骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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前回のあらすじ

 ナザリックより使者が来て王国からも話し合いをする為に王家からラナー王女が行く事に。護衛は姫の専属騎士でありアルカード伯の養子であるクライムとぼっち(アルカード伯爵)が勤め、主要メンバーは三人のみで行く事が緊急貴族会議で決まった。


第106話 「帝国と王国からの使者」

 アウラが作った偽のナザリック大墳墓の玉座の間にてアインズはゆっくりと辺りを眺めていた。

 壁は磨きぬかれ鏡のように物を映す大理石で出来ており、床には漆で塗られた檜が使用されていた。左右には二列に整列したデスナイト総勢100体が待機している。

 息を吐きながらデミウルゴスが用意した人骨オンリーで作られた椅子に腰掛ける。あまり気分の良い物ではないがデミウルゴスが折角プレゼントしてくれたのだ。使わなければ勿体無い…そう思っていたのだが…

 

 「はぁ…」

 「失礼致します」

 

 肩を落としてため息を付いている時にステラが入ってきたので瞬時に堂々たる態度を取る。上に立つものとして先の落ち込んでいるような情けない態度を見せるわけにはいかない。

 

 「帝国のキャスターとセイバー、鮮血帝が到着。客間にて待って貰っております」

 「うむ。ご苦労」

 

 アルベドなどの守護者なら『勿体無きお言葉』と返してくるのだがぼっちを主としているステラは軽く頭を下げるだけで済ませた。アインズも咎める気はない。彼女はぼっちの騎士であり、忠誠を誓った臣下なのだ。それが仮初とは言えアインズを主と思えといわれて思うところはあるだろう。

 ここ玉座の間にはアルベドやデミウルゴスなどの第11階層以外の守護者は居らず、ステラとハイネがアインズの脇を固めることになっている。

 モミ曰くデミウルゴス(ヤルダバオト)とシャルティアを見せるわけにいかない。姿を大っぴらに見せてないとは言えもしもの事を考えてアルベドとコキュートスは待機。アウラ&マーレだと子供だと舐められる(モミはめんどくさいと辞退)ので騎士として見栄えの良いステラと使者として行った知恵者でもあるハイネになったのだ。

 

 「よくも…ンズ様に…態度を」

 

 隠し部屋から途切れ途切れだが怒気が含まれた声がする。こういう時は表情が分からない骸骨である事に感謝する。でなければどんな顔をしていたか分からない。対して怒気を向けられているステラは涼しい顔して受け流す。苦笑したハイネは紅茶を用意してアインズに渡す。受け取ると同時にメッセージが届いた。

 

 『アインズ様、ぼっち様がご到着なされました』

 

 

 

 

 王家で一番豪華な馬車に揺られるぼっちは涼しげな表情と裏腹に長時間揺られ、お尻の痛みを気付かれないようにするので手一杯で景色を眺める余裕など無かった。しかしラナーとクライムは普通に景色を見て驚いていた。

 

 「まさかこんな森の奥にこれほどの建造物が…」

 「技術力も王国とは桁が違いますね」

 

 トブの大森林と呼ばれる大森林地帯の奥深くに切り開けた場所があり、そこには王国の城壁よりも立派な城壁が建てられ、城壁上には鎧で身を固めたスケルトンが隊列を組んで辺りの警戒を行なっている。三人が乗っている馬車と荷物を積んだ二台の馬車の周りには30騎の骨の軍馬に跨る騎士風のスケルトンが護衛を勤めていた。

 門を潜ると墳墓らしき建物と何かの施設らしい建物が並んでいた。すべてに彫刻が施され、一軒一軒が芸術品のように美しかった。建物や城壁だけでも驚いたのに中にはワイバーンが20騎以上にスケルトルドラゴン、身体がルビーやサファイヤなどで出来ている宝石種と呼ばれる伝説にしか存在しないと言われたドラゴンが待機していた。

 

 「これほどのモンスターが従っているとなれば王国どころか帝国・法国を同時に制圧出来ますね」

 「…ゴクリ」

 

 余りの事に冷や汗を掻きながら喉を鳴らす。これで交渉決裂でもした時にはこれらから何としても姫を護らなければならない。自分の命を払っても無理だろう。ゆえに背筋が凍りつく。

 そんな事を露ほども気に留めていないぼっちはとっとと止まらないかなぁとしか思ってなかった。

 馬車が大きく揺れたことで止まった事を理解すると最初にぼっちが降りて形だけの警戒を行い、後方の警戒と言う事でクライムが最後でラナー王女が次に降りた。

 

 「お待ちしておりました。王国から長旅ご苦労様です」

 

 いつもの『~ッス』を付けずに礼儀正しく振舞うルプスレギナに驚く。ラナーは会釈をして軽い会話を始める。ぼっちは軽い話と思っているが実際は所々に含みを持たせて少しでも情報を得ようとしている。この事にルプスレギナもまったく気付かなかったが後に話を耳にしたアルベド・デミウルゴス・モミの三人は理解をしてラナーを高く評価したという。

 話中暇だった為にぼっちはクライムに少し見て来るとだけ言い残して散策する事に。もちろん頼りにしていたクライムは焦りから滝のような冷や汗を掻き始めた。ラナーはぼっちが離れても問題ないと判断したのと焦っているクライムを楽しみながら話を続ける。

 索敵能力を使用して周りにどのような物があるか確認しようとした時、少し離れた所に馬車が止まっている事に気付いた。ゆっくりと向かって行くと乗って来た馬車よりも豪華な馬車が止まっていた。ちかくには一人の女性が震えている身体を押さえ付ける様に腕を握り締め怯えていた。

 装備している漆黒の鎧は美術品としても美しく、それがただの飾りと言うわけでもなく機能性を持っている事は見て分かった。腰周りには鎧からコートのように布状の物が伸びており後ろを隠しているが正面からは短めのスカートにニーソの様な脚の防具で絶対領域が生まれており自然と目が行ってしまう。顔立ちは整っておりまさに美女と呼んで良いだろう。漆黒の鎧で身を固めている事から長く伸びた金色の髪が強調されて美しさが増している。

 なんでだろうか。そんな美女が心底怯えている所を見ているとぐっと来るものが…

 頭を左右に振って好からぬ考えを払って、アイテムボックスより状態異常を一時的に治めるアイテムを取り出す。このアイテムは一時的に止めるだけだが完全回復の物と違って使用する速度が速く戦闘中に使用するには向いているのだ。

 別にぼっちに何か状態異常が起こったのではなく彼女に状態異常を見つけたからだ。

 

 「・・・失礼」

 「だ、だれ!?何をするの!!」

 「・・・失礼と言った」

 

 音もなく近寄り、状態異常を確認した髪で隠してある右側の顔にアイテムを手に出して塗る。触られた事で気付いた女性は離れようとしたがぼっちはもう片方で腕を押さえてそんな事はさせなかった。塗り終えて手を離すと距離を取って武器を手にするが顔の異常に気付いて動きが止まる。

 

 「う、嘘…膿が引いている?…嘘…嘘!!」

 

 すぐにハンカチがぐっしょりと濡れるほど膿が出るのに今は完全に止まっている。険しかった表情が見る見るうちに驚きを含んではいるが喜んだ表情をしていた。

 

 「勝手な真似をしてすみません。その状態異常は女性にとっては耐え難いものだと思いましたので…」

 「い、いえ…」

 「本当なら完全に治せるアイテムがあるのですが手持ちに無くて」

 「治る…この腫れが治るのですか!?」

 「ええ、店の方に置いてはあるので…また機会があればお越しください」

 

 微笑んでその場を離れようとしたぼっちを彼女は途惑ったような表情で呼び止める。

 

 「待って!!」

 「なにか?」

 「名前を窺っておりませんので」

 「ああ、ヘルシングと言うお店でしt」

 「いえ、貴方のお名前を」

 「おお!自己紹介もまだでした。私はアルカード・ブラウニーと申します。商人上がりのしがない貴族ですよ」

 

 今度こそ離れるぼっちはラナーに早く合流しないとと早足で去って行く。

 

 「私はレイナース・ロックブルズ。必ずお伺いいたしますわ!!」

 

 彼女の声を背で受けながら手を振って答える。

 

 

 

 話を終えていたラナーにアルカードが合流した事で玉座の間に通される。

 概観もそうだったが内装もすばらしいほどの装飾品や美術品で囲まれ柱一つだけでも差を思い知らされる。そんな品を愛でる余裕もなくクライムは警戒に全神経を研ぎ澄ます。

 玉座の間の門が開かれ中に足を踏み込むとそこは絶望が詰っていた。

 左右に並ぶ100体ものデスナイト。そして英雄譚などで描かれる騎士をそのまま表したかのような人物が睨みを利かせていた。傷ひとつ無い鎧は光り輝き神々しくも思える。整った顔立ちに金色の髪が揺れている。ドレスを纏ったら御伽噺の姫みたいだがデスナイトより強烈な気配を放ってこちらを牽制している。距離が離れているのに一歩でも動いたら斬り付けられそうで動けない。

 この玉座の間には自分達以外に鮮血帝と呼ばれるバハルス帝国皇帝のジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスに帝国全軍に匹敵する戦力と称される魔法詠唱者のフールーダ・パラダイン、帝国最強の四騎士筆頭で『雷光』と二つ名を持つバジウッド・ペシュメルがその場に居た。会った事はなかったが有名なこの三人を知らないはずはなく、絵ではあるが顔を拝見したことは会った。

 ただ表情から緊張が読み取れる事から彼らもこの状況に怯んでいるのだろう。もしくは絶望を味わっているのだろう。

 しかしあの老人…フルーダは何故デスナイトをキラキラした少年のような眼差しで見ているのだろうか?こちらは恐怖しか…訂正しよう。仮面を外したアルカード伯もラナー王女も涼しい顔をしていましたね。お二人ともどれだけ心が強いのですか。こんな状況で冷や汗ひとつ掻かないなんて。

 ちなみに王国と帝国が持って来た品々は差があると知りつつも普通に渡した。

 

 「バハルス帝国の皇帝にリ・エステーゼ王国の姫様とは使者にしては豪華だな」

 

 玉座の間に腰掛けた奇妙な仮面を被り、ローブで身体全体を隠す大柄の男…アインズ・ウール・ゴウンが堂々とした態度で地に響くような声色で声を発した。

 ラナーは微笑み、ジルクニフは微笑もうとしているが冷や汗を掻いている事から作り物と言う事が薄っすらと読める表情を向ける。

 

 「本来ならこの地のことで話をする筈だったのだがどうやらこの地を巡って戦争を何度も繰り返しているらしいな」

 「ええ、悲しいことですが私達の王国と帝国とで多くの血を流してまいりました」

 「その結果、王国は衰弱して行っていますが」

 

 冷たい目だった。放った言葉はこちらを見下した一言だったがその瞳には侮る事無くこちらを…ラナー王女とアルカード伯を見極めようとすべての動きを見逃さまいとしていた。

 

 「そこでだ。我がナザリック大墳墓は次の戦で勝利した側と同盟を組もうと思う。勿論この地の権利は頂きたい。どうかな?」

 

 聞いてはいる様だがこの場でのその一言はもはや命令としか取れなかった。もし断りでもしたら…

 不安が胸を過ぎり左右に並ぶデスナイトを見つめる。

 ふいにクスリと笑った声が耳に入った。

 

 「ではご覧に入れましょう。ナザリック地下大墳墓が主であるアインズ・ウール・ゴウン殿が王国と同盟を結ぶ王国の勝利を」

 

 堂々と言い放ったアルカードは楽しそうに笑っていた。




ステラ 「何故私がぼっち様以外の下に付かねばならないのだ?」
アルベド「アインズ様にあのような態度を…」
クライム「堂々としているな」
ラナー 「アルカード伯は何らかの繋がりがあるから大丈夫でしょう」
アインズ「ぼっちさん自信満々だなぁ…」



ぼっち 「まぁ、俺が前線に出れば何とかなるんじゃね?」

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