骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第146話 「出発前」

 もうすぐ午後十時を過ぎるというのにモミが経営している宿屋は騒がしく、人が動き回っていた。明日は魔法学院での昇格がかかった昇格試験の実地試験日だからである。学科試験は今日一日で済んでおり、宿屋の皆は出来たかどうかと悩むより次の準備に慌てていた。

 

 一番大きいモミの部屋にはアインがお邪魔していた。扉を開けて入ったときはくまさんやうさぎさんの人形が置かれたメルヘンチックなお部屋だったのだが、その先にあるクローゼットの奥蓋をある手順で開けると第十一階層のモミの部屋と同じ感じの部屋が現れた。つまり服や食べ終えたお菓子の袋が放り投げられており、漫画や小説がそこら中で山積みになっている。

 

 そんな一室の隅に至高の御方と称されるアインズがアインの姿のまま、荷物が少ないスペースに腰を降ろしていた。明日から数日の実地試験での話を行なう為に居るのだ。モミは揚げ芋をぽりぽり食べながら胡坐を掻く。その姿に皆に見せている姿の欠片も無かった。

 

 「…んで、何の話だっけ?」

 「だから明日からの実地試験の話だ。話というより打ち合わせだな」

 「あー…とりあえず昇格する為のモンスターのチョイスだったっけ」

 「そうだ。何か良い案はないか?」

 

 揚げ芋を食べる事を止める事無く、上を見上げながら思案している様だった。この世界ではデスナイトですら国を滅ぼすモンスターなのでどれぐらいが良いのかの基準がよく分からない。

 

 「んー…デスナイトかヤルダバオト、ぼっちさんと言うのはどうでしょう?」

 「いやいやいや、ちょっと待て!レベルがおかしいだろう!!デスナイトで国を滅ぼすというのにデミウルゴスはやり過ぎだし、ぼっちさんをあのメンバーで討伐できるか!?」

 「まさか。ヤルダバオト所かデスナイトも無理っしょ。冗談に決まってんじゃん」

 「この野郎…」

 「まぁ…スケルトン数体かスケルトン・ウォリアーが妥当な所じゃない。それでも不安ならエルダー・リッチでどう?」

 「ふむ。それが良いか」

 「レアモンスターで攻めるならゴーレムなんか良いかもね」

 「ゴーレム?」

 「あんれ?ゴーレム知んないの?」

 「いや、知っているがあれがレアモンスター?」

 「そうらしいよ。作れる人材も既存のゴーレムも存在しないって」

 「確かにこの世界では貴重だろうな。主の命令を何のデメリットもなしに従うゴーレムは」

 「そりゃあ農業から軍事まで持ってこいの重機だからね」

 

 ゴーレムで昔の仲間を思い出す。去って行った仲間を模ったゴーレムを作った自分。レメゲトン72の悪魔をモチーフにしたゴーレムを67体で飽きたり、風呂場のライオン型ゴーレムをマナー違反すると襲うように改造したり、とあるゴーレムを作ったとお披露目会を行なうとそのゴーレムに襲わせるし、希少金属を勝手にちょろまかしてゴキブリ型ゴーレムを作ったり……おのれ、るし★ふぁーさんめ…。

 

 懐かしくも少しイラッとする記憶を思い出し、精神の安定化をされるアインを余所にモミは少し悩む。

 

 「所でさぁ…ほんとに昇格試験受けんの?」

 「…ん?受けるが何か問題があったか?」

 「いやぁ、別に良いのなら良いけどさ。面倒じゃない?この世界の魔法なんて古田とか言う魔法詠唱者に聞けば楽だし」

 「古田じゃなくてフールーダな。彼は…その…」

 「ま、面倒くさいか。あの魔法となると興奮しすぎる爺さまは」

 

 興奮しすぎるフールーダを想像すると心の底からため息を漏らす。モミは逆に愉快そうにふひひひと笑う。決して愉快なものじゃないんだがアレは。魔法を使用して二世紀以上生き長らえている爺さんが鼻息を荒くして飛び付く勢いで迫ってくるのだ。あれに教わるぐらいならそこらの学生に教わる。

 

 「学生を満喫するのもいいけどナザリックの事も忘れないでよ~」

 「ああ、それは―」

 「それともナザリックを捨てるの?」

 

 その一言に異論を唱えようと睨みつけるがアインズはモミの瞳を見て何も言えなかった。自分を見つめているのに自分をまったくと言って良いほど見ていない。まるで心の中を覗いているかのように、こちらの胸中に視線を向けているようだ。アルベドなんかも表情は笑っていても目が笑ってなかったりしていたのを見たことはあるがそれとはまったく別で異質。何か答えようとするが声が出ない。息が詰るような雰囲気の中アインズは無理やり口を動かそうとする。が、モミが言わさなかった。

 

 「また引っ掛かった」

 「は?」

 「冗談だよ。一日に二度も引っ掛かったね」

 「じょ、冗談なのか…」

 「ふひひ」

 

 いつものようににへらと笑うモミに安堵するが不安も残る。確実にアノ目は冗談の類ではなかった。答え次第によっては…。

 

 「ところで昼ごはん何が良い?」

 「昼食?」

 「一日目は弁当持っていこうと思うんだけどさ。中身をどうしよっかと思って」

 「そ、そうだな………ハンバーグとか」

 「ふぅん…アイン君はハンバーグが良いんでちゅね」

 「何故に子供扱いするし!?」

 「何となく以上の答え無し!!」

 「胸を張って言うな」

 「張る胸もないけどね」

 

 堂々と答えているがどう対応すれば良いのか。下手したらセクハラとか言われそうっていうか絶対言ってくる。二度目の大きなため息を付いて見つめるがそんな視線を無視して手前に有った漫画をパラパラと捲る。

 

 「あー…そういえばさぁ、アルベドといつ結婚すんの」

 「いきなりだな」

 「だって気になんじゃん」

 「結婚か…考えた事なかったな」

 「マジデ…」

 「仕方ないだろう。アルベドはその…タブラさんの娘のような―」

 「その娘さんの設定弄って俺嫁設定したんだよね」

 「うぐッ!」

 「てか本人は喜んで猛アピールしてんのに気にしすぎじゃない?アルベドってかなり良いと思うよ。出るとこ出てて引っ込む所引っ込んでるし、何にしても真面目で優秀。たまに暴走する時もあるけどそれを引いても嫁にしたら最高だと思うよ。サキュバスだから夜の事も含めてね」

 「確かにあのスタイルは一種の――ってなにを言わせる!!」

 「勝手に言ってるだけじゃん。それにちゃんと見てるんだね。さすが童貞」

 「どどどどど、童貞ちゃうわ!!」

 「……そんな典型的な台詞言われてもね~」

 「そ、そういうお前はどうなのだ?」

 「私?処女だけど」

 「そっちじゃない!!結婚とか恋愛とかの話だ!それに女の子が処女とか公言するな!!」

 「少女に大声で処女とか童貞とか叫ばないでよ。セクハラだよ」

 「このッ!?」

 

 遊ばれるだけ遊ばれて握り拳を握り締めるが精神の安定化により落ち着き拳の力を抜く。精神的に疲れたし、今日はもう部屋に戻ろうと立ち上がり扉に向かう。

 

 「あ!さっきのハンバーグの件だけどバーべキューみたいに外でやろうか。折角の外だしさ。ハンバーグは外はカリっとさせて中は柔らかジューシーに。ナイフで切ったら肉汁とチーズが溢れる感じで」

 「美味そうだな」

 「当たり前だよ。私が作るんだから」

 「自信満々だな。期待している」

 「ふひひ、期待されちゃいました」

 「―――あの時の問いなんだが…もしも、もしもだ。万が一にも無いが私が捨てると言った場合にはどうするつもりだったんだ?」

 

 「それともナザリックを捨てるの?」と聞かれた目が気になり聞いてしまった。勿論そんな気は微塵もない。ナザリックこそが自分の居るべき場所で帰る場所なのだ。モミはニッコリと満面の笑みを浮かべて答える。

 

 「それはその時のお楽しみだよ」

 

 聞きながら開けたドアから出て閉める。笑顔を向け続けるモミと視線を合わせたまま…。


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