骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 前回のあらすじ
 アルシェがナザリックでアインズのマナー教師をして怖がった………………以上。


第111話 「王国と帝国の戦:前編」

 王都リ・エステーゼより集結地点であるエ・ランテルを通過してカッツェ平野王国野営陣地に一頭の馬に跨った貴族が到着した。

 

 「どうどうどう・・・」

 

 王国兵士などが近くに居るからか荒々しく鼻息をする巨体の黒馬『黒王号』の頭を撫でながらぼっちは落ち着かせようとする。召喚者の意思を感じ取ってすぐに大人しくなった。

 黒王号を馬をとめる為に打ち込まれた杭に手綱を結びつける。

 ぼっちは王国貴族のアルカード伯爵なのだから誰かに任せれば良い。と、辺りの者は思うかも知れないが任せたらその相手がご臨終してしまう。死因は馬の蹴りに決まっている。

 陣の入り口を守っている兵士が顔を見て塞いでいた槍を退ける。この世界でも顔認証システムみたいな感覚を味わうとは思わなかった。

 垂れ幕の中にはレエブン候が机の上に地図を広げて色別された駒みたいなのを並べて隣の武官と真面目に話しててこちらに気付いてない。この戦ではレエブン候が総指揮官であるからいろいろ準備や策を講じなければならないだろうし邪魔しちゃ悪いから用意されていた隅っこの椅子に腰掛けた。

 さぁて、暇です。一応集合時間の三十分前に来たのだがラナーちゃんもガゼフ戦士長もまだだし、レエブン候は構ってくれ無さそうだし…暇だ~。クライム君でも居れば話は違うんだろうけど彼はここには来ないしなぁ…

 ボウロロープ候の発言によりぼっちが前線への参加を拒否られた上に部隊も後方支援と言うか予備部隊みたいな扱いになっている。その部隊には槍兵100名、騎馬47騎、弓兵100名、弓を装備した荷馬車の近くに待機している老人100名と合計347名である。騎兵の中にはクライムとラナーちゃんから要請されたブレインが含まれている。

 まさかあのお爺さん達が参加させて欲しいと懇願してきた時はビックリしたなぁ。何でもあれから弓や槍の使い方を習ったらしく武器まで持参してきた。戦闘になった際の策や準備した道具も渡したから大丈夫だと思うけど…

 あまりに暇すぎて誰も見てない事を確認してアイテムボックスよりチェス盤を取り出してぼっちチェスをする。間もなくして多くの貴族にガゼフ戦士長を連れた国王さんが到着した。

 

 

 

 ~ラナーside~

 

 ラナーは心配そうにカッツァ平野を見つめていた。

 毎年行なわれる王国と帝国の戦はもはや恒例行事と言ってもいいだろう。しかし今回は規模が違った。いつもなら王国20万と帝国4万だが今日は王国30万に帝国8万は居る。これも国ひとつ滅ぼせると言われるデスナイトを百体も使役しているアインズ・ウール・ゴウンとの同盟と言う餌が効いている結果だろう。

 王国側の陣の中には兵士や領民を連れて来た貴族達が腰掛けて戦場を見つめていた。

 ………三名を除いて。

 ひとりはこの戦の総指揮を任されたレエブン候であり、領地より連れて来た武官と共に兵士の配置を確めていた。残る二人は…

 

 「では、私から」

 「ほう。キングから動かすのか」

 「王様から動かないと、部下がついてこないでしょう?」

 「ははは、耳が痛いな」

 

 相手は例年の二倍の戦力と帝国最強の四騎士と直属部隊までも動員されていると言うのに何をのんきにチェスをしているのだろうか。

 アルカード伯がキングを動かし、国王で父であるランポッサⅢ世がポーンを動かす。

 チェスをする前に「どうされるのですか?」と質問したところ「もう何もしない」そうだ。何でも「合戦そのものはこれまで積んだ事の帰結よ。合戦に至るまでに何をするかが俺は戦だと思っている」との事だ。

 よく分からない。私の考えではアルカード伯はヤルダバオトにシャルティア・ブラッドフォールン、そしてアインズ・ウール・ゴウンと繋がっている。の筈だった。ここまでの領地から兵士の招集に武器・防具の準備などどうも本当に戦争をする気らしい。

 もしも負けそうなときはアインズに力を借りるのだろうか?

 分からない。もしかしたらこれはアインズがアルカード伯を試す試験か何かではないのか?そんな疑いすら持ち始めている。

 頼みの綱であるアルカード伯は陣で、領地の兵士達は中央後方で待機。

 何とかお父様にアルカード伯を前線へと話を持って行こうとしたがボウロロープ候の貴族派閥とアルカード伯に付いた貴族たちがもしも何かあったらと案を却下したのだ。

 ため息を付いている間に戦闘が始まったらしく辺りが騒がしくなった。ただ戦場は騒がしくなったのは戦いが始まったからだろうが始まったばかりの陣で慌しくなった事に不安を覚えた。振り返るとレエブン候と武官、近くに居たガゼフが険しい顔をしていた。

 

 

 

 ~ボウロロープside~

 

 最前線に陣取った貴族派閥は殺気立っていた。

 ここは彼らにとっての天王山であった。ここで武勇を立てれば貴族派閥の支持率は上がり、何も出来ないであろうアルカードの支持は下がる。

 特にボウロロープ候にとっては大事すぎる局面である。戦で負ければ今までのすべてを失い、戦に勝っても失敗すれば貴族派閥はすべてアルカード伯へと移るだろう。

 最前線で辺りを見渡すと貴族達がどうするかと視線を送ってくる。すでに貴族派閥の貴族達には言ってある。ここで敵を討てば再起を図ることも出来るだろう。

 元の影響力を取り戻した暁にはアルカード伯をどうにかするのでなく第一王子を押して国王の座につけよう。どんな手段を用いてでも。

 

 「よし、行くか」

 「はぁ?ボウロロープ様、如何なさるのつもりですか!?」

 「貴様達は黙って付いて来い!!」

 

 呟いた一言に反応した近くに居た兵士を黙らせ指揮棒を前に突き出し進軍を命ずる。総指揮であるレイブンの指示は来てないが構うものか。手柄を立てればこっちのものだ!!

 ボウロロープの部隊を先頭に貴族派閥の戦力が動き出す。次に動いたのはレエブンとラナーと仲間になってくれた者を失った第二王子であるザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフである。王座を狙う彼もまたボウロロープ候と同じくアルカード伯の脅威に晒されていた。ここで功を上げなければ…とボウロロープ候と立場まで一緒になっているのだ。

 

 「何を勝手な…我々も続くぞ!!ボウロロープ候に先を越されるな!!」

 

 我先にと王国最前線の部隊が動き出す。

 統制を取れた動きではなくアリの行列のようにただ先へ進むだけの前進。策略も奇策も謀略も何もない無鉄砲で士気も低い集団が我武者羅に突っ込んで行く。

 この事に一番焦ったのは総指揮のレエブン候ではなくボウロロープ候だった。ここで第二王子に手柄でも立てられたら王派閥はそちらを全面的に発表する。そうなれば第一王子を押している貴族派閥はまた力を失ってしまう。

 

 「手柄を横取りされるな!!走れ!走らんか!!敵に向かって突っ込め!!」

 

 もはや初期のころの冷静さは欠片もなくしたボウロロープ候は指揮棒を何度も何度も突き出して自ら先陣を切って行く。

 

 

 

 ~ジルクニフside~

 

 配置を確認するジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは満足そうに頷く。

 地図上に並べられた駒はこの戦場を表しており配置が一目瞭然だった。王国側も同じような事をしているだろうが王国と帝国では情報の収集方法が違っていた。王国は視力の良い者の視認か偵察を行なった兵の証言で成り立っている。対して帝国はジルクニフの右隣に座るフールーダ・パラダインが創設に関わった帝国魔法学院で育てられた魔法詠唱者がフライで飛び、全体を見渡して報告してくる。平面ではなく上からの全体図だからこそより正確な配置が分かる。

 王国は半円状に陣形を整えてより毎年のように防御に徹する気であろう。対して帝国は大きく三つの大部隊に分けて鶴翼の陣のように両端を伸ばしている。

 中央を担当する部隊には四騎士の中で最高の防御力を誇る『不動』のナザミ・エネックが。左翼には最高の攻撃力を持つ『重爆』のレイナーズ・ロックブルズ。右翼には『激風』のニンブル・アーク・デイル・アノック。本陣には四騎士筆頭の『雷光』のバジウッド・ペシュメルがそれぞれの位置で待機していた。

 

 「にしても連中は例年通り動かないつもりですかね?」

 

 皇帝に対して軽い口調で声をかけたバジウッドに対して誰一人注意することはなかった。四騎士とは家柄や皇帝に対する忠誠心で選んだ者ではなく実力のみで選んだ。その為に忠誠心皆無の者も居るぐらいだが皇帝自身もそのことを最初から理解しており別段気にしてなかった。すでに手は打ってあるし。

 

 「だろうな。が、今回は特に攻め難いな」

 「ですねぇ。特にここが…ですね」

 

 指差した先はアルカードの部隊が待機している地点だった。魔法詠唱者の報告ではブレイン・アングラウスを確認したとのことだ。

 ガゼフ・ストロノームと互角の腕を持つと言われるブレイン・アングラウスの名は実力と共に帝国まで轟いていた。過去にガゼフ戦士長に当時の四騎士の内の二人を討ち取られた事があり、同等と言われているブレインも同様のことが出来るだろうと推測している。四騎士の実力はオリハルコン級で向こうはアダマンタイト級では結果は見えている。

 

 「ここに構えているのはアルカード伯だったな」

 「ええ、詠唱者に奴からの報告ではそうなってますね。黒剣が逆さまになってる旗印も確認したんでしょ?」

 「…ふー。まったく厄介な相手を厄介な位置に配置したものだ」

 「前線に居るのならまだしも、後方に居るなんてこちらの手を見てから動かす気満々でしょうからね。それにガゼフ・ストロノーフも出てくるだろうからブレインのみに気をとられる訳にも行きませんと」

 「この戦が終わったらアルカード伯爵だけでも引き抜けないものかな」

 「それは…おっと、動きがあったようですね」

 

 陣の外が騒がしくなった事を察したバジウッドが入り口を見つめる。幕を開けてローブを纏った魔法詠唱者が片膝を付いて頭を下げる。

 

 「ご報告!敵正面部隊が前進を開始しました」

 「数は?」

 「中央戦力のほとんどですが隊列などは整えずの特攻のように見受けられます!」

 

 はて?と首を傾げる。

 このタイミングでの進撃に意味はあるのか?と思考を働かせる。

 数に押しての攻勢…ならば全軍で動くべきだし中央だけと言うのが理解しがたい。

 罠、もしくは挑発…その可能性はあるだろうがその後は何をする気だ?やはりこれも無いか。

 幾つか手段を考えたがこれだ!と納得できる案は無かった。もしかしてと疑問を口にする。

 

 「中央最前線に出ていたのは何処の者だ?」

 「ハッ!旗印からして六大貴族のボウロロープ侯爵と第二王子の部隊かと」

 

 疑問が解消された。

 王国からの報告では両者ともアルカード伯に手柄を独占されて功を焦っている節があると聞いていた。

 ニヤリと頬を緩ませて立ち上がる。

 

 「右翼左翼主力はそのまま待機させ予備部隊5千ずつ中央の4万と合流させて向かい討たせろ。バジウッドも討って出よ。ただしブレインが出てくるようなら引いて構わない」

 「了解しました陛下。では、ひと働きしてきますか!」

 

 まさか策を用いずとも勝てる戦になるとは。

 

 「まったく王国の者達は無能しかいないのか?これでは折角用意した策が無駄になってしまうではないか」

 

 すでに勝った気で居るジルニクスは背もたれに全体重を預けて楽な姿勢を取る。後は報告を待てば良い。

 

 

 

 ~レエブンside~

 

 「ご報告!中央劣勢」

 「――男爵が討ち死に!!」

 

 くそッ!!何でこうなったのだ!!

 口に出すことは無く苛立ちを募らせて行く。ボウロロープ候の暴走が貴族派閥、第二王子、中央最前線部隊に広がって中央は大惨事となっていた。領民で結成されたほとんどの部隊は士気が低く、戦闘技術も低い事は重々理解している。ゆえに当初の作戦では兵士を前面に押し出して領民の部隊には支援と弱っている戦線の維持に回そうと話していたのにそれらが突出した結果、錬度も士気も高い帝国騎士を集中され部隊は壊滅へと向かっている。援軍を向かわせたいが両翼に部隊を展開させられている為に動かせない。

 歯軋りをしながら頼みの綱であるアルカード伯を見つめると未だにクイーンとナイトを使わずに王とチェスを打っていた。王は兵からの報告を聞くたびにうろたえているようだが伯爵には一切焦りの色は見えなかった。まだ伯爵の部隊は規律を守って動いてないのは良い。

 また陣の入り口から兵士が入って来た。今度は良い知らせであってくれと願うがいとも簡単に裏切られる。

 

 「ご報告!ぼ、ぼ、ボウロロープ候…討ち死に!!」

 「なぁ!?」

 「ボウロロープ候が…」

 

 ここにいる貴族達がざわめく。

 前線の兵士は統制を失い敗走を開始し、主だった突撃をした貴族が次々討ち取られて行く。士気の低下が中央だけでなく全体に広がって行く。

 悪い事の後には悪い事が続くものだ。

 

 「ご、ご報告!!」

 「馬鹿者!!陛下の御前だぞ!!馬から降りないか!!」

 

 あまりに慌てていたのか馬から降りることすら忘れていた兵士をガゼフが怒鳴りつける。頭を下げてから馬から飛び降りた兵士は膝を付いて頭を下げる。

 

 「ザナック第二王子が…戦死なされました…」

 

 最悪だ。もうこれ以上ないほどの最悪の情報だ。もうこの戦場を立て直すことは私では無理だ。ご子息の戦死した報告を聞いた王も放心した表情で身体の力が抜けていた。

 

 「チェック。次は王の手番ですよ」

 「あ…ああ…」

 

 放心状態の王に対してアルカード伯爵は次の手を催促した。

 

 「貴方は何を考えているんですか!!状況を、戦況を理解しているんですか!?」

 「報告は私も聞いているよ」

 「だったら何を呑気に…」

 「総大将が一々うろたえている様じゃいけませんよ」

 

 チェス盤から目を離して私と相対する。するとブルムラシュー侯が駆け寄ってくる。

 

 「レエブン候。もはやこれまで撤退しましょう」

 「ブルムラシュー候…」

 「一度体勢を立て直すべきだ。もしここで王の身に何かあればそれこそ御仕舞だ。私が殿を勤めましょう」

 

 違和感を感じる。前からこの者の性格は分かっているがこのような自己犠牲を行なうような人物ではない。

 

 「売国奴は黙っていようか」

 「な、何を…」

 「すでにラナー王女が調べきっているよ」

 「とは言ってもアルカード伯に疑いの事を話して帝国と接触しているルートを調べて貰ったのですけど…ブルムラシュー候が帝国との連絡係に使っていた者はラキュース達に捕らえて貰いました。今頃すべてを話しきっている頃でしょう」

 

 完全に血の気の引いた顔色になったブルムラシュー候は言い訳をする事無くその場に座り込んだ。前々から情報を売っていたのは知っていたから重要な情報は流さないようにしていたがそこまで帝国よりになっていた事は知らなかった。裏切り者は捕らえたが状況が変わるわけではない。

 

 「レエブン候」

 「…なんでしょうかアルカード伯」

 「総指揮権をお譲り頂けないでしょうか?」

 「何ですと!?」

 

 この状況でまだ戦うというのか?ありえない。 

 

 「どのみちここで敗すればナザリックと手を組んだ帝国に攻められるだろう。あの100ものデスナイトを中心に。ならば生き残るにはここで戦争するしかない」

 「中央戦力はすでに敗走を始めているというのに真正面から戦うと言うのですか!?」

 「ええ、これで我々が勝てたら奇跡ですね」

 「アルカード伯!それはどういう事ですか」

 「メシアでさえ奇跡を起こさなければ認めてもらえなかった。だとすれば我々にも奇跡は必要でしょう」

 「奇跡は易々と起こらないからこそ奇跡と言われるのだ。ここは撤退を…」

 

 アルカード伯の言葉に苛立ちを隠せなくなったレエブン候は撤退を宣言しようとした。完全に言い切る前にアルカード伯に鞘から抜かれた刀を向けられた。周りの衛兵やガゼフ戦士長が王を守るように動く。

 刃は突き立てられることはなかった。

 なぜなら即座に刃と持ち手の位置を入れ替えこちらに持ち手を差し出したのだ。刃は伯の首元に当てられていた。

 

 「すでに退路は断たれた。この私抜きで勝てると言うのなら……誰でも良い、私を討て!!」

 

 その言葉にその場に居た全員が固まった。私は勿論、ガゼフ戦士長もラナー王女も目を見開いて指ひとつ動かせなかった。

 

 「この戦場に立ったからには選択肢は二つしかない。ここで王国と共に死ぬか。私と共に生きるかだ!!」

 




 ボロ候&ザナック第二王子退場

 ラナー&レエブン「この状況で何を…」

 アルカード:ぼっち(あの台詞が言えた♪)ドヤァ!!
          
 後半へ続く…
 

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