骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 すみません。また夏の暑さにやられてボーとした平日が続いて前週投稿出来ませんでした…。


第181話 「帝国での戦闘【モミの遊び】」

 帝国魔法学園ではお祭り騒ぎが起こっていた。

 一般人や帝国魔法学園生徒、守備騎士のみでゴブリンの群れに対して完勝したのだ。何件か家が吹き飛んだがそこはあとで帝国が保障するというので大丈夫。なんにしても絶望的な状況からの勝利に皆騒ぎ喜びを分かち合っていた。しかも帝国の砦を占拠していたヤルダバオトを倒して帝国存続の危機は去ったのだ。

 どこからか引っ張りだした酒や食べ物を食い散らかして、朝まで飲み明かすような勢いである。

 

 戦闘に参加したジエット・テスタニアは騒ぐ輪から離れた壁際でに息をつく。

 本当はネメルにオーネスティ、ランゴバルトと共に騒ぎたいところなのだが気になることがあっていまひとつ気分が乗らないのだ。

 アイン・シュバルツとモミ・シュバリエの両名の行方だ。

 いきなり家のほうを任せますと言って出て行ったきりのモミに、英雄として祭り上げられるのは遠慮したいと少し雲隠れすると言ったアイン。あの二人が無事なら良いのだけれど。

 

 「どうした大きなため息なんてついて」

 

 大きなため息を吐き出していると顔を赤らめたランゴバルトが立っていた。

 目は虚ろで、足元はふらつき、身体は左右に揺れている。

 なにかおかしいのだが…。

 

 「いや、モミさんやアインはどうしているのかなって」

 「たひかにモミひゃんは何処に行ったのだろうか。あの果敢に斬りかかっていった勇姿を見てもらいたかっひゃ」

 「…何かおかしくないか?」

 

 呂律が周ってない状態にさすがにおかし過ぎるとマジマジと観察すると、その手には空になったワイングラスが握られていた。つまりはこいつは学生の立場でありながら酒を飲んだのか。

 

 「お酒って…」

 「いいじゃないかこんにゃ時ぐらい。しかもこのワインすんごく美味しいんだぞ!」

 「ワインの味は知らないんだが」

 「ネメルも飲んでいたぞ」

 「はぁ!?」

 

 驚きつつメネルと一緒にいるであろうオーネスティを捜すべく、辺りを見渡すと確かにワイングラスを持った二人を見つけた。頭を押さえながらランゴバルトを引っ張りながら眠りこけている二人の下まで急ぎ足で近付く。規則正しい寝息を立てる二人の無防備さに呆れながら何度目かのため息を漏らす。

 着ていた学園指定の上着を脱いで二人にかけているとランゴバルトも眠くなったのかその場で横になった。

 壁にもたれる二人の女子に地べたに寝転がる男子…これどうやって帰れば良いんだか…。

 擦れたような笑みを漏らしていると辺りが騒がしくなった。浮かれていたお祭り騒ぎから一変して騒然とした雰囲気に…。何事かと辺りを見渡すと皆が皆、驚愕の表情で空を見上げていた。目を凝らして見つめるがそこには何もなく、ただただ夜空が広がっているだけだった。

 

 ――自分には見えずに他の人に見えているという事は幻術が展開されているのだろう。

 

 見えないぶん状況を理解し難いが周りの人々の言葉に耳を傾けると純白のタキシードを着たゴブリンが大きく夜空に映し出されているらしい。そんな魔法に心当たりは無いが純白のタキシードを着たゴブリンと言うのは最近ヤルダバオトと一緒に騒がれていた千年公と呼ばれていた化け物だろう。そういえばヤルダバオトを退治した話は聞いたけど千年公の話は耳にしていない。

 

 『あー、あー。マイクテス、マイクテス、マイクテス、マイクパス……パス…………マイクパス!』

 

 辺りに広がる音声に驚きながら聞いているといきなり甲高い高音が耳を襲い、耳を塞いで音が鳴り止むのを必死に耐える。耳を塞いだ手を避けた頃にはお祭り騒ぎだった雰囲気は完全に消し飛んでいた。

 

 『我輩は千年公と申します。今日は少数とは言えゴブリンの軍勢を勇敢に戦い撃退した皆々様を称えると共に、皆様をちょっとしたゲームへの招待に参りました』

 

 ゲームと疑問符を浮かべていると上から何枚もの紙が振ってきた。一枚を手に取ると二等親にデフォルメされた千年公のイラスト付きのゲーム内容の説明書が書かれていた。

 先の音で三人も起き上がり夜空を見上げて驚きを隠せないで居た。

 

 『現在この街を取り囲むようにデスナイト24体が取り囲み外へ出ようとした者を惨殺せよと命令を受けてスタンバッておりま~す♪

  皆々様が生き残るには私を倒すか、この街に隠した七つの橙色の玉を見つけ出しなどゲームをクリアするしかありません♪』

 

 背中に寒いものを感じながら言葉一つ一つを聞き、パニックに陥る事無く理解しようと務める。 

 三人は寝起きと酔いもあって理解は出来ていないようだが…。

 ルールの勝利条件のところには確かに玉を七つ集める事も記載されていた。玉はイラストで描かれてそれぞれ番号に合わせて星のマークが書き込まれていた。

 

 『ゲームの参加不参加は各自の判断でどうぞ。もしもゲーム開始時から24時間以上経ってもクリア条件を達成できなかった場合はこの街を消滅させますので悪しからず♪

  では、ゲーム開始時まで…またね~♪』

 

 声が止むと場はそのまま静寂が支配していた。

 今すぐにでも叫びたい気持ちを抑えて紙を何度も見直す。勝利条件で簡単なのは玉探しで徐々に難易度が上がり、一番難しいのは千年公の討伐。

 最後のは無理だとしても他のクリア条件を達成しなければ…俺も、母も、ネメルも死ぬ。

 

 「これって…私達…」

 「大丈夫だ。大丈夫…」

 

 ネメルが呟いた一言に反応して言葉を発した。それはネメルに対して言ったのではなく自分を勇気付ける為に言ったような気がする。そうでもしないと恐怖で動けないだろう。

 そんなジエットは近付いてくる足音に機敏に反応して振り向く。

 

 「――大変な事になったね」

 「ボクは挑んでみたいんですけど」

 

 そこにはアルカード伯が連れて来られた王国屈指の剣士のマインと元主で王国最強の魔法詠唱者でアルシェが立っていた。二人の堂々とした姿に心の底から安心してしまった。

 何とかなるのではないかと…。

 

 

 

 

 

 

 「ふひひひひ♪これで面白く――フォビドゥンンンン!?」

 

 幻術を解いて空き家で一人笑っていると後頭部に衝撃を受けて顔面から地面に激突した。顔を押さえつつ振り向くとニッコリと微笑むぼっちが立っていた。

 

 「・・・なにしてる?」

 「な、な、な、なんのことかなぁ?」

 「なに・・・してる?」

 「答える!答えるから頭部を万力のように掴まないで!」

 

 惚けようとすると頭を鷲掴みにされて持ち上げられる。ジタバタ抵抗するが力は弱められずに宙ぶらりんのまま振り回される。たまらずに答えると答えるとゆっくりとだが降ろされた。目が回った振りをして徐々に対面する。

 

 「えっとね…派手に遊ぼうかなって…待って!刀はアカンよぉ!?こここ、これはぼっちさんにも良いと思うよ」

 「・・・続けて」

 「クリア条件にはいろいろと楽しめるモンスターや状況を用意しているんだ。だからぼっちさんも参加して遊べると思うよ」

 「・・・・・・」

 

 納得したのか刀の柄から手を離してこちらを見つめる。ホッと胸を撫で下ろしながら息を吐き出す。

 

 「それにさ、これは誘いの一手なんだよ。最近大きく動こうとしているやつらがいるから釣れるかどうかって…それともう少し活躍しとけば帝国での活動はし易いと思うけど?」

 

 顎に手を置いて考える様子から満更でもないらしい。

 ニタリと嗤いながら両手思いっきり広げてくるくると回る。

 

 「まぁ、楽しみなよ。面白いことになるだろうしさ」

 

 モミの笑い声が室内に響き静かにぼっちは項垂れる。

 

 

 

 

 「ところで・・・あの玉は?」

 「集めると願いが叶う…かも」

 「なら、たっちさんとの再戦を――」

 「ごめん…周囲が灰燼になるから止めて…」

 


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