骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第131話 「勝利の美酒と這い寄る混沌」

 「我がアインズ・ウール・ゴウン魔導国とクアゴア・ドワーフとの条約締結した今日、この日に諸君らと祝いの席を持てた事を大変喜ばしく想う。長々話すのもなんだから今日はこれぐらいにして皆で盛大に祝ってくれ。

 乾杯」

 

 アインズがワインが注がれたグラスを掲げると同時に元フロスト・ドラゴンの巣であり、現ドワーフ・クアゴア中立地帯であるフェオ・ベルカナの王宮には数多くのドワーフとクアゴア達が集まっていた。

 

 種族の解放という英雄行為を行なったアインズ・ウール・ゴウン魔導国との条約締結は、何の問題も起こらず受け入れられた。中にはアンデットを怖がって反対する者も少数ではあったが存在した。しかしフロスト・ドラゴンを有無を言わさず従えたアインズ一行との条約締結に主だってNOとは言えずに飲んだ訳だが。

 

 クアゴアとも条約を締結した。この場は条約締結と彼らの解放された日を祝う席である。なおフロスト・ドラゴンは条約締結ではなく隷属として扱う事となった。ヘジンマールを除く十七匹のうち十四匹はアウラに送り、ぼっち…アルカード・ブラウニーに幼いフロスト・ドラゴン三匹がつく事になっている。

 

 所々でクアゴアとドワーフの喧騒が聞こえるが憎しみ合うというよりは互いに喜びあっているというのが正しいだろう。長きに渡り殺しあっていた種族同士というよりはようやく解放された者同士の感情を表に出していた。

 

 調理された肉を頬張り、酒を飲み干す。その様子を眺めて微笑みを漏らす。

 

 「良かったのですか?」

 

 隣に控えていたアルベドの言葉に首を傾げつつ振り向く。すでに防具を脱いでおり、純白のドレス姿で寄り添っていた。その表情はあまり優れたものではなかったが。

 

 「どういう事だアルベドよ」

 「今回の目的であるドワーフとの関係を持つことが出来ました。それもクアゴアともフロスト・ドラゴンとも」

 「なら良いではないか。何が不満なのだ?」

 「アインズ様に不満など…」

 「良い、申せ」

 「ハッ!今回の成果はアインズ様のやり方と言うよりはぼっち様のやり方です」

 

 それがどうしたと聞きたかった。確かに自分だったら別の方法をとっていたかも知れない。いや、今回のようにはならなかっただろう。確かにアルベドが言うようにリ・エステーゼやアルカード領でぼっちが行なった事に似ている。

 

 「これではまるでぼっち様のやり方を模倣しているようではありませんか」

 「確かにぼっちさんのやり方に酷似しているな。だがそれに何の問題があるんだ?」

 「至高の御方で絶対的な支配者がぼっち様の模倣されるなど…ぼっち様より下に見られる事になりかねません。ここはアインズ様が上であると示されたほうが…」

 「もう良い…」

 「はぁ?ハ、ハッ!!」

 「お前の気持ちはよく分かった。だが私はぼっちさんを下だと思った事はない。それよりもより効率の良いやり方で事を成す方が最善だろう」

 

 納得はしていないようだったが頷くしかなく俯く。そんなアルベドに杯を渡す。顔を上げた事で困った表情を確認してワインの入ったビンを傾ける。

 

 「そ、そんなアインズ様自ら!?」

 「嫌か?」

 「そそそそs、そのような事は…い、頂きます」

 

 ワインを注いで一口含む。パンドラズ・アクターに作らせたアイテムで精神の安定化を解除している為に酔いで頬がほんのり赤くなる。アルベドの場合は別で赤くなっているような気がするが。

 

 微笑みつつ辺りを見渡す。 

 酒を飲んで騒ぐドワーフ・クアゴア達。

 肉を取り合うシャルティアとアウラ。

 少し距離を置いて護衛しながら食事をしているナーベラルにルプスレギナ。

 黙々とぼっちの横で上機嫌で料理を口に含むシズ。

 そして最初に襲い掛かってきたフロスト・ドラゴンを楽しそうに調理しているぼっちさん…。

 

 フロスト・ドラゴンの死体の片方が欲しいと言ってきた時はまさか料理するとは思ってなかった。

 

 鳥肉に近かったらしくそのほとんどが鳥と同じ調理をされた。

 ありえないほど大きな手羽先に焼き鳥、から揚げ、竜田揚げ、甘辛煮、ソテーなど量があるのでいろんな料理が並んでいた。

 

 それらに舌鼓を打ちながら次なる事を思案する。

 

 「次は…帝国かな」

 

 このときはまだ皇帝も帝国がアインズ・ウール・ゴウン魔導国に狙われているとは気付いていなかった…。

 

 

 

 デミウルゴスは安らかな笑みを浮かべてベッドに横になった。

 

 最近の生活はとても充実している。アインズ様が居ないナザリックの管理運営を任されて一日忙しく働きまわっている。本当は一緒について行きたい気持ちもある。が、『ナザリックを任せられるものは数少ない。任せるぞデミウルゴス』とアインズ様直々に言われれば気持ちが高ぶりやりがいも大きくなる。

 

 アイテムを使っている為に身体を休める必要はないのだが休みを取れと言われているのでアイテムを解除して睡眠をとる。意識がまどろみの中へと埋まっていく…。

 

 …

 ……

 ………

 

 ちゃらら~ちゃららららら~ららら~

 

 和風系の軽快かつ爽快な音楽が大音量で流される。何事かと飛び起きるとどうやら隣の執務室でなっているようだった。執務を行なう為にアインズ様より与えられた執務室には何時誰が来るか分からないので鍵をかけておらず、誰でも入れるようになっている。しかし用があるならノックがあって然るべきである。そっと寝室の扉より繋がっている執務室を覗き込む。

 

 執務用デスクの前にコンロ付きの簡易な調理場が設置されていた。その前には四名の人影が…。

 

 「はぁ!!」

 

 胡桃を砕くように卵を割って中身をボウルに入れるセバス・チャン。

 

 「よっと」

 

 手にしていた細長い棒を手に取ると先程の卵を勢い良くかき混ぜるシュバリエ・ハイネンス。

 

 「りゃああああ!!」

 

 口で結んであった紐を解いて中身のハムを取り出し、葱と一緒に刻んでいくシュバリエ・ステラ。

 

 「どうりゃ!ほりゃ!うおおおおおお!!」

 

 米に卵、刻んだ具財に調味料を入れた中華なべを普通に炒めながら混ぜているのに、声だけは大仰なモミ・シュバリエ。

 

 事態を飲み込めないデミウルゴスだったが警戒心の欠片も見せずそっと扉を開けて近付いて行く。今も炒め続けているモミの後頭部へと手を伸ばしてフライパンへ叩き込むように力を加える。

 

 「執務室で何をしているんだ君は!!」

 「ドワッジイイイイ!?」

 

 あまりの熱さで飛び退こうとするが逃がさないように押し付ける。その光景に驚く事無く周りの皆はただ見続ける。

 

 「なに執務室に忍び込んでスタイリッシュにチャーハン作ってるんだ君達は!?

  兎も角その演奏を止めたまえ!こんな夜中に迷惑だろう!!」

 

 言われるがまま楽器を担いでここまで来た第十一階層のナンバーズは演奏を止めて帰っていく。

 

 「と言うか本当になにをしているのかね」

 「「モミ様に(姉さんに)頼まれたので」」

 「貴方に嫌がらせが出来ると聞いて」

 「ステラは置いといて何のつもりですかモミ」

 

 やっとの事でフライパンから顔を上げれたモミは顔に付いたチャーハンをつまみながら答える。

 

 「この時間帯って…小腹が空かない?」

 「知りませんよ!それなら自分の部屋で作ればいいでしょう!!」

 「だってここに材料置いてたから」

 「それはぼっち様がここに置いてあっただけです!その卵もハムもぼっち様のですよ」

 「許可は頂いた………心の中でだけど(ぼそぼそ」

 

 大きくため息をついていると頼まれた事も済んだという事で執務室から退出して行く。勿論調理セットも持って出て行く。最後にはチャーハンが入ったフライパンを持ってモミまで退出しようとするのでそれは止める。

 

 「待ちたまえ。何か用があったのだろう?」

 「あー…そうだったそうだった。ちょっと出かけてくるよ」

 「出かけるって仕事はどうしたのですか?貴方には一週間分ほど渡していた筈なんですが」

 「済ませたに決まってるじゃん。馬鹿だなぁ~君は」

 「貴方だけには言われたくありません!!というかいつもそのぐらい仕事してください」

 「嫌でござる!働きたくないでござる。絶対に働きたくないでござる!!」

 「何を叫んでいるんですか!?そしてそのわざとらしい頬の十字傷はなんですか!?」

 

 たはは…と力無く笑ったモミはゲートを開きつつ手を振る。

 

 「ま、そういうことで行ってきだーす」

 「待ちなさい!そもそも何処に…」

 「いざアルゼリア山脈へ!!」

 

 目的地を聞いて止める間もなく姿を消したモミを追う手段も持ち合わせていないデミウルゴスは頭を抱えた。


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