骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

198 / 233
第161話 「ホニョペニョコ現る!!」

 リ・エステーゼ王国には多くの廃村が存在する。これは以前より存在する事実だが誰も目を向けることはなかった。戦争への出兵で若者が居なくなったり、疫病が流行っても街優先で対策をした結果滅びたり、山賊や夜盗、モンスターに襲われたりと各地で起こっていた。今は兵士を育てているから農民を無理やり出す事もなく、冒険者に巡回の依頼を出したりと対策を講じているから少ないが、ラナーが女王に就任するまでは本当に多く起こっていたのだ。

 

 そんな廃村のひとつ。誰一人住み着いていないはずの廃村に二人の少女が訪れた。明かりもない村をしっかりとした足並みで歩き、一番大きな家の前で立ち止まった。元々は村の倉庫だった扉から明かりが漏れ出して足元を照らす。こんな廃村に居る者といえば夜盗や盗賊と相場は決まっている。しかし、少女達は何の躊躇いもなく扉を開けた。

 

 中は改装され寂れた倉庫ではなく、街にある酒場のような造りになっていた。奥のカウンターには店主が酒瓶が並べれれた棚を背にコップを磨き、客は配置された各丸テーブルの周りでに立ったまま酒を飲んだり、ポーカーを楽しんだりしていた。扉が開くと顔を顰めながら新たな来客に睨みを効かす。

 

 酒場へと足を踏み入れたのは黒のボールガウンやフィンガーレスグローブを着た長い銀の髪の少女と純白のレディスーツに同じくスーツの上着を羽織った長い漆黒の髪の少女だった。二人の少女が共通していたのはどちらも整った顔立ちで、肌が白く、目が赤い事だった。酒場の大人達はその特徴から少女が吸血鬼だと理解したうえで慌てふためく事無く見つめる。

 

 注目を集める少女はカウンターへと向かって行く。店主は一瞥すると大きく息を付いた。態度から歓迎はしていないようだ。

 

 「注文は?」

 

 苛立ちを隠さない店主の言葉に二人はキョトンとした表情で見つめなおす。その反応が気に入らなかったのかカウンターを叩きつけながら睨みを効かす。

 

 「俺はガキの冷やかしはすかねぇんだ。注文もしねぇんならとっととママンとこ帰んな」

 「下等な存在で…」

 「ふむ。確かにただ居るだけでは冷やかしだな」

 

 銀髪の少女はカチンときたのか怒りを露にするが、黒髪の少女はそれはそうだと納得する。少女とは思えない重低音で声の音量を伴わない脳に響く声色に皆が凝視する。辺りを見渡して何かを探し始めたようだがそれは見当たらず、銀髪の少女へと視線を移す。視線を向けられ少し考え込むと理解したのか頷いて店主に顔を向ける。

 

 「紅茶を」

 「テメェ馬鹿にしてんのか?」

 「元々期待もしてなかったでありんすがそもそも置いてなかったのですか?」

 「そういう意味じゃあねぇよ!そっちの黒髪のお嬢ちゃんは何を注文する気だ?」

 「ストロベリーサンデー」

 「ねぇよ!酒場に来て紅茶やストロベリーサンデーを注文するか普通!?してもミルクだろうが!!」

 「ここは酒場だ。ガキの来るところじゃねぇぜ」

 

 少女と店主のやり取りに近くでポーカーしていた男が馬鹿にしたように言うと、少女は視線は店主に向けたままニタリと笑う。

 

 「そうか?それにしちゃあ血の匂いがぷんぷんするがな」

 「―っ!!……今日はついてるな」

 「ロイヤルストレートフラッシュか…そんな役を出すと寿命が縮むぞ」

 「皆、今日は奢るぜ!!」

 

 男は振り向き様に目を赤々と輝かせ牙と爪を伸ばして少女に襲い掛かろうと飛び掛る。振り向く瞬間にも皮膚は裂け、紫色の醜い身体が露出する。彼らもまた吸血鬼で主人より命令を受けてここにいる。主の命令は絶対でその為には同属だとしても殺さなければならない。別に躊躇っているわけではない。むしろ殺す事に快楽を感じているタイプだが…。

 

 「……ビンゴ」

 

 振り向きもしなかった少女から長方形の鉄を向けられ、言葉と共に何かが発射された。吸血鬼の反射速度でも避けられない物体を近距離で受けた男は衝撃でカウンター前から出入り口の壁へと叩き付けられた。皮膚には穴が開き、肉は抉られ、体内には異物感が残る。今まで受けたことのない痛みに悲鳴を上げようと口を開いた男は体内から大爆発を起こすと共に消滅した。

 

 「第1位階《クィック・マーチ》付与特上鋼鉄製

  第3位階《ファイヤーボール》封印劣化鋼KB

  第8位階《エクスプロード》封印特上水銀弾頭 

  全長45cm

  重量20kg

  13mm魔法式KB弾」

 

 男が襲い掛かったら次は襲い掛かろうと用意していた客であった吸血鬼達は動く事も瞬きする事も出来ずにただ少女を見る事しか出来なかった。少女らしからぬ歪み、楽しそうな笑みに背筋が凍り理解する。

 

 「『ラグナロク』

  パーフェクトだセバス」

 

 ――自分たちが狩られる立場になったことを!

 

 ある者は逃げ出し、ある者は勇敢にも、無謀にも立ち向かう。が、向かって来た者は銀髪の少女が手を振るうと絶命し、逃げ出すものは黒髪の少女に謎の武器により形も残さず消滅して逝った。最後に残った店主は顔を青くして両手を上に伸ばして降参のポーズを取る。構わず一振りでなぎ倒そうとしていた銀髪の少女の動きが止まる。

 

 「これは、これは従僕が失礼を致しました。深く謝罪致します」

 

 まるで貴族のような服装を着た顎鬚を生やした老吸血鬼が優雅に頭を下げた。歳をとっているといっても背筋は伸びて、まだまだ現役であるのは見て分かる。

 

 「さっきのとは違い礼儀は弁えているようですわね」

 「数だけの従僕に教育が行き届いていなかった私の不徳の致すところです」

 「ほお…それなりの吸血鬼のようだ」

 「貴方様方に比べれば私のような者は下級でございましょうに…して、貴方様方は何用でお越しに?」

 「総会へ出席したいのだが」

 「おお!それはそれは…して招待状はお持ちで?」

 「持っておりませんわね」

 「ではお引取りを…と申し挙げたいところですが私の見立てですと貴方様方は上級吸血鬼――ならば私の客人と言う事で」

 「総会に参加させるから許せと?」

 「…そうして頂ければありがたく」

 「良いだろう」

 「感謝致します。どうぞこちらに」

 

  男に続いて二人の少女は隠れてあった入り口より地下へ降りていった…。

 

 

 

 

 

 

 ぼっちは貴族っぽい吸血鬼……長いから顎鬚と呼ぼう。顎鬚後ろについて薄暗い螺旋階段をシャルティアと一緒に下っていく。

 

 今回ぼっちがシャルティアと廃村に来たのは調査の為である。情報収集していたセバスに誠か嘘か定かではない噂を聞いてきたことが発端だった。帝国で仕入れた噂は満月の夜に王国の廃村で吸血鬼が集まっている程度のものだ。アインズは別段気にしなかったが吸血鬼と言う事で喰い付いたぼっちは調査すると言い出したので、護衛に吸血鬼のシャルティアを同伴させる事で許可が出たのだ。

 

 いつもの格好ではアルカードなので今回は長い黒髪の少女の姿をとった。白いレディスーツなど姿から格好までアーカード…いや、ロリカードを意識してゲーム時に造り込んだ変身用の姿だ。

 

 ロリカードの姿なのもあるがセバスに造らせたラグナロクの試射もようやくできたので上機嫌である。……ただ歪んだ笑みなので見たものは怖がるだろうが…。

 

 ようやく付いた地下の入り口を開けると丸っこいフロアに出た。上の酒場と違って雑な作りの丸机ではなく、しっかりと作り込まれた豪華な机に椅子が並んでいた。並んでいるといっても距離を開けてゆったりとできるようになっている。フロアの真ん中には円状に手摺が付けられさらに下の様子が窺えるようになっていた。

 

 ぼっち達が居るフロアが三階ほど続いて、一番下の階では大きな机に何百年と生きたであろう年老いた吸血鬼達が座っていた。彼らがここのトップたちなのだろう。

 

 「ああ、下に居るのが吸血鬼達を統括している十氏族の長達ですよ」

 「…十一人居るが?」

 「ああ、ディオ様の事ですね。彼は十氏族の議長を務める方ですよ」

 

 あれがディオ?確かに金髪だけど前髪を三つのロール状にしてたり、後ろに伸びた髪を一本に編んでたりしてるからジョルノじゃね?服は普通の学ランだけど…って学ランなんてこの世界にあったんだ。

 

 そんな事を思いつつ眺めていると顎鬚はティーカップに赤い液体を注いだものを持ってきた。どうぞと差し出された液体の匂いを嗅ぎ、口を付けると渋い顔をしてしまった。中身は血だ。吸血鬼なのだから血を飲むことに不快感を覚える事はない。逆にジュースを飲むような気軽さだってある。スキルで見たら処女の生き血と表示されたし、口では言わないが顎鬚は自信満々に出す事から美味しいのだろう。けれど…。

 

 「…微妙だな」

 「お口に合いませんでしたか?」

 「いや、美味しいのだろう君達にとっては。だけどそれ以上に美味な血を知っているからな」

 

 チラッと横に立つシャルティアを見つめる。本人は何でしょうと首を傾げているが、ぼっちは比較対象であるシャルティアやアウラの血の味を思い出しているだけであった。正直天と地以上の差があるんだな。

 

 「どうか致しましたか?」

 「シャルティアの血は美味しかったなと思って」

 「―っ!?ででで、ではお吸いに?」

 「また今度貰えるなら」

 「お待ちを!今『シャルティア』と仰られましたか!?」

 

 妙に顎鬚が興奮気味にシャルティアの名前に食いついてきた。少し声も大きかったのか辺りの吸血鬼たちも視線を向けてくる。上でもそうだったが視線が集まると緊張から精神の安定化がコンマ単位でされて口が滑らかに動くから良いな。

 

 「まさかとは思いますが王都で暴れたシャルティア・ブラッドフォールン様で?」

 「まさかもなにもシャルティア・ブラッドフォールンは私ですけれど?」

 「おお!よもやお会いできる事があろうとは!王国のアダマンタイト級や王国戦士長など上級吸血鬼でも苦戦する相手を余裕を持って相手なされた伝説級の吸血鬼…。先ほどの無礼を重ねてお詫びいたします」

 

 すんごいシャルティアの評価が高い。自分が低く見ている訳じゃないんだけど顎鬚の態度はまるで神を崇めるようだ。なんかナザリックでも似た光景を良く見てた気が…。

 

 「するとお隣の方もご高名な吸血鬼で?」

 「もちろんでありんす。私など足元にも及ばない方でありんす」

 「それはなんとも…お名前をお伺いしても?」

 

 名前をと言われて咄嗟にロリカードって言いかけたけどアルカードに似た名前なので喉元で留め、別の名を名乗る事にする。

 

 「カ……カーミラだ」

 

 候補としてはレイチェルや忍も出たのだがなんとなしにこっちの方がしっくり来るような気がして答えた。答えたのだが何か不満だったのか困った顔をしている。

 

 「申し訳ありません。ファミリーネームを聞いても?」

 

 しまったぁぁああああ!!初対面の相手はファーストネームよりファミリーネームで呼びますもんね。そこまで頭が回らなかった…どうしよ…。

 

 『時々――自分の常識把握力が信用できなくなる…』

 

 まったくもってその通りです魔王様。しかしだからと言って落ち込む前に考えなければ…

 

 「……ごにょ…っこ」

 

 急いで考えるも日本名の苗字しか出てこず、何も喋らないのもきついので誤魔化すように呟く。すると顎鬚はシャルティアの名を聞いたときより目を見開いて驚いた。

 

 「…ホ、ホニョ…」

 「ホニョ?」

 「……ホニョペニョコ…ですと!?」

 

 視線が集まるどころか椅子から転げ落ちる者が多発しているんですけれど…どうしたのこれ?

 

 騒然とする中、ぼっちの少女姿の名前が決まった。

 

 カーミラ・ホニョペニョコと………。どうしてこうなったし?

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。