骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第172話 「吸血鬼の巣の中で」

 モモンは急ぎ足で吸血鬼の巣窟である地下への階段を進んでいた。相手にレベル100が居る事は理解しているが、急がずにはいられない。未だにシャルティアやぼっちが合流していないという事は他の100レベルの相手に手を焼いているという事。ならば自分が早々に倒して援護に向かわなければならないだろう。

 

 ナザリックから階層守護者を呼ぶという考えは勿論出たが、密閉空間でもない開けた場所でナザリックとの繋がりを見せびらかすのも気が引ける。

 

 「きしゃああ!」

 「喧しい」

 「ぶぎゃ!?」

 

 威嚇しながら襲い掛かってきたゴブリンを殴りつけて対処して行く。どうやらこの地下施設には吸血鬼以外にゴブリンも大量にいるのだ。相手の親玉が引き入れたのかは知らないが数だけはいて面倒なのだ。最初なんて後頭部に一撃を貰ってしまう失態を犯してしまった。来た道は一本道だったのだが道中変な置物があり、注意を引かれてしまった所があり、そこにゴブリンの巣穴の一つがあったのだ。暗闇と置物に注意を向けてしまったモモンは気付かず、背後からの奇襲を受けてしまった訳だ。

 

 鎧を血で汚すことに躊躇わなくなったモモンは殴り殺したゴブリンの死骸を気にする事無く踏み締めて行く。

 

 本来なら大剣を使いたい所なのだが道が狭すぎて扱えない。多分そういう事も想定された地下への道なのだろう。やっとの事で通路や階段の一本道を降り切り広い空間へと出た。モモンはゆっくりと辺りを警戒しながら真ん中まで足を進める。円形状に削られた空間はローマのコロッセオに似た雰囲気を得る。円状の壁には入り口らしい空洞が幾つも空いており、その上の階層は観客席となっている。

 

 「ようこそ御出で下さいました。歓迎はしませんが」

 

 観客席に立つ金髪の学生服の少年と目が合った。少年は学生服のボタンを開けて胸元を見せるように右手で引っ張り、左手で上着が上がらないように抑えた奇妙なポーズで立っていた。細かな素性は分からなかったが赤く輝く瞳から吸血鬼という事は読み取れる。

 

 「君が吸血鬼たちのリーダーか」

 「ええ、名をディオと申します。本来は別の名ですがこの名を貰いましたので今はこの名を使わせてもらいます」

 「私はモモン。此度はリ・エステーゼ王国の依頼で君たちを討伐するように言われている」

 「そうですか。しかし『はい、そうですか』と応じられる訳もなく……ならば抵抗はさせてもらいます」

 

 奇妙なポーズを止めて指をパチンと鳴らす。すると幾つも空いていた入り口より二匹のモンスターが姿を現した。形は人型だが狼の頭に毛むくじゃらの肉体、鋭い爪は人外であることをひと目で教えてくれる。

 

 「…ウェアウルフか」

 「はい。貴方が知るとおりのウェアウルフです。…ただ少しだけ強化してはいます」

 

 一頭のウェアウルフが屈むと一瞬のうちに眼前まで迫っていた。振り上げられた一撃をとっさに飛び退いて避けるが、いつの間にか背後に回ったもう一頭にドロップキックを喰らわされてしまった。

 

 「くっ!?この!!」

 

 苛立ちながら裏拳を喰らわそうと振るうがすでにその場には居らず、猛スピードで移動してディオの足元で膝をついてこちらを睨みつけていた。

 

 「どうです?私のウェアウルフは」

 「この速度…この腕力…その真っ赤な瞳………自分の血を吸わせたのか?」

 「ご名答です。この二匹には私、ディオの吸血鬼の血を与えておいります」

 「凄まじいな。血を飲ますだけでウェアウルフのステータスをここまで底上げするとは」

 「飲ませば良いというものでもありません。血を含むだけで発狂して暴走、自壊する者がほとんどですので」

 

 再び指をパチンと鳴らすと二匹同時に走り回り、視界には残像が残っている。凄まじい速度だが対処出来ないほどではない。接近戦を挑んでくると分かっているからこそあえて受けた。一撃で仕留めようとした一撃は強固なモモンの防御力によって弾かれ、それを待っていたモモンは二匹の頭を掴んで地面に叩き潰す。飛び散る血飛沫を浴びながらため息を吐き出した。

 

 「やはりプレイヤーですか…」

 「…諦めたほうが良い。そちらの目的は止めさせて貰う」

 「諦めろ?それは無理だ。僕にはこれしかないんだ。もう……ないんだ…どうやってももうだめなんだ。

  間に合わなかった。……知らなかった…あの方があんな事をしよなんて…。

  僕が体の中に入れてしまうぐらい!お互いの体を行き来できるくらいすでに!!「空洞」なんだ…」

 

 溢れ出たような言葉に鬼気迫った表情からディオには本当に今行なおうとする事しかないのだと理解し感じた。先ほどまで余裕を持った冷静な少年は怒りを露にして睨みつけてくる。

 

 その気配を感じてか入り口からは無数のウェアウルフが出てくる。さすがに時間をかけすぎるのは不味い。下手をすると奴に逃げられる可能性だってあるのだから。

 

 「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」

 

 ウェアウルフの群れを突破してレベル100のディオをどうやって捕縛しようかと模索していると突如間抜け…コホン。間の抜けた叫びがコロッセオに広がった。視線を向けるとゲートよりモミ・シュバリエが飛び出してきた所だった。

 

 「モミ!?どうしてお前がここに」

 「ヒーローとは遅れて――」

 「サボりか…」

 「何故ばれたし!?って違ーう!今回は私用で動いてるんです」

 「私用てお前…」

 「まぁ、まぁ、こいつは私に任せてくれないかな?かな?」

 「いきなり来て何を…」

 

 突然現れていつものようにふざけていたモミに呆れながら見つめると、いつもと違って寂しげな横顔が映る。どういう訳か分からないがあのディオに思うところがあるらしい。少し考えるように俯き大きく頷いた。

 

 「いいだろう。そいつは任せた」

 「ふひ♪……ありがと」

 

 モミはモモンが大剣を抜いてウェアウルフの群れ突っ込んでいくのを見て、ディオへと振り向く。

 

 「ふひひ…ディオとは姿と名前があってないじゃん」

 「…どういう意味ですか?」

 「あんたの姿はどう見てもジョルノ・ジョバーナだし」

 「―っ!?僕の本名を知っているのか?」

 

 警戒の色を濃くしたディオ――ジョルノにモミはふひひひと嗤う。

 

 「さぁてどうでしょう。私はモミ。モミ・シュバリエ…ある人に創られしNPC」

 「NPC…貴方も同じ…」

 「そうだよ。私も貴方も同じNPC。しかも創造者が関係者で出会い頭は対峙するなんて運命としか言いようがないよね♪」

 「なにを言っているんだ」

 

 少し後ずさりしたジョルノの後ろに漆黒の棺桶が立てかけられている事に気付いたモミは凝視して嗤う。その棺桶を守るように前に立つ事で何かを確信したようだ。

 

 「ふひひひ……その中身ってさぁ………ビオだよね」


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