骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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特別編25:節分でクッキング


 ナザリック地下大墳墓のキッチンではある催しが執り行われていた。前年にはアインズ主催で行なった節分だが、今回はモミ主催の恵方巻きを手作りしてアインズが審査する会になっている。参加者はプレアデスや階層守護者女性陣でアインズ、デミウルゴス、コキュートス、マーレは審査員として席についている。

 

 アルベド&ナーベラル、シャルティア&ユリ、アウラ&シズ、ソリュシャン&エントマ、モミ&ルプスレギナとチームを組んでいる。審査員にも居ないぼっちは特別枠で審査無しで参加だけしている。

 

 それぞれが恵方巻きというか太巻きを作る。それを眺めているんだがモミだけこちらに作る様子を見せないようにしている。横で作業を見ているルプスレギナが「それを入れるんすか!?」なんて驚きつつ面白そうに笑みを浮かべているなど不安が強まるじゃないか。

 

 「ど、どんなのが出来るか楽しみですね」

 「あ、あぁ…」

 「声ガ上擦ッテオリマスガ何カアリマシタカ?」

 「いや、そんな事は無いぞ」

 「皆さん腕によりをかけていますからね。さすがに不味い物をお出しする事もないでしょう」

 

 だと思いたいよ!!ほら見てよ。フヒヒヒって奇妙に調理しているモミを!!不安要素の塊どころかアレは黒魔術でも行なっているんじゃないのか?あの辺りだけ暗いオーラ纏ってんだけど。

 

 出来るだけ視線をモミに向けないようにしつつ、他の守護者に目を向ける。アルベドとナーベラルはフライパンを振って何かを焼いているようだし、シャルティアとユリはトントントンと包丁を動かしていく。ここからでは聞こえないが調理しながら言い争いらしきものをしているのは分かった。ソリュシャンとエントマの方からはグチュリ、ブチャリと奇妙な音が…。唯一まともに調理しているのはアウラとシズぐらいか。あの二人はまだ楽しそうにしているから変な物は出してこないだろう。シズの表情は分かり辛いが。

 

 「ところで最初の毒味役は誰がするんですか?」

 「毒味…ソウダナ。様子ヲ見ルニ毒味ニナリソウダナ」

 「特にモミは何を入れてくるか解りませんからね…」

 

 三人共同じ事を思ってか多少頭を悩ませているようだった。今すぐ逃げ出したいがそんな訳にはいかずに男性陣でありながら審査員に参加していない二人を羨む。ひとりはナニかを作っているぼっちで、二人目は作った料理をアインズの前まで運ぶセバスである。

 

 表情を崩さない…周りから違いは解らないが…ようにしつつ、これから来るだろうダークマター――じゃなかった恵方巻きに対する不安要素を考え込んでしまう。そうしているとセバスがアルベドのほうに向かって行った。こちらからは背しか見えないが包丁で切り分けている様だった。そしてセバスによって運ばれた皿を目の前に置かれて目が点になった。具は酢飯で、外はノリで巻かれているところまでは普通だった。ただ中身の具が凄いのだ。鮮やか過ぎるオレンジ色なのは人参だと分かるが、真っ黒な塊が複数埋まっている。アルベドとナーベラルが作った太巻きの一切れを乗せた皿がデミウルゴスの前に置かれた。

 

 「こ、これは何かね」

 

 平静を装って質問するが、引きつった表情で眼鏡をかけなおして動揺が良く分かる。多少顔が青ざめているようにも見えるが…。

 

 「ぼっち様より恵方巻きの定番と聞いたのですが?」

 「アインズ様も知っておられるとぼっち様が…」

 「まぁ、知ってはいるのだが多少見た目が違うような…」

 「と、とりあえずまずは毒味ですよね」

 

 マーレに言われてデミウルゴスが手を伸ばす。普通なら躊躇するところなのだがアインズ様をお待たせする訳にはいかないと思って早速口に含んだ。噛んだ瞬間にじゃりじゃりと砂を食べるかのような音と水気が多く柔らかい物が潰された音が聞こえてきた。そのまま飲み込んだデミウルゴスは額をヒクヒクと動かしながら顔をアルベドとナーベラルに向けた。

 

 「この黒いのは何かね?」

 「卵焼きよ」

 「私が知っている卵焼きは黄色なのですが…」

 「良く焼いたほうが宜しいかと思いまして」

 

 にしても黒ずみはやり過ぎだろう!!確かに生だといろいろ問題があったりするけど、菌を殺すどころか卵まで死滅しているじゃないか!!

 

 「ではこの生っぽい魚物は?」

 「煮穴子よ。骨を抜くの本当に大変だったんだから」

 「でしょうね。すり身のようにぐちゃぐちゃになった上にちゃんと煮え切っていませんよ」

 「そんな!?」

 「それにこの異様に甘い人参は何です?」

 「グラッセよ。甘いほうが良いかと…」

 「にしても甘すぎです」

 

 デミウルゴスの言葉ひとつひとつにアルベドの顔が歪んでいく。それを後ろからシャルティアが笑っていた。

 

 「まったく守護者統括様は料理も満足に出来ないようでありんすね」

 「くぅうう!?シャルティア…」

 「どうしたでありんすか?いつもなら言い返してくるのに今日は無しですのね。まぁ、図星だから、でありんすよね」

 

 鬼のような形相で悔しそうにしている横でシャルティアは勝ち誇った表情で通過して行く。同時に皿を持ったセバスがコキュートスの前に皿を置く。今度は中身が真っ白で端に赤い物が付いている。先より難易度が上がってまったく分からない。何の説明もされないまま今度はコキュートスが毒味を行なう。シャリシャリと音が聞こえる。

 

 「コレハネギカ?」

 「そうでありんすよ。ネギトロと言う物を作ってみましたの。トロはユリが刻んでくれました」

 「初めてなのであまり上手く出来ていないかもしれませんが…」

 

 ナザリックの皆は洋食がメインで日本食にあまり詳しくない。ゆえに答えを知っているのはアインズとぼっちのみ。気になったのか見に来たぼっちがポカーンとしているのが分かる。

 

 「シャルティア・・・」

 「何でありんしょう?」

 「ネギでなく・・・トロが・・・メイン」

 「うええええ!?それは本当で?」

 「・・・(コクン)」

 

 今のであの白いのがネギだと理解した。それであれだけ歯応えの良い音が響いてきたわけだ。先のアルベドと同じ表情を今度はシャルティアがしているのだがこれはどうしようか。と、思っていたらアウラ・シズペアとモミがやって来た。

 

 「まったく二人とも何やってんの?」

 「…ユリもナーベラルも良い感じだったんだけどね」

 「頑張ってた…」

 

 呆れ顔のアウラとフヒヒと笑っているモミをアルベドとシャルティアは黙って睨むがセバスが置いた皿を見て消沈した。そこにはかっぱ巻きにまぐろ、ツナマヨにコーンマヨなど小さめに巻いた巻き寿司が並べられていた。

 

 「アルベドもシャルティアもちゃんと調べるか自分で作れる物にしたほうが良いよ。ねぇ、シズ」

 「…そう思います」

 

 毒味役としてマーレが一口ずつ頬張ると笑顔でどうなのかが分かる。安心して食べようと思ったアインズとニタリと笑うモミと視線が合った。セバスでなくモミが持っている巻き寿司の中は薄緑色。その色から察するにわさびである。

 

 「…味見お願いね」

 「え、あ、はい」

 

 邪気のない笑顔で一口分をマーレの口に運んだ。何の疑いも無く食べたマーレに視線が釘付けになった。この後の反応を予想して水を用意して待っているとマーレが目を細めて「んー」と声を漏らした。

 

 「大丈夫かマーレ?」

 「んー…これ美味しいです!!」

 「え?」

 

 予想外の反応に驚きを隠せないとモミが疑問符を浮かべる。

 

 「どったのそんな顔をして」

 「いや、先ほどのは中身わさびだったのではないか?」

 「…そうだけどって、まさかせいようわさび食べさせたと思った?」

 「せいようわさび?」

 「そうそう、私が使ったのは日本原産のわさびでしかも取れたてすりたての新鮮な奴。せいようより辛味は少なく風味がよく多少甘いんだよ」

 

 知らないのぷぎゃーと小声で呟いているとぼっちに鉄拳を落とされ黙った。気になりひとつ食べてみると確かに美味しかった。この後はアウラとシズが作った巻き寿司とモミのわさびの巻き寿司を皆で食べた。その先に失敗した二組はぼっちに教わりなおして美味しく頂きました。

 

 

 

 ちなみにぼっちが作ったのは中に甘みより酸味を強くした苺ジャムを居れ、酢飯を模したポン菓子と生クリームを混ぜた物が使用していた。その状態で皿の上に乗せチョコレートソースを網の目状に垂らし、ココアパウダーを軽くまいた巻き寿司風のデザートを作っており、それが本日のデザートとなった。


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