さぁて、困った問題が発生した。
枕投げ&帯取りで遊んだ後、ラナーちゃんに呼び出されて大部屋まで来たんだ。まぁ、部屋は女子の寝室だった事は多少気にしたが別に何もないだろうし、何もしないから良いだろうと踏んだのだが…。
呼んだラナーちゃんはもちろん、ラキュースにガガーラン、イビルアイにティア、ティナの蒼の薔薇の面々。ミュランにエンリと膝の上に座ってるネムちゃん、そのネムちゃんに他の誰にも見えないように睨みを効かすナーベにソリュシャン、ツアレはお嬢様であるソリュシャンの傍に仕えていたりと女子に囲まれてしまっている。しかも男性は俺ひとり。なんぞこの状況は?というか何故呼ばれたんでせうか?
「ジェイルとはそんなんじゃねぇし…」
「またまた~」
「そういうお前はどうなんだよ。あのンフィーなんたらと仲良かったじゃねぇか」
「ンフィーレアとはその…」
「たまに二人っきりになるよね」
「ネム!?」
「ほほう。それはそれは」
先ほどまでいろいろと追求されていたミュランがネムの一言に反応してここぞとばかりに追及し返す。赤面する女子達を眺めながらただネムの頭を撫でることしかやる事のないぼっちは余計に困る。だって本気で何してればいいのか分からん。膝の上にネムが居なければ『お菓子作ってくる』なんて言ってキッチンに立て篭もるのに。
ため息を漏らす事すら出来ないぼっちは時間が過ぎるのを願いつつ、次の話に耳を傾ける。
「ほ、他の方はどうなんですか?」
「私はまだそのような感じにまで到っていませんので。内乱の後始末やまだ燻っている帝国間の緊張もありますし」
「やはり王女様は大変なのですね」
「エモットさんも大変でしょうに。ラキュースはないのそういう話」
「私はないわよ。私はというか私達になるのかな」
「まぁ…私も他の皆もそういう話は聞かないな」
「ガガーランは特に…」
「相応しい奴となると…どんなモンス―」
「だからどうして化け物になるんだっての!?」
「姉さんはセバスさんとどんな感じなの?」
「わたし?そうね私は――」
騒がしくなってきた部屋に対して物静かに静観するだけの筈だった笑顔のラナーと視線が合う。ものごっつう嫌な予感がするんだが…気のせいであってくれないかな。
「アルカード伯は居ないのですか?」
「まさか居るのですか?」
ほら、予感的中って食いつき過ぎだナーベ。とソリュシャンもか!?別に俺の恋人事情なんて興味ないでしょうに。
至高の御方を第一に考えている彼女達には今日一番の反応を見せるのは当たり前の事だった。他にはチラチラと見てくるニニャが控えめに反応している。スキルを使わなければ鈍感系のぼっちは気付かずに頭を捻る。捻るほどの回答を持っている訳ではないがここで居ないといったらお見合いとか勧められるのではないか?それはそれで面倒だと思ったのだ。ゆえに…。
「内緒だよ」
そう呟いた。が、ラナー王女に火をつけられた導火線は止まる事無く付近にも着火した。今しがた到着したクレマンティーヌにモミがニヤニヤと寄って来る。レイナースも一緒に着たが別に気にする事無く隅の椅子に腰掛ける。元々人の輪に加わる性格ではないが、今回はナーベとソリュシャンが居る事でさらに入ろうともしない。二人が特別嫌いなのではなく、自分より美しい者は誰でも好かないのだ。ゆえに夕食の時以外は別行動を取っていた。そんなレイナースは置いといて近寄ってくる二人が問題だ。
「そんなこと言って、誰か気になる人いるんじゃないの?」
「…私、気になります!」
「気になるって言われても…」
「恋人もですが伯爵は謎が多いですからね。普段の生活からご家族とか」
普段の生活は領地とナザリックの往復です。なんて言える訳はなく、家族の事は…。
「ご兄弟はいらっしゃるのですか?」
「・・・・・・兄が二人に姉が一人居ますね」
「結構な大所帯じゃない。さぞ賑やかだったでしょうね」
「さぁ・・・どうだろ。あまり話さなかったからね」
いいや、話せなかったんじゃない。向こうも俺も話したくなかった…。
重々しく呟いた言葉に部屋は重たくなり、どう言葉をかければいいか皆が困ってしまっていた。内容を知っていたモミは別段思うところはなかったがナーベやソリュシャンはどうすれば良いのか困惑していた。自分の言葉で空気が重くなった事に気付いたぼっちはハッと顔を上げて頬を掻く。
「兄や姉とは仲は良くなかったけれど、爺様と姪とは仲良かったかな」
思い出すだけで笑みを浮かべてしまう出来事を多く残してくれた爺様と進行形でいろんな出来事を起こす姪っ子を懐かしく思い出す。穏かな雰囲気が再び流れてホッとする。
「いつか会って見たいですね」
「私も久しぶりに会いたいな。っとそういえばいつになったら孫の顔が見られるかな?」
「もう、またそのお話ですか。まだまだかかりますよ。いろいろ問題が山積みなんですから」
「・・・ふむ」
「私達は伯爵に良い人ができるのを心待ちにしておきますね」
「・・・善処しよう」
「という事はやはり居なかったんですね」
しまった!?やられた…。
ラナーの言葉にまんまとはめられたぼっちは辺りを見渡す。プレアデスの二人は安心しきった顔を、ニニャは何処か嬉しそうに、あとの皆はニンマリと笑みを浮かべていた。膝の上に座っているネムをエンリに預けて少し唸る。
「あっ!」
声を漏らしたと同時に窓へ視線を向けると何かな?と皆も向ける。しかし窓の先には月夜の灯りに照らされるアルカード領の町並みしか見えなかった。再びアルカード伯に視線を戻すとそこには何も居なかった。急ぎドアへと視線を向けると廊下の方に視線を向けるマインが入ってきたところだった。
「マインさん!アルカード伯は?」
「え?師匠でしたら凄い勢いで駆けて行きましたけど…」
「逃げられましたね…」
「でも代わりに…ね。ふひひ」
「あー…ボク、用事を思い出し―」
「さぁ、こっちに来ようか」
「た、助けて師匠!」
廊下まで響いた叫びにぼっちはひとり合掌するのであった…。