サブタイトルとなった風花聖典は原作・アニメにも出てなかったと思うのでキャラからいろいろオリジナルであります。
我々はスレイン法国の特殊部隊の一つである『風花聖典』。今回我々に与えられた任務は盗まれたスレイン法国の秘宝『叡者の額冠』を取り返すこと。
最初に隊長から聞いた時には暗殺を得意とする我らが何故と問いたくなったが盗んだ相手を聞いた瞬間に皆が理解した。
『クレマンティーヌ』
法国最強の特殊部隊『漆黒聖典』の第九席次。性格には問題はあるが腕は確かで人類で最強の部類に入るだろう。
真っ向から仕掛けるなら漆黒聖典以外にはありえるはずもなく、互角の勝負をするにも王国の戦士長クラスの実力が必須となる。漆黒聖典は別任務で行動中ならば次に勝てると言えば風花聖典しかなかったのである。
我々は何とか奴を見つけ出す事に成功した。だが、それが問題だった…
『ヘルシング』と大きく書かれた店だった。この店はただの店ではなく武器の製作から販売を行なっている店である。すでにその品質からエ・ランテルだけでなく王都からも大きな信頼を得ているようだ。
ある話によると主である『アルカード・ブラウニー』を王宮へ招待しようと話が出ているとか。
こちらは潜入している身である為にこんな表沙汰になりそうな相手は襲いたくない。
それにここに居るらしいと言う状況だけで確認はまだなのだ。何故か店に行方不明になっている陽光聖典の隊長が働いていることは分かったが…
「今日も何もなさそうですね?」
裏路地の闇の中から見張っていた部下が声をかけてきた。
「何も無いほうが良いんだよ…ってちょっと待て!」
何も無いほうが良い。もしクレマンティーヌがあの店に居るのならば我々はただでさえ厄介な奴を相手にするのにニグンまで相手をする事となる。無謀を通り越して無理と言う物だった。だが、我らに希望が見えた。
一人の少年が裏口に立ったのだ。そしてノックすると中から現れたのはクレマンティーヌ本人だった。
「…あれは…肩に包帯?」
言った通りにクレマンティーヌの肩には包帯が巻かれ腕は胸の前で固定されていた。部下に静かに指示を出し隊長の下へと向かわせる。
これは好機だ。あのクレマンティーヌは負傷中ならばニグンとあの少年を相手にするだけで済む。
この瞬間こそ獲物が網に引っ掛かった時であった。もちろん彼らのほうがであるが…
「お邪魔します」
「どうぞ~」
僕『マイン・チェルシー』は師匠である『アルカード・ブラウニー』様の店である『ヘルシング』に来ていた。
つい先日、師匠から手紙が届いたのだ。内容は『店の様子を見にエ・ランテルに行くから店で待っていて欲しい。迎えに行く』との事だった。やっと師匠と一緒に居られると思うと返事は『はい』か『YES』しかなかった。その事を聞いた村の皆が喜んでいた。まあエンリは最後まで~は持った?忘れ物は無いと心配そうにしていたが…ロートル先生にも別れを告げ今ここに居るのだ。
裏口から尋ねたときにドアを開けてくれた人はクレマンティーヌさんと言うらしい。なんとなく猫みたいな印象を得たのなんでだろう…
左肩には包帯を巻き、腕は首からかけられている布で支えられている。
「おお!貴方がチェルシー殿ですか」
奥の方から頬に大きな傷を持つ男が現れた。その傷より白とも銀とも言える目の方に目が行く。
「えーと…貴方がニグンさんですか?初めましてマイン・チェルシーです」
「我が主より到着までのお世話を命じられました。何なりとお申し付けください」
初めて見た時は怖そうなイメージだったが何とも優しげな人で良かったと思った瞬間に表情が険しい物に変わっていった。
「クレマンティーヌ!外には出るなと言ったであろう」
「えぇ~?ドアまで迎えに行っただけじゃん」
「貴様は追われる身であろうが!少しは立場を考えろ。主の迷惑になるだろうが!!」
「はいは~い。わっかりましたよ。『ルーク』店長様」
「ふん!」
「ルーク?えーとニグンさんじゃあ…」
「ああ!すまない。ルークとは主様が付けてくださった偽名でね。私も実は追われる身なのだよ。なので人前で私を呼ぶときはルークと呼んでもらいたい」
「はい分かりましたニグンさん。ではクレマンティーヌさんも…」
「ん?私は…なんだっけ?」
「ピトーだ!貴様また主様の付けられたお名前を…」
「はいはいごめんなさいっと。口うるさいのはほっといて私の部屋に来ないマイン君。一度見て見たいなぁ~。あのアルカード様が弟子にされた子の実力を…ね」
僕が思った猫みたいというのは当たっていたと判断した。今クレマンティーヌさんの目は猫科の生き物が獲物を見つけたような顔になっている。不気味なぐらい楽しそうに笑いつつ狩をするように…
そんなようすにため息をつきつつ呆れ顔をしたニグンさんが止めてくれた。
「チェルシー殿は馴れない旅でお疲れだろう。部屋でゆっくりと休むと良い。夕飯になればお呼びしますので」
「!?はい。ではお言葉に甘えて休ませてもらいまね」
「むー…ニグンのけちんぼ!はぁ~、じゃあお部屋まで案内するね」
再びため息をつくニグンさんを残し、表情のころころ変わるクレマンティーヌさんに案内されるがまま部屋へと向かった。
一件の小さな小屋
それほど広くないスペースに20人が詰めていた。
ここは風花聖典が寝泊りだけを行なう小屋。ここに風花聖典全員が集まっていた。
「よし…では今回の作戦を伝える」
20人もの人数が居るにも拘らず物音一つしない部屋で一番大柄の男が口を開いた。口を開くといっても全員が黒装束の黒頭巾で顔ごと覆っている為、口は見えないのだが…
「最優先事項は叡者の額冠の奪還。その為にクレマンティーヌを捕縛する必要がある。案ずるな今の奴は大きな怪我をしている。大した事はあるまいよ…。第二目標としてはニグンの保護…もしくは捕縛である」
「捕縛ですか?」
「ああ…裏切ったのか、脅されているかは知らないが一度つれて帰る必要がある。ゆえにその二択だ」
「ではあの子供はどう致しますか?」
「あんな餓鬼恐れる事はないだろう。殺せば良いさ」
一度間を置き、真ん中に地図を出した。『ヘルシング』の大体の見取り図だった。数箇所に印が付けられている。隊長はそれぞれを指差す。
「まずは裏口からウラガン隊が行け。正面はザイードとルチアーノ隊が。周囲は俺とミューディーで囲む」
「?先に本国に知らせなくても宜しいのですか?」
「構わんよ。それに他の者達に手柄を取られたくもない…時刻は深夜2時に決行する。準備をしておけ」
それぞれ頷くと行動を開始し始めた。思ったよりも楽な仕事だと思いつつ…
与えられた部屋のベットの上でマインは刀を見つめていた。
手紙と一緒に届けられた一本の刀。それは村で救ってくれた時に見た師匠と同じ日本刀であった。
鞘から刀身を現せては見惚れる。
騎士の剣とは違って人殺しの道具のはずなのに美しく感じる。
「はぁ…師匠まだかな…」
刀を見たままうっとりとした表情のまま師匠の姿を思い出す。
あの時から師匠を目指す為、ロートル・スケルトン・ナイトに多くの事を教わった。それをあの人に早く見てもらいたい。
そんな気持ちでいっぱいだった。数時間後にここが襲われることなど露程も考えぬまま…
>ある話によると主である『アルカード・ブラウニー』を王宮へ招待しようと話が出ているとか
チェリオ「なおぼっちは知らぬもよう」
ステラ 「王宮へ行かれるなら私がお供を!!」
チェリオ「あれ?モミさんは?」