骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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おはようございますチェリオです。
 三連続特別編第二話。ぼっちさんの変身能力をお見せしようと思います。


特別編11:変身型スライム

 お日様がカーテン越しに射して来ているのが分かる。ゆえに僕は顔を隠すように布団を移動させる。

 今日は何か予定が有ったような気がするが気にせずに二度寝をしようとしたのだが誰かが階段を上がってきているような気配がした。

 扉をゆっくり開けた気配はそのままベットまで来て僕を揺さぶる。

 

 「んん…あと五分…」

 

 眠い為に瞼も開けずにそう呟いたのだ。気配は揺するのを止めてベットの近くに腰掛けたのが分かった。

 …あれ?前にも同じ事が

 そこまで思考すると意識の覚醒は早かった。覚えがあるのは前にも同じ事があったのだ。飛び起きながらその人の名を出した。

 

 「!!ぼ、ぼっち様!?」

 「?…なに言ってんの?」

 「へ?」

 

 飛び起きた僕の前に居たのは褐色の肌にエルフ耳、ボーイッシュな服装を着こなす僕と左右反対のオッドアイのお姉ちゃん。アウラ・ベラ・フィオーラであった。

 予想外の相手に驚きが隠せない。いつものお姉ちゃんだったら…

 

 『何言ってのよあんた!さっさと起きなさいよ!!』

 

 と、起きるまで揺さぶりつけるのに…

 カーテンを開けるアウラを見つめながら覚醒した頭で悩んでいると先ほどの予定を思い出した。今日はお姉ちゃんが昼休みになったらシャルティアさんと僕、ぼっち様で集まる事になっていたんだ。

 時刻を見るとすでに11時に針が進んでいた。あと一時間しかないと理解して急いでベットから跳び出そうとするとお姉ちゃんが着替えを渡してくれたのだ。それも少し温かいのだ。

 

 「お、お姉ちゃんどうしたの?いつもと何か…違う」

 「そ、そう?たまにはいいじゃない。早く着替えて降りてきなよ」

 「う、うん…」

 

 いつもと違うお姉ちゃんが部屋から出て行くのを見送ってから着替えを開始した。人肌と同じぐらいに温められた服はこの寒くした部屋ではとても着易かった。

 素早く着替えを終えて一階へと降りるとお姉ちゃんが朝食、時間的には昼食を準備してくれていた。本当に今日のお姉ちゃんはどうしたんだろうと本気で首を傾げる。今日は昼休みをぼっち様と過ごせるから機嫌が良いってのもあるのだろうがそれにしても良すぎるのだ。

 

 「ん?どうかしたマーレ」

 「ううん。何でもないよお姉ちゃん」

 「そう。だったら早く食べちゃってよ」

 

 言われて席に付くと丸い小型のパン二つにハムやチーズなどが置かれていた。パンに塗るように用意されたバター、ジャム、蜂蜜の中からとりあえずバターに手を伸ばす。するとココアを持って来たアウラが何かに気付き、マーレの後方に回った。

 

 「どうし…」

 「良いからあんたは食べる」

 

 髪が跳ねていたのだろう。懐より櫛を取り出し髪を梳いてくれる。いつもと違うアウラに違和感を感じつつもその身を任せてしまうのは何故だろう。

 食べ終わった頃にはアウラは先に行ってるからと家を後にしていった。席を立ち食器を片付けてから歯磨きをしてマーレも家を後にした。

 

 

 

 家を出たマーレは集合時間の20分前に到着する事が出来た。そこにはアウラがすでに待機していた。

 

 「あれ?今日は一人で起きれたんだ」

 「え?だってお姉ちゃんが起こしてくれたじゃない」

 「はぁ?何言ってんのよ。朝起こそうとしても起きなかったじゃない」

 「だって十一時に…」

 「十一時ってその時間帯ならフェン達と見回りしてたわよ」

 「え?え?だって着替えや朝食の用意だって」

 「どうしたのマーレ?」

 「「え?」」

 

 背後から声がして二人して振り返るとそこにもアウラが居た。驚きで固まってしまった。

 

 「お、お、お姉ちゃんが二人!?」

 「ちょ!あんた誰よ!!」

 

 固まっていた二人が声を上げると後から現れたアウラはにやりと笑うと身体が液体のように溶け、再び人型へと形作っていき、最終的にはぼっちの姿へと変わって行ったのだ。それを見て二人はぼっちの種族を思い出した。

 

 「・・・驚いた?」

 「それは驚きましたよぼっち様」

 「変身型スライム種って人に化けるんですね。でもそれだとパンドラズ・アクターさんと変わらないような?」

 「ちょっとマーレ失礼でしょ!」

 「・・・・・・確かに人型ならドッペルゲンガーと何ら変わりないけどコレなら」

 

 一瞬で人型を解いたぼっちはそのまま動かずただの水溜りとなった、次に盛り上がっていき岩になり、最後にはいつもの姿に戻っていった。

 変身型スライム種の能力は人型から無機物まで身体を変える事が出来るのだ。索敵や奇襲に向く代わりに防御力と攻撃力が低いのだ。

 

 「す、凄いですぼっち様」

 「いろんな物に変身出来るんですね。他にも何か出来るんでしょうか?」

 

 腕を組んでう~んと悩んだぼっち様はお姉ちゃんを見つめて手をポンと叩いて変身を開始した。

 肌は褐色にエルフ耳、髪は金髪とアウラと同じ容姿なのだが身長がアウラと違い60cm高い164cmなのだ。すらっとした曲線が美しく、同姓(身体的にぼっちが同じになった)のアウラでさえ見た瞬間に感嘆の吐息を漏らしていた。

 

 「どうかした?」

 「い、いえ、その綺麗だなって」

 「ありがとうマーレ」

 

 ゆっくりと片膝を着いて微笑みながら僕の頭を撫でてくれた。緊張と嬉しさはいつもなのだが今日は胸の辺りがドキドキして苦しかった。顔が熱くなり自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。

 『むぅ』と唸ったお姉ちゃんが何かを閃いたのかあからさまに悪い顔をしてぼっち様に耳打ちした。何をする気なのだろう?

  

 

 

 ゲートを開きシャルティアは5分前に到着した。本当ならもっと早く到着する予定だったのだがぼっち様がいらっしゃると聞いて身支度に時間がかかってしまったのだ。

 集合場所にて辺りを見渡すが辺りには誰も居ない。まぁ、あと五分あるのだからと思っていると…

 

 「遅かったじゃない」

 「そっちに居たでありん…す…か」

 

 目が点になった。目の前にはいつも目にしていたアウラではなく大人にまで成長した姿だったのだ。胸は大きくはなってないのだが身体は女性らしさを残しつつそこいらの男よりもカッコイイのだ。口では言わなかったがアウラもマーレも顔は整っており、大人になったら美人になるかイケメンになるかとは思っていたが…ってそうではなくて!!

 

 「ど、どうしたでありんすか!?急に大きく…」

 「ああ、ビックリした?」

 「それはビックリするでありんす…」

 

 にこやかに笑ったり、一つ一つの仕草にドキドキしてしまう。『相手はアウラだ』と言い聞かせ考えを振り払う。

 

 「大きくなっても胸は成長せんでありんしたね」

 「そうだね。あはははは」

 

 嫌味を言ったつもりが逆に笑顔で肯定されてしまった。ついつい魅入ってしまう。髪も年相応に伸びており、後ろでひとつに束ねている髪。下は真っ白なズボンに上は真っ赤なカッターの上にズボンと同じ真っ白な上着を着こなしている。

 ずっと魅入っていたのだろうさすがにアウラも気付いたのか首を傾げつつ見つめ返してくる。まずい。顔が赤くなっていく。すると…

 

 「あはははははは!!」

 「ちょっと、ばれちゃうよお姉ちゃん…」

 

 笑い声が聞こえたのでよくよく見てみるとそこにはマーレといつも通りのアウラが居た。意味が分からなかった。

 

 「へ?え?な!どう言う事でありんすか!?」

 「ごめん!ちょ、あははは。ちょっと待ってぇえはははははは!!」

 「笑いすぎだよぅ…」

 「・・・すまないシャルティア・・・こういうことだ」

 「え!?えええええええ!!ぼっち様ぁ!?」

 

 大人びたアウラからぼっちへと姿を変えて草むらに腰を下ろした。ポカーンと開いた口が塞がらないシャルティアを見て再びアウラは笑うのだった。

 

 

 

 アウラやマーレ、シャルティアと変身を見せてからお話した後、ぼっちは自室に入ると同時にスキルで範囲捜索して辺りに誰も居ない事を確認してガッツボーズした。

 本当なら『よっしゃあああああ!!』と叫びたいのは我慢する。

 今日三人を呼んだのはある実験の為だ。もちろん変身ではない。自分が喋れる事の手段のテストである。今まで出来たのは三つ。

 一つは人が大勢居る状況。これはエ・ランテルで『アルカード』の時に判明した。

 二つ目は自己暗示。リザードマン達と通信した時に使用した。あの時ぼっちはシズさえ外に出した自室で多くの野菜などを置き、『人をかぼちゃだと思え』を逆にした『野菜を人と思え』と必死に自己暗示するのである。正直もうしたくない。何と言うか虚しくなってくるのだ…

 そして今回行なった三つ目の『演じる』である。前々から何故あんなにアニメや漫画の台詞がすらすら出るのかが気になった。密かに試しているうちに他者を演じるとすらすら喋れる事が何となく分かったのだ。今回はそれを決定付ける為の大型実験。

 上手くいって良かった。マーレに『いつもと何か…違う』と言われた時には心臓が飛び出そうなくらい焦ったが…

 にしてもああいうのも良い物だな。今度他の誰かにしてみようかな?本当の家族みたいな感じだったな。

 ほんわかと胸が、心が温かくなるのを感じつつ笑顔になった。

 

 「・・・次は何をしようか」

 


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