骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 お久しぶりです。やっと夏場から抜けて秋になりかけ涼しくなって来ましたね。
 最近になって暑さでボーとするのが収まってきました。
 今週無事ならこれから週2のペースで行こうかと。


第183話 「帝国での戦闘【最終戦】」

 街の皆が七つの玉や十二匹のモンスターを狩ろうと躍起になっていた頃、ぼっちはひとり路地裏に入り込み目の前の小箱を見つめていた。

 縦15センチ×横25センチの長方形の箱で、蓋が存在しない為に中身が露出している。左半分には円柱形の筒が二本ずつで四本詰められ、そこから何本ものコードが伸びて懐中時計や右側の装置に繋がっている。そのコードの中で目立つ赤色と青色の二本のコードに狙いを定めて一瞬で斬る。カチカチと音を立てていた箱は活動を止めた。

 

 「・・・50個目」

 

 街の中で探索した如何にも爆弾ですと言わんばかりの最後の箱を背に担いでいる麻袋の中に放り込む。短く息をついたぼっちは先程より戦闘をしているらしい場所へと向かう。どうやらアインズがモミとやりあっているようだ。

 到着して辺りを見渡すとアルシェは怪我をして建物の裏に隠れている。そしてマインは空箱にアインズは瓦礫に埋まっている状況に首を傾げる。特に千年公の姿で少年に懐中時計をドヤ顔で向けているモミがなにをしているかが本当に分からない。

 それにしても七つの玉に千年公とかあいつは何処からネタを拾ってきているのだろうか?

 

 「あっれれ~?おっかしいぞ~?」

 「・・・何が?」

 「いや、仕掛けた爆弾が時間になっても爆発しなくてさぁ」

 「爆弾ってこれかい?」

 「そうそう、それそっれええ!?」

 

 後ろまで近付いて声をかけられたモミは何気なく答えていたが、相手がぼっちと分かると飛び跳ねながら距離を取った。麻袋より取り出された爆弾を凝視しながら。

 声に反応してアインズとマインが乗っていた物を押し退けて顔を覗かせる。

 

 「どうして!?なんで!?どうやって解除したの!?」

 「解除?」

 「爆弾を止めるには赤・青の配線を斬らなきゃいけなくて、しかも一個ずつ三色目を増やしたり、斬る配線の色を変えたりとかなり手間をかけたんだよ!」

 「・・・とりあえず全部いっぺんに斬ったら止まったよ」

 「設計ミスったああああああああ!!」

 

 最初は赤か青か悩んだんだけど面倒だからといっぺんに二本とも斬ったのだ。するとカチカチ言っていた懐中時計の音が止まった。こういう仕掛けかと疑う事無く、50個すべて斬ってきたのだ。スキルで調べて爆発の威力からしても死ぬことは絶対無かったし、広範囲の爆弾でもないから問題ないと斬っていたのだが、もしも本来の機能だったらちょっとした惨事を起こしていたところだった。

 目をぱちくりする少年を庇うように前に立ち、刀を抜く。

 

 「で…その玉を奪えば終いか?」

 「んん~何のことかな?」

 「その懐に仕舞ってある最後のどらごんb……七つ目の玉を奪えば良いんだろう!」

 

 叫ぶと同時に麻袋を投げ捨てて駆け出し距離を詰める。対して千年公はアイテムボックスより一振りの番傘を取り出し、金属音を響かせながら刀を受け止めた。

 

 「鉄の番傘?」

 「私は近接戦闘用の武器は持てませんからね♪」

 「どう見ても鈍器なんだが?」

 「持ち手は杖ですからノーカンです♪」

 「どう見ても夜兎の傘じゃないか…シャアアアアアア!!」

 

 お互い一歩も引かずに刀と番傘を押し合っていると無理やりに刀を滑らした。すると鉄と鉄が擦れ火花が散り、すると刀身が炎に包まれた。ダメージは入らないが振り回すたびに大きく揺れ動く炎に目が奪われ、対応が遅れていく。

 ぼっちが使っている刀は刀身を細かなのこぎり状にした【るろ剣】の志々雄 真実の刀を模写したのもだ。ただ刀身に染み込むほど人を斬る事はしてないので鞘の中を脂で満たし、刀身に油が溜まる様に溝を掘ったものだ。しかし抜いて斬りかかった一回目は良いが、一度鞘から抜いたら火が完全に沈下して熱を取らなきゃ仕舞う事も出来ない欠陥品である。だが、一度だけなら使い道はある。

 素早さと反応で押される千年公は番傘に込める力を高める。完全にパワー負けをし始めたぼっちは打ち合いから流す方針に変え、鞘を投げ付ける。あっさりと番傘で叩き割られたが飛び散った油が付着する。

 

 「今です!」

 「コール・グレーター・サンダー!!」

 

 雲ひとつ無い夜空だと言うのに空より降った雷に撃たれ、付着した油が引火して全身を火達磨にした。それだけでは到底死なない化け物でも視界を防ぐことは出来た。そこをマインとぼっちが左右から駆け寄る。

 

 「チェスt―」

 「させないよ♪」

 「よくも師匠を!!」

 

 横薙ぎに振られた番傘をデメリットを付与してステータスを落としまくったぼっちでは避けきれず、何とかいなそうとするが掠めた左腕が明後日の方角を向いてしまった。それにキレたマインが喉仏を突いた。皮一枚も刺さらなかったが衝撃は伝わり、咳き込んだ。二人が下がるとアインズとアルシェの攻撃魔法が浴びせられる。

 

 「無事ですか!?」

 「たかが左腕が潰れただけだ。まだ右手がある」

 

 ぶらんと垂れ下がった左手をどうすることもなく、懐からナイフ・バットを取り出す。三本のナイフが飛翔する中で左腕を噛み締め、痛みを伴いながらも刀を握り締め、アイテムボックスより新たな刀を右手で抜く。

 

 「痛っ!細々としたのが…鬱陶しいですな♪」

 

 ナイフバットを受けてよろめく演技をするモミは素の喋りをしそうになって慌てて千年公の喋りに戻す。

 地面を蹴って前へと垂直に跳んだぼっちは右手で握る刀を横に薙ぐ形で投げた。回転しながら迫る刀は簡単に払われる。

 

 「他愛なし!」

 「それはどうかな!」

 「な、ちょ!コフッ!!」

 

 番傘を振り切った瞬間を狙ったような加速で懐まで入られた。負ける事を考えて手加減しているとは言え、ここまで迫られるとは思いもしなかった。よく周りを見るとぼっちが跳び込んだ頃から魔法攻撃を止めたアルシェとアインズがステータスを向上させる魔法で底上げしていたのだ。

 牙突を思わせるような至近距離の突きでも皮を切る事叶わなかったが二度目の喉仏への衝撃に声が漏れた。そして突いたままの体勢から動かないぼっちに違和感を抱いていると…。

 

 「よっこいっせ!」

 

 ぼっちの後ろを駆けていたマインがぼっちが握っている柄に対して峰を向けてフルスイングしたのだ。三度目の衝撃にたまらずバックステップで距離を取ろうとした。

 

 「まだだ!まだ終わらんよ!?」

 

 決め顔で叫びながら下がるとちょうどぼっちが置いていた麻袋に足を引っ掛けて転倒してしまった。打った後頭部を擦りながら辺りを見渡すと麻袋の中にしまってあった爆弾が散乱してしまっていた。次に映ったのは杖を構えるジエッタだった。

 

 「それはマジでヤバイって!!」

 「・・・ん?――っ!?伏せろマイン!」

 「はい?」

 

 ジエッタが放ったファイヤーボールはモミ――千年公に直撃し、散らばった火炎は爆弾を包み。誘爆した爆弾は辺り一面を炎に包んだ…。

 

 

 

 

 

 

 「い、いやぁ…最低限の怪我人で良かった…よね」

 「良かったわけねぇだろこの馬鹿」

 

 簡易な服を着てベッドで休むマインにレイルがジト目で睨んでいた。

 数日前に帝国に現れたモンスター群に千年公の出現により大混乱に陥った街も徐々に元の生活に戻りつつあった。この仮病棟には怪我人が収容され、治療に専念していた。

 

 千年公はジエットの放ったファイヤーボールに誘爆した爆弾の爆発の中に消えた。生死は不明だが何はともあれ撤退したらしいのは確かだ。そして炎に包まれたのは千年公だけでなく、ぼっち達もだった。アインズがジエット達を守るように骨の壁を出現させた為に魔法学園生徒に負傷者はいなかったが、唯一逃げ遅れたマインだけが大火傷を負ったのだ。ぼっちが一応でポーションを持っていたから良かったものの下手したら死んでいたところだったのだ。

 

 「で、もうひとりの怪我人は?」

 「左腕を固定して外出て行きました…」

 「はぁ~…」

 「止めようとはしたんだよ……一応」

 

 当の本人はステータスを元に戻した為に痛みを感じておらず、骨折した事を知られているからぶら下げているだけである。だから怪我人の意識もなく、そのまま炊き出しの手伝いに向かってしまったのだ。

 現在帝国は大きな被害を受けて国を動かすのも満足に行なえない。国の中枢である帝都ならまだしも地方までは回せる余力はない。そこを知らずにアルカード伯が困ったときはお互い様と物資を無料で配り、知っているラナーは警備の兵士団の派遣を行なった。他国に介入されるなど突っぱねるべきなのだろうが弱りきった現状を鑑みるとそれは出来ず、判断を仰ごうとしても皇帝は面会拒絶で入院状態。正直にぼっちは善意からなのだが帝国からしたら取り込もうとしているようにしか見えなかった。

 

 「そういえば鬼の店主様はなにをする気なんだろうね」

 「なにをって?」

 「だって今回の帝国入りってただの下見だったろ。それがこんな大騒動に巻き込まれて、ゴブリンの群れと戦う指揮を執ったり、千年公撃退の手伝いをしたり、帝国に無償で支援物資贈ったりで相当株上げてんだぞ」

 「株って…師匠が狙ってやったって言うの?」

 「半々ぐらいだろう。帝国の貴族たちはそう思っているだろうけど、本人無自覚っぽいし」

 

 真面目そうな表情で話し出したが最終的に呆れ顔でため息を漏らしていた。

 渇いた笑みを向けたマインはふと気になることがあったのを思い出した。

 

 ――何故師匠は本気を出さなかったのだろう?

 

 昔ならいざ知らず、今なら分かるが手合わせしている時も手加減をしているのだ。師匠と実力の差があることは理解しているし、超えようとしている身としては師匠がもっと強い存在なんだと嬉しく思う。

 が、今回千年公と戦っているときは手合わせの時より動きが悪かった。いや、本人は肉体の全力を引き出して戦おうとしているのだが、肉体が急激に弱まった印象を得た。まるで上がっていたレベルを何かで落としたような感じで違和感が凄くて気持ちが悪かった。だれも気付いていないのだろうか?

 

 ひとり悩んでいるとレイルが立ち上がる。レイルもレイルで忙しい身なのだ。鍛冶屋で腕もぴか一ともなれば、この戦いで消耗した剣や槍の生産。武器を持たない一般大衆が武器にした鍬や鎌の修復。その他もろもろを任されているのだ。普通なら疲れきって倒れそうなものだが時間が空いた顔を見せにきてくれるのだ。

 

 「本当に優しいよね」

 「なにがだ?」

 「なんでもないよ。そう言えばこれからどうするかだったけどさ。王国から帝国に手を出したのだから次は法国でしょう」

 「いや、そうじゃなくて………そうなのか?あの人なら本当に手を出しそうで困るんだが」

 「仕事が増えるね」

 「勘弁してくれぇ…」

 

 項垂れる様子に笑みを浮かべながら息をつく。

 これからどんな事がまっているのかなぁと期待を胸に抱きつつ。


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