いた。

 

 「モモンさんは『デスナイト』と言うモンスターを知っておられますか?」

 「知識としては知っています。なんでも一体で国を滅ぼすほどの力があるとか」

 「その通りです。では『千年公』と名乗るゴブリンについては?」

 「『千年公』…いえ、存じませんが」

 

 ここで少しでも情報を持っていてくれたらどれだけ良かったかと思うが決して表情に出さないようにして頷いた。

 

 「『黒騎士』の噂はご存知ですか?」

 「最近は忙しかったもので噂などの収集が疎かになってましてね」

 「あら?結構有名な噂なのだけど」

 「ご多忙だったのなら知らなくても当然ですね」 

 

 今や王都だけでなく近隣の村にまで広がってしまった話題の噂を知らない事に首を傾げるラキュースだったが仮面の下で目をキラキラ輝かせているであろうイビルアイの言葉で黙る。

 

 「では、説明させて頂きます。噂とした事件を」

 

 事が起こったのは八日前の出来事だ。

 リットン伯がカッツェ平野に出発してから三日目に六大貴族のリットン伯が行方不明になったのが事件を知るきっかけだった。

 領地の者に聞けばカッツェ平野のアンデット討伐に10名ほどの兵士を連れて向かったとの事だ。伝令が王都に話を持ち帰りすぐに動いたのはボウロロープ候だった。同じ反国王派閥のメンバーだからか、手際の良い所を見せて自分の評価を上げようとしたのかは分からないが四日目以内に50名の兵士に30名以上の冒険者を用意して急ぎカッツェ平野へと向かった。

 現地に着いた五日目の昼頃には平野に到着したボウロロープ候達を出迎えたのは50以上の死体だった。ある者は潰され、ある者は切り裂かれ、王国の兵士も帝国の騎士も男も女も関係なく無残に殺された死体の山。

 その中で無傷のまま残された馬車の中を確認すると怪我ひとつ負っていないリットン伯が力無く座っていた。他にも馬車の荷台に詰め込まれるように乗せられていた兵士が二人に冒険者が三人の生存が確認された。

 帰還した生存者達によるとたった二体のアンデットに壊滅させられたとの事だった。

 2メートルもある大柄なアンデットの『デスナイト』と『デスナイト』に命令を下していた『千年公』。

  

 クライムが生き残った者から聞き取った『デスナイト』の事を書かれた資料をモモンとラキュースに渡す。

 身長や武器、目にも映らぬ速度で動くことや普通の武器程度では傷すら付けられないなど常識を逸脱した性能の事まで書かれている。ボウロロープ候を始め多くの者は信じていないようだったが…

 顎に手を当てて黙って聞いていたモモンの顔が上がる。 

 

 「私達への依頼はその『デスナイト』と『千年公』の討伐と言う事でしょうか?」

 「大まかにはそうです」

 「大まかと言う事は…他に何かあるのでしょうか?」

 「ボウロロープ候の提案で明日に250名の討伐隊を送り込む事となっております。『蒼の薔薇』と『漆黒』に依頼したいのは討伐隊と共に現地に行き討伐できるかの成否を見極め討伐隊が無理と判断した場合は敵の排除をおこなうことです」

 「別に討伐隊などではなく私とモモンさ―――んで片を付けれると思いますが」

 「そういう問題ではないのだナーベよ。ボウロロープ候は六大貴族の中でも大きな力を持つ。その彼が提案した事を王族と言えど無視して事を起こすわけにはいかないのだ」

 「差し出がましい事を言ってしまい申し訳ありませんモモンさ――ん」

 

 深々とモモンに頭を下げるナーベ。

 イビルアイさんに推薦された彼を呼んでよかったとラナーは思った。ヤルダバオトの事件の時にも顔を合わせたがあの時は彼にヤルダバオトとの一騎打ちを頼んだだけでそれだけ会話をした訳ではなかった。王都の貴族事情にも詳しく言わずにもそれだけの事を察する頭もある。依頼する相手としては良いがアルカード伯が居なければ彼を警戒していたかも知れない。

 本来なら今回の件はアルカード伯に頼もうと思っていた。アダマンタイト級の私兵を三人も持ち、あのヤルダバオトとも関係を持っているであろうアルカード伯なら良い手を思い付き、私達の地盤を磐石の物としてくれただろう。が、誰かが法国に聖獣を持っている事を告げたせいで今はそちらの対応に構っていて手が開かないのだ。王国的には法国との交流も大事であり、いちいち何かある度にアルカード伯に頼らなければならないなんて事実を他国に見せたくもない。

 

 「『デスナイト』の事については理解しましたが『千年公』と言う者の事が書かれていませんがこれは?」 

 

 資料を読み終えたモモンが疑問を口にした。これから討伐に赴くのなら相手情報を知っておいた方が良い事は理解している。だが…

 

 「千年公についてはリットン伯が口にした名前しか分かってないのです」

 「リットン伯からお話を伺いしても?」

 「それは無理でしょう。リットン伯は未だ原因不明の昏睡状態なのですから」

 「昏睡状態…では名前はどうやって?」

 「ずっと謳っているんです。『千年公は探してる。大事なハートを探してる。私は外れ次は誰…』と」

 

 不安感を煽る歌に皆が黙り奇妙な静けさが部屋を支配する。その中でラナーは真面目な表情でモモンとラキュースの顔を順番に見つめる。

 

 「このハートと言う物がなんなのかは分かりません。しかしそれを見つけるまで多くの犠牲が出ることは明らかです。王国としては彼らを野放しにする事は出来ません。少ない情報で申し訳ありませんが王都の民を救う為に依頼を受けてもらえますか?」

 

 頷く二人を見ると内心ほくそ笑んだ。

 これでまたあの人達の中で評価は高くなるだろうとこの場に居ないアルカードと隣に居るクライムを想い微笑む。

 

 

 

 王都から離れた小さな小屋は異常なほどの気配を漂わせていた。

 近付くだけで気分を害して体調を崩すほどである。幸い小屋は都市から離れた平地に冒険者などが休む為に作られたボロ小屋でほとんど人は近付かない。

 小屋の中には白いスーツを着こなした白い顔のゴブリンがだらだらと寝転びながら真紅の飴に包まれた林檎を食していた。シャリシャリなんて軽い音ではなくバリバリと骨を砕いているような音が響く。

 そのゴブリンを囲むように三体のデスナイトが鎮座していた。

 

 「…たべりゅ?…やらないけどね」

 

 別にアンデットだから食べる必要もなく食べる気もないデスナイトはただ見つめるだけで表情に変化は無い。つまらなさそうにデスナイトを見渡すとため息をつきつつ残っていた林檎飴を一気に飲み込む。

 

 「さぁてと待ってるのも飽きたなぁ…君らはさっさと殺したいのかなぁ?」

 「――」

 「そうだよねぇ」

 

 ふふふと可愛らしくゴブリンは嗤う。

 

 「いっぱい殺したいね。いっぱいいっぱい殺したいね。そして最後は殺されよう。悔いの残らないぐらいの殺し合いを演じてあっけなく死のう。蝶のように舞って蜂のように死のう」

 

 狂ったような笑いが小屋内に充満する。狂喜を得たデスナイトは嬉しそうに武器を手に掲げる。一時ではあるが主の命にしたがい死ぬ為に喜ぶ。

 


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