骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第147話 「遭遇…」

 ちゃぽんと水面から飛び出した魚が小さな水飛沫を上げつつ水中に戻って行く。そんな魚を見つめつつ、釣竿とは名ばかりの長い木の枝から垂らしている糸に何か引っ掛かってないかを確める。が、引っ張られてもいない糸に魚がかかっていることもなく、ため息をつきつつ竿を振って再び川の中に戻す。

 

 魔法学院の実地試験の為に五人のメンバーで出立してから三日が経ち、アインとジエットは木々が多い雑木林を抜けた川原で夕食になるであろう魚を釣っていた。女性陣のモミにネメルにオーネスティは雑木林の中で木の実などの食料を探索しつつ、入手しに行っていた。

 

 本来ならモンスター討伐した実績が居るのだがここまでで一度もモンスターに遭遇していない。アインズとモミならモンスターを召喚したり、捜索するのにも時間はかからない。しかし現在は人間として行動しないといけない為に下手に動けない。何かしら行動しようとすると男女別に分かれる流れでアインとモミが二人っきりになれないから余計に裏で動けなくなってしまった。

 

 朝は五時に起きて食事を済ませて探索兼昼食の食材探しを10まで行い、11時までに昼食を摂ってから14時まで探索。16時までに食材を確保して戻る生活。あまり遅くまですると暗くなり危険なので探索や食材探しが明るいうちしか出来ないのでレベル100の二人からすると効率はかなり悪い。まぁ、それはそれで楽しいのであるが。

 

 脇においてあるかごの中を覗くと30センチ台の魚が一匹納まっていた。ジエットのほうには同じぐらいのが三匹入っていた。出来れば後一匹は欲しいところである。が、そろそろ日か傾いてきた。どうするかな…っと悩んでいると糸先が川の中へと引っ張られる。驚きつつも慌てずに冷静に糸を引き、こちらにゆっくりと寄って来た魚をジエットが網で捕獲する。

 

 「良し。これで五匹釣れたな」

 「あぁ、何とかノルマを達成できて良かった」

 「欲を言うともう五匹ほど欲しいですけどね」

 「確かに。モミの料理は美味しいからな」

 

 初日の夜まではモミが作って持って来た弁当があったのだが、この世界では保存もままならない為に弁当は一日分だけ。二日目からは日持ちする乾燥させた食料や現地調達になる。皆もすかっすかに干からびたパンや干し芋辺りを想像していたのだが、そんな予想をモミが覆したのだ。朝は日持ちするジャムに乾パンだったが昼はまさかのハンバーグだったのだ。初日の昼もハンバーグだったのでもしかしてその残りかと頭を過ぎったのだがまったくの別物であった。初日のハンバーグは切ったら肉汁が溢れてくる物だったが、二日目のハンバーグは逆にさっぱりとしており何枚でもいける感じだった。後で聞いて見ると大豆やハーブなどを使ったソイミートなるものらしい。

 

 思い出している内にお腹が減った感覚が襲ってくる。一応アイテムを装備しているので実際には減ることはないので幻覚であるのだが。魚の入ったかごを持ち上げて帰ろうとするとお腹がすいたと腹の虫が鳴いた。勿論アインのではなくジエットからだった。

 

 「ははは、お腹すきましたね」

 「え、ええ、本当に。今日の朝食も美味しかったなぁ」

 「まさかアンパンを食べれるとは予想外だった」

 

 今日の朝食のアンパンを思い出して涎が垂れそうになる。パンは乾パンなのだが上下で二つに切って片方ずつ熱した鉄板でプレスしてパニーニにして、自生していた味気もない芋をふかして樹液と混ぜた芋餡を挟んで食べる。さくっとしたパンの触感に柔らかく程よい甘味が口いっぱいに広がる。初め食べた皆が美味しい美味しいと連呼してたな。

 

 「思い出したら余計にお腹がすきますね」

 「ですね。では早く戻りますか」

 「この魚どう調理するかな…ムニエルとか?」

 「いや、キノコやハーブがあればホイル焼きしたいと言ってましたよ」

 「ホイル焼きですか。今から楽しみだなぁ」

 「そうで――ん?」

 

 何かが木々の中で動いた。目を細めて睨むように見つめるが木々や草花が邪魔で良く見えない。警戒しつつもゆっくりと足を進める。何かを警戒しているアインの動きに気付いてジエットは低くしゃがみながら同じように近付く。二人して草木の間から覗き込むと見たこともないモンスターがそこに居た。

 

 小さな小屋ほどの大きさのナマズに足が四つ生えたような土色のモンスターが一心不乱に足元の土を貪り食っていた。さすがにユグドラシルにはあんなモンスターはいなかった。土を食べている事からアルゼリア山脈に群れで済んでいたクアゴアと同じような鉱物で強化されるモンスターと仮定する。

 

 「何ですかねあれ?」

 「さすがに知らないな…あ」

 

 地面をぼりぼり食らっていたナマズだが急に口を閉じた。どうしたんだろうと考えた次の瞬間には咽て食べていた土を吐き出した。しかしただ土を吐き出しただけではなく中には泥で出来たらしい成人男性らしい人型のゴーレムが数体混じっていた。

 

 さっきの仮定を全面的に否定してあのナマズの正体を理解した。ユグドラシルでも目にする事は少なかった《クラフター・ゴーレム》という特殊なゴーレムだ。ゴーレムはプレイヤースキルだけでなくアイテムやプログラムからも作り出す事の出来る創作系モンスター。そのゴーレムの中でも希少なタイプである《クラフター・ゴーレム》とは作られたゴーレムがゴーレムを生み出すことが出来る物。生み出されるゴーレムは生み出すゴーレムのステータスやスキルによって大きく異なる。そもそも《クラフター・ゴーレム》を生み出せる為にはゴーレムに関わる物を多く取り、特定のスキルを持ってないといけない為にゴーレム創作以外には役に立たないキャラクターになってしまうので見る事なぞ滅多にない。

 

 「《クラフター・ゴーレム》なんてこの世界でも居るんだな」

 「ゴーレムを作るゴーレムなんて存在するのか…」

 

 聞こえない様に呟いた一言を否定するようなジエットの呟きを聞いたアインはレアなのかと認識して再び見つめると目が合った。ナマズとではない。ナマズの上に生えている腐食が進んでいる人間の上半身とだ。頬は破れ、目は血走り、一部は皮膚が剥がれて筋肉が露出している。

 

 直感的に不味いと感じたアインはジエットの手を引いて駆ける。後ろで物凄い足音が聞こえた気がするが目もくれずに走る。今は人間として行動している為に逃げるしかないのだ。第二位階程度では太刀打ち出来ないと言うのは今までの経験でも分かる。

 

 「凄い勢いで来てますよ!」

 「分かっている!分かっているから走れ!!」

 

 音が近づいてくる事からすぐ後ろまで迫っている事は理解している。このまま追いつかれては自分は兎も角ジエットは死ぬ。ペア死亡などいろいろと問題しかないではないか!!ここは彼だけに正体を証し、魔法を行使するしかないだろう。

 

 「やるしかないか…」

 『ふん、お前の勝手だが、その前に右に避けろ』

 

 反撃しようと振り返り杖を構えようとしたアインの耳にメッセージが届いた。理解する前に右に飛び退くと先ほどまで立っていた位置を電撃…《ライトニング》が通過して行った。

 

 「モミか!?」

 「その通りで…って効いてない?」

 

 魔法を放った相手がモミだと思って叫ぶとやはりもみだった。モミはそんな叫びより電撃を弾いたゴーレムに驚愕していた。

 

 「あれはゴーレムだ!電撃では無意味だ!!」

 「そういう事は先に言って欲しかった――です!!」

 

 電撃が無意味ならと火炎を球体状にして放つ《ファイヤーボール》を使用するが顔面で爆発は起こるものの聞いてはいないようだ。しかし足が止まった為にジエット共にモミの近くまで移動する。

 

 「電気も火炎も駄目ならこれで」

 

 今度は球体状の電撃である《エレクトロ・スフィア》を放つと同時に今度は《ライトニング》を放つ。目標はナマズの眼前まで迫った《エレクトロ・スフィア》で、ぶつかり合った電撃同士が強い光と共に辺りに放電して、視界が真っ白に染まる。ジエットとナマズの上部に生えていた人型が目を暗ました。アインはジエットの手を再び掴んでモミと共にその場から撤退した。


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