そんなナザリックでの露の出来事…
サーと雨が降りしきる中、アウラとマーレ、シャルティアにデミウルゴスの四人はナザリック大墳墓を出て森の中を歩いていた。
黄色いレインコートを着ているマーレ以外は傘を差して目的地を目指す。
目的地はトブの大森林内に建造されたログハウス。そこに居るぼっちに食事に誘われたのだ。誘われたと言っても誘われたのはアインズで、アウラ達は話を聞いて行っても良いですかと承諾を得たのだが…
ここに居ないコキュートスはリザードマンの集落に行っており
ログハウスは気分転換の為にぼっちが建てて欲しいと要望した物で当初の予定では豪邸になる予定だったが却下されてこじんまりとした建物になったのだ。
入り口に着くとそれぞれの雨具を片付けてデミウルゴスが代表してノックをする。
「・・・どうぞ」
「失礼いたします」
扉を開けて中に入ると大きな鍋の前で火加減を見ているぼっちが視界に映る。アウラとマーレが駆け寄りぼっちに期待の眼差しを向ける。
「よく来たな・・・」
「ぼっち様の手料理が食べれると聞いたら這ってでも来ますよ」
「ぼ、僕もです」
「そんなに良いものじゃ・・・あー・・・火加減見てるから・・・撫でてあげれない」
「いえ、そんな!」
「ぼっち様が謝られる事じゃないですよ」
「まったくです。何をしているのですか二人とも」
「そうでありんすよ。私も撫でて欲しいでありんす!!」
「…シャルティア、そういう事ではなく…申し訳ございませんぼっち様」
「良い・・・」
「何かお手伝い致しましょうか?」
「・・・用意はもう済んでる・・・座って待ってて」
「畏まりました。皆さん聞きましたね。行きますよ」
これ以上邪魔をしないように三人を連れてテーブルへと付く。外見同様内装もすべて木で出来ていた。必要最低限の物しか置いてないといった感じだった。っと、あまりキョロキョロしていても不躾になるだろう。
この机は長机で合計10名が座れるようになっている。上座の斜めを空けて左側にデミウルゴスとマーレ、右側にシャルティアとアウラが座っている。
隣のマーレはわくわくした表情で辺りをキョロキョロしている。注意しようかと思ったが先程自分もしていたのだからと止める。アウラとシャルティアの会話を聞く事無く調理を行なうぼっちを見つめてしまう。そわそわとしている自分をふと笑いまるで子供のようですねと評する。
身体が傾いた。傾くといったら大袈裟だった。軽く袖を引っ張られ揺らいでしまっただけだ。位置的にマーレ以外にありえず「どうしたんだい?」と言いながら振り向くと先程の表情の面影など無く真っ青な顔色で震えてる。これは何かあったと気を一変させる。
「何かあったのですね?」
「あの…アレ…」
指差した先は雨が降りしきる外を映す窓であった。子供ぐらいだったら入れるだろうぐらいの小さな窓。そこに一つの人形があった。頭と思われる布地の球体の下はローブのように広がっていた。球体にはオッドアイの瞳や小さな口など書き込まれて色まで付けられ一目でマーレを模した人形だという事を理解出来た。しかもローブは黄色に塗られて雨具を着けていたマーレそのものだった。
そこまでならこんな表情をすることはなかっただろう。
窓の外で稲光が発生して眩い光で人形が逆に暗く見える。窓枠より伸ばされた紐により首を吊られたマーレが…
デミウルゴス同様に見てしまった皆がマーレをジトーと睨む。
「あんたぼっち様に何かしたの?」
「あのぼっち様があれほど怒るなんて信じれないでありんすが…」
「ぼ、僕何もしてませんよぉ…」
「分かりませんね。知らぬうちに何か気に触ることをしてしまったのかも知れませんよ」
出切るだけ小さな声で話し合い再びあの人形を凝視した。あのような遠回りな怒りを表されるなど相当な何かがあったのだろう。マーレには心当たりが無いといっていたが我々は知らねばならない。二度と繰り返さない為にも。
「あのぼっち様」
「・・・ん?」
「あの人形の事なのですが…」
「?・・・あぁ」
何とか触らない程度に聞こうと思ったのだが途中で区切られ、鍋より離れたぼっちは何かを取り出しつつ窓へと近づいていく。
再び稲光が発生した。しかも複数回も。
眩い光と強調されることとなった室内の暗さがフラッシュバックする最中、窓枠に次々と人形が吊られていく。アウラ・シャルティア・コキュートス・デミウルゴスと階層守護者からプレアデスまで、仕舞いにはアインズ様の人形はでも吊られていく。その光景に冷や汗を掻きながら緊張で喉を鳴らしてしまう。
「・・・飲み物いる?」
「い、いえ!大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「・・・?」
首を傾げながら鍋の方へと足を向けるぼっちを余所に皆は顔を近づけ問題の解決を図る。
「まず心当たりのある人は居ますか?」
「僕はありませんよ」
「あんた添い寝頼み過ぎとか?」
「そんなに頻繁に頼んでいるのでありんすか!?」
「私が知っているだけで週2ぐらいかな」
「ち、違うよぉ。週一だよ」
「どれだけ添い寝しているんですか私など一度もないと言うのに!!」
「でもデミウルゴスさんは良くお部屋でお話しているじゃないですか。ステラさんが言ってましたよ。『何故我がマスターがあの外道と護衛も付けづに二人っきりになど』って」
「あー…聞いた事ありんすね。何でも『お茶菓子持参してまでとも』と聞いた事ありんす」
「…デミウルゴス」
忌々しげに言い散らすステラの表情が用意に想像出来たデミウルゴスは視線を逸らす。追撃をするようにジトーとした視線が突き刺さっってくる。コホンと咳払いして向き直る。視線が消えることは無いが…
「アウラとシャルティアは思い当たる節は無いのですか?」
「無いでありんす」
「あるでしょ。エントマから聞いたわよ。あんた、ぼっち様に血はいりませんかって会う度に聞いているそうじゃない!!」
「あ、あれは、その……アウラだって良く今日みたいにいろいろねだっているでありんしょうに!!」
「うー…たしかに」
「それらをぼっち様が疎ましく思われていたのでしょうね」
「至高なる御方を不快な気持ちにさせていたなんて…駄目でありんすね」
「アレだけの怒りを見せてるのにあたし達は気づかなかったんだよね」
「ど、どうしましょう…」
「詫びるしかありません。例え命を払ってでも」
ちょうどぼっちがシチューの入った皿を乗っけたトレイを持って机までやって来た。皆怯えるような表情を向けながら口を開こうとする。
「あのぼっt…」
「遅くなりましたぼっちさん」
喋りかけたデミウルゴスを止めたのは扉を開けて入って来たアインズだった。ここに来るのは初めてだったアインズは辺りを見渡し、あの人形を見ると『おお!』と声を上げて近寄った。
「てるてる坊主ですか…懐かしいですね。しかも守護者達をモデルにしたんですね。あ!私のもありますね」
「・・・(コクン)」
「あのー…アインズ様。『てるてる坊主』とは何でしょうか?」
予想していた反応と違った為にポカーンと口を開けている三人を余所にデミウルゴスが疑問を投げた。
「ああ、てるてる坊主っているのは明日晴れになるよに願いを込めた…おまじないですよね?」
「・・・(コクン)・・・まぁなんと無しに・・・作っただけだけど」
「それにしても良く出来てますね」
回答に皆がほっとして胸を撫で下ろす中、マーレがぼっちへと駆け出した。
「ぼ、ぼっち様」
「・・・どした?」
「そのぉ…いろいろお願いしたり甘えられる事に苦痛を感じてませんか?そうだったら…」
「そんな事は無い・・・甘えられた方が・・・嬉しい」
「…何かあったんですかぼっちさん?」
「・・・さぁ?・・・とりあえず・・・食べましょうか?」
「はい♪」
マーレをつれて席に付くと皆が食事に手をつけていく。温かいシチューが喉を通り身体の内部から暖めてくれる。ほっとした表情で食べている皆を見てぼっちはマーレに微笑みかけた。
「先の話だけど・・・いつもみたいに甘えてくれれば良い」
「あ、はいぼっち様♪」
「ハハハ、マーレがそう思うほどってどんな事をしてたんですか?」
「・・・んー・・・昨日の添い寝?」
「あれ?昨日って朝居ませんでしたよねぼっち様」
「・・・私の部屋で」
「ぼっち様の!」
「部屋でありんすか!!」
「あ…ぼっち様…」
「朝早く運んだ・・・」
「ほぅ、そうなのかねマーレ?」
「いえ、それは…」
「他には何かあったんでありんすか!?」
「・・・二日前には膝枕・・・四日前にはお茶を一緒に・・・」
「ああ…あぁ…羨ましいでありんす」
「マーレ…あんたねぇ」
「あ!・・・一週間前には一緒にお風呂入ったか」
気にも留めてないぼっちとアインズは良いとして他の4人とも硬直した。視線が誰とも合わないマーレの肩にポンと手が置かれた。
「あとでお話がありますが問題ありませんね?」
「………はい」
楽しく(?)食事を終えたマーレはシャルティア、アウラ、デミウルゴスより長時間質問攻めに合わされたと言う…
さぁてマーレがこの後どうなったかはご想像にお任せします。
では次回「驚きの騎士と静かな武士」
お楽しみに~♪