骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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特別編21:ナザリックでの大運動会:参

 軽い食事を摂ったあとは後半戦のスタートだ。 

 後半戦最初の種目は全員参加の綱引きだと分かった瞬間ぼっちは地面に手を付いて思った。これは負ける…と。

 自陣の主力はアウラにマーレにぼっち自身と力が強いと言い切れる人材が少ない。に比べてアインズ陣営は細マッチョのデミウルゴスにコキュートスにセバスと戦力が整っている。

 先に綱の元へ向かったアウラ達を追うように歩き出したシャルティアを見つけて近付く。

 

 「シャルティア・・・」

 「はい、なんで…ッ///」

 

 振り向いた瞬間に肩をがっしり掴み視線を合わす。目がキョロキョロと慌しく動き、口から小さな声で「近っ、近い…です///」と何度も漏らしているが勝負事に熱くなるぼっちは今は気にしてなかった。

 

 「この綱引き・・・お前だけが・・・頼りだ」

 「わ、私だけが…」

 「頼むぞ・・・シャルティア」

 「はひ!こ、このシャルティア・ブラッドフォールン。全力でご期待に添えるよう頑張ります」

 

 満足気に頷いたぼっちは真っ赤になって湯気まで出してるシャルティアの手を引いて綱の元まで行く。アウラとマーレの羨ましいと視線で訴えられた。

 紅くなったシャルティアを自分の前のスペースに入れてアインズ側を見渡す。探していたアルベドを見つけると視線が合うのを待った。見つめている視線に気付いたアルベドは何かしらと首を傾げながらこちらを見つめ返した。仮面の口部分を開けて口を動かす。

 

 『か弱い女性の方が保護欲を駆り立たせられる場合があるのを知っているかい?』と。

 

 目を見開いてニヤリと笑うアルベドの表情で理解した事を判断した。

 さて、これで仕込みは済んだ。ではアインズさん…コールだ!!

 

 『後半戦第一種目全員参加の綱引き…始め!!』

 

 第四種目時の対戦車ライフルが効いたのがテントから離れた所に防弾用の盾で四方八方を塞いだモミがマイク越しに叫んだ。

 

 「よーい」

 

 ユリの言葉に合わせてシズがスカートの中から円柱状の物体を中心に嵌められた銃器を取り出す。カポンと掠れた音が銃口から漏れて発射された物体が放物線を描いてモミへと…

 

 「グレネード!?逃げないと……あ、駄目だコリャ」

 

 自分で囲った盾で逃げ切れないと悟ったモミは爆発の飲み込まれた。そんなモミは置いといて爆発音と同時に両者が一斉に引っ張る。非力なことを理解しているぼっちも必死に引っ張るがやはり向こうの陣営の方が強い。

 

 「ああん、もう駄目…」

 

 よろよろとその場に伏せたアルベドにすぐ近くに居たアインズが驚いて駆け寄る。

 

 「どうしたのだアルベドよ」

 「あ、アインズ様。少し体調が優れないようで…」

 「ふむ、さすがにアイテム無しでは疲れが溜まったのだろう。どれ私に掴まるが良い」

 「―ッ!!はい♪」

 

 アインズに寄り添うようにした幸せそうなアルベドは顔を赤らめて退場する。これは好機。まさに好機だった。アインズとアルベドに気をとられた隙に攻勢に出るべきだ。

 

 「シャルティア!!」

 「ハッ!!どおおおおりゃああああ!!」

 

 掛け声と同時に綱が一気にこちらに手繰り寄せられる。反応が遅れたアインズ陣営の皆が何とかしようと引くが時すでに遅し。綱の中央に巻かれた赤いラインがこちらの線にあと10センチで入る。勝利を確信したと同時に何かが胸にぶつかった。視線を前方から下へと移すとそこには引き過ぎて後ろに下がったシャルティアのもたれる形でくっ付いていた。吐息がかかるほど近付いた顔に反応して耳の端まで真っ赤にしたシャルティアは綱を放してしまった。

 一気に力を失った綱はアインズ陣営に…勿論、綱を持っていた者は引っ張られる形で崩れる。咄嗟に話してシャルティアを抱き締めた形で列より離れる。

 案の定、参加者全員が転んでいた。

 

 「ああ…ぼっち様のご期待に答えれんした…」

 「・・・次で取り替えそう」

 「はい♪」

 「あんたはいつまでそうしてんの!!」

 

 胸に抱き付く体勢になっていたシャルティアだけを吹っ飛ばすアウラのドロップキックが決まった。飛んで行った先で二人がわいわい騒いでいるのが聞こえる。

 さすがに止めに行こうとしたらエントマに手を引かれた。

 

 「ぼっち様ぁ。次の競技が始まってしまいます」

 「・・・次・・・あ!」

 

 次の種目はぼっちがエントリーしていた…

 『エントリイイイイ!!』

 …ジオン海兵さんは放置で玉入れにはぼっち以外にもエントマとシャルティア…

 視線を向けた先には言い争いをしているシャルティアの姿が。

 

 『綱引きはアインズチームが勝ちましたね。二人三脚を除いて3対1。逆転はありませんが引き分けに持ち込むことは可能でしょう』

 『つ…次の種目は玉入れ…』

 『真っ黒ですが大丈夫ですか姉さん』

 『私は殺されても死なない』

 『言っている意味が分かりかねるんですが…では、玉入れ参加者は集合してください』

 

 喧嘩の仲裁どころではなく参加の為に二人の間に入り抱えて行く。突然の事に驚き呆然とするが構わない。急いで玉入れを行なう中央の籠が付けられた鉄棒が立っている地点へとエントマと駆け出す。到着したのを確認したユリは全員いるかをチェックする。

 シャルティアを降ろしながらアインズ側の主力は誰なのかを確認する。そこにはデミウルゴスにコキュートスが。知略・武力ペアは卑怯じゃないかな?あの二人ただでさえ相性良いんだから。

 

 「では、よーい」

 

 何だろう。最初はうっすらと怖々とした表情を隠そうとしていたユリが楽しそうにしている気が…

 今度のシズは筒状の物を構えて…

 

 「R・P・G!!」

 

 放たれた弾頭をギリギリで回避したモミはドヤ顔を向ける。

 

 「当たらず!このシュバリエ・モミには!!」

 

 ポケットにしまってあったワルサーP38で後ろを通過中の弾頭を撃ち抜くとモミはまたも爆発の中に消えて行った。シズとワルサーを構えたぼっちはガッツポーズを取る。

 

 「ぼ、ぼっち様もう始まってありんすよ

 「・・・ん」

 

 別に焦ることはない。必勝の策はあるのだから。

 

 「さて、やりますかコキュートス」

 「アア、ヤルカ」

 

 四つの手を使い何個の玉を放つコキュートスと角度と距離を計算して一球一球放つデミウルゴスの活躍で籠の中が埋まっていく。対してこちらの籠は中々埋まらない。

 

 「このままでは負けてしまいんすね」

 「そうで…っ!?ぼ、ぼっち様!?」

 

 急に名を呼ばれたぼっちは何?と言いたげな視線を向ける。上半身裸の状態で…

 気付いたNPCがぼっちから目が離せなくなった。別段気にすることも無く脱いだ服に玉を詰めてひとつの大きな玉にする。

 

 「左手は・・・添えるだけ・・・」

 

 玉を包んだ服を持ち上げて籠へ向けて構える。

 

 「YAーHAー!!」

 

 時間ギリギリに放り込まれた玉は上手く籠の中に納まった。が、モミが玉を包んだ服をひとつの玉とカウントした為に圧倒的数の差で敗北した。

 

 『さぁて、次が最終競技だよ♪』

 『ぼっちさんにさっきの復讐してから機嫌が良いですね』

 『そんな事無いよぉ~♪最後は騎馬戦だよ』

 

 騎馬戦にはぼっちもアインズも参加しない為に観客席からの観戦なのだがぼっちの姿は無い。一般メイド参加の中で異様な騎馬が二グループ居るのに目が行く。

 ひとつはぼっちチームの主力である。エントマが前に立ち、斜め後ろをアウラとマーレ、そして上にはシャルティアが乗ると言う異様に小さな騎馬であった。身長差を考えればステラとルプスレギナでは合わない為の手だろう。

 そしてもうひとつは自分の陣営の騎馬である。

 さて、想像してほしい。前をコキュートス、斜め後ろをデミウルゴスとセバス、上にはアインズに良い所を見せようと血走った目で獲物を探しているアルベド…

 

 なぁに、あぁれ?

 

 もはや騎馬なんて物ではない。あれは戦車の類だ。勝てると思って自分で指示した事ではあるが止めた方が良いのだろうか。

 

 『では始めよ…え、なにぼっちさん』

 

 引き摺られたモミはシズの元まで連れて行かれる。シズは人が入れるほど大きな大筒を用意していた。なんの説明もなしにモミを入れると、躊躇う間は存在せず導火線に火かつけられる。

 

 「…3…2…1」

 「・・・発射」

 『南斗人間砲弾!!』

 

 射出されると同時に響いた轟音を合図に始まった騎馬戦は予想通りアルベド達の勝利だったので点数的には三勝三敗の引き分け。アインズ的にも楽しかったから良かったのだが…

 

 「私もぼっちさんのように楽しんだ方が良かったか?」

 

 呟いた一言を即座に否定する。上に立つ者を演じている立場からあんな事は出来ないし、自分まで混ざってしまっては収集が付かなくなるだろう。

 わいわいとはしゃいでいる皆を眺めていると横にアルベドが腰掛けた。

 

 「たまには騒がしいのも良いな。毎日されたら敵わないが」

 「そうですね」

 

 二人は微笑みながら終わりの宣言がされるまで眺め続けた。


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