骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第163話 「悪魔の軍勢」

 ぼっちがカーミラ・ホニョペニョコとして、アインズが冒険者モモンとしてエ・ランテルに行っていた頃、モミは異様に長いシルクハットに紳士服に身を包んだ状態で鼻歌を歌いながら芝生の上に寝転がっていた。

 

 リ・エステーゼ王国のエ・ランテル付近に広がるカッツェ平野、カッツェ平野はバハルス帝国にも繋がり護りとして帝国の大要塞が築かれている。城壁には付近を警戒する帝国騎士以外に槍を矢の代わりとして発射する設置型の大型弓であるバリスタの担当兵士たちが居るがこちらが射程外の為に身動きできないのだろう。

 

 「ふぁああ~……眠」

 

 寝転がったのは良いのだが太陽が眩しすぎて寝るに寝れない。被っていたシルクハットを顔の上に置いて日差しを遮り今度こそ寝ようとするが、それを良しとはせずにシルクハットが外された。急に視界が開けて太陽の直射日光が…。

 

 「目が!目がああああああ!!」

 「何をしているのかね?」

 

 両手で目を塞いでジタバタと転がるモミに呆れた視線を向けたスーツを着こなすデミウルゴスが立っていた。ただ仮面を付けている事から現状はデミウルゴスではなくヤルダバオトと呼んだほうが正しい。モミも幻影は展開しているので千年公としての姿で周りから見られている。

 

 コロコロ転がり続けたが飽きたのかあっさりと立ち上がる。首に手を当てて首をコキコキと鳴らし、腕を伸ばして楽にする。

 

 「いんやぁ…かの有名なヤルダバオト氏が有能でやる事ないんだよね」

 「だからと言って寝てるというのはどうなのかね」

 「そうさねぇ…」

 

 振り返った二人の後ろでは多くのスケルトンが陣地構築の為に働き続けていた。柵を設置し、テントを張り、堀を掘り、攻城櫓を作ったりと大忙しだ。余計にやる事ないのではと思うのだがそれを言うとデミデミが五月蝿いので喉の辺りで止めておく。

 

 「ところで軍司令はどんな具合なん?」

 「軍司令とはコキュートスの事なら戦場の把握と部隊編成に頭を悩ましているよ。先ほど様子を見に行った時にはぼっち様から頂いた戦術指南書と睨めっこしていたね」

 「はっはー……もっと気楽にやれば良いのに」

 「至高の御方の命をぞんざいに言うのは止めたまえ」

 

 今回ヤルダバオトと千年公である二人がここで陣地を敷いているのは帝国への侵攻作戦の第一歩をここで行う為である。召喚できるナザリックのモンスター達にこつこつ召喚してもらった地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)100頭、上位地獄の猟犬(グレーター・ヘル・ハウンド)50頭、極小悪魔の群集体(デーモン・スオーム)400体、朱眼の悪魔(ゲイザー・デビル)200体、魂食の悪魔(オーバーイーティング)200体の合計950ものヤルダバオトの軍勢と称した悪魔軍と千年公のデスナイト15体が待機する予定だった。

 

 侵攻作戦を行う事を知ったコキュートスが指揮官として自分もと名乗りを挙げたので、アインズがそれもいいかと軍勢を与えてくれたのだ。大要塞への威力偵察と陣地構築の骸骨(スケルトン)6000体と骨のハゲワシ(ボーン・ヴァルチャー)200匹の偵察部隊。骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)4000体、骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)1000体、骸骨騎兵(スケルトン・ライダー)1000体、骨のハゲワシ(ボーン・ヴァルチャー)1000体、骸骨魔法師(スケルトン・メイジ)500体、エルダーリッチ3体のスケルトン系7503体の本隊を従えている。

 

 リザードマンとの戦いで用意した軍より三倍ほどの総戦力14668大軍勢となった。が、まだゲートでの移動はしていない為に偵察部隊とテント内に隠れているデスナイトしかここには居ない。居たら帝国軍は攻めて来れないだろうし。

 

 「圧倒的じゃないか我が軍は」

 「貴方のではなくナザリックの軍勢ですがね」

 「分かっているけど言いたくなっちゃって」

 

 デスナイト2体以上で過剰戦力なのに一万越えのアンデット軍とか帝国にどうせぇちゅうねん!?って感じなんだけど…アインズ様もあまあまだよね~。

 

 本来の目的は帝国で騒ぎを起こして、困った帝国にアインズが救助する形を作って仲良くなろうってなものだったんだけど…。あの馬鹿…能天気?…無計画…なんでもいいや。ぼっちが吸血鬼の総会に出席してくるよなんて言って行った来たかと思うと『ホニョペニョコに・・・判定・・・されました』とか後になって報告してくるし…。で、アインズの本当の性格を知り、何も考えてなかったぼっちが私の所に相談しに来た。何でこうもトラブルを持ち込むかななんて頭を痛めたけど、冒険者であることから呼びやすいモモンを吸血鬼の事で動けなくして、帝国がアインズに助けを求めやすくなり、状況はそれほど悪くなかった。ついでに学園は当分休みになるから楽でいい。

 

 「帝国の動きは?」

 「大慌てで軍を召集している。思ったより動きが良いですね。人間にしては出来るほうですね鮮血皇という人物は…」

 「王国のラナーとはどっちが優れてるかねぇ」

 「もちろんぼっち様が認められたラナーという人間ですね。あの娘を身内に加える為にクライムなんて者を養子にしたのですから」

 「羨ましい気持ちは分かったけど怒気出すの止めて。マジで怖いんだけど」

 

 仮面で顔が見えないんだが確実に顔が変わるぐらいに怒っているんだろうな。ぼっちの養子が出来たって話が伝わった時には騒ぎになって大変だった。

 

 怒りに震えて肩をプルプルと揺らしていたデミウルゴスは大きく深呼吸をして感情を落ち着けようとする。やっとの事で落ち着いたデミデミに話題を変えようと話しかける。

 

 「あー…デミデミはぼっちさ―様やアインズ様にご褒美として何かしてもらいたいとかある?」

 「至高の御方に―」

 「その反応もう良いから。アインズ様もぼっち様もそれ相応の対価は必要って言って褒美を聞くだろうから考えてあげといて。私は休暇を…」

 「休暇を求めるならちゃんと働いてくださいね。…ふむ。ご褒美ですか…」

 「コキュにも言っておかないと」

 

 話を変えたことで安心しつつ、ぼっちの件で大きなため息を吐く。褒美の話を出したのは話題を変えたいってのもあったが一番は帝国魔法学園よりアルシェの知り合いを引き抜いたときの事を考えてだ。吸血鬼の方か何かでアルシェに手柄を立てさせて、褒美として知り合いを引き抜いてやる的な感じにするのは良いのだが、彼女一人だけ至高の御方が何かをするというのは他の仕える者としては思うところが大き過ぎる。ゆえに二人に欲しい物なんかを考えてもらったのだ。彼らも受け取るのなら知り合いの人間程度を引き抜いてやっても問題はないだろう。引き抜く手筈は簡単だし…母親が難病とか幼馴染の女の子が貴族に目を付けられているとかいろいろ恩を売りつけるネタはあることだし。

 

 「おや?」

 「どったの?」

 「いえ、コキュートスからメッセージが…」

 

 耳に手を当ててメッセージを使って会話をするデミウルゴスを見て何かあった事を察するが予想は出来ている。

 

 「どうやら帝国の軍勢が要塞に向かって集結を開始したようです」 

 「そろそろだとは思っていたけど…モモン氏は?」

 「王都へ向かって移動中」

 「予定通りか…指揮所に行きますか」

 

 これから起こる戦争に少しワクワクしながら指揮所のテントに向かって行く。…ただある一名の存在を忘れて…。


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