骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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外伝13 「別れの日」 (外伝最終話)

 『ねぇ…スレイン』

 

 何処からか声がする。

 掠れながらも温かく、耳に溶け入るような声に心が落ち着く。

 暗闇しかない世界に灯りが灯る。か細くも力強い灯火…。明るい緑色で…とても綺麗だ。

 

 「なんだい」

 

 暗い世界では自分の表情すら見えないだろうが出来る限りの笑みを浮かべて答える。

 

 『貴方はこの世界に来て幸せだった?』

 「そうだね…いろいろ忙しい世界ではあったけど楽しかった。君はどうだい?」

 『私は貴方と一緒に居られた。それだけで十分。………でも貴方は―――騎士として貴方は良かったの?』

 「………どうかな。自分で出来る事はやってきたと思うけど。まだやれることはあるだろう」

 『そう』

 

 何処か安心感を含んだ言葉に違和感を感じる。

 違和感が急激に不安……焦燥感へと変わり、心がざわめき始める。

 

 この空間から追い出される。

 

 嫌だ…嫌だ嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ………嫌だ!!

 

 慌てて灯りへと手を伸ばして掴もうとするが、灯りは急激に遠のき離れていく。

 手が届かないのなら走ればいい。自分の肉体はリアルの時の身体ではなくユグドラシルの肉体。本気で走ればこの世界の生物の目に映らない速度を出せる。

 

 なのに…。

 

 何故追いつけないどころか離されるのか。

 

 『じゃあまたね。スレイン』

 「待って!待ってくれ皐月!!」

 

 遥か彼方へと消えていった灯りに必死に叫ぶと消えていった先から目を覆いたくなるような強い光が現れ、暗闇を光に染めていった。

 

 

 

 

 

 

 大きく開いた窓から朝日が入り、ベッドを照らし、白を基準にした必要な家具しか置かれてない部屋でスレインはゆっくりと瞼を持ち上げた。

 ボーとぼやける視界の中、天井へと伸ばしていた手を見てため息を吐いた。手をゆっくりと胸元において横へと視線を向ける。ひとりが寝るには大き過ぎるキングサイズのベッドには自身しか居らず、隣にはいつも通り何も無かった。

 

 「夢か…」

 

 寂しそうに呟くとドアをノックする音が聞こえ、返事をしなくともひとりのメイド姿の女性が入ってきた。女性はスレインと目が合うと驚いたように目を見開いて心配そうに駆けてきた。

 

 「大丈夫ですか?何かあったのですか?」

 「うん?何がだい?」

 「お目に涙が」 

 「涙?…あぁ」

 

 言われてそっと目じりを指でなぞると水気に触れ、先の夢で自分は泣いてしまっていた事に気付いた。入らぬ心配をさせてしまい笑顔で答える。

 

 「夢の中で皐月に会ったんでね。嬉し泣きというやつだ」

 「大賢者様に?それは良い夢でしたね」

 「ああ…本当に。迎えに来てくれたかと思ったのだがね」

 「そんな事仰らないでください。まだまだ聖騎士様には居てもらわなければいけないんですから」

 「やれやれ、こんな老人を酷使するなど酷いやつじゃな」

 

 片目を上げて意地悪そうに笑うと女性はふふふと笑いながらカーテンを開けて行く。すべての窓が開けられて新鮮な空気と日差しで部屋が溢れかえる。

 開いた窓から街の景色をベッドから眺め微笑む。

 

 このユグドラシルの常識が通じる異世界に来てからいろんな事があった。

 長門騎士団の起こした内乱も霞むような出来事があってソルブレイブスは大きな決意をした。それはひとり立ち出来るまで面倒を見たらこの世界の住民から距離を置くと言うのも。支配を目論む輩が現れた事から自分たちが彼らに与える影響は大きく、危険すぎる。だからNPCぼっちに相談し、実際そうした。

 急に姿を消した当時はかなり住人たちは慌てていたと虐げられていたケット・シー達の面倒を見ていたミイよりメッセージで聞いていた。心が痛む思いだったがそれでもこれが最善なんだとぐっと堪えた。

 他の皆はそれぞれ楽しみながら暮した。寿命の概念はミイより届けられる『若返りの徳利』より出された水により消し飛んでいた。まさか運営が外れイベントの遊びアイテムがあんなに役に立つとわ思わなかった。確か『この水を飲めば永遠に生きられる……かも』とふざけたことを書かれていたような。ダンジョン内の金箱から出てきた瞬間、誰もが捨てていたっけ。

 

 百年近く経った辺りでとんでもない事が起きた。

 ソルブレイブス以外のプレイヤーの登場だ。ミイが独自に動いて情報を随時入れてくれてこちらとしては大いに助かった。その内、困惑していた彼らはプレイヤーが居たらしい噂を聞きつけ、何とか接触してきた。こちらとしては最初は突き放したのだが、必死な彼らに押し切られて友好的な関係を築いてしまった。

 のちに『六大神』と呼ばれた彼らは戻る術をしらないと答えた際にはがっかりしていたが、こちらの良さを伝えるとここで生きてみる事を決意し、ソルブレイブスが関わった国――『スレイン法国』を拠点に住民達と過ごし始めた。国名だけは何とか変更してくれないものか…。

 

 新しいプレイヤーとの出会いは良いものばかりではなかった。

 長門武士団と同じくこの世界に不穏な影を落とした集団『八欲王』が現れた事だ。

 八欲王と六大神は主張の違いから大きな戦争に発展した。プレイヤー同士の戦いはまるで大災害と大量破壊兵器が同時に何十にも撃ち合い、通り過ぎたような感じだった。これではいけないとソルブレイズも参戦。その頃になると力のある龍種なども六大神に協力していた。

 見ていて壮観だった。たった数人のギルドに人間種・亜人種・異形種から龍のようなモンスターまでもが力を合わせて心を一つにして戦っていた。

 

 大きな犠牲を出しながらも勝利した六大神を中心とする連合軍は少しは変わったが元の生活に徐々に戻って行った。

 再び姿を消そうとしたソルブレイブスだったが国を創設した大英雄が凱旋したと騒がれ、街や人々の暮らしに不安があると頼られて今日まで居座ってしまった。

 

 「外が騒がしいようだが今日は祭りでもあるのか?」

 「もう。お忘れになられたんですか?今日は聖騎士様のお誕生日じゃないですか」

 「ああ…もうそんな時期か」

 

 昔は皐月に教えてもらっていたから自分で覚えなくても良かったんだよな。

 現在、六大神と大半のソルブレイブスはこの世に居ない。

 エスデスとスサノオの二人は何百年前に結婚してソルブレイブスを離れて小さな村へと移り住んだ。たまにメッセージが来ては驚かされた。特に『子供が出来ました』ってきた時にはビオが涙を流して喜んでる様に皆が驚いていた。まるで二人の父親みたいだった。

 その頃から二人は『人として生きていく』と言って『若返りの徳利』の水を拒んでいた。人の寿命はあっという間で最初にスサノオが、次にエスデスが老衰でなくなった。亡くなる度に国中から人々が集まり悔やんでいた。二人の血を受け継いだ子供は何をしているだろうか…いや、もう生きてはいないか。孫かひ孫はいるだろうか。

 

 皐月は長門武士団の内乱の後、スレインの告白を受けて結婚。子供は授かれなかったがそれでも幸せの日々を過ごした。私は気付けなかった。彼女がエスデスの死をきっかけに水を飲んでいなかった事に。見た目ではっきり分かるようになってから問いただすと「人間とはああでしょ」とおどけたように答えていた。永遠を生きるより短いが人間としてしっかり生きる事を選んだ彼女の選択を受け入れ死が訪れるまでお互いはなれなかった。

 

 ビオとミイは健在だ。ビオは吸血鬼で何千年も生きれるだろうし、ミイは『若返りの徳利』の水を飲み続けている。まだまだ楽しみたいとのこと。

 

 プロフェッサーはゴーレム研究に没頭しある日突然姿を暗ました。ギルドの名簿に名前がある事から生きてはいるだろうが…。

 

 スサノオやエスデス、皐月を見習って人間として生きる事を決意したものは当の昔に亡くなり、生きているのはビオ達に私、そして永遠に生きる事を選択した者達だけだ。だが、100年前よりスレインの命で『若返りの徳利』の水の供給は切っている。永遠に皐月の悲しみを背負って生きるより、残り短い期間をしっかりと、彼女との思い出と共に生きよう。だが、自分が死んで大丈夫だろうか?と疑問が生まれた。生きている者のほとんどが長門武士団の内乱に加担したプレイヤー。世界の支配は出来なかったが自らの血族を支配している彼らがまた同じことをしないとは限らない。ゆえに100年前から彼らの供給も終了したのだ。反感はあったがミイが姿を消した事とビオが力でいう事を聞かせてくれたおかげで何事も無く収めた。

 

 ふと外の景色を眺めていると傍に皐月の気配を感じた。振り向きたかったが振り向いたら消えてしまう気がして振り向けなかった。

 

 『もう近いのかい?』

 

 独り言を聞かれるのは恥かしいので誰宛でもないメッセージを飛ばす。返事など返ってくるはずも無い…。

 

 ――ええ。

 

 人に話せば風の音、気のせいなどと言われるだろうがスレインの耳には確かに聞こえた。愛しい、愛しい皐月の声が…。

 決して振り向かずメッセージを続ける。

 

 『そうか…やっとか』

 

 ――貴方は良いのですか?遣り残した事ややりたい事はないのですか?

 

 『そりゃあ山ほどあるさ』

 

 ――なら…

 

 『でもこれで良い。良いんだ』

 

 窓のカーテンを左右に寄せて括っている彼女…元は戦争孤児でいつも死んだ瞳で座っているだけの子だったが今ではあんなに輝いた笑みを見せている。街の人々も昔に比べてかなりの活気に溢れている。

 スレインは満足気に頷いた。

 

 『後は彼らが自分達でなんとかするさ。

  だけど少し…ほんの少しで良いから待っていてくれるかい?』

 

 ――勿論よ

 

 スーと気配が消えたのを確認してスレインは女性に笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 「今までありがとう」

 「え?ど、どうしたんですか急に」

 「言ってなかったなと思ってな」

 「そんな…私は当然の事をしているだけですよ。

  聖騎士様――スレイン様が救ってくれたからこそ私はここに居るんです。

  こんな身の回りの世話ぐらいじゃあ返しきれないですよ」

 「ふふふ…。私も存外役にたてたかな」

 「当たり前じゃないですか。私だけでなく街の皆もそう言いますよ」

 「頼みがあるんだが」

 「はい。良いですよ」

 「まだ言い終わってないのにせっかちだな」

 「だってスレイン様の頼みを断るようなことは絶対ありませんから」

 「そうか―――では、今日はここから皆が楽しんでいるのを眺めると伝えてくれないか?」

 「主役が欠席なんて認めないです。皆待っているんですから」

 「それでも――だ。今日はここでひとり眺めるから誰も通さないでくれ」

 「大司教様もですか?」

 「ああ…」

 「分かりました」

 「少し喉が渇いたな」

 「すぐにお持ちいたしますね」

 

 軽くお辞儀をして出て行く女性をぼんやりと眺める。大きく息をついた。

 すべてを吐き出すように……。

 

 「今日は皆、笑っているかい?」

 「ええ、勿論ですよ。本当に楽しそうに」

 「なら良かった。悲しんでいる顔なんて見たくは無いからね……今日ぐらいは…」

 

 女性はドアを開けてキッチンよりカップとポットをトレイに載せてスレインの元へ戻る。すると一瞬、枕元に綺麗な女性が立っているのが見えた。驚きつつも二度見するが誰も居らず、おかしいなと思いながらベッド横まで歩み寄る。

 

 ベッドに横たわるスレインは安らかな笑顔を浮かべながら寝ていた。そっと声をかけて起こそうとするも二度とスレインは目を醒ますことは無かった。気付いた彼女はトレイを近くの台へ置くと深く、深く頭を下げて部屋を出た。閉めた扉の前で俯いたまま立っていた彼女に大司教と呼ばれる一団が姿勢を正しながらやってきた。

 

 「聖騎士様はまだ寝ておられるのかい?」

 「…はい」

 「そろそろお越し頂きたかったのですが…」

 「時間を遅らせましょう。聖騎士様あっての祝いですから」

 「ス…スレイン様はここより皆が楽しんでいる様子を見守るそうです」

 

 女性の言葉にはて?と小首を傾げた大司祭たちは疑問を抱いたがスレインもかなりのご高齢である事から体長を崩したのだと誤解した。

 

 「体調が悪いようでしたらまた後日に―」

 「いえ!今日!今日して下さい!!」

 「急に大声を出してどうしたのです?………泣いているのですか?」

 「何があったのです?―――――ッ!!まさか」

 

 ひとりが女性の涙に気付くと理解したひとりがドアを開けようとするが扉を必死に押さえて開けられないように抵抗する。

 

 「扉を開けなさい!」

 「出来ません!」

 「これは大司祭として命じます。直ちに―」

 「出来ません!!

  スレイン様は仰られました。皆の悲しむ顔を見たくないと!今日ぐらいはと!!

  だから――

  ですから――」

 「分かりました…聖騎士様は体調不良で部屋から眺めていると皆には伝えましょう」

 

 他の者には気付かれないように声を殺して泣く大司教達と壁を挟んだスレインの部屋は穏かな風と街中の笑い声で溢れていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スレイン法国で大きな大きな葬儀が執り行われた。

 自分の友人の葬式なのだがビオはディオを代理に出席させて草原に立っていた。後ろには『八欲王』との戦いで知り合った『国落とし』と呼ばれた吸血鬼イビルアイとミイが立っていた。

 

 「ったく、やっと逝ったか」

 「その言い方はどうかと思うよ」

 「良いんだよ。どれだけ皐月を待たせてたか…」

 「街の連中も大変だよ。昨日はお祝いで今日は葬式だものにゃ~」

 「フン!迷惑ばかりかけやがって…」

 

 見えないように涙を拭き取ったビオは丘の向こうを睨みつける。

 剣士200名。

 槍兵400名。

 弓兵500名。

 騎馬隊50名。

 ゴブリン1000匹

 プレイヤー五名。

 元長門武士団プレイヤーとその血族、雇われた傭兵や躾けたゴブリン部隊の混合軍が並んでいた。

 

 「これから迷惑かけようとしている奴らがいるにゃね」

 「そうですね。2000以上の軍隊に一騎当千…いえ、ひとりで大陸中の兵士を蹂躙できるプレイヤーが五人。しかも兵士のほとんどがプレイヤーの血筋を引いた血族…」

 「あんにゃのに襲われたら御通夜中の国は一瞬で堕ちるかにゃ?」

 「どうでも良いわ。そんな事…」

 

 指をバキバキと鳴らしながらビオは獰猛な笑みを浮かべる。

 戦闘態勢に入ったビオの雰囲気にイビルアイは震え上がり、ミイは呆れたようにため息を吐き出した。

 

 「戦う事以外考えはないのかにゃ?」

 「ないな!

  邪魔はするなよ猫」

 「しない――え!?」

 「俺一人で――」

 「無茶だと思うにゃよ」

 「構わん。俺が暴れたいだけだ。それにあとは奴に任せてある。何とかなるだろう」

 「あいつって贋作?」

 「フハハハハ!お前の嫌い方も筋金入りだったな」

 「あいつは嫌い……」

 「言ってやるな。あいつはアレでも良くやってくれている」

 

 ガシガシとイビルアイの頭を撫でると前に出る。

 世界最高峰の軍隊を見据えてゆっくりと歩き出だす。

 ただただ久しぶりの戦いを味わう為に。

 友の眠りを妨げんとする愚か者共を駆除する為に。

 

 「ああ…そうだ。もし死んでも蘇生するなよ。

  何だったかな?確か『命は、何にだって一つだ』だったかな。何の話題か覚えてないがぼっちさんがそんな事を言っていたしな」

 「むぅ~…その話知らないんだけど!!」

 「ミイ様。今はそんな話ではないかと…」

 「では、行ってくる」

 「はいはい。行ってらっしゃい」

 「オウ!」

 

 ニカッと笑い駆けていく。

 狙うは五人のプレイヤー。他の雑魚は放っておいても何とかなるだろう。

 人間種と違う吸血鬼のステータスにものを言わせたトップスピードは加速するだけで衝撃波を伴い、近くを通られた兵士が巻き込まれて吹き飛んだ。さすがに異変に気がついた年老いたプレイヤーが目をすぼめて見つめるが、落ちた視力と老眼に悩まされる目ではビオを捕らえることは出来ずに傭兵が吹き飛んでいくのを見るだけだった。

 

 「何が起こって――ぐぁあああ!?」

 「どうした!」

 「わしの…わしの腕がぁあああ!!」

 「脆いな。枯れ木でも折ったかと思ったぞ」

 

 目を凝らしていた老人に衝撃が伝わったが飛ばされることなく、その場に留まることは難なく出来た。だが、左腕だけはどうすることも出来なかった。

 一瞬で消えたのだ。血が噴き出るまでに間を置くぐらいの速度で消えたのだ。大慌てで止血しようと腕を縛り上げていると腕を消した元凶が大笑いしながらりんごでも上に投げてはキャッチを繰り返していたビオがそこに立っていた。

 

 「身体は衰え、視力は弱り、ステータスには肉体劣化のバッドステータス………搾りかすのような肉体でもステータスのおかげで杖要らず。

  肉体は衰弱し始めても支配欲だけは変わらずか。そこだけは褒めてやろう。

  だが、やんちゃが過ぎたな」

 「なにを…貴様何をしたか分かっているのか!?」

 「枯れた老人から最後の夢を奪いに来た」

 「これから貴様はここで殺されるという事だ!!」

 

 縛り終えた老人は10メートルほど跳び上がり、中央から兵団の前―――つまりはビオからして後方まで逃げたのだ。別段焦る事も追う事もせずに感心しながら見ているだけだった。

 

 「ほう。年老いても凄いものだな」

 「そうやって上から目線なのも今日までだ!老いたといえプレイヤー五人にレジェンド級の武装を施した我らが血族。数だけだが兵士も十分。

  前の内乱時で我らを裏切った償いをここでしてもらおうか!!」

 

 確かに武器はどれも一級品の武装で脅威となりえるものばかりだった。が……。

 

 「使い手がこうでは武器が可哀想だな」

 

 武器を振るい終わる前に拳で身体を打ち抜いて感想を漏らす。

 まるで蟻が餌に群がるように突っ込んでくるがビオは笑っていた。

 一撃で敵を葬れるからでも、久しぶりの戦いの高揚感を味わっているからでもない。

 ひとりで大勢を…しかも勝てるか分からない敵に挑む。まるでぼっちやスレインのようじゃないか。まぁ、後者はぼっちさんほど強くは無かったが…。

 接近戦を挑んでくるが徐々に弓矢などの中距離攻撃や呪いやデバフ攻撃に変わっていった。しかしビオのやる事は昔から変わらない。攻撃を弾きながら制圧前身あるのみ。

 矢が当たり、付近の爆発で身体が焼かれ、多重にかけられた呪いでHPは減っていき、デバフで身動きは鈍くなってきた。

 

 「化け物を倒せるのは人間だけか……クハハハ。

  まさにそうかもな。

  ただで倒される訳はねぇがな!!」

 

 高笑いしながら突っ込んでいったビオは戦いに戦い。そして死んでいった。

 遺体の周りには集まっていた兵士の遺体で溢れ返っていた。集まっていた兵隊は五名以外は倒したビオの遺体はミイとイビルアイで十字架が彫られた棺桶に収められジョルノに渡された。

 ジョルノは自分に教えなかったことを恨みながらビオの遺体と共に姿を消し、ミイはNPCぼっちに接触したくないのと自分を慕ってくれているケット・シー達の為に巣穴に引き篭もった。

 

 NPCぼっちは―――

 

 

 

 「ぐはぁ…クソ!あのヤロウ」

 「畜生!!」

 

 長門武士団に在籍していた最後の五名は血族や傭兵達が死に絶えそうになると速攻で緊急用の転移アイテムで戦場を離脱し、ギルドホームである『ヴァイス城』で一息入れていた。

 老人たちは皆息を切らしながら汗だくの顔を拭っていた。

 

 「これで俺達の計画はぱぁだ!」

 「レベルは60まで下がったしな!!くそったれめ!!」

 「それよりこれからの事を考えた方が良い。ビオは一度は死んだだろうがそれでも俺達よりはレベルがある」

 「対してこっちは装備のほとんどを失い、兵団は壊滅。一族のほとんどが死に絶えた」

 「まさかひとりでここまでやるとはの…」

 「姿を暗ますしがぁああああ!?」

 

 「こんにちわ皆さん」

 

 円陣を組んで話していたひとりの腹部から刀の刀身が姿を現した。刀身は電撃を体内に流してHPを削って良く。ひとりから四人は飛び退き戦闘態勢を取るとそこにはNPCぼっちが立っていた。

 

 「なにを…」

 「なにをと問われましても騎士道を外れた者を処罰しているだけですが?」

 「処罰だと!?何を馬鹿な…」

 「NPC如きが………えぁ?」

 「あの人の言われた通りに帰ってこられて幸いでした。では後顧の憂いを絶つとしましょうか」

 

 四人は辺りを見渡して唖然とした。NPCぼっち以外にヴァイス城にいる全ゴーレムが敵意むき出しに取り囲んでいたのだ。ぼっちの合図と共に一斉に襲われ応戦するが数の力により圧倒され、逃げ出そうと転移用のアイテムを使う。が、すでにぼっちにより転移禁止エリアに指定されており逃げる事も叶わない。

 最初のひとりが消えるとすぐさま蘇生アイテムで蘇生する。

 

 「安心してください。死んでも直ちに蘇生いたしますので。八欲王との戦いでほとんどの蘇生アイテムを使ってしまいましたが貴方がたのレベルがゼロになるまではありますので」

 

 悲しげな表情をしながらNPCぼっちは刀を振り下ろす。

 与えられた騎士としての役目を全うするが為に――自らを創造し、この世界で一緒に歩んだプレイヤーに無慈悲に振り下ろした…。




 これにて外伝は終了致します。
 次回より本編に戻ります。

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