骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 前回のあらすじ  

 冒険者組合長であるアインザックと話したアインズはドワーフに興味を持ったようだ。


第119話 「至高の二人はハイキングへ。そして加速する勘違い」

 アインズは険しい山々を見上げて息を付く。

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国の国王で知られているアインズはドワーフ王国と友好関係を気付く為にこのアゼルリシア山脈へと足を踏み入れたのだ。

 王としての威厳を示す為に1000を超える軍勢を従えて山へと向かう…

 

 

 

 予定だった。

 

 

 

 「どうしましたアインズ様?」

 「い、いや…なんでもない」

 

 足を止めてボーと眺めていたアインズを心配して横を並ぶアルベドが声をかけてきた。短く受け答えをして前を見つめる。

 先頭を警戒するように辺りを睨んでいる完全武装したシャルティアとルプスレギナ・ベータ、後方を銃器を構えたシズにナーベが歩いていた。

 前に冒険者組合長などを含んだ話し合いの時にハイキングしましょうと言われたがまさか本当にハイキングするとは思わなかった。人数は合計8人だけであるが到着前にはゲートを作り、ナザリックより軍勢を呼ぶつもりだ。

 

 「シャルティアよ。そこまで気張る必要はないぞ」

 「はっ!!」

 

 完全武装を命じつけてからはやけに張り切っており、周囲の偵察をぼっちさんとアウラが行なっているから大丈夫だと言うのに…いや、もしもと言う事がある。油断しない為にはこのままの方が良いのか。

 そう思っているとシャルティアがピクンと動く。ゴッズアイテムであるスポイトランスを構えて横の岩場を睨みつける。

 

 「出てくるでありんすよ」

 「ちぇ、やっぱりばれちゃったか」

 

 岩場の影から出てきたのは残念そうに笑うアウラだった。相手がアウラだと分かったシャルティアはため息をつきつつ呆れた視線を向ける。

 

 「まったく何をやってるでありんすか。気付かないと思いんしたか?」

 「だよね~」

 「それで気付かないって警戒している意味がありんせんではありんせんか」

 

 得意げにアウラに告げているシャルティアの背後にある地面が形を変えて人型をとり始める。アルベドはアインズを守るように前に出るが笑うのを必死に堪えようとしているルプスレギナの態度から敵ではない事は理解出来た。形を整えた人型…ぼっちは顔をシャルティアの耳近くまで寄せる。

 

 「後ろをバックに」

 「ひぃやぁあああ!?」

 

 驚きのあまりに飛び退き転びそうになる。その光景を見たルプスレギナは堪えきれなくなり爆笑すると予想通りに思いっきりナーベに頭を叩かれた。

 今回ここに来たのはナーベラル・ガンマではなくナーベなのだ。これはアダマンタイト級冒険者であるモモンと友好関係を持っているというアピールの為に冒険者ナーベの服装で居るのだ。

 

 「やったすねぼっち様」

 「・・・(コクン)」

 「至高の御方になんて口の利き方を」

 「待つっすナーちゃん!ぼっち様がこのハイキング中はこの口調で良いって仰られたんすよ」

 「そうなのですかぼっち様」

 「ん・・・無礼講」

 

 その言葉にアルベドがピクリと反応する。

 

 「ああああ、アインズ様に対しても無礼講で宜しいのでしょうか!?」

 「…暴走しないと言うのなら王国に着くまでの間は許可しよう」

 「ででで、では!!」

 

 許可を得て最初に行なった行動はアインズの腕をとって自分の腕を絡めることだった。嬉しそうに抱き締めるアルベドにアインズは恥かしそうに頬を掻く。

 微笑ましく思い笑みを向けているとアサルトライフルを取り出したシズがゆっくりと近付いてくる。

 

 「…ぼっち様はドワーフの国で何をなさるのですか?」

 「んー・・・ステーキ」

 「はい?」

 「フロスト・・・ドラゴンの・・・ステーキ・・・作る」

 「ではいっぱい捕まえますね」

 「私も…頑張る」

 「って!!アウラもシズも何ぼっち様の腕に抱きついているの!!」

 「…無礼講だから」

 「そう、無礼講。無礼講」

 「くぅうううう、早く私も抱きついていれば…」

 

 悔しそうに歯軋りをするシャルティアの横で自分もなにかしたいのだが思い当たらないナーベであった。

 

 「それにしてもぼっち様のお弁当楽しみです♪」

 「私もでありんす」

 

 その発言に気分良くしたぼっちは笑みを浮かべて山を登る。

 

 

 

 一方その頃ナザリックでは執務室として一時的にだが使われている部屋に残っている守護者達が集まっていた。

 喜々とした表情で語っているデミウルゴスに、興奮気味に頷くコキュートスとマーレを余所にあくびが出そうなのをかみ殺す。

 モミはここに来たのはステラが報告書の提出を渋ったからだ。いつもならギルド長のアインズ様、もしくは守護者統括であるアルベドに出すのだが数日に渡り二人とも居ない。代わりに守護者統括代行として選ばれたのがデミウルゴス。デミウルゴスとステラの相性は最悪で下手したらその場で戦闘を行なうほどだ。唯一止める発言力を持つ至高の御方二人が居ないんじゃあ仕方がないと来たわけだが、何故かその場で至高の御方を称えるような話し合いが行なわれており、どうでも良かったのだが巻き込まれてしまったのだ。

 内容は前の王国と帝国の戦についてだった。

 

 「少シ気ニナッテイタノダガドウシテアノヨウナ者共ヲ使ワレタノカ?私ノ時ノヨウニ制限ガアッタ訳デハナイ。ナラバシャルティアト戦ッテ実力ヲ見セ付ケタボッチ様ガ出テモ良カッタノデハ?」

 「ぼ、僕も思ってました。ぼっち様は戦いが好きだから出るんだろうと」

 

 二人の疑問にデミウルゴスは頬を歪ませた笑みを浮かべて答える。

 

 「確かに、ぼっち様が全力全開で殴り飛ばせば問答無用で片が付きますけど、それでは王国と同盟する意味がありません。腐敗は消えていませんし、なによりも利用価値がない」

 「デハ最初ノ貴族達ノ突撃ハボッチ様ノ策」

 「まず間違いないでしょう。方法は検討もつきませんが流石はぼっち様」

 

 (…あー、また勘違いが。なんだかんだ成功しているぼっちさんを妬んだ奴らが功を焦って自爆しただけなのにね)

 

 「今回の戦争で特に肝心なのは、己が受け取った余分な地位を別の者に引き継がせた事です」

 「そ、そのぉ…地位はあったほうが良いんじゃないんでしょうか?その方がいろいろやり易そうですけど…」

 「ぼっち様は吸血鬼故に不老ですし、何時までも表舞台に居ては、今後の世界征服に支障が出ます。ならばこそ、王家から独立権を貰い、領地に引き籠る事で様々な問題は解決するのです。

 最終的には自領の後継者なんて、老人のふりをして指名してしまえばいいですし、なんなら指名した後継者に成り代わってもいい。

 そうして、影から王国を支配する事に成功しているのですよ」

 「そ、そうだったんですね。流石はぼっち様です」

 

 (役職で仕事が増えるし、立場的に自由に行動できなくなるから渡しただけなんだって…)

 

 興奮気味だったデミウルゴスは少し落ち着こうと、机の上に置かれた紅茶を口に含む。

 

 「にしても至高の御方々は誠に素晴らしい」

 

 今度はなんだ?と呆れ顔を向けるが気付かれずに二人が聞く体勢を取る。

 

 「アインズ様が冒険者をしていらっしゃったのはこの日の為だったとは」

 「…どゆこと?」

 「アインズ様は冒険者モモンとして活躍なされた。その結果、貴族から庶民、同業の冒険者全てから信頼と信用を得ている。我々のような異形種の集団は人間種には疎まれる。アンデットともなれば尚更なのだろう。しかしアンデットで魔導国の王であるアインズ様とアダマンタイト級冒険者モモンが友好関係となれば」

 「ソレホド警戒シナクナル…ムシロ自ラ近ヅイテクルト」

 「あの頃からもうアインズ様の中には今日という日まですべて計画されていたのですか」

 

 (…はぁ?無い無いそんな事。ナーベラルがナーベの服装なのは着替えさせるよりも、そのまま行った方が早かったからでアピールはついでだってば)

 

 アイテムで起こらないはずの頭痛を感じながらモミは話を聞いていた。こういう見方をしていると知っておいたほうがフォローがしやすい場合があるのだ。

 

 「そういえば何でアルベドさんまで連れて行ったのでしょうか?」

 「フム。シズハ武装的ニ対空要員デアウラハ索敵、シャルティアハ矛トシテダロウカラヤハリ盾トシテデハナイカ?」

 「それが妥当と言う所でしょう。交渉事は自ら行なうとアインズ様も仰ってましたし…」

 「…」

 

 ため息を着いて渡しそびれていた報告書を渡してさっさと部屋をあとにした。

 まったくあの男共は…好いた男女を一緒に居させたいって言う気持ちには気付かないのかなぁ…

 呆れた表情のままモミはぼっち専用の冷蔵庫から食べ物を漁ろうとキッチンへ向かうのであった…




 
 APOCRYPHA様よりデミデミの台詞使わせて頂きました♪
 ありがとう御座います。

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