骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第169話 「ぼっちと・・・」

 カーミラ――ぼっちはトーラスを仕舞ってラグナロク一丁でローブ姿の少女の相手をしている。装弾数は見るよりも身体で覚えている為に空撃ちを撃つ事は無いが、まず当たらない。

 

 「当たらなければどうという事はない……まったくその通りだったか」

 

 正面から向かってきているのだが細かく行なわれている左右へのステップにて狙いが定まらない。動きが早すぎて残像含めて三人ぐらい見えるのだが。どちらも有効な攻撃は与えられずイライラするところなのだが、ぼっちにいたっては笑っていた。殴り殴られの戦いも好みだがこういう戦いも良い。毎回は嫌だけど。

 

 試しに三発ほど撃ってみるが案の定外れた。避けられたのではなく外れたのだ。避けようとしてステップしているが狙って避けているわけではなさそうだ。多少かじった知識だろうが彼女の身体能力が回避を可能としている。

 

 と、関心している場合ではない。今の三発で装弾数はゼロになったのだから。慌てず回転式の弾倉をむき出しにして一発ずつ弾を込めていく。

 

 『リロードタイムがこんなにも息吹を!』

 

 久しぶりの幻聴だ!確かにリボルバータイプの銃ってリロードするのもカッコイイ…ってそんな場合じゃない!!

 

 悦に浸りながら弾込めをしていたが急に突撃してきたローブを間一髪で回避する。同時に自身の足元に込め終えた4発を連続で発射。爆発と土煙で姿を暗まし、近くの岩場へと身を隠す。

 

 ぼっちとしては刀で斬り合いたいところだがカーミラは銃武器の印象を与えてしまった手前、ぼっちが使っている刀などは絶対使えない。もし取り逃がしでもして正体が露見したら取り返しが付かない。

 

 「むむむ…姿を隠したかにゃ…。スキルで探せないし…良し!出ておいで~もう何もしないから」

 

 再び弾を込めているとそんな声が当たりに広がった。あちらもこちらも対索敵スキルも使用してどちらも相手の位置取りが分からない。声を出してくれているおかげで位置は分かるんだけど、正面から仕掛けても多分外れる。奇襲するにしてももう一手欲しいな。

 

 「本当に何もしないの?」

 「にゃ!何もしないにゃよ」

 「じゃあ…」

 

 羽織っていたコートを岩陰から放り投げると何かがコートと共に消えた。

 

 「獲ったにゃ!ってこれコート?」

 「うーそーつーきー(棒読み」

 

 まさか本当に引っ掛かるとは思っても居なかった為に、相手のお馬鹿な行動に呆れ顔を晒してしまった。呆れつつも銃口はしっかりと止まった彼女を狙っている。完全に不意をとった。

 

 「にゃんとおおおお!?」

 

 間の抜けた叫びを挙げながらガンダッシュされ、まさかの全弾を回避された。ここまでくると化け物と叫びたくなる。自身も化け物であるが種族的なものでなくて感覚的に。

 

 「当たれ!」

 「頼まれて当たってやる馬鹿がどこにいるにゃ!!」

 

 確かにそうだなと納得するよりも先程より語尾に『にゃ』を付けたり、あの声、あの喋り、あの戦闘方法…前のギルドメンバーのミイにそっくりなのだが。自分の思い過ごしかもしれないから聞けずに居るがどうしようと悩む暇もない。

 

 それにそろそろ決着も付けたいところだ。

 

 「そろそろ終いにするか」

 

 姿を隠す事もせずに堂々と姿を晒して待ち構える。銃を仕舞って格闘戦を挑もうとするぼっちに対して唇を舐めて笑みを浮かべているのがローブから覗いている口元で分かる。

 

 「射撃メインだったのにここで接近戦にするのかにゃ?」

 「ええ。相手をしてあげる」

 

 自身で言った女性っぽい言葉にむず痒くなりながら挑発する。怒った様子もなく、ただ微笑みながら突撃しようと地面に手を付いて足に力を入れる。スタンディングスタートのポーズだ。あの性格であのポーズなら何の迷いもなく正面から来るだろう。仁王立ちのまま待ち構える。

 

 ドン!っと地面を蹴る音が耳に届く前に彼女は眼前に。迫る爪に対して避ける事はせずに左手を開いた状態で突き出す。爪により肉を抉られ指が手の平を貫通する。驚きの表情を浮かべるよりも早く、痛みを我慢して握り締める。

 

 「捕まえた♪」

 「――なぁ!?」

 「アタッ!」

 

 片手を握られて動けなかった彼女に容赦なく殴る。胸の中央である胸郭に拳がめり込んで彼女は口元を歪めて耐える。ここで終わらせるわけはない。胸郭を中心に十字架の形を刻むかのように何度も何度も殴る。打撃を受け揺れながらも離れる事できず、連打が終わるまで声一つ漏らさずに耐え続ける。

 

 「北斗十字斬!」

 

 最後の一撃を胸郭中心に叩き込み、握っていた手を緩めた為に勢いで2メートルほど吹っ飛ばした。勿論『経絡秘孔』なんて突けないのでただのラッシュだが相当なダメージは入った……筈だった。

 

 「クハッ!息が止まるかと思ったにゃ」

 

 ひょこっと立ち上がった彼女は距離を取りつつ口を開いた。この世界では殴られた威力で内部破壊できてしまうが、同レベル相手に筋力の低いぼっちのパンチなんて効かないに等しい。自分でも分かっていたがそこまで平気そうにされるとさすがにへこむんだが。

 

 「中々のプレイヤー、もしくはNPCと見た。にゃらば私も本気を出せねばにゃらない!」

 

 ローブ付きのマントは勢い良く脱ぎ、ケット・シーらしいネコミミと猫の尻尾を露にした。10代半ば頃の少女は天真爛漫な笑顔を向けて突撃のポーズを取る。地面を蹴る直前にぼっちは目の前の少女に唖然として素の声で呟いていた。

 

 「・・・ミイ?」

 

 ゼロからのトップスピードで襲いかかろうとしていたミイは懐かしい声により足がもつれて、顔面より地面に激突して転がった。何度も転がってぼっちの目の前で完全に止まった。顔だけを上げて目をぱちくりと見開く。

 

 「もしかして…もしかしなくても……ぼっちさんかにゃ」

 「・・・(コクン」

 「本当に…本当にぼっちさんなのかにゃあ」

 

 演技で作った嗤いではなく、本来の笑みを向ける。ミイの目からは溢れた涙が流れ、心の底から微笑む。目の前で女の子が泣いている状況とミイがこの世界に居た事に困惑してオロオロしている。

 

 「会いたかったよ。ぼっちさ――ん!!」

 「ふべらっ!?」

 

 抱きつくという名のタックルをもろにボディに受けたぼっちは、体をくの字に曲げて吹っ飛んだ。自身の胸に顔を埋めて抱き締めるミイを眺めながら、今の一撃こそ今日最大の一撃だったと思うのであった。

 


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