骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第164話 「戦前」

 カッツェ平野バハルス帝国側にはカッツェ平野で発生したアンデットや王国軍の侵攻に対して準備された大要塞が築かれている。分厚い壁はどんな攻撃を通す事も無く、敵の侵入を拒む。壁上には目の良い監視員に対空への備えとして弓に長けた騎士と大型対空装置のバリスタが配備されている。その壁上にはひとりの男が下を眺めつつ大きなため息を吐き出す。

 

 ミスリル製の軽量化鎧を着こなし、アダマンタイト製の武器を所持する彼は帝国最強の四騎士筆頭、バジウッド・ペシュメルである。王国と年に一度の戦で敗北し、魔導国と同盟を組んだ王国と戦うだけの力は無い。もしここにバジウッドなどの四騎士が来るとなればそれは攻めではなく守りの為だけだ。ならば何故ここに四騎士筆頭が居るのかということになる。それは帝国に届いた文が原因だ。

 

『バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスへ宣言する

 私、ヤルダバオトと同胞である千年公は帝国に対し国土の半分の明け渡しを要求する。

 拒否してもらっても構わないがその時にはリ・エステーゼ王国王都で起こした騒ぎと同等以上の用意があることを予め伝えておきます。

 と、一方的な要求でしたがここでチャンスをあげましょう。

 カッツェ平野にあるバハルス帝国大要塞に兵力を集めました。それらを退けれるなら私達は引きましょう』

 

 鮮血皇と呼ばれるジルクニフは文を読み終えると同時に国家非常事態宣言を発令しようとした。それは正しいと思ったのだが即座に撤回した。もし非常事態宣言を発表すると帝国臣民がパニックを起こすというのもあるが、事の発端になった文を見せる事もあるだろう。それが大きな問題なのだ。文の『国土の半分』という一文が危険極まりないのだという。

 

 ヤルダバオトはリ・エステーゼ王国の王都に短期間で大量の悪魔達を呼び寄せ、一部を廃墟や火の海へと変えてしまった化け物中の化け物。千年公も一体で国を滅ぼせるほどのデスナイトを操る恐るべき者。そんな奴らに勝てると思う連中は居ないだろう。ならば何をするべきかといえば明け渡す国土の選定だ。しかし明け渡す領土に住んでいた臣民まで残りの半分の国土で衣食住を賄えるかといえば無理だろう。それに領地の管理をしていた有能な貴族たちはどうする?自分達の生活や領土を守る為に抵抗する事は目に見えている。となれば同じ考えを持つ領民と共に帝国に反旗を翻し、文字通り帝国を二分にした内戦が勃発してしまう。ヤルダバオトという悪魔はそれを見越して半分だけと書いたのだ。後は争う両方が疲弊したところで侵攻すれば最低限の戦力で事足り、ほとんど何もしなくても帝国を手に入れる。そんな事態を恐れての事だ。

 

 しかしジルクニフはこんな策に出るという事はヤルダバオトと千年公が持つ戦力が少ない事を意味していると判断した。両者とも勝ち目の無いような化け物であることは周知の事実。ならば力ずくで攻めれば瞬く間に攻めきる事が出来る。が……。

 

 ヤルダバオトは王都での王国の冒険者『モモン』との戦闘で受けた傷が癒えていない。

 

 呼び出した悪魔達がほとんど駆逐された為に配下の悪魔がそれほど多くない。

 

 同じく千年公も手持ちのデスナイトをモモンを含めた王国のアダマンタイト級冒険者二チームでの合同討伐で失った。

 

 千年公は操る事は出来ても戦う事は非常に苦手。

 

 など考えられるものは多くあった。ゆえにジルクニフはこれを好機と考えて退治、出来れば捕縛して帝国の戦力に加えようと画策したのだ。現在大要塞にはカッツェ平野で大量発生したアンデットを排除する名目で軍が動いている。総司令官には第六軍のグレガン将軍が任命された。本来なら第一軍の将軍に命じられても可笑しくないのだが第一軍と第二軍は王国との戦で消耗し、現在帝国で主力とされるベリベラッド将軍の第三軍は帝国防衛と戦力の再編もあって動けずにいる。

 

 「何とかなるかぁ…」

 

 ぽつりと呟いた先にはカッツェ平野に陣地を敷いた敵陣とスケルトン6000が陣形を整えていた。あれほどの数のスケルトンを支配しているという事はそれほどの実力を持っている事を現している。噂でしか聞いたことのなかったヤルダバオトと千年公の実力は本当だったんだと納得せざるを得ない。しかし、今回はあの軍勢を押し返せばいいだけなのだ。こちらは1万2000の兵士を用意、しかも対スケルトン戦の抗議も受けさせている。問題は無いだろう。

 

 いつまでも眺めていても敵が減るわけでもないし、そろそろ指揮所の方へ引き上げようと踵を返そうとするとそう遠くない所で先の自分と同じくスケルトンの軍勢を見つめる二人を見つけた。

 

 「よう。揃って骸骨の見学かい?」

 「…ふん」

 「あ!これはバジウッド様」

 

 そこにいたのは四騎士に新たに入った『烈風』と呼ばれるようになったカストルと副官である赤毛が特徴的な少年のバイアだった。バイアは礼儀正しく姿勢を正して頭を下げる。対して新入りであるカストルはちらっと視線を向けて鼻を鳴らすとさっさと視線を戻していた。四騎士筆頭に対して無礼な態度だが本人は気にしていない為に軽く手を挙げて挨拶をしていた。

 

 「…何のようだ?」

 「つめてぇ返事だな。それよりアレをどう見る?」

 「……案山子」

 「ブッ!案山子か。お前らしいな」

 

 バジウッドはこのカストルと言う男をかなり気に入っている。

 

 自身に対する絶対的な自信に誰に対して媚び諂うことなどありえない。何処まで行っても姿勢を変えずに我を貫き通す。真似をするには難しく、誰もが行ける道ではない。演じているわけではなくそれが彼の性格なのだ。四騎士に選ばれたときには堂々と『地位は頂くが貴様に忠誠を誓う気は無い』と大貴族や将軍達が集まる前で皇帝にそう宣言したのだ。無礼過ぎてその場で殺されてもおかしくないのに眉一つ動かさず涼しい顔で言った時には思わず噴出してしまった。皇帝は表情を変える事無く「それで構わない」とだけ言っていたっけ。騎士として働いてくれるなら別にいいという考えなのだろうな。レイナースがその例に当てはまるし。

 

 「バジウッド様はここで何をしていらしたので?」

 「俺か?俺は……ただ見ていただけだ」

 「凄い数ですね」

 「確かに多いが奴ら攻める気がないらしい」

 

 攻城戦を行なうには数も少なくスケルトン程度では不可能。だからこちらの様子を窺っているのか…もしくはかかってこいよと挑発しているのか…。

 

 考えを巡らしても答えが出るわけでもない。頭を掻きながら視線をスケルトンに向けた。先ほどとは違う光景を見つけて動きが止まる。距離があって見難いがスケルトンの一部が何かを重ねて2メートル程度の山を構成していた。目を凝らしても良く見えずに顔を顰めるばかりだ。

 

 「あいつら何をしているか見えるか?」

 「えっと…さすがにこの距離では…」

 「だよな…」

 「積んでるな。死体を」

 「凄いな。この距離で見えるのか。―――って今何て言った!?」

 「積んでいると言ったのだ」

 「そうじゃねえ!何を積んでるのかってとこだ」

 「死体だな。動物や人の」

 「なんてこった!!」

 

 話を聞いて大慌てで下へと降りる階段へと駆けていく。その様子に驚いたバイアが不安げな表情を向ける。

 

 「どうしたんですか!?」

 「どうしたじゃねえ!あいつらこっちが攻めてこないからってアンデットを生み出そうとしてやがんだよ」

 

 死体が放置されると伝染病が流行る事も脅威だがアンデットが生み出される事の方が厄介である。死体の付近からアンデットは誕生し、アンデットが集まれば上位のアンデットが生まれる。ここ数日スケルトン軍団を監視させていたが報告にはアンデットが誕生したなんて報告はなかった。あれらは例外なのかそれとも誕生するには何かしら別の方法があるのか判明してないがやろうとしていることはアンデットの生産であっている筈だ。これ以上厄介にならないように将軍に話を進めなければならなくなった。

 

 これが帝国に仕掛けさせるための罠であっても…。


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