「そうか…シズとシャルティアが反旗を…」
信じがたい事柄を再び口にする。
実際には謀反かどうかはまだ判断できていない。アルベドがシャルティアにメッセージを送ったのだが何の返答も無く、ぼっちさんと別行動を取り、何か陣形をとったまま動きが無い為にアルベドが謀反の疑いありと判断してしまったのだ。
そんな事で…とも思ったがあのシャルティアがぼっちさんを単独にする理由が分からない上、メッセージに答えない点もおかしい。
ナザリック地下大墳墓は未曾有の混乱の中にあった。第一から第三までの階層守護者であるシャルティア・ブラッドフォールンと戦闘メイド『プレアデス』の一人、シズ・デルタが反旗を翻したというのだ。第一から第三階層はマーレとコキュートス達が、残りのプレアデス達はデミウルゴスとアウラが謀反が無いように見張っている。ちなみにエ・ランテルにいるナーベはシャドウデーモンがソリュシャンはセバスが担当している。
遠隔視の鏡で様子を確認するが森の中で開けた所に陣取ったまま動かない。シャルティアが座り込み、日傘代わりに大きな葉を持つ二体のヴァンパイア・ブライド、そして周囲を警戒するシズ・デルタ。
NPCリストを見てみたが精神支配された形跡も無い…
「ぼっちさんは?」
「今だ森の中を捜索しているようですがメッセージが届きません」
「いつもの事だろう…ぼっちさんとは後で合流するとして…まずはシャルティアから話を聞かねばな」
単独潜入などの単独行動をとる時のぼっちはメッセージをoffにしていることが多いのだ。
「今回シャルティアと行動していたとは言え、ぼっちさんは関わってないだろうしな」
アインズはそう思った。反旗を翻すつもりがあるならナザリック帰還後に行うはずだと。そうすれば第一からシャルティアが第十一階層からぼっちが配下の者達と共に挟み撃ちに出来るのだ。もしくはぼっちの技能である隠密を生かしての暗殺など多様な手がある。外で待ち伏せしているにしても位置がおかしすぎる。
何も無い空間にゲートを作りアルベドと共に進む。シャルティアの真意を聞くために
ゲートを潜るとすぐに目的の場所に着いた。
「シャルティア…」
名を呼ぶと肩がぴくっと震えたが顔を向ける事はなかった。シズとヴァンパイア・ブライドは会釈をする。
至高の御方から名を呼ばれたというのに返事もしないシャルティアにアルベドは一瞬で怒りの臨界点を突破した。
「シャルティア!言い訳の言葉もなくアインズ様にぶれっ!?」
言葉が止まった。シャルティアが顔を上げたのだ。その顔はいつもの表情ではなく大量の涙で溢れていた。
あまりの出来事に二人の動きが止まる。
「…ア゛イ゛ン゛ズざま゛…ぼっち゛ざま゛が…」
「・・・」
泣いている為濁声になるシャルティアの話を詳しく聞こうと近づいた時、森からの方からぼっちが出てきた。
アインズは後になって気付かなかった事を後悔する。確かにぼっちは単独行動中メッセージに出ない事が多々ある。だがシャルティアを探しているのなら使えばいいのだ。それに距離としてそれ程遠くないのに探しているという不自然極まりない行動に…
動けなかった。
何かが動けば少なからず目にも止まる。だがその動きは目にも止まらぬ速さではなく目にも映らない速さであった。
刀を抜きアインズに一撃を加えようと振り抜いた。そんな動きに反応できたのは二人だけだった。アインズを守る為にスキルを使用しつつ盾になろうとするアルベド、威力を少しでも下げようとぼっちの武器目掛けてスポイトランスを振るうシャルティア。だが、そんな二人を巻き込みアインズを含む三人が吹き飛ばされる。
追撃を行う前にシズがFN P90短機関銃の全弾をばら撒いた。相手のぼっちが避けているのかそれともワザと外したのかは分からないが一発も当たることなく後方へ退避した。
「ぼっちさん何を!?」
叫ぶと同時に立ち上がるとぼっちは両膝をつき苦しそうな目をしていた。アインズの目に左腕で光る腕輪が映った。
「に・・・げろ・・・逃げろ…早く!!」
「!?撤退する!全員私の元へ来い!ぐずぐずするな!!」
皆が頷くと同時にアインズの元へと駆け寄り転移して行った…苦しむぼっちを残して…
苛立ちが何度も沈静化されつつ執務室の椅子に乱暴に腰を押し付ける。
「シャルティア…いや…シズ報告をしろ」
「了解しました」
無表情ながら焦っているのが分かる…
「任務中森で不明な集団と遭遇戦となり相手がこれを…」
シズから血塗れの衣類を渡される。なんとなしかチャイナドレスと言うことが分かるがそれよりも…
「ワールドアイテムだと!?それも精神支配の…」
「そのアイテムをシャルティア様に使用してきた時にぼっち様がシャルティア様を庇い…」
「ではぼっち様はシャルティアのせいで!?」
殺意を持った目でアルベドがシャルティアを睨みつける。シャルティアはまだ泣いたまま動かない。
「待てアルベド《ピピッ》」
メッセージが届く音がした。
『アインズ様』
「なんだナーベラル今は取り込み…いや、なんでもない…どうしたのだ?」
さっきから起こりっぱなしの精神安定で落ち着き冷静な声で返事する
『ハッ。冒険者組合の組合長アインザックの使いが参りまして、エ・ランテル近郊に出現したヴァンパイヤの件に関して早急に組合まで来て欲しいとのことです』
「分かった。これから向かうと伝えろ」
ナーベラルとのメッセージを切りアルベドに向き直る。
「アルベド。私が戻ってくるまでにヴィクティムとガルガンチュアを除く階層守護者をここに集めよ。それとシャルティアの配下とプレアデスへの監視を中止しナザリック警戒態勢を最大限まで引き上げろ」
そこまで命令を出すと部屋の隅を見た。隅にはぼっちが創造したモミが立っていた。モミはたまに執務室に居座る事があるのだ。今日はそのたまたまの日だった。
「お前はどうする?」
「…今回ナザリックの理はアインズ様にある…ゆえに…アインズ様につく…」
その一言だった。創造したぼっちさんには悪いがモミのこの発言に安心する。
「アインズ様…提案がある…」
「…手短に話せ」
「了解…第十一階層でこのことを聞けばステラは飛び出していきます。ゆえにハイネのマリオネット達に拘束と第十一階層の封鎖を命じ、私は一時的に《ゴルゴーン》を解除します…これによりステラはただのレベル70になり拘束も楽になります…」
「ふむ…良いだろう許可する」
「了承…それと…もしかするとぼっち様と戦うのでしたらハイネに戦闘記録を探らせ弱点が無いか調べさせようと思うのですが…」
「確かにそれは必要だろうな…ならば司書長とデミウルゴスと連携して行え…では行動を開始しろ!」
短い返事と共にそれぞれが行動を開始した。
「貴方は何と言うことをしてくれたのですか!?」
戻ってきたアインズが一番最初に耳にしたのはデミウルゴスの罵声だった。ここにはモミを含めた三人を除く各階層守護者とハイネが集まっていた。そして階層守護者の憎しみを込めた視線がシャルティアに向かっていた。
「御守リスルハズノ守護者ガ守ラレルトハ!」
「まったくです!そのおかげでぼっち様は精神支配に苦しんでおられるのですから」
「あんたさぁ…どうせ油断してたんでしょう!そのせいで…」
「グズッ…ぼっち様ぁ…」
「皆そこまでになさい。アインズ様が戻られたのよ」
アインズに気付いたアルベドが皆を止める。
「アインズ様。ご報告が…」
調べた結果を報告しようとしたハイネを止める。
「まず皆に話さなければならない事がある」
事が事だけに何時にも増して真剣なアインズの言葉に耳を全力で傾ける。
「これよりここに居る守護者と私でぼっちさんと戦う事になるだろう」
「ぼ、ぼっちさまをですか!?」
一番最初に反応したのはマーレだった。これにはほとんどの者が同じ反応だった。自分達を創造し、崇拝する至高なる存在と戦えと言われているのだ。戸惑うのも当たり前と言う物だ…
「落ち着け。戦う事になると言っても殺す事はないのだ。助けるといったほうが良いのだろうな…」
「助ける…で、ありんすか?」
今まで泣いて動かなかったシャルティアが反応した。その表情には不安と希望に溢れていた。
「そうだシャルティア。ぼっちさんはワールドアイテムの影響で精神支配されている訳ではない。ぼっちさんは対ワールドアイテム用にひとつのワールドアイテムを装備している…それを外すのだ」
「アイテム…ですか?」
「うむ。ぼっちさんが装備しているワールドアイテム《ベルセルクの腕輪》だ。これは所持している者にワールドアイテムを使用されると起動する物で敵味方の区別なく攻撃してくるという物だ。主だった能力は二つ。一つは攻撃力が通常の3倍はされるという事。もう一つは暴走状態と言っても今までの戦闘方法から検索して戦う事だろう」
さっき襲われたときに違和感があった。ぼっちの非力さはアインズの知る所だった。それが三人…それも攻撃特化と防御特化の二人を含んで吹き飛ばすなどありえない。それと左腕で光り輝く物…これで説明がついた。腕輪の事は1500人の時に使用して知ってはいたがあの時はこちらも危なかった。敵が殲滅されても攻撃してくるから…なんとかたっち・みーさんと武人建御雷さんとぶくぶく茶釜さんで取り押さえたっけ…
「戦闘中ニ何カヲ盗ルト言ウノハ難シイカト」
「確かに盗むのは難しいが最悪腕ごと…と言うことになるだろうな…」
回答に場の雰囲気がもっと沈んだ。至高の御方を傷つける事には変わらないのだ。その中…
「正しい判断だと思います」
一人冷静な者がいた。シュバリエ・ハイネンスである。その表情には焦りも戸惑いも無かった。
「な、なんでそんなに冷静なんですか!?」
「そうよ。ぼっち様に刃を向けなきゃいけないんだよ!?あんたを創造したぼっち様に…」
「?それがどうされたのです」
怒りを露にしたアウラとマーレに平然と答える。
「例え刃を向けようともこのまま放置するほうが私にとっては問題なのですが…」
「言い方には問題がありますが私も彼の意見に賛成です。何が何でもお救いせねば」
沈んだ空気が変わった。先の言葉で皆がやる気になったのだ。
「ではハイネの報告を聞こうか?」
「はい。正直申しますとスキル・魔法に関しましてはアルベド様などが知っている以上の事は分かりませんでしたが弱点らしき物を見つけました」
「弱点?」
「えぇ…少々難しい物ですが…」
これは嬉しい報告だった。何せアインズ・ウール・ゴウンでの戦闘では単独任務が主で戦闘も奇襲離脱であまり見た事なかった為、アインズも知らなかったのだ。
しかしハイネの口調が重いことから何か条件のような物があると分かった。
「ぼっち様はステータス的に速度重視、スキルは隠密重視であり攻撃系は逆に劣っていると思われます。腕輪の影響により攻撃力は上がっておりますが肉弾戦においての筋力はアウラ様に負けるでしょう。それとコレをご覧ください」
ハイネは映像スクロールを展開し、1500人との戦いの時のぼっちを映した。初めてみた者もこうしてまじまじ見たアインズも息を飲んだ。
目につく攻撃をすべて受け流し隙が出来たところに攻撃を叩き込んでいた。一体多数で高レベルプレイヤーに囲まれているというのにぼっちの有利が動く事は無かった。
自分達はこれからこの映像の者に戦いを挑むのかと思うとため息が出る…
「ぼっち様の最大の特徴はその反射神経です。その力があったからこそたっち・みー様とも互角に戦う事が出来たのでしょう。ですが、それが弱点でもあります」
「それが弱点ってどういうことかしら?」
「…映像を見ての通りぼっち様は目で見てから反応出来るせいか、集団戦の時には背後や死角からの攻撃を少なからず受けているのです」
確かに映像を見る限りそういった攻撃にはワンテンポ遅れて動いていた。これはぼっちの癖であった。現実と違い五感が使えず視覚に頼らざるを得ないゲームでは殺気や物の動く感覚と言うのは味わう事は出来ない。単独行動時には索敵で周りの状況にも気を配るのだが集団戦になると周りよりも目の前のことに目がいってしまい。後ろや死角への対応が疎かになってしまうのだ。
「そうか分かった…ではコレより出撃メンバーを告げる。アルベド・デミウルゴス・コキュートス・アウラ・マーレ…シャルティア。そして私の7名で行う。一時的ではあるがナザリックの指揮権をパンドラズ・アクターに渡す。異論がある者は前に出よ!」
前に出る者など居なかった。皆やる気に溢れた目をしていた。一刻でも早く助け出す為に…
(あの時救ってくれた恩…今こそ返しますよぼっちさん)
シャルティアとシズが謀反したといったな…アレは嘘だ(メイトリックス大佐風に)
美少女をぼこぼこにする話からぼっちさんを袋叩きに!これで一対多数でアインズ様が有利…………あれ?